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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第六章:身内ノリの腕試し大会、ってだけじゃなかったりする

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148.ヤハー!快気祝いでーす!

 12時少し前。

 いつもの第15号棟。

 いつもの議論用席順。


「えー、というわけで、ご心配をお掛けしましたー!」


 取り敢えず初手謝罪である。


「本当だよ!」

「カミっち復活おめでとー!イェーイ!」

「おめー」

「おめー……」

「心配はしていないが呆れはしたぞ寝坊助チビ!」

「ニークト様の下僕としてなってないッス!」

「迂闊過ぎるわよ。次の対戦相手を人数有利でホイホイ部屋に通さないでしょう?普通」


 返す言葉もございません。


「いやー、向こうから積極的に触って来たから、この人は俺に好意的なのかな?とか安心しちゃったんだよね」

「お前の基準はそこなのか」

「触れば手懐けられる………矢張り犬かしら?」

「『やはり』って、やっぱり先輩、俺の事犬だと思ってました?」

「カミっちぃ、それを掘り下げると、傷つく事になるぜぃ?」

「え、なして?」

「あんたがワンコだってのは、あーしらの中じゃジョーシキなんだわ」

「うそぉ!?」


 みんなを見回すと全員から頷かれた。

 ど、どうして、そんな認識に?

 全く心当たりが無いぞ?


「ススム君、ナデナデしたら懐いてくれるってこと?」

「そうは言ってないね」

「そうなんだ。じゃあこれから一杯スキンシップしていくね?」

「あの、ミヨちゃん?冗談だよね?」

「良いから良いから」

「や、ちょ、目がコワ、やめ…!や~め~!」


 両手で頭を揉みくちゃにされた。

 別に髪型をセットしてるわけでもないから、良いっちゃ良い、って言うか最高の気分ではあるんだけど、

 なんか、こう、幸福感で眠くなってくると言うか………


「こういうところだよねぃ」

「こういうところね」

「こういうところッスね」

「僕のトコにー……加わ(インす)るー……?」

「魔法強化の為に同級生を取り込もうとするのはやめろ、狩狼」

「ジョーク……」


 ハッ!一瞬召されていた。

 さてはミヨちゃん、眩惑魔法の使い手でもあるのか?

(((そんなわけがないでしょう…)))


「にしても、カミっちにあんな一面があったとはねぃ」

「あれはちょっと、びっくりしちゃったよね」

「え?何が?」

「マジかお前……!?」

「ほぼ無意識だったって事…?結構危ない子なのね……」


 せ、先輩方、なんで引き気味なんですか……?


「だってー……、カミスムー……、ビッグバンテラおこサンシャインヴィーナスバベルキレキレマスター、だったじゃん…?」

「ごめんごめんまってごめんほんとうにわかんない」

「『()()だったじゃん』、っつってる」

「今の長さでそんだけしか言ってないの!?」


 圧縮だけではないのか……。

 ギャル語は奥が深い。


「ススム君、凄い剣幕で会場に向かっちゃったから、驚いちゃったよ」

「あー、その事ね?確かに、俺があんなに“泥棒”って物に対して、沸点が低いとは、思わなかったなあ…」


 自分でも知らない場所に、地雷が埋まっていた。

 別に、話し合いが落ち着いてから、取り返せば良い物なのに、なんであんなに取り乱したんだろう?

 そりゃ「盗み」は悪い事だし、しっかり罰を受けるべきだと思うけど、やってる人を見ても怒るより先に、恐怖が来そうな気がしてたんだけど。

 因みにドライフラワーは、しっかり返還して貰いました。当たり前ですね?


「どうでもいい!お前が謎に怒り狂っていたお蔭で、助かった!朱雀大路が錯乱して、話し合いが一気にこちらの有利となったからな!」

「あの時のニクっち先輩「『ニクっち』言うな!」、『カミっちが起きて来るかも~』、みたいな出たとこ勝負じゃないと、押し切れそうになかったですからねぃ~」

「あなたが売り言葉に買い言葉でとんでもない事を言い始めた時は、どうなる事かと思ったわよ?」

「仕方がないだろ!先生が来るまであの場を引っ張るには、ああでも言うしか無かったんだ!劣勢の時は、考えればバレる小さな偽りより、考えないでも分かる大胆な嘘を当然のように通す方がよく効く!」

「で、カミザがマジで起きたと。あん時の朱雀大路の顔見た?バクワラだったわ」

「ざまあ~…」


 俺が前後も後先も無い状態で殴り込んだあの時、みんなは相手方との腹の探り合いをしていたらしい。そこに不正の証拠となり得る俺が現れた事で、朱雀大路君が大慌てで口封じに掛かり、結果現行犯になってしまった。

 事前の手口は鮮やかなのに、肝心なところでうっかりさんである。


「交渉はニークト先輩が?」

「その通りだ!オレサマが丁々発止の大激論を——」

「つっても、途中までノリドの台本だしぃ。こいつはどんだけ無理筋でも顔デカいから、喋らせとけー、みたいな?」

「乗研先輩が?」

「脅迫文を書かせたら、右に出る者は居ないわね」


 いつもですが、それ褒めてます?


「で、その大活躍の乗研先輩は?」

「おい!最大の功労者はオレサマだぞ!」

「そうッス!“アカガメ・ハデヤツメ”ッス!」

「“崇め奉れ”だ八守ィ!」

「それッス!」

「私はK(キング)をサイコロステーキにしてやったわ!」

「分かった分かりましたから!乗研先輩は!?」

「なーんか、旧いお友達が来たらしーよー?」

「あれの友人なんて、きっと碌な人物じゃないわね」


 そんな断定口調で言わなくても……。

 いや、確かにね?

 確かに俺も、一瞬だけ、「夜露死苦」とか言ってるリーゼント軍団みたいなのを、想像したんですけどね?


「そう言えば、結局ミヨちゃんは、次の試合出れないの?」

「あ、ううん?ススム君が寝ている間に、なんとか説得したよ?次に私が出てる試合を見せて、それで納得させる事になったね」

「そ、その段階で、既にそんな約束したの?」

「みんななら絶対勝てるし、そうしたらススム君の事も解決出来るって、信じてたから」


 「自分で起きちゃうとは思わなかったけどね?」、と言われたが、多分彼女のリボンが無ければ、今も眠ったままだっただろう。

 あれは、外界の一切の認識を、脳に拒否させる能力らしく、

 俺が起きれたのは、その力に抗っている時に、ミヨちゃんのリボンを知覚出来たからだ。彼女が呼んでくれなければ、手を掛ける場所が無く、再び深みに真っ逆さま(フリー・フォール)だった。

 

「いやー、でも、俺も応援したかったなあ」

「後で戦闘記録を復習する事になるのだから、その時を楽しみにしていなさい?」

「それはそうなんですけど、こう、リアルタイムで盛り上がりたかった、と言うか」

「“とつばー”思考ってヤツ?」

「カミっちはスタメンだから、どの道ムリだけどねぃ」

「そうなんだよなー……」


 特に、乗研先輩が戦っている所を、是非とも生で見たかった。

 みんなから聞いた彼の能力も、イメージと全然違ったし、絶対面白かったと思う。


「そうだー……ニクぴー……」

「………もしかしてオレサマか?」

「最後、ろくピを庇ってたの、なにゆえー…?」

「ングフっ!?」


 狩狼さんが聞くと、横に座っていた六本木さんが変な音を出した。


「ああすれば奴等は勝手に、六本木をK(キング)に置いてくれるからな」

「そうそう!デブニクにしては良い機転じゃん!」

「『デブニク』言うな!」

「ふ~ん……?」


 机に顎を乗せながら、彼女は面白そうに、ニークト先輩を観察しながら、


「この前言ってたー……、女子によわよわだから、じゃないんー…?」

「おっふげふ!ムー子!?」

「ああ~、“紳士的な”ニクっち先輩は、少女と見るや護ってしまうのですなあ」

「そうッス!ニークト様はメチャンコ優しいッス!」

「やめろ八守ィ!勝手に決め付けるな!他意はない!」

「この男の性格上、有り得ない話ではないわね」

「ほほほ本人も違うつってんじゃん!そーゆーのいーから!」

「大体だな!」


 先輩はそこで、苦虫を歯嚙みしながら、


「大体あの時、俺は結局、六本木を囮にして、棗の攻撃を一手分無駄にさせる決断を下した」


 「守ってなどいない」、言った彼は、どこか悔しそうで、


「べ、別にあれはあーしが、『行け』っつったんだし」


 六本木さんが、


「護られたとも、使われたとも、思ってないから、そこんとこヨロ」


 ツンデレながらフォローするような事を言って………


 ………………


 え?待って?

 こういうのアニメとかなら見た事あるけど、

 え?うそ?


「チョイチョイチョイ、オフタリサン………」

「ん?どったのカミっち?」

「ススム君?」


 小声でミヨちゃんと訅和さんを呼び反転、輪の中心に背を向けた状態で、


「あの、旗が立ってない?」


 内密の会議を緊急招集する。


「…立ってるね、あれは」

「立ってるねぃ」

「だよね!?え、いつ?どこで?もしかして」

「この私の調べによりますと~?さっきの試合中だというエビデンスを得ております!」

「え、マジ?ちょちょちょっと、それってさ!」


 俺は慌てて自分の端末を取り出す。


「どの辺?どの辺が決定的瞬間なわけ?先にそこだけでも見たい!」

「えぇとぉ、開始から大体ー……」

「おおい!そこ3人!絶対ゼッテー良からぬ事やってるっしょ!?」


 しまった!

 テンション上がり過ぎて六本木さんに見つかった!


「ナ、ナンデモナイデスヨ……?」

「ワレワレハマジメニフクシュウヲシテイタダケデスネィ……」

「二人とも、あんまり面白がっちゃ悪いよ?」


 はい、その通りです。

 ミヨちゃんはいつも正しい。

 と、この話題の火付け役となった人と、目が合った。


「わかるー……?」

 わかる。

 俺にも分かったぞ狩狼さん。

「これが、“エモい”という感情なのか……?」

「“めっかわ”……、それか“尊い”……」

「良いものですね…」

「それなー…?」

「ムー子もいー加減にしろよ?」

「さっきからお前ら何の話だ!」

「ニークト様はどうせ分からないんで少し静かにするッス!」

「八守!?」


「おいおい仲良しかお前ら。廊下まで賑やかになってるぜ?」


 色々と終わらせたらしい、シャン先生が帰って来た。

 その後ろから、乗研先輩も入って来る。


「あー……」

「やっと来たか待ちくたびれたぞ!席に着け!食いながら次の試合の作戦を考える!」

「……ああ、そうだな」


 そうして、教師と八守君を含めた、特別指導クラス、10人全員が揃った。

 別に、これまで普通の授業の時にだって、みんな居たんだけど、

 何となく、「揃った」って、そう思った。


「よし!八守の買い出しでパンやら何やらが大量にある!」

「ニークト様のオゴリッス!“ゴッツァン”ッス!」

「それは……まあそれはいいか。好きなものを取って午後に備えろ!」

「むぐむぐ、やっぱり私が出るのは確定って事で良いわよね?」

「もう食ってるし……」

「テメエ、意外とギョーギわりいよな」

「それなー……」

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