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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第六章:身内ノリの腕試し大会、ってだけじゃなかったりする

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120.どうもいらっしゃいませ、日進月歩チャンネルの、カミザススムです、とはならないでしょ

 平らなグラウンドとかなら、まだ分かるんだよな。


 位置エネルギーを上手く使えるなら、重さがある方が、大きい加速力を得られる。そういう話をしていた人が居た。

 軽いから最高速、とは限らない。


 でもそれは、全力疾走時且つ、充分加速し切れるからだ。

 舗装されてないデコボコな地面。

 行く手を遮る岩や樹木。

 そして途中まで下降していたが、半ばを過ぎたら登りに転じる道程。

 更に会敵や狙撃を警戒しながら、早歩きくらいのスピードで。


 この条件なら、俺の方が速い、そう思っていたのだけれど、


「ちょっと!だらしないわよ!遅れたら置いて行くから!」

「マム!イエスマム!」


 なんでこの人、俺と並走どころか、微妙に速いの?

 意味ワカンナーイ。


(((魔力操作の精密さとは別の、肉体動作の効率性と正確性、ですね。しかしススムくん以上とは、彼女も中々楽しい方です)))

(足から地面への力の伝え方とか、根本的に何かが違うんだろうな。あとは、踏み出す地形を瞬時に選び取れる判断力、とか?)

(((一番は、重心移動、でしょうね。ほらススムくん、元カメラマンとしての誇りは、如何いかがしました?)))

(我流であのプロ級の走りに勝てと!?)


 いやこの場合の「プロ」が何を指すのかは分からんがね?


 さて、トロワ先輩が有り得んくらいにオーバースペックなのは置いといて、俺達二人は今、反時計回りで敵本陣らしき地点に向かっている。

 つい数秒前に、ニークト先輩が攻撃された事を確認し、薄くなっているであろうK周りを攻めるのだ。

 はい。そうです。

 トロワ先輩が突出したがるのは抑えきれない、そういう結論に達し、身軽な俺が付いて行く事で、攻撃力と安定度を高める方向にシフトしました。

 まあ電撃作戦が、先輩の強みを最も活かせるというのは、確かなので。


 上手くいけば、ニークト先輩がBポジまで引き付けてくれる事になってるが、しかしその場合1対3だ。

 本人は自信満々だったが、万が一がある。こっちも早めに終わらせて……おっと?


「先輩、確認なんですが」

「何?」

「Qが単独で来た場合、俺が一人で引き付けて、先輩がKとRを一人で相手する。それで大丈夫ですね?」

「………来たの?」

「魔力の強さから言って、たぶん、あの先輩です」

「あなた、気持ち悪いくらいに敏感ね」

「それほどでも」

「半分は褒めてないわよ?」


 なんですか「半分」って。


「じゃ、行ってきます」

「まあ、彼をK(キング)Q(クイーン)以外に置くとは、考えにくいわね。それで前に出て来るって事は、私が担当している方が、K(キング)で良いでしょう。というわけで、後は任せなさい。あなたは負けても別に良いわよ」

「なるはやで倒してきます」

「目上からの気遣いは素直に受け取りなさい」


 あ、それ気遣いだったのか。


 挨拶もそこそこに俺は彼女から離れ、存在を主張しているその魔力を目指す。

 速いな。

 まあ、ここはあちらさんの陣地内だから、そりゃ警戒も何も無いのかもしれないけど。


「あーあーこちらN(ナイト)。これから推定Q(クイーン)と会敵しますどうぞー?」


 俺は胸辺りに吊るしていた、詰襟学ランを着て二足歩行な、かわよいイヌの人形に話し掛ける。

 すると、狭い可動域ながら、口やら手やらを動かして反応した。


『カミザー?何度も言うけど、マイクテストはもう要らんし、「どうぞ」も言わんくていーから』

「こういうのは雰囲気が大事——」


 おっと、お出ましだ。


「ごめん、また後で」

『りょ』


 その返事良いな、短く済んで。


 俺が圧縮言語、“ギャル語”の軍事的優位性に思いを馳せている間にも、敵は木々の間を縫って、互いを肉眼で見れるくらいの距離まで近付いていた。

 見た所、標準的な、軽さにも防備にも、特化してないタイプかな?


「其の方!ローマン君!」


 なんか、話し掛けて来たんだけど。


「私は本来、弱者潰しは避ける主義にある。ダサいから。で、あるからにして、其の方がここで、自主脱落を選択するのなrうぉおおおい!?」


 チッ、仕留め損ねた。

 隙だらけとは言え、流石にこの距離詰めてからの大振りの右上段蹴りは、狙い過ぎだったか。もっとコンパクトな技でいくべきだった。


(((今のは、しっかり入れなさい?減点します)))


 カンナからお叱りを受けながら、止まることなく右足軸回転を掛けながら左足で跳躍追撃、魔力操作ですぐに体勢を戻してから両拳での連撃を続ける。

 しかし、敵もさるもの。最初の一撃は肩に半当たりくらいはしたが、そこからの連携は避けられるかいなされた。


「お前何やっとるんだ!?言葉も分からぬ猿か!?」


 気分を害されている所、申し訳ないんですが、ちょっと今あなたとおしゃべりしてる時間が無いんです。男と男、サシのプライドバトルとかならともかく、出来るだけ早くパーティーメンバーを援護しに行かないといけないんです。詠唱されて、魔法という優位性を振るわれる前に倒せるなら、そうしますって。


「話にならんな!」


 頭上に放出された高密度で紅白二色の魔力が落下してきて、俺は潰される前に距離を取った。うーん、やっぱり、才能ある人だと、一度に使える魔力量が違う。

 俺の場合、自転車操業でチマチマ溜めて、常に魔力循環用のリソースを消費しながらだからな……。こうやって一度にバゴッ!って使ったら、同じだけ溜めるのに相当な労力が掛かる。漏魔症の辛い所だ。


「ふん、私を見失ったという事は、高密度の魔力で視界を塞がれた、という事。魔力を見る事は出来るか、チンケな猿め」


 ご丁寧に、後ろから話し掛けてくれた。

 魔力感知で追いかけてるから、別にそれが無くとも位置は分かるとは言え、それは迂闊なんじゃなかろうか?


「だがお前も、ここで終わりだ」


 もしそれが、絶対の自信から来るものだったら、


「お前に本物の高階級潜行者を、魔法の神髄を、見せてやろうぞ」


 そいつに本領を出させては——


「“牛首武塔除難招来カムスサノ・ソモリムタン”」


 縄を持つように、掌を上にして握られた左手に、手の甲を前に立てられた右拳を叩きつけた彼の背後に、神社とかで見る藁で作った輪っか——“”だっけ——が現れ、そこから紅白に流れる魔力で構成された、若干透けている大男の上半身が出現。

 頭は、内に曲がった左右二本、鼻先から伸びる反り返った一本、計三本の角を持つ、猛牛である。


「ヤアヤア!其の方が前にしているのは、正真正銘、御三家の魔法なるぞ!」


 ニークト先輩、

 あなた、言ってましたよね?

 彼、三都葉家の中でも、比較的戦い易い方だから、大丈夫って。

 ミヨちゃんも、「ススム君なら勝てるよ!」とか、謎の太鼓判を押してたっけ。


「病み朽ちよ!」


 全ての角の先端が向いている、一つの空間。そこにこれまた紅白の魔力塊が生成され、

 うーん…どう見ても、チャージ中、だよなあ……。


「これ本当に『戦い易い』ですか…?」


 何処かで3人を相手にしているだろうニークト先輩に向けて、俺は疑問を呈した。


 当然聞く者は無く、


 放たれた光線が地を抉り木々を薙ぎ倒し、


 一帯を攻撃的魔力が支配した。


 え?

 いや、

 マジで?


 これ、本当に——

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