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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第六章:身内ノリの腕試し大会、ってだけじゃなかったりする

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126.寝る子は育つ、のでとっとと寝よう part2

「ノリド君も、久しぶりだね」

「は、ノリド『くん』だあ?そういうガラじゃあ、ねえだろうが。テメエはよ?」

「君の立場で、僕を嫌うのも分かる。すまない」

「へーへー、うるせーうるせー」


 乗研先輩は、グイと寮長を押し退けて、寮の出口へ向かってしまう。


「何処へ行くのかな?もう直に、施錠時間になるよ」

「いつも通りだ。分かるだろ?」


 俺は部屋から顔だけ出して、乗研先輩が本当に外出してしまったのを確認した後、万先輩に改めて顔を向ける。


「あの、それで、先輩は、どうしてここに?」

「ああ、すまない。個人的に、君と話したいと、そう思ってね」

「話、ですか?」

「そうだ。まず最初に——」


 先輩はそこで頭を下げる。

 

「すまなかった。君の事を、一方的に悪者扱いして、謂れなき中傷と冷遇を浴びせてしまった」

 

「あ、ああ、いいえ、その、僕は慣れてますから、そんなに重く受け止めなくても……」

「いいや、これは僕の寮全体の問題で、乃ち僕の責任だ。深く謝罪する」

 謝る方にしろ、謝られる方にしろ、

 何回経験しても、慣れないものである。

「せ、先輩、こんな廊下の真ん中でする話じゃないですし、良ければ上がって行きます?」

「君に異存が無ければ、そうさせて頂きたい」

「どうぞどうぞ、お好きなだけ」


 先輩は遠慮しているものの、嫌がっている様子は見せず、提案されるがまま、部屋に入って来た。

 もう一人の、これまたヤンチャしてそうな、薄赤く染まった、雫型?の髪の生徒も、ペコリとお辞儀をして後に続く。

 色合いとかピアスとか、一見で抱いた粗暴な印象は、人懐っこい表情と、礼儀の正しさから、すぐに拭い去られた。


「どうぞベッドでも椅子でも、お掛けいただいて。と言うかその方が、僕も話しやすくて、助かると言いますか…」

「そうか…。君がそれを望むなら、そうさせて貰うよ」


 という訳で、室内に備え付けてあった勉強机、その椅子に二人が座り、俺は自分のベッドに腰掛けた。


「まずは改めて、謝罪させて欲しい。本当に、申し訳なかった」

「ごめんなさい」


「えー……と……」


 彼らなりの誠意なので、受け止めるのだが、尻の据わりの悪さが、それで消えるわけでもなくて。


「君を疎外すると言うのは、寮生の、若しかしたらこの学園の生徒の、総意だった。僕は寮長だから、その意に従う、という事を言い訳に、自分の中にある偏見とも向き合わず、その時流に乗ってしまった。愚かな事をしたと思う」

「えっと、あの、俺ッチもっす。あ、中等部2年、朱雀すざく大路おおじ三七三みなみっす。バンセンパイの教室の助っ人で、仲良くさせて頂いてるっす。そんで、センパイが、明日の試合の前に、カミザセンパイへのこれまでの失礼を、少しでも清算して、その上で気持ち良く戦いたいって言って。オレも、それにキョーカンして、ここにいるっす」

「勝手な申し出だと言う事も、分かっているよ。許してくれとは言わない。ただ、明日の試合で、君と戦う事になったら、僕達は相手を一人の戦士として認め、強敵のつもりで挑む。それを、約束させて欲しい」


 あー、なんか、分かった。

 多分、彼らは、俺が弱いのに編入して来た、その事への反発が大きかったタイプなのだろう。

 漏魔症うんぬんより、実力不足がズルをしている、そっちに憤りを感じ、排斥の空気に加担した。

 だけど、俺が三都葉先輩を倒して、ある程度の実力者だと、認めるに至った。


 そして俺と彼らは、明日の対戦相手同士。

 学園生としての強さに、誇りを持っている人達だ。俺を馬鹿にしたまま、油断して掛かり、真剣勝負をしない。そう思われるのが、心外だったのだろうか。

 もっと単純に、相手の強さを過小評価する、それが流儀に反したのか。


 だから、こうしてわざわざ、俺に謝罪して、認識の改めたと報告しに来た。

 今の時代に、武士みたいな考え方する人達だ。


「カミザセンパイ、マジパないっすよ!あのミツバ一族を、あんなにボッコボコにするんすから!ツーカイっした!俺ッチ、あれ見てた時、『スゲーヒトが現れた』っつって、ワクワクして、震えと笑いが止まらなかったっすから!」

「そ、そう?なんだあ…?」


 ヤバイ。

 自己肯定感が少しずつ満ちていく。

 調子乗っちゃう。

 俺もニヤつきが止められない。


「どうだろう?僕達の覚悟を、分かってくれるだろうか?」

「ととと…、つまり、明日は何の憂いも無く、全力でぶつかり合いたい、って事ですよね?」

「その通り。重ねて言うけれども、これまでの仕打ちを経た上で、怨敵でなく競争相手であってくれと君に頼むのは、身勝手そのものであると承知はしているし」「それなら」


 俺も重ねて言うけど、


「俺だって、そっちの方がいいです。冷たい目で見られたとか、攻撃的な言葉をぶつけられたとか、そういう事を、掘り返すつもりはないです。面倒ですし、俺も嫌な思いをするのが、分かってますから」


 と、言う訳だから、


「これから、ライバルとして、切磋琢磨していく、って言うのは、こっちからお願いしたいくらいです。敵じゃなくて、同じ明胤生として、一緒に強くなる仲間として、良い関係を築けるなら、それ以上に望むところなんて、無いと思ってます」


「そうか…」


 万先輩は、そこで大きく一呼吸を入れ、


「そう、か……」


 肩の荷が下りたように、顔の力を弛緩させ、


「ありがとう……」


 そう言いながら、右手を差し出した。


「いえ、こちらこそ。こうやってお話出来て、嬉しかったです」


 俺はその手を握り返し、明日に向けての意気を、心の中で燃やすのだった。




 その後、2人と少しだけ、話をした。

 それぞれの授業がどんな感じとか、学園に来てから困っている事は無いかとか、普通の学生がするような、世間話だ。



 敵意には、敵意が返って来る。


 俺は今まで、何でも十把一絡げに、憎しみというカテゴリーに括ってきたのだと、それをまた思い知らされる。

 彼らの中には、本当に俺を滅ぼしたいわけでなく、巡り合わせや嚙み合わせが悪かった、それだけの人だって沢山居るのだ。


 そういう事を忘れず、一人ずつと向かい合う。

 それが俺にとっての、成長なんだと思う。



 帰り際、互いの明日の健闘を、約束し合った。


「僕達が出るかはまだ言えないが、どちらにしろ、僕の教室は全力で戦うよ。後ろめたさで、矛を鈍らせたりもしない」

「俺のパーティーも、ちょっとやそっとじゃ負けません。覚悟しといてください」

「それじゃ、おやすみっす。カミザセンパイも、明日に備えて、グッスリ寝るッス!」

 前歯がキラッと光るような、元気で爽やかな笑顔で、そう言われ、

「そうさせて貰うよ」

 俺も自信満々に、不敵に見えるよう答えて見せた。


 こうやって、かつてはギスギスしてた相手と、笑い合って「また明日」を言える。

 素晴らしい事だと、じんわり思った。


 その日は、その出来事のお蔭か、

 布団に入ってすぐ、ぐっすりと熟睡出来た。

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