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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第五章:怖れるな、その目も耳も、かっ開け

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96.今すぐ何とかしなきゃヤバいって! part2

「佑人君は、今、何層に?」

「さっき杉嵜から聞き出した。俺達が簡単に追って来れないよう、一度7層まで潜ったらしい。なるほど、奴の能力で隠れながら行くとすれば、D型が突破できない。そこらが限界だろう」

 第7層。D型の手前。

 C(カプリコーン)型までもが、徘徊しているエリア。

「どうにか、ならないんですか?」

「警視庁が、潜行課の要請無しに、ダンジョンに踏み入る事は出来ない。無視して潜れば、懲戒免職も有り得る。それか、“反省部屋行き”かもな?…なんてな。

 処分が一人で済むなら、実行しかねん熱血バカも居るんだろうが……、ま、極めて虚弱な対象を護衛しながら、中級7層から生きて帰って来るとなると、単独では自殺行為だわな。少なくない部下を、巻き込む必要がある。そんな無責任はできねえだろうよ。それ以前に……いや……」


 宍規刑事は、流石に言い過ぎな感に至ったのか、出かかった言葉を自粛したが、言わんとする事は分かってる。


「十中八九死んでいる子ども一人の為に、そんな危険は冒せない、ですか?」

「………あんたには、冷血人間に見えるだろうがな」

「…いいえ。冷静で、公平な、判断だと思います」


 彼らが出来る事と言えば、「ローマンの為に犠牲になりました」、なんて事が、万が一にも起こらないように、ガチガチの完全武装で送られてくるであろう救助隊を、待っていることくらいなのだ。

 キャリアを危険に晒してでも、容疑者確保の報告を止めて、緊急事態をなんとか維持して——


「待てよ?」


 逆に言えば、この警戒態勢を、いつでも解除できるって事では?


「宍規さん!仮になんですが!」

 

 俺だけなら、不安が残る。

 だけど、力を貸してくれる人が居れば?


「今すぐこのダンジョンを一般開放へ戻していただいて、僕が佑人君を助けに行く事は可能でしょうか!?」


 間に合うかも、しれない。

 

「あんたが…?」

「僕と、あと何人になるかは分かりませんが」

「それは、いや、それこそ、万が一生存していた場合、さっき言った困難な帰り道を、あんたら民間人がやり遂げる事となる。潜行課の救助隊がやるのとは、わけが違う」

「けれど、早期に佑人君を見つけ出せます。佑人君が生き残れる可能性は、そっちの方が高くなります」


 救助隊がここに到着しても、真面目に、そして素早く探してくれるか、微妙な所だ。

 潜り始めてから、亀のように慎重に歩かれていては、佑人君の生存可能性が、下がっていく一方。


「僕は、もっと相性の良い場所ですが、中級を単独で踏破した実績があります。それと」

 

 丁度潜りに来ていたらしい、ニークト先輩を振り返る。


「先輩。どうせ潜るつもりなら、序でに1層まで、人を護衛してはくれませんか?」


 彼を巻き込めれば。


「あー……、まあ、そこまで手間でもない。退屈凌ぎだ。少し手を貸してやる」

「ありがとうございます!」

「言っとくが、後で返せよ?オレサマが願いを聞いてやるんだ、高くつくぞ!」


 意外とすんなり参加してくれた。

 協力を取り付けた所で再度、宍規刑事を見る。


「宍規さん、ニークト先輩はランク7で、僕も慣れたディーパーです。少なくとも、救助隊を待つよりは、勝ちが見える賭けだと思います」


 宍規刑事は、考えていた。

 顎の下に指をやり、熟考し、また頭を引っ掻いて、


「さっきも言ったな?警視庁は、平常時・非常時問わず、潜行課からの許可・要請無しに、特異窟、つまりダンジョンへ潜る事が許されない」


 「下らん縦割りだが、そういうルールだ」、吐き捨てるように、遵法を語る。


「このダンジョン内で、これから何があろうと、俺はあんたを助けに行けない、そう思え。いざとなったら、お巡りさんが助けてくれる、なんて事は無い。それと万が一だが、杉嵜の協力者が、予めダンジョン内で待機していた、なんて事もあり得る。本当なら、そういうのを全部チェックした上で、再解放するべきなんだ」

「はい、分かってます」

「おいおいおいノータイムで返事すんなよ。どっかのバカと言い、若い奴ってのはこれだから!無謀がカッケエと勘違いしてやがる」


 宍規さんは、その後も幾つか、口の中で毒を並べ立ててから、


「本部に聞いて来る!」


 そう言って、多分無線を使うのだろう、どこかに去っていく。


「おい!ジェットチビ!お前は」「スースームー君ー?」「!?」「ひゃい!?」


 何か聞こうとしていたニークト先輩が口を噤んでしまうくらい、冷たく重く、だけど爆発寸前のような激しさを秘めた声が、一帯を吹き抜けた。

 ミヨちゃんが、あの威圧スマイルで、俺を見ていた。

 造形は変わらず美少女だが、雰囲気は牙を見せつける蛇。

 細められた目蓋から、チラリと覗く黒色もあって、体内から湧く暗いオーラが、漏れ出しているようにも見えた。


「あ、アノ……?」

「何か、言う事は?」

「いえ、聞いて欲しいのですが」

「何か、言う事は?」

「流石に家族の言いつけを破って潜るのは」「 な に か 、言う事は?」


 両手を上げて、降参と恭順を示す。


「ミヨちゃん、お願いしたい。手伝ってくれる?」

「うん!いいよ!」


 さっ、と、

 いつもの優しい笑顔に、シームレスで変化する。

 

「頼ってくれるよね?なんたって、私達、友達だからね!」

「あ、ああ!」

 もうそれでいいや!

「“友達”って、こんな強迫的な関係だったか?」

「先輩?なにか?」

「俺は何も言ってない」


 すげえ、口先達者(だっしゃ)のニークト先輩が、口論の土俵に上がろうともしない。


「ジェットチビ、聞いておくが、」

 で、話は戻り、


「その幼児、まだ、生きてるって思うか?」

「………分かりません」

 

 分からないが、希望はある。


「俺はかつて、深級のモンスターの横を、見つからないように歩いていた事があります」


 このダンジョンの奴らが、どうやって敵を探知しているか知らないが、あの時の俺みたいに、何かに姿を隠すローマンが、見つけにくい事に変わりはないだろう。

 

「隠れてくれさえいれば、きっと」

「……そうか」


 そこで宍規刑事が戻ってきた。


「俺は忠告したからな?どうなっても、もう自己責任だぞ?」

「そ、それじゃあ!」

「そういうこったな」

 

 理解出来ない、とでも言いたげに首を鳴らしながら、

 彼はそれを持ってきた。


「本部が潜行課に報告を上げた。5分後に、“奇械転ギアーズ・オブ・ティアーズ”は再解放される」


 これから足掻ける、まだ諦めなくていい、という事実と、


「遺言は、『警察の皆さんは何も悪くありません』、にしておけよ?」


 冗談めかした悪態一つを。

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