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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第五章:怖れるな、その目も耳も、かっ開け

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90.とうとう公式勢力が来た part1

 遂に来たか、という納得と、

 まさか本当にこうなるとは、という驚き、

 二つともがあった。


「どうでしょう?考えては、頂けないでしょうか…?」

「ちょっと、前のめり過ぎです。すいません。彼は結論を急ぎ過ぎるきらいがありまして」

「は、はあ……」


 破顔しながら腰を低く、しかしガツガツ前に出る、日焼けしたおじさんと、落ち着き払って慎重に、けれど真っ直ぐな目を持つおにいさん。二人組だった。


「何分急な申し出になります。この場でお決め頂くのも難しいでしょう」

「正直に言えば、そうですね…、すいません……」


 明胤学園中央棟第5応接室。

 寡黙で細身、年配の長髪女性——教頭である瀬史せぶみ先生立ち会いの下、俺は二人掛けのソファに座り、対面の二人と話していた。

 いや、単なる話し合いではない。

 一種の交渉、スカウトだ。




 つい、30分程前。


 アプリで呼び出された俺は、この部屋の戸を叩き、中から許しが出たのでビビりながら、もとい、用心深く入室した。

 その時にはもう、その3人は揃っていた。

 スーツ姿の来客二人が、それぞれ立ち上がり、一礼してきたので、こちらも返す。

 教頭に「日魅在君はこちらに」と促されるまま、とりあえず座った。

 日魅在かみざだけに、上座に………分かったカンナ、俺が悪かった、曜日を間違えて出されたゴミを見る目をやめてくれ、トラウマになる。


「初めまして」

「あ、どうも、初めまして…」

「私共は、こういった者でございまして」


 二人から同時に名刺を出され、作法とか分かんないから、とりあえず無難にペコペコしながら、一人ずつ受け取っておく。


 若い方が桑方くわかたさん、年配の方が天王寺てんのうじひろしさんだ。


 そして彼らの所属は、「『次世代娯楽育成事務所“UWA(ユーワ)”』?」、名前だけでは、何の事やら分からない。


 桑方さんは、そこの代表。では天王寺さんは?と言えば、


「改めて宣言するのも、何やら汗顔かんがんの至りと申しますか…」

「いえ、あの…桑方さんは、すいません、無知なもんで、あまり知らなかったんですけど、天王寺さんの方は、流石に知ってます。ファン、って言うとなんかヘンですけど」


 天王寺四。

 世界でも数少ない、“居住区”の外で活躍する、ローマンの一人。

 苦しみ抜きながら独りで学を身に着け、諦めない姿勢で真摯に方々駆け回り、毒も唾も吐かれながら蜘蛛の糸のような伝手を掴み、それを活かして見事に名を上げて見せた、立志伝中の人物。

 「漏魔症患者の自主独立」、「“当たり前”の世の中」を掲げ、ローマンの雇用を生み出したり、国や教育機関へ働きかけたりしている人である。


 例えばソフトウェアを制作し、販売してみる、その為の教育や訓練を受けさせる、それに必要な資金を有志に募る。

 後天的漏魔症の人の中には、元々専門的職業に就いていた人も居る。彼らを教師役として、ローマンコミュニティ内に、職業訓練制度のような物を作る。

 と、あの手この手で、既存の経済活動に、ローマンを食いこませようとしている人だ。

 漏魔症差別に苦しむ人の、駆け込み寺になるようなカウンセリング施設を、全居住区に設置するべき、みたいな主張もしている。

 “UWA(ユーワ)”というのも、そうした連携組織の内の一つ、なのだろう。



 彼らの活動は、今はまだ一部の地域、限られたごく少数を相手とした改革であり、どういったシステムにするかの構築段階。実験的に行われている事でしかない。俺のように、対象外の居住区民までは、その恩恵は何も届いていない。

 しかし、数十年単位で見れば、社会の仕組みを変えられるかもしれない。少なくとも、前進は出来ている。


 無視されるか嫌われるローマンの、社会への影響力が首の皮一枚で繋がっているのは、

 こういう人が居るから。そして、この人こそ、ローマンでも他者を助けるだけの力を持っている、ヒーローの一人である。


 俺の、「自分の食い扶持を、ローシに頼らないで得られるようになりたい」、という思想の元は、この人とにーちゃんが大半を占めている、というのも否定できない。

 何と言うか、「待ってるだけじゃダメだ!俺からも行動を起こして、潮流とか風潮とかにするんだ!」とか、「そうしたら、やがて天王寺さんにも知れて、彼らが仲間に迎えてくれる筈!」とか、「ローマン救済運動を広げて、未来を変える、その一助になれる!」みたいな、大それた事を考えてた時期が、あるにはあったのだ。

 まあ、潜行者も配信者も大変過ぎて、割とすぐに夢なんて見てられないくらい、日々に追われるようになっていたのだけど。自分一人の生活を成立させる事すら、命懸けでないと不可能で、初志なんて簡単にすっ飛んでいた。


 で、とどのつまりが配信者ですらいられなくなって、脱法ダンジョンカメラマン化しているのだから、世話がない。カンナと会えなければ、厨二病起点で死ぬ勘違い野郎になっていた。

 俺の黒歴史の一つである。



「単刀直入に言います。日魅在進君。私達の所属配信者になりませんか?」

 


 そういう背景があったので、その提案には、何よりまず肝を潰した。

 俺のかつてのイタイ妄想が、現実化したみたいな展開だった。

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