89.胃薬とか、差し入れしましょうか…? part2
(お、おっかねー……)
(((童女に負けるススムくん…)))
(しゃーなし。トラブル回避もあるし、あれに勝てると思える程自惚れてはいない)
明胤学園生徒会総長。
その任は、象徴である。
生徒会は学園全体を取りまとめ、連携を図る。日常的雑務、財務管理、行事運営等。
社会に出る際、前線から一歩引いた場所で、活躍する事になる者達。彼らを育てる為に、「もう実際にやってみろ」と、結構な裁量権が、生徒諸機関に渡されているらしい。
日々の生活から戦争まで、事務方というのは地味な立場で、
しかし無くては何も立ちいかない。
戦闘に優れたディーパーの育成校として、第一ではないが、丸っきり無視するわけにもいかない評価軸。
故に強いディーパーの中で、そういった実務能力で秀でている事もまた、優秀な生徒の一つの在り方と言える。
が、
屈強なディーパーが、強さにしか迎合しないのも、また事実。
勿論教師が押さえつけてもいいが、それでは生徒に権限を委譲しているという、形式さえ失ってしまう。
生徒に事務方を重んじる、何かしらの意識を持たせたい。
強さを求めるのは前提として。
学園側としても、その二つの価値のバランスをどう取り持つか、頭を悩ませていた。
そういった挙句の果てに生まれたのが、
事務能力や人望に長けた者をNo.2に、
戦闘能力最強と認められた者をNo.1に、
という体制だったのだ。
生徒会総長とは、生徒会が持つ権威を担保する、“武力”そのもの。
抑止力であり、また名誉の玉座でもある。
流石に授業免除は無いものの、他に無い特権が許されており、何より肩書としての価値がとんでもない。
その“最強”に庇護された“最優”が、全体を動かす。
そうして盤石な最高権力が、そこに完成する、というわけである。
………イヤイヤイヤイヤイヤ!?
発想が蛮族なんだよ!!
ヤンキー漫画の統治システムじゃねえんだわ!?
この学園だけ中世で生きてんのかなあ!?
で、更に、更にだ。
かなり異例の事らしいが、現在の総長は小学5年生。
潜行者界隈に彗星の如く舞い降りた、いや、爆誕した、異常中の異常。
入学して3年目には、大抵の上級生を降し、4年生の時に、学園最強になってしまった、圧倒的に外れ値な神童。
天才と讃えるだけでは足りず、
鬼才と畏れるのもまだ傲慢。
神様のミス、世界のバグ。
それが彼女、
パラ、
パラ………(((パラスケヴィ)))そう、パラスケヴィ・エカトさんなのだ。
あと、始業式後に調べた所、読者モデルとして既に世に出ていて、俺が詳しくない方面では、顔も名前も売れ始めているらしい。
学園側が、模擬戦の映像もなかなか外に出さないので、実戦デビューを果たしていない彼女は、戦闘能力面の評価は半信半疑とされる。しかし、いずれ本格的に潜行映像を配信しようものなら、それこそ大爆発が起こるだろう。
“次に来る潜行者”の呼び声高く、TooTubeにチャンネルを開設したら、或いはく~ちゃん以上の勢いで伸びる、とまで言われている。
順当に育てば、間違いなく“チャンピオン”入り、とも。
壱先生は、あの例外中の例外の、面倒を見なければならない立場なのだろう。
恐ろしい話だ。過去のノウハウが通用しそうにも無いし、実際に振り回されていたように見える。心労が祟らなければいいのだが。
っていうか、明胤の教職、それも“理事長室”メンバーレベルにあそこまで強く出れるって、決定的な異常個体だ。カンナという、更なる神域を知らなかったら、実在を疑っていただろう。
(マジでわけわからん……見た目は普通の女の子だから、余計に頭が混乱する………)
(((然しススムくん。あなたがイリーガル超えを求める以上、何処かで敵として、行き当たる可能性が高いですよ?)))
(うぇー。気が遠くなるな………)
最後まで仲良くしていたい気持ちもあるが、でも校内トーナメント大会で勝ち進めば、いつかは相手するんだよな……。
いやまあ、「まずはちゃんと勝て」って話なんだけどさ。今のままだとパーティーとして成立してないし。
と、スマホに通知だ。
これは……ああ、明胤生徒への情報共有用アプリからだ。
それも、全体連絡ではなく、俺個人に向けてのプライベートメールだ。
内容を確認したところ、要約すれば「中央棟の第5応接室に来い」、との事だった。
……今度は何だ?
問題があって、校長室的な所に呼び出されるって言うのは分かるけど、応接室?
「面倒事じゃないといいんだけど」
(((あなたがそう願って、叶った事がありますか?)))
やめてくれ。
最近劇的なイベントが大挙して押し寄せて、こっちは目を回しているんだ。
これ以上の事件の押し売りは、ノーサンキューで行きたい。




