13.絶対にヤバいけど他に無い契約 part2
暑い。
いや、熱い。
息を吸ったら、喉が焼け焦げた。
自分の身体が煩わしい。
溶け出して消えてしまいたい。
暑い。
いや、熱い。
ここは、どこだろう。
グラグラと煮立つ鍋の中か?
岩石がゲル状に流れている。
遠くから、囃子のようなメロディーが聞こえる。
何か、
ああ、忌々しい。
その音を、止めてくれ。
ここは、どこだったっけ。
朧気に照らす、薄赤き地熱。
発される明かりが、遠景を歪めている。
もっとよく周りを見渡そうと、上体を起こし、
そこにある下半身を貪る、鱗を持った巨獣と目が合う。
そうだった。
今、喰われてたんだった。
それを思い出した途端、痛みが帰ってきた。
「うわあああああ!」
そして目覚めた時、
「うあああ!ああああ!アアアアアアアア!………あ?」
さっきの暗中とは正反対、白い壁とシーツに出迎えられる。
眠気なんて吹っ飛んでいる為、少し間を置けば簡単に認識できた。
「い、今のは……?」
何だっけ、何か忘れてる気がする。
いやそれより、ここは、
病室だ。
俺はどうやら、本当に生きている。
しかも、あのダンジョンから救出され、こうして医療機関に担ぎ込まれている。
幸運、などという言葉では足りない。
奇跡。
ローマンになってから、唯一且つ最高の天変地異。
俺が何もせずとも、俺に都合良く運んでくれている、なんて。
と、感慨に浸ってから5分程。
まずノック。
「失礼」
唯一の出入り口である引き戸が自動で開き、防護服と思しきゴテゴテした装備の面々が入ってきた。
その物々しさに面喰ったことで、部屋の様子に注意が向き、そこに取り付けられた監視カメラに気付く。
あ、これ、俺の扱い、危険物質と同じだな?
「日魅在、進君、だね?」
くぐもった声で質問される。
「あ、はい、そうです。そういうあなたは?」
「私の事はいい。これから君に幾つか質問をするから、正直に答えてくれ。君から質問する必要は無い」
オーケーオーケー、分かってきたぞ。
これはあれだ。彼女と接触したことが、想像以上に問題視されてる、ってことだ。
「まず、経緯を説明してくれ。私達は、君がA型に遭遇し、更にそこにあれが現れたところまで知っている」
(((「あれ」、ですって。失礼な言い方ですね)))
「だから知りたいのはその先だ。カメラが破壊された後、一体何があったのか」
「え」
いやあ、
「えっと」
「君が出遭ったのは、君が思っている以上に危険な代物だ。我々はこの国の為、延いては人類の為、正確な情報を必要としている。しつこいようだが、『正直』に、話してくれ」
駆け引きとか分からない俺でも、これを「正直に」話してはいけない、なんてことは分かってる。
(((さあ、どう弁明しましょうか?ススム君?)))
「あなたの後ろで、今まさに問題の当人が、浮いてますよ」、
なんて。




