表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第七章:「校内じゃ負け知らず」ってショボく聞こえるけど、この学園だとそうでもない

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

261/985

169.「絶対安静」、という文字からは縁遠いなここ… part2

「アータ達!ノックの音が聞こえないわけ!?もう勝手に入るわヨ!」


 と、新たな訪問者。

 後頭部へギザギザにとんがったヘアスタイルの筋肉漢。

 なんと辺泥先輩だ。


「お邪魔するわよん」

「楽しそうねぇ?混ざってもいいかしらぁ」

「………ドモデス……」


 他のパーティーメンバーの方々も居る。

 ………どんどこ賑やかになるな。これほんとに他の部屋への迷惑になったりしない?

 と、肩まで伸びるロングヘアーな男子生徒、和邇さんの、捨てられた仔犬のような視線と、ぶつかってしまった。


「……気まずい………」


 俺はそっと目を逸らした。

 女性ばかり——辺泥先輩の性別は考えない物とする——のパーティーの中で、紅一点ならぬ黒一点こくいってん

 心中察するに余りあるが、どうする事もできない。

 南無………。


「って言うか皆さん、次の試合の作戦会議は?」

「メンバー全員、出場メンバーから外れたのヨ。さっき顔合わせだけ済ませてきたワ」

「え!?総取っ換えですか!?」


 パーティーメンバー登録が、最大12人までのルールだから、俺達との試合で出なかった6人で、もう一つ別の決勝級パーティーを作れるという事で、

 層が……!

 八志教室の層が厚い…!


「ま、元々あのガキんちょとイイ感じにベストマッチなメンバー、っていう選別基準だったしネ?あのコが辞退するんなら、アタシ達も暇を出されるってワケ」

「エカトさんが、辞退、したんですか?」

「アータがそれ言うわけェ?随分と手酷くやってくれたらしいじゃない?」


 その節は大変反省しております。

 カッとなってやりました。

 「ガチで効いてて草」というヤツでした。


「ごめんなさい……」

「アーラ、アタシは責めてないわヨ?ディーパーって、そういう世界だもの。恨みっこナシ!って行きたい所だけど」

「け、けど?」


 そこで辺泥先輩が、「ホラ、いつまでそこに隠れてるつもり?」、と戸口に向かって呼ぶと、この一室の人口密度を、更に高めに来た二人が姿を現す。

 その一人は、


「え、エカト、さん……」


 不機嫌丸出し、目を合わせようともしない、明胤学園生徒会総長、パラスケヴィ・エカトその人だった。

 彼女はその場で、上履きの爪先で床を叩いていたが、


「さあ、エカトさん。私も付いていますので」

「わ、分かってるしぃ。今から入ろうと思ってたし。ってかぁ、ざこセンセが居るからって、別に何とも思わないし」


 引率役らしい壱先生にそっと背を押され、俺の居るベッドに近付いて来た。


「………」

「………」


 和邇さん、今こそ決めゼリフをお願いします。

 口を尖らせたエカトさんが、その状態から何もしてくれません。バグですか?


「エカトさん」

「分かってるって!今言おうとしてたんだから!ざこセンセーは引っ込んでてよ!」


 彼女は壱先生に歯を剥いて見せた後、俺へと向き直り、


「ゴメン……」

「え?」

「ご!め!ん!な!さ!い!一発で聴き取ってよ!失礼だと思わないわけー!?」

「あ、うん、俺も、思いっきり殴っちゃって……」

「うぐっ、そ、そうじゃなくってぇ、」

「うん?」

「エカトさん。言葉足らずでキチンと伝わっていませんよ」

「うううううう」


 腹の前で、右手を弄っていた左手、その握る力を強めて、


「だからぁ!その、アンタの事とか、アンタの仲間の事とか、バカにして、ヒドい事言ったの、謝る!試合中の攻撃はルールの中だけど、それでもイライラして、言っちゃいけない事言っちゃった…、から……」


 ガチ泣き秒読みみたいに、顔をくしゃくしゃにして、どんどん声が上擦って、

 ちょ、これ、俺なんて言えばいいんだ?

 「ごめん」も変だし、「そうだね」は嫌味だし、「そんな事ないよ」と言うべきでもないし………

 ああ、泣いちゃう!泣いちゃうから!嗚咽の「お」の字が口の形に出ちゃってるから!


「よしよし」


 その頭に、ポンと乗せられる掌。


「よく頑張りました。偉いですね、エカトさん」

「う、うるさい!」


 隣に屈んで目線を合わせ、仏頂面を溶かし、これまで見せなかった笑顔を浮かべる彼を見て、

 彼女はその手を伝雷でんらいの如き速さで払いのけてしまう。


「えらそーなの!ざーこ!ざこセンセー!アタシが本気なら!センセーなんてイチコロだから!ゆーこと聞くのも、今だけだから!」

「はい、そうですね」

「笑うな!ざこ!きもい!イーッだ!……だけど、今回は、今!回!は!………アリガト……」


 どうやら、緊張状態は脱したようだった。


「ウフフフ、エラいわねぇ、エカトちゅわぁん」

「こっちでお姉さん達とお話しましょん」

「わ!こら!おまえら!ザコのクセに!」


 魔素の下では最強でも、外では普通の小学生女子。

 そんな彼女を、ゆるふわショートの雲日根さんと、ボリューミーなヘアスタイルのシエラ先輩が挟み込み、連行していく。


「キャー!カワイイー!」

「そーちょー!触っていいですかー?」

「もう触ってるじゃん!お金取るから!」

「うんうん、しっかりしてるねー?」

「ちょ、コイツら遠慮ナシ!?ちょっと、トロワとかいう女!助け、」

「あなた達、もっと遊んであげなさい?」

「ふぜけ、ゼッタイ面白がってるでむががが」


 なんかトロワ先輩の取り巻きも参加して、揉みくちゃにされている。


「すいません、日魅在さん。この度はご迷惑を」

「あ、いえいえいいえいえ……」


 桃色空間に脳をやられそうになってた俺に、壱先生が表情筋を不動状態に戻してから、頭を下げた。

 

「彼女は、その、色々と難しい子でして、慎重に接するあまり、少し放任が過ぎてしまいました。私からも改めて注意しておきますので、今回はこれでご勘弁願えると…」

「本当に、万事オッケーですから。僕もちょっと熱くなり過ぎて、暴言も出ちゃってましたし、今はあまり怒ってませんので。僕もトクシのみんなも、弱くなんてなくて、それぞれに強みや譲れない思いがあるって、彼女にも分かって頂ければそれで——」

「そうじゃないのヨ」


 一部始終を見守っていた辺泥先輩からの、注釈が入る。


「彼女ね?懐いてた先生が、“理事長室バックランク”で場の空気に逆らってまで、リスクしかない編入生を熱心に推してたのを見て、ヤキモチ焼いちゃったのヨ。自分にはあんまり構ってくれないのにー、って。難しい年頃よネ」

「「そうなんですか?」」


 え、

 なんでそこで壱先生も驚くんです?

 把握してなかったんですか?


「しかしそういう事なら、私からその先生に話を通す事もやぶさかではありませんね。差し支えなければ、どの先生かお伺いしても宜しいでしょうか?お話を聞いた限りですと、数人に絞れますが………」

「え?うん?………え?」


 あえ?「どの先生」?

 いや初等部主任……彼女に一番近い教師……えゑ?


「これよ。この朴念仁がこんな風なのがイケナイのヨ」

「………今何となく理解しました。好意に鈍感な人相手だと、感謝を伝えるのも大変そうですね」

(((くふっ)))

「そうなのよネー……」

「何です?どういう意味ですか?」

「自分で考えなさい、って意味ヨ」

 

 生徒から慕われてる自覚が無いっていうのも、困った先生だね……。

 と俺が呆れていたら、何か視線を感じた。

 

 目を向けると、何故か頬を膨らましているミヨちゃんと、その後ろで袖を使って、笑みを漏らさないよう苦心してるカンナ。二人とも、周囲にそうと気付かれないように、さりげなく顔を見合わせている。

 何だその顔?

 可愛過ぎてこっちが逆ギレしそうになるんだけど?


「な、何かな?」

「べっつにぃー?」

(((くふふ、折角ですので、くっくっ、減点しましょう…ふふふふ………)))


 いや折角って何?

 採点基準がどんどん不透明化していってるよ?


「今日のススム君は、試合中は100点満点だったのに、試合後は合計でマイナス2万点だね!」


 そしてまさかの、カンナよりミヨちゃんの方が採点がシビアだと判明。

 上限に対して下限が底無し過ぎるだろ!?

 せぬぅ!







 その後は無事に異常無しと診断され、エカトさんからは「プロト」呼びのお許しが出て、晴れて自由の身になった。

 

 まあ俺の内心は、「晴れて」とは行かないんだけれども。


 さあて、最終結果は「準決勝敗退」なわけだが、

 俺の首の皮、まだちゃんとくっ付いているのだろうか?


 ………ど、どっちも有り得るから何も分からん……。

 「箔が付いた」って言い切れない……。

 どうせならバッサリ「無理だ」って言えるくらいだったら、心も軽かったよ………!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ