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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第五章:怖れるな、その目も耳も、かっ開け

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102.“護る”戦いは未経験なんですぅ! part1

 中級ダンジョンのC(カプリコーン)型とは、これまでに何度も戦ってきた。

 このダンジョンは、俺と相性が良いとも言いづらいが、それでもさっきは、大きな怪我や出血もなく、勝つ事ができた。

 今は、ローカルによるバフも無いから、もっと簡単に倒せる筈だ。


 倒すだけなら、そうなのだが。


「すぅぅぅううう…」

 構える。

 魔力を厚めに纏った左手が前、

 ナイフを持った右手を引いて、

「ふううぅぅぅ…」

 いつもなら、ここから更に、跳躍する先を探す。

 今は、ダメだ。

 佑人君が、居る。

 

「俺の後ろから、絶対に動かないようにね?」

「う、うん…!」


 この子を抱えて飛び跳ねる。

 5歳の、それも漏魔症に罹ってる子が、それに耐えられるかが、分からない。

 試してみる事も出来ない。

 舌とか噛んだら取り返しが付かない。


 それに、C型の攻撃を、一つでも避け損なって、受けるしかなくなった時、いや、避けている最中でも、佑人君に当たらない、そう断言する事が出来ない。

 自分の身体の大きさに、しっかり慣れているから出来る事。

 佑人君込みだと、重心までズレて、正確な体捌きを会得するまで、時間を要する。

 今ここに、そんな猶予は無い。


 佑人君には、気持ち程度の備えとして、中身をほとんど置いてきた、バックパックを抱えてもらっている。

 だが、それだけだ。

 サイズの合わない魔力ジェネレーター付きベルトを着けたりも出来なかったし、ここにはパッと隠れられる場所も無かった。

 彼の前から俺が退けば、何の抵抗も無く、命を落としてしまう。


 俺が正面から、C型の攻撃を受け流し、壊す。

 それ以外には——


「すぅぅぅううう…」

 息を整える。

 一度戦った時の記憶を、俺の肉、俺の骨、俺の血流に思い出させる。

「ふううぅぅぅ…」

 魔力の回転経路を伸ばす。

 四肢の先から体の外側に流れ、付け根の辺りで体内に戻る、という周回運動で、手足の守りとする。


 逃げ道は無い。だから探すのはめだ。

 やるしかない。

 不動を貫いて、殴り勝つ!

 

 C型は、

 ギチギチギリギリ関節を鳴らし、

 その“口”を、ニヤリと開けた。


 まずケーブル攻撃!

 俺の胴に当たる直前、その一発とクロスさせた左腕の魔力で軌道を横に逸らす!

 次はケーブル2連射!

 左拳を下から上へ跳ね上げるように当ててこれもいなす!


 その内の一発の先っぽに、手を近づけた時、ナイフを突き刺されたような、内まで通る痛みを、魔力越しに感じた。

 今のは、電流だ。そういう攻撃だと、聞いた事がある。

 極太テーザーガン。

 あれに刺されたら、「痛い」じゃ済まない。

 身動きの自由が奪われて、終わりだ。


 ドリルアームが来る!

 回転部分に触れずに迎撃しなければ、こちらのダメージが増えるだけだ!

 前からの数発を左手で横に打ち払い、その下を潜った一本を左足で踏み止め、右寄りに迫る一つを回転刃付きナイフで弾く!

 転んだり力が入らない体勢へ追い込まれても、魔力塊やジェット噴射の力で無理矢理足場や推進力を生み出し、腰の入った一撃にする!

 左拳で正面の大部分を逸らし、床スレスレを這うようなアッパーカット二本を左足連撃で払い、それでも漏れた物には右手の回転をぶつけて弾く!

 数発逸らして、足で払って、片足が浮いたのを狙って一気に5本が放たれ、ジェットと魔力でバランスを取りながら左手で上に2発逸らす、肘で横に逸らす、そこから前腕を立ててもう一本を逸らす、と対処するも一本が胸を目掛けて入り込んだ、ので右腕を畳み逆手に持ち替えたナイフの刃で止めてから弾く。

 左拳が逸らし、左足が払い、右のナイフが弾く。


 逸らして逸らして逸らして払って逸らして逸らして払って逸らして払って弾いて払って逸らして逸らして逸らして払って逸らして逸らして払って払って弾いて弾いて


 開いた右肩に一発入る。

 ガギィイイガガガガガ、数秒押し付けられる。

 閃光フラッシュが破裂し、シールドも制服も破れ、骨に振動が響く。

体を微妙に反らす事でドリル刃から離しダメージを軽減。ジェット噴射による全力で戻した右手で弾く。


「おにいちゃん!」

「大丈夫!」


 何の、

 何のこれしき。

 カンナに体内魔力の感度を上げられた時とか、全身大火傷で死にかけた時と比べたら、蚊に刺されたようなもん……いやゴメン、痛いモンは痛いわ。


(((正直で宜しい。良い子、ですよ?)))

(じゃあご褒美に、この状況の抜け方教えてくれない?)

(((お断りします。御自分でお考え下さい。その方が、)))

(面白い?)

(((人の台詞を取らないでください。十点減点です)))

(うぇー)

 

 右手は…クソ、握る力が弱くなってる。一時的なものか、骨にヒビでも入ったのか、それも分からん。腕自体は魔力ジェットで動かせるけど、これまでより不器用なやり方になる。

 外からの攻撃には流動防御で備えてたけど、内に入り込まれると脆くなる。ローカルが無くても、掘削機械の破壊力が、単純に脅威過ぎるのもある。そして次からは、シールドの加護が無い。

 

 ミスれば、出血だろうな。

 

 猛突もうとつ再開!

 左拳を盾に、左足をサブに、右手を予備に、右脚を軸に。

 ほとんど変わらず、だが思った通り、右手がぎこちなくなっている。

 待ちはダメだ。

 カンナもシャン先生も言っていた。

 自分のリズムを、鼓動を、やりたい事を、相手に押しつける。

 

「す、ぅ、ぅう、うう…」

 落ち着け。

「ふうう、ぅ、ぅぅ…」

 呼吸を取り戻せ。

「すぅぅぅう、うう…」

 血と酸素の循環を止めるな。

「ふうう、ぅぅぅ…」

 対応するだけじゃ逃げるのと同じ。

 


「すぅぅぅううう…」

 お前は今、“守って”いる。

「ふううぅぅぅ…」

 そうじゃない、“護る”んだ。

 


 く~ちゃん達が来るまで、まだ時間が掛かるだろう。

 それまで戦いを引き延ばすというのは、現実的ではない。

 お前が勝て。

 お前はN(ナイト)だ。

 アタッカーだろ。

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