150.ローテーション決定……あーもーどうにでもなれ!
「それでは握手を!勝敗がどのようであれ、互いの力を、能力・知力・努力・忍耐力を、敬い、讃え合いましょう!ええ、磨き合う若者達は、斯くも輝かしい!」
ニークト先輩と、相手方、八志教室のデッカい男子生徒、「SSS級」と呼び声高い、らしい辺泥さんが、右手を出し合う。
ロール宣言が終わり、これよりそれを踏まえた上での、作戦会議が始まるのだ。
交換権を使おうか?でも正直、今の配置が安定過ぎて、変える意味無いよな~……
とか考えていたら、
「言っとくけどさー!」
問題の中の問題、
現明胤最強が、置いてあった机の上にドンと乗って、
「アタシ達、ヨワッちいヤツら相手に、ロールを替えるなんて、セコいマネはするつもりないんでー!」
そう言って俺達を、と言うか俺を指差して、
「アンタに見込みなんてナイって、ブッ潰して証明するから」
ひっっっっくい声で、俺の処遇を腹まで響かせる。
「楽しみにしててね~?ローマンのブンザイー!」
「プロトちゃん?行くわヨ!」
「ハーイ、センパイ!分かってますって!」
「じゃね?」、飛び降りた彼女は、スキップしながら退室した。
「……嵐のような奴だな」
「テメエが言うなよ」
「さっきも似たようなやり取りしたわね」
「うん?ススム君?」
「あ、うんごめん」
肩貸してくれません?
腰が抜けました。
(((流石ススムくん。“滑稽”の何たるかを、分かっていますね)))
いやウケ狙いじゃなくて。
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「さあて、双方共に、どう来ますかなあ!」
「八志様の教室の実力を!是非とも拝見出来る事を!望んでおります!」
「光栄です」
地下第一模擬戦闘用アリーナの特設観戦室。
チャンピオン達の目が、血が、沸き立っている音がする。
八志教室と、特別指導クラスのギャンバーゲーム。
パラスケヴィ・エカトの底が見れるか。
そして、カミザススムとはどれ程の投資価値が、或いは警戒の必要があるか。
その二人を除いた他10人も、粒揃いであると分かっている。
故に、この二つの教室がぶつかる時、互いに死力を尽くすだろうと予想され、ディーパー養成機関明胤学園のレベルが、ダンジョン大国丹本の潜行者のレベルが、この一戦で測れる、そういう目算もあった。
彼らの最初の関心事は、当然「ん、出たぜ?」
「はい、今回の宣言編成は、このようになりました」
壱萬丈目の言葉と共に、部屋にあるモニターの一つに、それが映し出される。
波瀬寤寐 P 六本木天辺
雲日根睦九埜 N 日魅在進
和邇八尋 B 狩狼六実
アナ・クラウディア・シエテ・シエラ R ニークト=悟迅・ルカイオス
辺泥・リム・旭 Q ジュリー・ド・トロワ
パラスケヴィ・エカト K 詠訵三四
「カミザススム!この漢字『カミザススム』で合っていますよね!?また彼が見れるとは!幸いですなあ!」
『見たところ、特別指導クラスは、一戦目と同じピックだね』
「反対に八志教室は、ここに来て新顔が多いな……。その名を聞かない生徒も混じっている」
「八志のバアさん?こいつはなんてフォーメーションだ?」
「我々の間で、“海シフト”、と名付けられたものです。モンスター相手こそ、その真価を発揮する並びですが——」
八志はそこで、昨日・今日と二日通して、初めての笑顔を見せた。
「本気ですね。相手に手番を返す気が無い」
この空間に居ながらにして、生徒の判断を楽しめる彼女を羨ましく思いながら、壱萬丈目は続く情報を読み上げる。
「地形は…えー……、“学校”、となっておりますね……」
広い平地と横に大きい建造物、その両方を持つ設定である。
「この辺りですと……、確か、“地盤餐”の最下層が、燃える校舎でしたなあ!そこからの生成で?」
「も、申し訳ございません。ガネッシュ様と雖もそこまで明かすわけには……」
「はっはっは!冗談ですぞ!いやいやお許しを!学者ですからな!聞けるところまで根掘り葉掘り聞くのが、私達の仕事ですからして!」
「は、ハハハハハ……」
「嘘つけ、あわよくばこっちがポロっと漏らすのを期待してただろ」、などと気安く返せはしない。
「カミザススム……」
「ススム・カミザ……」
「赦されざる者……」
「外れモノが……」
そして救教会二人に関して言えば、ご機嫌な顔で帰って貰うなど不可能だと見切った壱萬丈目は、ほどほどに相手をする事にした。
『八志の生徒は、枢衍の所と同じで、良いチームワークを見せてくれるよね。しかも君の場合、個人技の強さをより重視して、その結果を繋げるという順番だ。見てて面白い』
「人同士でも、モンスター相手でも、最後に自身を助けるのは、他ならぬ己自身、そう考えております故に」
「いいね?僕も常々思っているんだ。宇宙は万物の、万物に対する闘争で回っている。It has ever been!いつの世も、ね」
「護衛を伴う貴女が、それを仰いますか?」
「何だい、ルカイオス君?やりたくなっちゃったかな?」
「さてね。目的語を省かれてしまわれると、何をお望みか量りかねますゆえ」
「言葉無くとも察するのが“紳士”だろう?」
「貴女が“紳士的な”事を仰るのなら、幾らでも察して差し上げますよ」
片方は享楽として、
もう一方は趣味と立場の両立として、
発火点スレスレを攻めようとするこの二人についても、言っても聞かないので慣れるしかない。
という対応では不正解。
この場の漏れなく全員に慣れる、それ以外に彼の胃を生かす道が無い。
これが正解。
「そ、それでは、試合開始までにはまだ時間が御座いますので、暫しの間ご歓談を……」
「『歓談』だからな!?『開戦』と間違えるなよ!?」、
言いたくても言えない念押しを秘めたまま、
彼は揉み手の力を強めた。
桑原、桑原、と。




