147.やっていい事とダメな事がある part3
「しかし先生、これで良かったんですか?彼らを厳罰に処すべきでは?」
「バーカ言ってんじゃねえよ」
「何ですって?あなた、こんな卑劣なやり方を繰り返させる気?」
「こいつらがイヤに卑劣で陰湿な性格してるからこそ、この方が良いって言ってんだ」
決定に異を唱えているのはトロワくらいで、発言した乗研を含め、他のメンバーは納得しているようだった。
「こいつらと全面戦争したら、それこそ何やって来るか分かんねえぜ?勝つとしても、いや、勝った後も、気が抜けるモンじゃねえ」
「そういうのは本人が不在の際に言う事じゃないのかね?」
「それに、そこのバカがサボりにサボった上で、好きな生徒掴み取りとかやったせいで、恨みを買ったのもその通りだろうが」
「そういうのは本人が居ねえ所で言えよな?」
「ノリド?サボってたのはあんたもじゃね?」
「うるせえな、さっきからよ。俺は教えてやってるんだろうが。粛に聞いてろよ」
掟破りは、シャンの側から始まった、と言えなくもない。
「けれど、この学園に居場所を残すなんて…!」
「俺がここから中々追い出されねえのと同じように、そいつらをホイホイ投げ出せないだろうが。割かし優秀なディーパーが、国の恨み共々外に出ちまったら、反政府勢力に喜々として引き抜かれんぞ?」
「なんなら自分達で新しく作るだろう。枢衍先生のバイタリティならやり兼ねない」
「棗?お前はどっちの味方だ?」
「すいませんつい」
どう転んでも、彼ら枢衍教室側が、特別指導クラスへ危害を加える可能性が出てしまう。
「で、逆に言えば、こいつらだって、逃げたくとも逃げれねえんだ。強いディーパーってのは、制御下に居なきゃ脅威でしかねえ。テロ組織と同じような扱いをされ続ける、平穏なんて無え生活が待っている」
ここは自由な牢獄だ。
出るには看守の、そして国の許可が要る。
「だから、こいつらはこのまま、閉じ込めとくんだ。んで、今回の実行犯の朱雀大路と、主犯の枢衍は、この学園内でのヒエラルキーに、明確な瑕疵を負う。『やらかした奴等』と烙印を押され、それを知らない人間が居る場所へ、逃げる事も出来ない」
枢衍教室からの反撃を防ぎ、
特別指導クラスの側は、シャン以外の人間が、責任を問われない。
「ここいらが落としどころだ。まあ、日魅在の奴が起きたら、同意を得る必要があるがな」
「朱雀大路が虐められないように、ケアしておけよ?」
ニークトが枢衍に対して付け足す。
「そいつは一度の失敗で、孤立しかねないぞ!性格的に、嫌われているだろうからな!」
「お前が言うなよな」
「テメエが言うな」
「先輩が言わないでください~」
「あなたが言わないで?」
「あんたが言うな」
「ウケる~…」
「お前が言うな」
「他の奴等はいつもの事だとしてドヤ顔キリン女ァ!どさくさに紛れてるんじゃあないぞ!」
「バレたか」
「ま、そういう流れで行くとする」
「が」、シャンは再び枢衍と肩を組み、
「俺の生徒に二度と汚え手を出すな。やるにしても、お前の生徒に手を汚させてんじゃねえ」
そう低く言った後、
「オラ、もう一度ミツに謝って来い」
そう言って背を力いっぱいに叩いた。
枢衍は咳き込んだものの、何も言わずに二人の教え子を伴い、退室しようとして、
「ねえねえ?朱雀大路、君?」
落ち着きを取り戻し始めた彼を、
“アニメ声”と評されるように媚び色で、
けれど鼻につかず、聞き心地の良い旋律が呼ぶ。
「私の魔法ね?解呪も出来るし、触れた物と融合して、直したり、作り変えたり、できるんだよね」
釣られた彼が振り向くと、
膝枕に少年の頭を載せた、秀美を持つ少女が笑っていて。
「でね?これまで自分でしかやった事ないけど、模擬戦形式で、傷ついた端から修復する、っていうのを何度も反復する、そういう練習方法もあるんだ~。すっごく痛いんだけど、良い訓練になるんだよ?」
「……そ、そうすか………」
彼女は、目蓋の隙間を、
「もし、もしね?無いと思うんだけど、もし君が」
益々細めて、
「ルール違反で、またススム君を傷つけたり、彼の物を盗ったりしたら——」
——私、君と二人っきりで、
——“訓練”、したくなっちゃうかもね?
内容の深読みを拒みさえすれば、
デートに誘われたのかと、心が躍るような、空気と韻律で、
彼女は彼に、呪いを掛けた。
「あ」
「それだけ♪じゃあね?」
「あ」
別れを告げられ、
彼の足はこれ幸いと、
早回しの如く、シャカシャカとそこから離れて行った。
「もうヤダ……」
教師や先輩の前であるのも憚らず、
「もうヤダあのクラス……」
彼は半べそで溢してしまう。
「もうヤダあのカップル………」
「あの感じは、まだ付き合う前の、一番面白い時期じゃないか?」、
と思った棗は、あまり関係が無い上にどっちでも良い事なので、
特に何も言わなかった。




