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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第一章:災難も極まるとバズるらしい

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13.絶対にヤバいけど他に無い契約 part1

 ハッピーバースデー、トゥーユー

 ハッピーバースデー、トゥーユー


 なんだ?

 歌が

 あのふざけた歌が


——ゆらゆらと


 ハッピーバースデー、ハッピーバースデー、

 ハッピーバースデー、トゥーユー


 やめろ

 何も幸せなんかじゃない

 何も良かったことなんてない


——いつまでも


 ハッピーバースデー、トゥーユー

 ハッピーバースデー、トゥーユー


「夢を」「楽しいって」「嫌い」「悪い」「じゃーん」「やめなさい!」「分かって」「お腹空いた」「おかえり」「このやろ!」「ねむい~」「結婚」「面白いな」「どうよ!」「はいはい」「大丈夫だよ」「ま、待って…」「ヤッホー」「痛い」「なあ」「幸せに」


——聞こえますか?


 ハッピーバースデー、

 ディア——



「カミザススム、くん?」



 俺はまだ、暗闇の中だった。


 何かに腰掛けているのだろうか?見えないから、分からない。

 一寸先も黒く閉じているのに、不思議だ、自分の体や、彼女の事はよく見える。


 「彼女」、


「お早う御座います。いいえ、厳密に言えば、貴方は目覚めていないのですけれど」


 強者、超然、女神………

 色んな言葉が浮かぶが、

 どれも言い尽くせていないような気がする。


 とにかく、目の前にあの少女がいた。どうやら逆さまは止めたみたいだ。

 それと対面して、死んだかと思ったし、これから死ぬのかとも思ってしまう。

 なんで彼女が俺を見るのかも、見た上で生きるのを許しているのかも、全然分からないからだ。

 なにこれ、新手の処刑?

 希望を見せた後、苦しめて殺すの?

 お願いだから、感情ジェットコースターはもうやめてくれ。

 上げてから落とされるのと、落としてから上げられるのと、どっちにせよ、だ。やるならスッパリいってくれ。


 俺が窮して黙っていると、


「私を前にして、何か言う事はないんでしょうか?『綺麗ですね』『感謝します』『下僕になります』『全て捧げます』、はいどうぞ」

「え、あ、」

 何を、

 何を言えばいい?

 何を言うのが正解なんだ?

 俺は気を回し、ついでに目も回し、



「好きです」



 血迷った。


 太陽の黒点みたいな瞳孔を、少しだけすぼめた少女は、その後ジトッと半目で睨み、


「十点減点」


 何点満点中!?ゼロになったら死ぬの!?だとしたら俺の持ち点ってあとどれくらい!?即死とかないよな!?


「そんな頓珍漢とんちんかんな返答で、私を愛する資格を得られる、そう思われているなら、心外と言わざるを得ませんね。まず対等気取りが宜しくありません」


 そうですね。俺もそう思います。出来心だったんです。俺自身何言ってんのか分かってないんです。心にも無い事だって口から飛び出す勢いなんです。許してください!


 と、ここまでで一つ。

 俺、結構余裕あるな?

 

 今更言うことでも無いが、俺は彼女に圧倒されている。溺れていると言ってもいい。見た目も、雰囲気も、能力も、全部が俺を鷲掴んでいる。変な事口走るくらいには。

 だけど、あの時ほどじゃない。

 初めて彼女を見た。

 許可されなければ口も回らなかった、「あの時」。

 あの感じと比べると、大分気楽になったと思う。

 慣れて来たのか、それか——


「もしかして、俺、死んだ?」


 ここが死後の世界で、俺が霊魂なら、色々鈍くなることもあるだろう。

 そう思ったが、


「十点減点、私の話を、聴いていなかったのですか?」


 「『命を繋ぐ』と、そういましたよ?」、聞き分けの無い子どもに、言いつけを再度唱えるように。


「私の言葉が、それほど軽い、と?」

「ああ違う違うそうじゃなくて、ここどこなんだ?本気で何も分からないんだよ」


 こんな漆黒の中、地獄の姫君みたいなのと対面してたら、そんな発想も湧き出るというものだろう。たとえ冷静になったとしても、この場所の正体に思い至れないのだから、正解できるわけもない。あと思いつくのは、臨死体験くらいか?

 途方に暮れる俺を、少女は飽きもせず凝視して、

 ………なんか、近付いてないか…?


「貴方………」


 何を思ってかヴェールを脱ぎ去る彼女。


「ちょ、いや!あの!」


 やめて!その顔でまじまじと見ないで!なんか心臓の奥まで見通されてる気がしてくる!隠したい所全部見られてる感じがする!ザワザワする!あ、帽子の下に黒いリボンあったんだてゆーか髪の毛すっげーサラサラだな色褪せてるのかと思いきや微塵もそんなこと無かったわシルクみたいに綺麗だなぁもー!こいつ顔面偏差値高過ぎだぞ!モンスターなのに!ちょ近付くなってお前の周囲が涼しいんだけどマイナスイオンでも発生してるの?林檎っぽい匂いは何由来?あとどことは言わないけどデカいから当たるぞ!あと一歩で!


「矢張り、大丈夫みたいですね………」


 「大丈夫」!?

 どこが!?

 体中から汗と火が出るレベルの羞恥だぞ!


「けえっこう、ぎりぎりなのですが………」

「それでも、気が違ってはいないでしょう?」


 ゑ?今もしかして、ワンチャン発狂するレベルの暴挙を、サラっとお出しされたってこと?俺の命、軽過ぎない?


「どうやら、私が貴方の、一部扱いとなった事で、貴方に……耐性、のようなものが、身に着いたようですね」


 待って。さっきから重要情報をそうめんみたいなノリで流し過ぎ。

 人の命運でわんこそばするのやめて?喉に詰まるから。


「い、一部って………」

「此の結果から導けば、貴方の中なら狭苦しさも紛れる、と言えるでしょう。成程、敢えて手放して、狭隘きょうあいな場所に入る事が、逆に正解とは」


 何も成程じゃねえって!何だよ俺の中に入るって!死とは別種の恐怖やめろ!

 そんな俺の慌てぶりを見て、やっとこさ説明の必要を感じたのだろう。


「これから暫く、貴方の右眼に、住まわせて頂きます。どうぞ宜しく」


 上体を軽く傾けた会釈を受けた俺は、反射的に一歩退()いた上で右の目を手で抑えてしまう。


「あれ、そんな事をしても、時既に、ですよ?それに此処は、貴方の無意識の中。貴方の本当の肉体は、今ここには無いのですから」


 興が乗ってるらしい所すまんけど、一から説明してくれません?俺は何を期待されて生かされ、厄ネタの塊みたいなのに寄生される事になってるわけ?


「聞きなさい。宜しいですか?貴方は私の気紛れで、手に余る強者をも屠る術を、その身に銘じられる事と成りました」


 それって、つまり——


「貴方を、強くして差し上げる、そう申し上げています」


 俺が、

 「強く」?


「じょ、冗談…、悪ふざけ、かよ…?」

「十点減点。戯れである事は否定致しませんが、私は出来ない事は云いません」


 遊びではあるんかい。


「受けるも拒むも、貴方の自由ですよ?どうしても厭だと仰るなら」「やります!お願いします!」「どうしました急に」


 拍子抜けしたように呆れる少女。脅し文句でも用意してたか?だが残念。俺には迷う余地が無い。


「あんたが俺に、この停滞を突破させてくれるなら、目玉の一つくらい貸してやる…!」

「あれ、思った以上に、積極的、ですね?」

「俺は俺の力で、俺の足で立ちたい…!抗う力が手に入るなら、よろこんでやってやるさ…!」


 まだ彼女の前だと、多少緊張してしまうが、それでも言えた。拳を握って立ち上がった今の俺は、そこそこ様になっているだろうか?


「私の遣り方は、熾烈、ですよ?耐えられますか?」

「キツいのは今までと同じだよ。それで確実に状況を良くできるなら、むしろ今までより遥かに良い」


 艱難辛苦なら、日常だ。

 そんじょそこらの苦悶程度、希望があれば耐えられる。


「そう、俺なら、やり遂げられる」


 やって見せるよ!


 まるで戦闘時みたいな構えを取って、やる気を見せる。

 決まった。と、思うんだが、彼女はツボに入ったのか、笑いが止まらない様子だ。

 え、今の結構カッコよくなかった?ちょっと自信あったんだけど。

 

「失礼。余りにも可愛らしくて」


 不名誉な形容なんだが、そう言われてちょっと嬉しがる、そんな俺もどうかしてる。


「震えながら言う様はまるで、蛇に睨まれ膨らむ蛙、いえ、其れでは上等に過ぎますか。……そうですね、竜を前にして、威勢だけで乗り切ろうとする…仔豚(くん)、みたいな」


 クスクスクスと、右の袖で口元を押さえ、左の人差し指で、つつくような仕草と一緒に、


「ぶう、ぶう、ぶう」


 心底嘲あざけられている、のは分かっているのだが、面映ゆさが加速し、敵意が追い着かない。

 ただ、なんだか、据わりが悪い。


「ご、ごめんって…」

「いいえぇ?可愛いですよ。まことに、ね。精々面白く成る事を、期待してますからね?」


 なんだろう、この感じ。

 同年代か、少し年上くらいの少女、そういう愛らしさ。

 かと思えば、やたらと広い器によって、流したり受け止めたりしてくれる、底抜けの懐。

 その二つって、こんなに違和感なく、あわせ持てるものか?

 これも人外の為せる業か?

 俺の頭をバグらせないで欲しい。


「これからは私の言を、ぉく聞くように」

「分かったよ、…あー………」

 

 そこで俺は、一つ大事な事を聞き忘れていたと、思い至った。


「あんたのこと、なんて呼べばいい?」

「私は人間に、 “可惜夜あたらよ”と呼ばれています。それで良いのでは?」

「あたらっ…!?」


 “ナイトライダー”かよ!?

 大物過ぎだろ!?実在したの!?

 って、いけない、そうじゃなくて、


「でもそれって、俺達の側が勝手に決めた呼び方だろ?そうじゃなくて、あんたがアイデンティティーを置いてる名前とか、その、無いのかよ?アタラヨって呼ばれたいなら、それでいいんだけど………」


 少女は目を丸くして、


「あれ、執拗しつこく名を聞き出そうだなんて。もしや口説いてます?案外肝が太ましい方」

「違えよ!もー!アタラヨさんで良いならそう言ってくれ!もう知ら——」



「それでは、カンナ、と」



 彼女はいたずらっぽく微笑み、口元に人差し指を当て、


いいは、未だ秘密、という事で」


 そう囁いた。

 胸の裏側、手の届かないところを、サワサワとくすぐるような、そんな声音を吹き付けられた。


「それじゃあ、その、カンナ、さん?先生?」

「敬称は、不要ですよ?」

「え、あえ、か、カンナ?」

「はい、何でしょう?」

 一々笑顔で応えてくれる。なんだこれ、可愛いな、くそぉ。

「具体的に、これからどうするんだよ?冷静になって考えれば、俺を強くするったって、高が知れてるだろ?」

「其れを決めるのは私の側で、貴方ではありませんよ?身の程を弁えるように」

「あっ、はい」


 すいませんでした。


「さて、何から始めましょうか。ま、ず、は、」


 そこでまたカンナが近づいてきて、俺は馬鹿みたいに硬直してしまう。

 彼女はそんな俺の頭に触れ、脳みその皺でもなぞるように、手指でサラサラとフェザータッチ。

 知らずに目蓋が閉じそうになるくらい、心地の良い体験で——


「う」


 うん?


「あ、な、なん……」


 なんだ。

 ムズムズと据わりが悪いような、窮屈だから暴れだしたいような、焦っても逸っても何をすればいいか分からないような、


「おわあああああ!?」


 なんだ!?


「か」


 痒い!

 痒い痒い痒いかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆかゆかゆかゆかゆかゆかゆかゆかゆ

 全身が!隙間なく痒くて堪らない!

 

「ああああががががががああああああああ!!」


 掻き毟ろうとした俺はいつの間にか自分の身体が見えなくなっていることに気付く。触れない!痒みによって五体の位置は完璧に分かるのに自分で自分に触れないから痒みを逃すことも消すこともできなくてもどかしさで気が狂いそうになり


「貴方に、今の自分の状態を知らしめる。其の為には、うするのが最も早いのですよ」


 カンナの声が、自分の声も不安定な精神も通過して、耳の奥へと落ちていく。

 いや、逆に脳の内から、聞こえているのかもしれないけれど。


「人の一生は短いですから、少し厳しめで行きますよ?」


 俺は自分の見通しの甘さを早くも呪いつつ、わけの分からない仕打ちにひたすら耐えて、


「それにしても貴方、思ったより——」


 彼女の言葉の意味を考えることすら出来なくなり、


 「夢」だと言われた暗闇の中、


 またしても気絶した。

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