135.この人達の逆鱗、当たり判定がデカ過ぎない…?
「………」
「………」
「いやあ、いえ、あの、ハハハ………」
救教会にとっての地雷が多過ぎる。
なんて迷惑な教室だ。
言っても詮無い事を、壱萬丈目は心内だけで叫び飛ばす。
この二日で、彼の臓腑が白旗を上げるのは、何回目だろうか?
十や二十では足りない気がする。
作戦の変更があったか、宣言ロールにカミザススムが居なかったのを見て、ホッと一安心したのも束の間、Qポジションに、訅和交里の名前を見つけた時、彼の腹痛は早くも復活した。
「異端宥和の生き残り、ですか」
「守る力を、打擲に使いますか」
「あ、あれも仲間を守る為の、一つの形、という事で……」
宗派統合を図った救教会の一派、“異端宥和”。
一時期は注目されたものの、その内部の意思の統一すら満足に出来ず、現在は下火になりつつある派閥。
家族か、或いは本人が、その教義に感銘を受け、彼らによる洗礼を受け、結果、あのような魔法を得るに至っている。
救教会の本流からすれば、「正しい」解釈を認めない、頑迷固陋な分からずや共の存在を、「許せ」と言われたようなもので、受け入れられないというのが公式な見解。
どうも特指クラスという奴は、彼らの神経に一々障るらしい。
「似たような事なら、君達もしょっちゅうやっているだろう?だから僕は君達に、ぞっ、こん、なんだよ?I’m lovin’ it!」
「シー!聞かれるとまたキレられっぞ?」
「ヴァーク様!吾妻様!ど、どうです!?中々見られない試合展開となりましたが!」
隙あらば救教会をつっつきに行く面々の注目を、なんとか本題まで戻そうと、壱萬丈目は慌ててハンドルを切る。
「凄まじい精神干渉能力です!恐らく相手の心を開ければ、昏睡状態に陥らせるのも可能なのではないでしょうか!どうなんでしょう!壱萬丈目様!」
「さ、さあて、担当ではないもので、私からはどうにも……」
『君の所が、こっちに何人くらい“観光客”を送りつけてくれてるのか。それを正確に教えてくれたら、僕らからも答えてあげるよ』
「はあて!我が国からの観光客は、数百万規模でございますから!正確な人数などとてもとても!」
切り込んだ央華に、切り返す五十妹、惚ける役人。
という遣り取りに、「やめてくれ…!」と胸の裏で懇願する壱萬丈目。
「しかし、返す側の、あの黄金を見せる魔法能力!あれも興味深いですなあ!」
幸か不幸か、ガネッシュの興味が次へと移った。
「浅学でして、あの生徒は全く名を聞かなかったのですが、学園内では有名人だったり?」
「あ、ああ、ええ、そうですね。ある意味では、よく知られた生徒ですよ」
「『ある意味』、ですかな?」
「お恥ずかしい話ですが、数年もの間、3年生として在籍している、謂わば“不良生徒”と言われる者でして…」
「ほほう?あれだけの能力を持ちながら、卒業できていない?」
「本人にその意思が無く、出席日数の時点で足りんのです。我々教師陣も、身体・魔法の両面について、優秀だと評価しておりますし、学力も悪くなかった、どちらかと言えば嘱望されていた生徒なのですが……」
彼はそこで言葉を濁した。
隠すというより、「本当に原因が分からず、匙を投げている」、という事情があった。
それを知っていそうなのは、どちらかと言えば……
「オレは知らねーぜ?」
精一杯気取らせないように盗み見たつもりだったが、しかしそこはチャンピオン、吾妻は壱萬丈目の雄弁な視線に、静かに短くそれだけ返した。
「そう言えば、吾妻殿はこの学園の卒業生でしたな!」
「ああ、んで、あの馬鹿の同期だ。『お恥ずかしい話』、だがな」
「今更大会なんぞに出て来るとは思わなかった」、それまでの獰猛さから一転、冷たく言った彼女が何を思うのか、壱萬丈目には分からない。
彼女を担当していた八志になら、分かるのだろうか?
聞いてみたい気持ちもあったが、今がその時でない事だけは、彼も分かっていた。
「見づらくてかなわんな……うん?おい、会敵するみたいだぞ?」
キリルの大使の言葉で、今度こそ視点が戦場へ戻る。
「愚弟の事なら見るつもりはありませんが……」
「いや、そっちはまだだ。そうではなく——」
「おおっと、楽しそうなmatchだねえ?」
『クミちゃん?そっちのカメラ出してくれない?』
「は、はいなのです!お、待、ち、を…ん~……」
ここが出会って、
その勝敗が付いてしまえば、
大きく戦況が動きかねない出遭い。
「これは確かに!どちらの底も気になりますなあ!」
特別指導クラスの一番槍、ジュリー・ド・トロワと、
枢衍教室のエースアタッカー、亢宿勻。
その二人が、
互いにそうと知らず、
行き会おうとしていた。




