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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第五章:怖れるな、その目も耳も、かっ開け

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90.とうとう公式勢力が来た part2

「ええと、どういった…?」

「説明させて頂きますとね?実は私共も、エンターテインメント分野、特に動画サイトの収益というものに、前々から着目していまして」


 身を乗り出して、爛々(らんらん)と目を輝かせ、熱く語り始める天王寺さん。


「と言いますのも、ご存知の通り、漏魔症罹患者が物を作っても、皆さん気味悪がって触ろうとなさらない。お人によってはね?拒否反応まで出る始末です。これじゃあいけない。その方向で無理矢理進めても、対立が深まるだけでしょう?」


 そこで、彼らは形の無い物、アプリとかプログラムとか、そういった方向性に、活路を見出だした。


「で、まあ、無形の物と言えば、他にも様々ございまして、書や絵画、舞踊などの各種藝能。いやいや、そこまで肩肘張らないでも、より身近な情報、ニュースですとか音楽ですとか、そういったコンテンツだって、チャンスがあるでしょう?」


 特に、動画サイトだと、テレビ局へのコネクションや、莫大な費用が無くとも、発信出来る。素人やアマチュアと呼ばれる人々が、突然成功者に変わる、その奇跡に最も近いのが、インターネット動画配信サービスなのである。


「幸い支援手当のお蔭様で、そういった訓練に割ける時間だけは、有り余っております。ただ、どうしても、漏魔症罹患者という事で、色眼鏡を通して見られてしまうのは、避けられません。勿論、プライバシーの一部として、漏魔症を隠して配信する事も可能ですが、それでは社会の合流は為せませんし、何より発覚した際の炎上リスクが、莫大な物になってしまいます。漏魔症に、余計にマイナスイメージが付く事も、あるでしょう」


 俺にも心当たりのある話だ。

 「実はローマンでした」と言うのは、一発でほぼ全ての信用を消し飛ばす、大スキャンダルなのだ。

 大したことない知名度だったかつての俺でさえ、配信を始めた瞬間に、ローマンアンチが荒らしに飛んできていた。ある程度有名になってから、同じ事が起こっていたら?想像するだに、震えが止まらなくなる。恐怖で。


「そこでこの度、こちらの桑方さんのような、非漏魔症罹患者の方が中心となる団体の、公式チャンネルを作る事に相成りました。個人で漏魔症差別に立ち向かうのは困難でしょう。ですので、私共が発信の窓口を提供し、理不尽なクレームは運営側が盾となって受ける。こういった仕組みを作ろうと、そういう次第でございます」

「あ、……ああ!そういうことですね!」

 

 ローマンに足りていない、社会的信用。それを企業として、補うという事だ。

 それに、ローマン相手なら幾らでも殴っていい、そう思ってる人は一杯居る。

 だが、この団体を攻撃すれば、代表の桑方さんへ、ローマンではない人間へ攻撃した事と同義。アンチ側の論理でも、極端な過激派以外でなければ、下手に手を出す事は出来ない。


「じゃあ、“UWA”って、芸能事務所みたいなイメージなんですか?」

「まさしく!その形態が、一番近いでしょう。『漏魔症を社会に()()させる為に、あなた(ユー)から始める場所』。そういう意味が込められております」


 建前上は非ローマンの組織と言えど、ローマンを売り出す事を専門とする事務所。当然批判や誹謗中傷は来るだろう。しかし、一人で社会を相手取るより、遥かにマシな戦いが出来る。

 そして、その中の一人でも成功すれば、注目は他の所属者へと波及していく。ローマン出身のクリエイターやタレントが、成功する。その目がある。画期的な取り組みだ。


 そして、注目度自体は。得られる筈だ。

 これまで誰も、「ローマンを集めてエンタメをやろう」なんて、そんな事を言った人すら居なかった。

 実現すれば発表の時点で、良くも悪くも、大きな話題となる。


「で、お分かりかもしれませんが、肝心なのが、最初の一歩目、なんですよ。そこで私共に耳目が集まってる状況が、人気爆発なのか、炎上なのか、それが変わります。第一弾として、誰を出すのか?これが相当に、難儀な問題でして」

「なるべく反感を買わず、尚且つ能力が高い人物。例えば、その人でなく作品が前面に出る、クリエイター畑の人間。或いは、生の人間との間に、アニメアバターでワンクッション置ける、V(ヴァーチャル)ライバー型の配信者。他にも様々な候補を考慮に入れ、検討してきました」

「しかしですなあ。現在動画サイト界隈を席巻するのは、他でもない、ダンジョンへの潜行配信。これこそが、疑いようもなく一番のキラーコンテンツなんですよ」

「が、我々が扱うのは漏魔症の才人達。その分野で売り出す事は不可能だと——」


——そう、思っていました。


 そこで、話が俺に回って来たのか。


「日魅在進さん。どうですかねえ?貴方なら、実力、実績、知名度、そして何よりも人気面において、素晴らしい物をお持ちです」

「そ、うですかね…?」


 ありがたい事に、ファンが付いてくれているのは確かだ。しかし、俺が今持っている登録者の全てが、純粋に応援してくれる味方であるとは、言い切る事が出来ない。

 失敗を虎視眈々と狙う監視ヲチ勢とか、燃えるか死ぬかしそうだから見てる野次馬とか、ノリで登録した海外勢とか、そういう人の割合がどれだけ高いのか、俺にも分からない。

 アナリティクスも、色々偽ってそうな人が多過ぎて、あんまり当てにならないし。


「特にその唯一無二性!貴方のサクセスストーリーは、他の漏魔症罹患者を、勇気づける事ができる!貴方が私共に協力して頂ければ、UWAは軌道に乗ります!そうすれば、貴方は更に多くの罹患者の方々を救えます!いいえ、漏魔症の未来を、貴方が救うかもしれないのです!」


 話が少し、大きくなり過ぎな気がする。

 評価してくれているのは嬉しい。嬉しいのだが、俺が参加しただけで、一つのプロジェクトが確実に成功するなんて、そんな事が有り得るのだろうか?


「勿論、待遇は本事務所で最高の物を用意させて頂きます。個人事業主扱いとなるので、福利厚生費を経費から出す事は難しいのですが、その分は固定給に、色を付けさせて頂くという事で」

「あ、いや、あの」

「TooTubeでの収益化申請が通っていない現状、我々が貴方から頂く売上金等は発生していません。つまり、貴方はこれまでの収入に、月に一度、我々から支払われる固定給、及び配信回数や時間等に応じた歩合給を上乗せした金額を、単純にプラスとして受け取る事になります。更には私や天王寺さんの繋がりで、大手メディアとのコネクションを手に入れたり、我が社が用意した顧問弁護士が、誹謗中傷等の攻撃に対応するなど、個人には無い企業所属としての強みも——」

 

「待って待って、待って下さい!いくら何でも、それは僕を過大評価し過ぎじゃあないですか?あまりに大袈裟です!」


「いいえぇ?そんな事は、ないのですよ……」


 天王寺さんは、確信を持って言い切り、おもむろにスマホを取り出した。


「日魅在さん。私の知り合いにね?小さなお子さんをお持ちのご家庭がおりましてね?」


 急に、何の話だろうか。ただ、見せられた写真には、はしゃぐ男の子を肩車する父と、柔和な笑顔でそれを見る母、幸せそうな三人家族が映っていた。


「お子さんがねえ。中級ダンジョン発生時の事故で、後天性漏魔症に…。親としては辛いモンです。『早いとこ放り出せ』『呪われている』なんて、口さがのない事を言うやからもおります。居住区外でお子さんを育てるのは、社会的圧力で難しく、かと言って、ご両親が居住区に移り住むと、漏魔症のコミュニティ内では良い顔されません。どちらを選ぼうと、針のむしろですよ。

 家族が家族としてそこに居るだけで、批判的言説の対象とされる事が、当然の仕打ちと受け入れられる。それが、『社会の分断』、というものなんです」


 「私はね、日魅在さん」、天王寺さんはそこで、宣言するような、決然とした口調となって、


「彼らに待つのが、悲劇であってはならないと、そう思っとるんです。いいや、彼らだけじゃない。人に、生まれながらの、或いは運が悪かっただけの悲劇なんてモンが、あって良いのでしょうか?人が人と認められない、ただツいてなかったがために。

 私はそうは思わない。今は諦めるしか無い事でも、いつかは根絶してやりたい。だからどうか、どうかお力をお借りしたい…!」


 「お願いします」、そう言って頭を下げた。


 


 その場では、返答を留保させてもらった。

 事務所の活動開始時期が決まっている為に、1ヶ月間という期限が設けられた。



 頭の中に、楽しそうに笑う、男の子の顔がちらつく。

 俺が決断すれば、彼の、彼らの未来を、救えるのだろうか?


 自分の足で立ち、その力で人を助ける。

 それは確かに、俺が夢見た在り方で、理想的な申し出だった。

 カンナや知性型イリーガルを隠す俺が、社会を良くできる、そんな罪滅ぼしにもなる。


 けれど俺は、即答出来なかった。


 カンナは「向き合え」と、そう言っていた。


 俺はまだ、何かが分かっていないのだ。


 理屈なのか、感情なのかは分からないけど、


 何かが。

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