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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第六章:身内ノリの腕試し大会、ってだけじゃなかったりする

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147.やっていい事とダメな事がある part1

「おい」


 その一言だけで、彼を知る同門のメンバー達は、様子がおかしい事に気付いた。

 彼の目も、トーンも、尋常でないと分かり、何があったか、それを探ろうと、しかしどのように触れたものかと、数刻の間を置いて勘考かんこうした。

 賢明である。


「あ、な、な、なん、すかあ!?なんすかセンパイ!その態度お!?」


 惜しむらくは、彼らが解を出す前に、この場で唯一賢明ではない少年が、いきり立ってしまった事。

 彼は今、自分が置かれている状況を、単に名誉や立場的な窮地だと考えている。

 悪事がバレる、バレない、といった、人間社会、丹本の学園内での快適さ、そういったミクロ的、可逆的な物であると。


「センパイが起きてる、っつーことは!お、俺ッチの魔法が、げ、原因じゃなかったっつーことっすよねえええ!?」

「ちょっ、」

「朱雀大路」

「あなた、少し、黙ってくれない?」

「あっっルルルルルルれぇ!?都合が悪くなったら、ダンマリですかあ!イワザルですかあ!?ど、ぉおぉぉおしてくれるんすかセンパイ!さっきの暴言、どぉぉおおおおやってセキニン取るんすかああ!?」

「朱雀大路、本当に黙れ」

「だからあ!ここで、シャーザーイーしろってえ!」

「朱雀大路、待て、おい、落ち着け」

「先生!なにヒヨってんすかあ!!ここで優しくすると、こいつらつけ上がって」


「おい、お前さ、朱雀大路、だっけ?」


「……なんすか?ヒトの名前くらい、イッパツで覚えてくださいよ。あ!ローマンってぇ、“チショー”って奴だから、そーゆーのムリぽでしたっけえ!?」


 その憐れさを、

 滑稽さを、

 道化振りを、

 察しの悪さを、

 場違い感を、

 どう言えば、表せるだろうか?

 

「お前、聞きたい事が、あるんだけど」

「はいはあい!どーぞどおおおぞおお?ローマンで寝起きな二重知能デバフセンパイに、俺ッチが、わかりやすぅぅぅく、教えてやるからさあ!」


 喩えるなら、そう、

 論破や弁論と名の付いた、揚げ足取りや煽り合いで、常々大立ち回りを演じる負け知らずが、


「センパイは何が分からなくなっちゃったんでちゅか~??俺ッチに教えて欲しいでちゅ~!」


 ある日勝負を挑まれ、コテンパンに言い負かしてやろうと、

 二つ返事の勇み足で了承し、


「ドライフラワー」


「……え、とお?」

「あっただろ?ドライフラワー。お前、どうした?」



 本番直前に拳銃を手渡されてから、

 何でもアリのデスマッチと気付いたような。



「俺の部屋に、あったやつだよ。お前、持って行っただろ?」

「ま、まあた別のガセネタで、ヒボーチューショーっすか!?」

「持って行った……?あ」

 

 六本木は思い出す。

 朱雀大路が、「記念品」を貰っていく、みたいな事を狩狼に喚き散らかしていた。

 その場限りの脅し文句だと思っていたが、


「お前さー!もしかして、コロコロしたら歯とか集めるタイプのサイコパス?ないわー」

「“サイコパス”ってゆーより“サイコキラー”だねぃ」

「マジ信じらんない……」

「自分から証拠を残すのかよ……バカかテメエは」

「だ、だからちげえって言ってんだろうが——」


「そっか」


 朱雀大路は、ビクリとそちらを見た。

 死人の眼のように、虹彩が黒ずむ程に広くなった瞳孔。

 それが不自然な程に揺れていないと、彼はやっとそのキナ臭さを嗅ぎ取ったが、


「お前が」


 遅かった。


「やっぱり」


 出入り口に新たに一人。「みんな!」朱雀大路も知る、特指クラスのランク7、そのもう一人。「みんな!ススム君を止めて!」彼女がその場に緊迫感を持ち込み、


「おまえが」

「う」


 それと同時に、そいつが一歩、彼の方へ踏んだ事で、

 朱雀大路の中で、景色が変わった。


「うぅう、」


 一寸先も見通せない闇の中、

 彼以外にはそいつだけ。


「ぅぅうううう、」


 そいつの手が、彼に伸ばされる。


「おまえ」

「ぅ、ぅ、ぅぉぉお……」


 これは、彼の尊厳の為の戦いでなく、

 


  「お ま え が」



 彼の命の為の戦いだ。



「うぉおおわああアアアアアーッ!!」


 彼は自身の以てる全霊を籠めて目の前のナニカを殴り飛ばした!

 

「や——」


——やった!

 

 彼は自分の成長を、その手にある強さを実感する。

 怖がって、動けなくて、

 誰もいないのにそれでも助けを請うしかなかった頃とは、

 もう違う。

 あの悪夢のあるじを、

 あっさりとその手で、折り、砕き、ぶっ壊してやった!


——お、俺ッチは、自由に


「朱雀大路ぃ!」

 

 顔をピシャリと張られて、我に返った。


「なんて事をしてくれた!」


 枢衍が、怒りと共に怒鳴る。

 

「だ、だって」

 だって、

 彼は、

 “お化け”を倒しただけで、

 そう言いながら彼が見下ろした先には、

 数人に駆け寄られながら、詠訵三四に治療される、弱く脆いローマンが、目を回して倒れているだけ。


「お前は、お前は自分が何をやったのか——」


「枢衍先生、これはどういう事でしょうか?」


 目まぐるしい混乱の中、最初に分別を取り戻したニークトが、宙に浮きかけた場を鷲掴んだ!


「こ、これは、だな……」

「身体能力強化による攻撃。彼はどうやら、魔力を使えているようですが?虚偽申告だったと、そう受け取っても?」

「い、いや、私は、魔法が使えない、と言っただけで、」

「更に!更にだ!今その男は、指定区域外での魔力使用を、我々と、あのカメラの目の前で実行しました!誤魔化せるものじゃあない!」


 彼が指すのは、部屋の片隅、天井に設置された監視カメラ。


「彼が殴りつけたのは、我が特別指導クラスのメンバー、日魅在進です!彼は潜行者ですが、知っての通り漏魔症罹患者でもあり、魔素濃度が低い場所では、ほとんど魔力を使用できません!彼がやった事は、潜行者による民間人への攻撃と、何ら変わらない!」

「ま、待て、飛躍して」

「ご存知の通り、彼は先の試合で、御三家に勝る程の能力があると証明した!これからの丹本の戦力として、『明胤の宝である生徒が、その将来を殺されてしまうかもしれない』!」


 彼は数分前の枢衍の弁舌を、一字も違えず引用する!


「つーか、こいつは殺人未遂だろうがよ。将来どころか、今死ぬところだったぜ?」

「そうね?その子、表だと結構普通に弱いから、今のは命を落とすのも有り得たわ」

「どうお考えか?どういったお考えで、この後、関係各位に弁明するおつもりか?貴方にとって、最適なダメージコントロールとは何か!」

 

「そ、そんなもの…!」


 枢衍は、自分の最後の武器を、


「お前達生徒が、そんな事を要求出来ると思うな…!」


 教室持ち職員としての立場を振り翳す。


「さっきから何か、心得違いをしている…!お前達は、私に要請し、意見する事はあっても、命令など以ての外だ…!」


 彼は持てる全てを使って、この場を切り上げ、すぐに隠滅と根回しに向かおうとする。


「聞け、問題児共。お前達“特別指導クラス”と、“教室持ち”でも特に貢献度の高い私。二つの言い分に相違がある時、学園が、“理事長室バックランク”がどちらを重く見ると思う?」


 ルカイオスを、何とかして、締め出せれば良いのだ。

 学園という枠内で事を収めたならば、彼らでは枢衍を毀損出来ない。


「社会から認められた、人としての価値、その差を弁えよ。私は、お前達が何を言った所で、揺らがぬ程の実績とキャリアが——」


「おいおい、聞き捨てならねえな」


 そこで、

 時間切れが来た。

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