表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第六章:身内ノリの腕試し大会、ってだけじゃなかったりする

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

222/986

145.おい part3

「……ギャンバーですよ?しかも明胤学園主催の、実戦で生き残る為の訓練としての。攻撃される事は、彼も承知の上では?」

「しかしお前程の使い手が、未だ中等部課程に居る彼を、過剰なまでに痛めつけたのは、果たして『訓練』の範疇と言えるだろうか?」

「ちょっと…?」


 そこで我慢ならなかったのは、意外にも、穏やかな気性を持つ狩狼。


「ろくぴを人質にしたん、そっち…!マジありえない…!」

「人質戦法を取られ、それを破る為に奇襲した、それは良い、そこまでなら何も問題は無い。だが、ランク7のディーパーともあろう者が、3つも学年が下の生徒に対し、必要ではない傷を負わせた。医療班が駆け付けた際、彼の背からは骨が露出していたのだぞ?ショックによる心停止も有り得る重傷だ。

 これは、立派な“虐め”、リンチ問題。ルカイオス本家の名を穢しかねない、不祥事ではないのかね?」

「それは、そいつが…!」

「慎みたまえ。私は幼稚な水掛け論ではなく、による議論をしているのだ。語気を荒げれば話を聞いて貰える、などという優しい場ではない」

「狩狼、座れ」

「でも…!」

「ムー子、あーしの為に怒ってくれてるのは分かるから、チルろ?ほら、深呼吸しよ?」

「……うん…、ごめん……」


 沈静化したのを見て、ニークトは問う。


「それで、何を仰りたいのですか?私を脅迫しようと?」

「何を馬鹿な。彼は、お前の感情任せの行動によって、深く傷ついた。だからこそ、お前達に、一つだけ協力して欲しい、というだけだ」

「と、言いますと?」

「彼は今、恐怖で魔法が使えない。フラッシュバックが起こってしまうようだ」


 「明胤の宝である生徒が、その将来を殺されてしまうかもしれない」、目を伏せ大いに嘆いて見せる。


「そこで彼の中にある、お前達への恐怖を、何とかして取り除きたい。では、どうすればいいか?最も有効なのは、信賞必罰を一目瞭然とし、理不尽な暴力から、自分が守られている事を、心から実感させる事」


 「そこでだ」、彼はバインダーから、一枚の用紙を取り出して、彼らの間に置かれた机に乗せた。


「校内大会の、棄権届けだ」


 次の試合は不戦敗とし、パーティーメンバー全員で、勝負を投げ捨てる事を、約束させる一枚。


「代表として、お前の名前で署名しろ。ニークト=悟迅・ルカイオス。言うまでもなく、直筆で、だ」


 「ルカイオス」という名が持つ意味、それを拘束力として、逆利用する。

 彼が一度ひとたびそこに記名すれば、取り消す事など、この場の誰にも出来ない。

 

「やってくれるな?彼が魔法を、“その能力”を、取り戻す為に」


 棗が横で、「アチャー」とでも言うように、呆れた顔をしながら、右手で額を押さえている。


 此処ここで言う、「朱雀大路三七三が魔法を使えない」、とは、「日魅在進を起こす事が出来ない」、という意味だ。

 彼に掛けられた何らかの暗示は、複雑かつ深い物であり、無理に解除しようとすると、重篤な精神・脳機能障害を、発症させる危険もある。

 「明胤の養護教諭でも、解除は困難」、その自信があるからこそ、こんな条件を突き付けて来た。


 未来を担う生徒の身を案じる言葉を吐きながら、

 その手で別の生徒の頭に銃口を突き付けている。


「どうかね?」


 ボールが、ニークトの側に回って来た。

 

「お前達の、次の試合が始まる前に、いや、手続きを円滑に進める為、今ここで決めろ。それであれば、運営にも迷惑が掛からない」


 特指クラス6人から睨まれ、柳に風といった表情の枢衍。

 

「バカっすね」


 朱雀大路が、勝ち誇る。


「あのローマンの為に、本気になり過ぎっすよ。だから足下見られるんす。もっとキョーミないフリしてれば」「朱雀大路?」「はいはい傷心中でーす。サクランしてヘンな事言いましたー。キブンをガイしてごめんなさーい」


 やっている事が下らない、その自覚はあるのだろう。演技に熱が入っていない。

 しかし、教室持ち職員が保証し、本人にそう一点いってんられたら、生徒の側から言い募ったとしても、覆せない。

 ニークトは言葉に詰まる「そうか。じゃあオレサマの方で勝手に調べさせて貰うぞ」事も無く、そう言って席を立ちかける。


「えっ」

「ふあっ?」

「ちょっ」

「ん?」

「アララッ?」

「おい?」

「ぶっふぉッ!」


 枢衍や朱雀大路どころか、特指側からも困惑の声が上がる。

 棗などは、盛大に吹き出して、そのまま笑い出し始めた。


「ちょいちょいニクっち先輩。カミっち見捨てるのはナシですよ~?」

「『ニクっち』やめろ!それに誰が見捨てると言った!」

「このクソ共との交渉を放棄するってのは、そういう事だろうが」

「ここに居る、俺以外の全員、何か勘違いしているようだがな」


 「オレサマは交渉させてやってる側だ!」、声高々《こわたかだか》に言ってのけるニークト。

 「はあ……」、コメントに困るその他。


「おい朱雀大路!」

「ヒッ、な、なんすか!?」

「やめたまえルカイオス!」

「お前もだ枢衍霜浯!」

「な、『お前』…!?」

「オレサマは、お前達に最後の慈悲を見せてやっている!挽回のチャンスをやろうという、最大の優しさを見せるオレサマに対し、お前らは何だ?」

「い、言ってる意味が分かんねえよ!」

「だったら『馬鹿』はお前だあー!いいか?よく聞け——」


——日魅在進は、必ず自力で甦る!


「は」


 「はあ?」とも「はい?」とも「ハハハ」とも、

 彼は口から出せなかった。

 全員がそうだ。

 いきなり何を言い出すのかと、ギョッとして彼を見ていた。


「い、いや、俺ッチの魔法は、そんなにヤワじゃ——」

「奴に常識が通用すると思うな?何度、不可能を可能にしてきたと思ってるんだ!」

「そ、それは別の話で」「本当にそうか?本当に、出来ないと、思うのかあ!?」「そ、そんなん」「日魅在進に、お前の想像が及ぶと思うな!」

 考える間を与えず畳み掛けるニークト!


「ここでお前がオレサマの救いの手を取らずに、そこで奴が目を覚まして、お前から攻撃されたと証言したらどうなると思う!?」


「ば、バレてるわけないっす!あ、じゃなくて、仮に!仮にそうだとして、見破れるわけないっすよ!」


「どうだかなあ!?魔力の感知と操作において、奴はこの場の誰もを凌駕する!仕掛けられた時は気付かなくても、効力を発揮された瞬間なら、奴が何かを感じ取るかもしれない!そして次にお前の魔力を見た時、記憶の中の物と一致してしまったら、その時お前はどうなるんだあ!?」


「そ、そんなの、調査する側が信じるわけが——」


「ルカイオスが選んだ調査機関が、“一定の説得力を持つ仮説”を検証する!それはもう徹底的に、奴の体内と部屋の両方から、その話と合致する痕跡という痕跡を探し回ってやる!」


「あ、あ……」


「その時お前の隣に居る御大層な教職員殿は、お前をどうすると思う?『何も問題は無かった』とも、『うちの生徒とは関係ない』とも、言えなくなった時、そいつはどう動く?鳥頭を振ってよく考えろ!」


 朱雀大路が枢衍を、

 目的の為なら手段を選ばない、合理主義の権化を見る。

 例えば、

 それがどんなに大事な持ち物でも、

 捨てる必要があれば——

 

「お、起きるわけがない…、起きるわけがないっす…!」

「賭けてみるか?お前の人生を、明胤卒業生か、全ディーパーの敵かに二分する、デカいギャンブルになるぞ?」

「そ、そんな…」

「惑わされるな朱雀大路。ハッタリだ」

「で、でも先生、でも……」

「今ならまだ、俺達に協力して、自分の手で奴を起こして、問題を無かった事にする、という手があるぞ?」

「違う違う違うちがう」

「朱雀大路!全て詐術だ!お前が日魅在進を起こせばこいつらの勝ちだ!お前にそうして欲しいんだ!だから口から出任せでお前を騙そうとしている!お前が必要な証拠だ!」

「オレサマはどっちでもいいんだがなあ?」

「うるせえ!うるせえぞ!オマエラ、イーカゲンな事言うんじゃねえ!あんなビョーニンフゼーに、俺ッチの魔法が破れるわけねえだろうがよおおお!」

「あ、あなた、どういう事……?」

「『言質は取った』ってかあ!?そんなモン、なんの効力もねえんだよ!俺ッチは今サクランしてんだからなああ!」

「お前……どうやって……!」

「ノリドおおお!話し理解出来てるウウウ!?俺ッチの魔法に便乗した、オマエなら分かってんだろおおがよおおお!」

「馬鹿な…!?」

「本人の同意を得て、潜在意識の最深部まで掌握した俺ッチの魔法が、破れるわけ……あん?」


 「馬鹿な」と、ニークトは言った。

 何が?

 こいつにとって、そんなに意外な事を言ったか?

 こんな反論も想定していなかったのか?

 分からなくなった朱雀大路は、

 余裕ぶるべく、

 いつものおふざけの“ノリ”で、

 小ボケを挟もうと、


「んだよお?俺ッチの後ろに誰か——」


 振り返った先に、

 開いた出入り口があって、




 男子生徒が、

 目を開き、

 無表情で、

 立っていた。




「………」


 朱雀大路が、正常な思考を取り戻す前に、


「おい」


 日魅在進の顔をしたそいつは、

 そういう言葉に聞こえる音を発した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ