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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第六章:身内ノリの腕試し大会、ってだけじゃなかったりする

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122.大正義で大本命

「一人で来るたあ、いけねえなあ!」

「なメやがっテる」


 K(キング)R(ルーク)が揃った、耐久戦の準備万端なその陣営に、


「すぐに後(けい)する事になるでい!」

「オわっテる」

「ああ…いやだわ、そんなの……」


 立ち向かう彼女は、頭痛を堪えるように、頭を片手で押さえていた。


「おい!もう後(けい)するんでぃ?」

「わらエる」


「あら、ごめんなさいね?」


 彼女、ジュリー・ド・トロワは、レイピアを鞘から抜き放ち、簡易詠唱を済ませてから、言ってやる。


「あなた達を見ていると、あの脂ぎった貴族や汚らしい不良が、実は知的だったのかもしれない、なんて思ってしまって……。そんな気の迷いを起こした自分に、落ち込んでいただけよ?」


「何の話でぃ!?」

「いみふ」

「気にしないで?」


 「これから敗けるあなた達には、関係ない事だから」、そう言って重心を前に傾けた彼女の足下から、たん黄色おうしょくの奔流が爆ぜ昇った。


「やありぃ!楽勝でぃ!」

「ざっコい!」

わりいけどよぉ?俺っちが王様なのは、こうやって離れたテメエに攻撃を当てる、ってえ事も出来るからよ!ジュリー・ド・トロワ、恐るるに足らずってなあ!」

 

 完全詠唱は、既に終わっている。

 

 その能力は、言うなれば「地雷原を作る魔法」、とでも言うべきか。


 一定範囲のフィールドに広がり、指定した地点から、数百度にも及ぶ液体を噴出させる。


 が、水温が100℃を超えながらも、気化しない為には、相応の圧力が居る。

 実はこの魔法、避けられないよう捕らえる筒状の牢獄、上から降り注ぐ滝による水圧、下からの常軌を逸した熱湯、その三つによる攻撃なのだ。


 どの程度の範囲を、どの程度の熱さで、どの程度長く攻撃するか。それは籠められた魔力によって決まり、魔法全体からどれだけの魔力を配分するかは、発動する度に使い手が決める。

 人間相手に広い範囲を吹き飛ばす、といった無駄遣いも無い。

 


 接近戦は言うに及ばず、魔法によって中距離戦闘にも秀でた人材。

 ディーパーにとって、というより、一般的に“攻撃”とは、「距離が近い」ほど強く、精密になる。空気抵抗や命中までの時間差を考えれば、当たり前だ。

 そういう意味で、「相手を近づかせない」、そういうコンセプトを選べる彼が、Kポジションに立たされているのは、一つの選択肢として、理に適っていた。


 が、


「ふーん?確かに、結構便利そうね」

「「ナヌッ!?」」

 

 ジュリー・ド・トロワ、健在。


「ど、どうなってるんでい!?確かに俺っちは、てめえを障壁の中に捕らえて…!?」

「障壁?ああ、あの地面に使われてる物質を吸い上げて、薄く延ばして強化してから立てただけの、幕片まくっきれの事?」


 「やるのなら、多重にするか、鉄で壁を作りなさい?」、と、力技での脱獄を、瞬時に済ませた女はうそぶく。


「お、お見事なお手並みでぃ!だけどよ!今のは俺っちが魔力配分をミスっただけでぃ!そんでもって、次は壁を厚くした上で、てめえが踏んだ所から、瞬時に発動するように調整すりゃあいい!そうしたらよおおお?てめえ、俺っちに近づけすらしねえよなああ!?」

「たエがたきヲたエ!」

「ああ、やめて…」


 トロワは首を振り、それを見た彼ら二人は、得意げに湧き上がってしまうが、


「私の中で、あのクソむさい男共が、どんどん相対評価を上げてしまうわ…。本当に、やめて」


 冷め付いた彼女は、てんで動じない。

 だが、


「ちぃぃぃ!てめえ、ここで落ちろや!」

「……オわらセトく?」

「おう、やっちめえな!」

 

 彼らもまた、その態度に構わない。

 それは(ルーク)へ下す、攻撃命令。

 元より、睨み合うだけで終わるつもりはない。

 全体として人数不利なこの状況。

 Q(クイーン)を待ちながらも、局地的に見れば有利を取れているこの時に、敵の最高戦力を倒し切る。それを逃す手は無い。


「っシー………」


 (ルーク)は左手前、右手を後ろに、両手で長い筒を作り、トロワに向けたそれを覗きながら、


「3っつ。いケソう」


 右の親指から順に3本立てて、


「“赤く長く執念深いアカガンマー・ワラバー”」


 完全詠唱、そして、


「くっ…?なに、これ…?」


 トロワの両肩と、右脚。

 その三箇所に、重石が乗ったような、圧力が掛かる。


「う、ん……?」


 脚を見下ろすと、脹脛ふくらはぎあたりに、紅檜皮べにひはだコブらしき物が粘着して、そこから伸びた髪、或いは根が、地に食い込んで繋がっている。


「魔法、攻撃……呪いに、近い…?けれど何が、トリガー……?」

「てめえ、ここ来るまでに、葉やら枝やら根っ子やら、踏ンづけただろ」


 K(キング)が、勝ち誇る。


「それも、地雷…?けれど、魔力なんて、踏んでない……」

「それ自体は、単なる葉やら枝やら根っ子やら、でぃ」


 「だけどよ、だけどもよお?」、カードを裏返し、タネも仕掛けも開く。

 認識の共有によって、魔法効果を、拘束を強める為に。


「こいつの簡易詠唱、“赤念ガンマ”は、好き勝手動く自律型でぃ」


 その精霊が目を付けた物を、奪ったり壊したりしてはならない。

 彼女が踏み折ったのは、ただの枝切れ。

 けれども精霊のお気に入り。


「オまエは、3」

「10の内、3でぃ。だから第一段階は、耐えられたみてぃだがな」


 それはつまり、“次”があるという事。


「トまらないなら」


 トロワにしがみつく精霊達の髪が、彼女の前方の地へと伸びて、


「オボレさセる」


 K(キング)の魔法の範囲内に、引っ張り込もうとする!


「なん、です、って……?」

「これが、連携ってやつだぜぃ!」

「コンボ!」

 


 中等部時代、模擬戦に一度も参加しなかった彼女は、その魔法能力を、ほとんどの生徒に知られていなかった。

 その分の埋め合わせとして行われる、実戦潜行くらいでしか使われないその能力を、K(キング)が見出だせたのは全くの偶々《たまたま》。

 彼の「海」に関する物語と、彼女の「溺死」を含む“お話”が、パズルのように填まったのも、これまた純然たる偶然。

 その結果、彼女のガンバーデビュー戦は、こんなにも華々しい初見殺しとなった。



 精霊達は、それでも業を煮やして、遂に彼女の口を、その髪で塞ぎに掛かっている。

 トロワは剣を突き立てて、満身の力で抵抗するが、


「いいかゲん——」

 

 髪の全てが、Kの支配領域の内へと移り、

 

「——しずメ!」


 筒越しにトロワを見ていたR(ルーク)がより一層の魔力を注ぐ!

 引く力が、爆発的に大きくなる!

 

 トロワの足が………浮いた!



「コレデ」「思った通り、任意も可能なのね?」



 そこで何が起きたのか、それを処理するべく、脳が時間を求め、景色が泥の中のように、重たく進行する。


「力を籠めさせる、事が出来るのね?止めを刺そうと、その一瞬だけ、より強く」

 

 遠近を抜いて、

 トロワが眼前に迫っていた。

 一歩たりとも、目に映さずに。


「エっ」メキ、

 腹に、左脚。

 魔法能力により、発動者の彼女自身も、精霊のお気に入りと化している。

 だから被弾の直前、精霊の髪が彼女に巻き付き、守っていた。

 これからトロワを、より強いしっぺ返しが襲う。

 それでも、

 R(ルーク)の身体は浮いて、

 “その範囲”から外れた地を踏む。


「しまっ」キィン。

 左手が突き出すレイピアが、K(キング)の喉に命中。

 R(ルーク)K(キング)の魔法によって閉じ込められ、水圧と熱水に挟まれて脱落。

 迎撃しようとしたK(キング)の右腕を、レイピアを放した左手が横から襲い、「“シルファ”、だったかしら?」そこに小さなベージュの障壁が作られる。叩き出される右手、防御も無くガラ開きな身体。

 刺剣しけんをキャッチした右手が寸分違わず喉の竜胆色を再突さいとつ

 血を吐いて真後ろに頭から飛び倒れる敵K(キング)


 ホイッスルのようなブザーが、3度鳴る。


 試合終了。


「あなたが私と同じランク6?頭痛が何処までも酷くなるわね」


 焦れた相手が、彼女を引っ張り込もうとする、その拘引力こういんりょく

 地面の同じ地点を二回突き、“抱懐ボーグ”の効果で生まれる威力、その反作用力。

 彼女が使う、高レベルな身体能力強化による、跳躍。


 彼我が打つ手を全て利用して、危険地帯を一歩も掛けずに飛び越え、余勢よせいって一人蹴り出す。

 彼らの行動から思った通り、K(キング)の魔法は自動発動状態にすると、一定以上の重さが乗れば、敵味方なく発動してしまうようだ。

 とは言え、その読みが外れたとしても、試合時間が数秒延びるだけだろうが。


「さて、他の人達は、不甲斐ない戦いはしていないでしょうね?」


 医療班に運ばれる二人を見もせずに、トロワは端末を操作して、全員の残りポイントをチェックする。

 だが彼女のパーティーは、例外を除けば、個々の強さで後れを取る事も「え?」


 指差し確認で、何度も名前とポイントの表示が合っている事を確認し、


「………意外とやるのね」


 呟いた彼女の揺れる瞳には、


 予想だにしない結果が映った。

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