94.どうだ!これでもう変なポーズとは言わせねえ!
「よっ!」左ジャブ。魔力噴射はせず、軽く抉るように数発。「ほっ!」足を踏み変えて右の正拳突き!G型スケルトンを上下二つに叩き折る!「ほぉーあたー!」腰をしっかり入れたアップグレード版後ろ回し蹴り!背後から斬り掛かったもう一体のG型を吹っ飛ばす!
「どうです!?今のメッチャカッコよかったと思うんですけど!!威力とか上がってる感じありました!?」
俺は2体の弱点部位を踏み砕きながら、バイザー内でコメント欄を開く。
『なんかちょっと面白いぞススム』
『その掛け声は必要あったのか、ススム』
『うーむ、威力の違いが正直分からん』
『大幅加点だよ!ススム君!』
『この前の解説配信と言い、スケルトン君が木人の代わり扱いされてる…』
『身体強化だけでも、高い技術を身に着けてると、凄まじく強くなるらしいからな』
『ススム、最後の褒められ待ちが無ければ、もっとカッコ良かったぞ』
『様にはなってたな、これまで大雑把だったのが鋭くなったって言うか』
『「やれればいいや」な喧嘩のやり方から進化した感はある』
『でもやっぱりアホっぽさが抜けないのがススムの良い所』
『「間違った日本人」の動きしてるぞ、ススム』
『海外ニキがNinja botとなりつつあるが、今のはカラテだ』
うん、好評だな。
好評か?
まあ好評って事にしとこう。
というわけで、6月1日、“梳削墓”です。
いやあ、弱点部位さえ打ち抜かなければ、何度でも殴れるから、検証企画のサンドバッグに丁度良くて………
レプタイルズのG型レプトもそういう所あったけど、再生しながら戦うあいつらと違って、壊れれば一度止まってくれるスケルトンは、本当にやり易くて重宝している。
ローカルによるデバフも、ローマンの俺にはあまり効かないから、気にしなくていいし。
ありがとう、骨々《ホネホネ》君達。
最近の選択授業で、シャン先生に初歩的な格闘術の、稽古を付けてもらっている。
あの人は、筋肉もしっかり付いてるし、それの活用も完璧な、最強超人なのだ。俺もああなりたい。憧れの存在である。特に図体。
今までは筋力に物を言わせての殴る蹴るだった俺だが、それをより効率的、効果的な動きへと矯正すれば、より強力な一撃に化ける、と先生は言っていた。
腕での攻撃で重要なのは脚や腰の使い方だとか、身体を作る為にもっとガツガツ食えだとか、そういう話。
で、先生が特に重要な概念だと強調したのが、「タイミング」や「リズム」だった。
曰く、
「強えパンチやキックが打ちてえだとか、速い一撃を放ちてえだとか、そういう事を考える時、曲げてから伸ばす、捻りを加えて戻す、って行程を、どっかで踏む事になる。
その時、全体の動きがしっかり噛み合い、澱み無く連動する事で、筋肉のポテンシャルを最大限発揮できる。
つまり、各部位をどのタイミングで動かすか、押すか、曲げるか、伸ばすか、捻るか、解放するか…。お前の最適を、見つけねえとな」
らしい。
なので、基礎的な動作を自身に覚え込ませ、それから隅々の可動の仕方を確認し、一つずつがどう繋がっているか体感で把握し、その上で俺の「最適解」を探す、という手順を取らないといけない。
が、それをやるなら、身体強化が出来るダンジョン内の方が、より好ましい。強化有りと無しとでは感覚が異なるし、強化状態だと五感が広範囲に、かつ鋭敏になるので、動作の全容を掴みやすいからだ。
俺の為だけに、毎回模擬戦場を押さえてもらうのも忍びなく、他にそこで訓練したい人がいない時は、遠慮して通常のトレーニングにしている。だけど、魔素の中で鍛える事が出来るタイミングがあるなら、そっちの方が良いわけで。
で、今日みたいな休日なら、昼からダンジョンには潜りたい放題。そこで、配信上でススナーさんの客観的意見をもらいながら、鍛錬を実施してみる事にした。
前よりも殴る蹴るが様になったし、我ながら画面映りが良くなった、と自負している。
まあ、あんまり違いが分からないらしいけど……。
ところで、シャン先生に教わってる時、「『リズムを乱さない』って部分は、意外と出来てんじゃねえか」と、大変ありがたいお褒めの言葉を頂いた。
その時、先生の後ろからこっちを見ていたカンナは、袖で隠しても溢れ出るくらい、ニマー…とわっるい笑顔をしていた。「言った通りでしょう?」、だろうか?なんか腹立つ~。
あ、それと余談なんだけど、俺のリスナーさんの総称、つまりファンネームが、“ススナー”に決定しました。
ご周知よろしくお願いします。
「で、ここから…」蹴り足を一度引いて、左脚を軸に、捻りを意識して、「こう!」G型を両断する蹴り!「うわあっ!?」が勢い付き過ぎてその場で数回転!カートゥーンみたいな事をしてしまった。
「初めて身体強化使えた時も、こんな感じだった気がする…」
俺は魔力噴射を使って止まり、もう一体居た筈のG型が消えているのを不思議に思っていたら、なんかそっちもバラバラになってた。
「んえ?なんでお前壊れてんの?」
さては新手か!?全く感知されずに遠くから攻撃を!?それともまたイリーガル!?
俺は前転しながら近くにあった墓石の陰に隠れ、「すいません!2体目ってどっから撃たれてました!?」コメント欄を開きながら聞くと、
『ススム、お前マジか?』
『草』
『スッゲー必死で草生える』
『ススム、お前が蹴り壊してたぞ』
『強くなっても間抜けなのは変わらないな、ススム』
『あの…普通に、全方位攻撃で倒してました…』
「え」
と、動く気配アリ。そっちを見ると、G型2体が再生し、立ち上がる所だった。
「っすぅぅぅー………」
俺は大きく息を吸い込みながら、トコトコとそいつらに近付いて、
「だ!」右拳で左の奴を、「おりゃあ!」左拳で右の奴をぶち抜いて、
「いやー!良い汗かきましたね!ここらでお昼休みにしますか!」
カメラに向かって笑顔で言った。
『誤魔化したー!』
『スケルトンさん不憫…』
『草』
『やり方がやっつけ過ぎない?』
『証 拠 隠 滅』
『今日もキレキレだな、ススム』
『情けなさが一向にナーフされない男』
『明日も期待しているぞ、カミザススム』
は、恥ずかし、
恥ずか死……
カンナ、その顔やめろ。顔がうるさい。
とまあ、最近はこんな感じで、自分の体の予想外の挙動に、振り回されている。
強くなってんのかな?あんま実感できてない。
でも、平和ではあった。
次にやる事は見えていたし、不安点もあったけど、絶望的ってわけでもない。
ついこの前までと比べると、「これ以上強くなれるか」なんて、贅沢な悩みだとも思ってしまう。
そうやってすっかり安心していた俺は、
翌日あんな大騒ぎが起こるなんて、
当然思ってなかったわけで。




