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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第四章:途方もない先を目指しての一歩は、やたらと重いし火傷しがち

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74.人生二度目の… part1

 くれぷすきゅ~るチャンネルの“く~ちゃん”こと詠訵三四(ミヨ)は、順調に深層へと進んでいた。

 

 彼女の魔法は、特別な力を持ったリボンを操る、というものである。

 攻防両面において活躍し、更に傷の治療まで出来る。

 魔力で剣や盾を形成する魔具を使えば、その性能は更に底上げされる。


 一人でフルメンバー居るようなものであり、当人の視野の広さ、頭の回転力もあって、浅級ダンジョンではほとんど無敵と言えた。


 戦端に魔具を結んだリボンを四本、鎖分銅のように振るいり、並み居る骨格を粉砕していく。斬撃も打撃も可能、点への精密な一刺しもお手の物、完全詠唱なら手数が倍以上に。


 油断も慢心も無く、堅実に進軍していく彼女に、負ける道理などありはしなかった。


 ここに息の合ったパーティーメンバーが居れば、パフォーマンスを挟む余裕さえあっただろう。そう言える程、一方的な戦いだった。


 トレードマークの一つである、顔の上半分お完全に覆い、声紋変換機能付きマイクを備えた、狐面型ヘッドセット。その下から見える口は常に規則正しく動き、頬は軽い運動後という風情で、ほんのり淡く色を浮かべる程度。汗一つ、流していない。


 そうして彼女の進撃は、瘦せっぽっちの骨ぽっち如きに、止める事など出来なくて、


「こん!こぉぉぉぉおおおん!」


 骨の塊、墓の土壌、

 人骨タワーたるA(アマゾン)型が、

 両手にキツネサインを作った、

 彼女の前に砕け散る。


 縦軸に回っていた彼女は、徐々にその運動を緩め、正面を向いて音も無く止まる。

 横を向いた左足が前、右足が後ろ。立ち姿だけでも、シャッターチャンス。

 絶好調と言えた。


「うん、良い感じに身体もあったまって来ました!このままZ(ゼロ)型、行ってみましょう!」


 一人で最深部へと歩を進める、彼女の決断は無謀なのか?

 答えは否。

 このダンジョンと彼女には、安全マージンを大きく上回る、純粋な力の差が、隔たりがある。


 彼女と、彼女を見る者達には、誰一人「撤収」の発想が無かった。

 目が肥えた視聴者や、熟練のディーパー。彼らの視点からでも、そこに問題など無かった。


 その判断は、ある意味で言えば「正しい」。

 乃ち、99.99%以上、彼女の勝利が固まっている、という意味では。


 その程度の死の危険なら、ダンジョンに潜らずとも、車が多い表通りを歩けば、転がっているものなのだ。

 だから外出するな、なんてことを言う者は、少なくとも多数派ではない。

 彼女が進む事を止める理由など、何処にも落ちていなかった。


 勘違いしてはいけない。

 撮れ高や収益稼ぎの危険行為でなく、自然で当たり前の一コマである。




 何が悪かったのか?

 運が悪かったのである。

 或いは、“彼”の友人になった事が、いけなかったのか。







 “梳削墓トゥスコーム・カタコーム”第10層。

 壁が全て、白茶けた骨で作られている。

 あれだけ並べられていた墓石が消え、骸の残りかすと土砂と泥だけ。

 遥けき彼方まで続く、骨の籠。

 その中央に、丘がある。

 手を頭上に伸ばす人骨達が、繊維のように織り交ざり、その凸部を作っている。


 掛けるのは、大きな襤褸布を被る死者。


 腰が曲がっているのか、単に前傾姿勢なだけか、前に長い体を持つ。

 何十何百の人体を使って、複数垂れ下がる腕も、逆関節の脚も、人と比較するまでもなく、大きく、太い。

 鋭い骨が指差先に外付けされ、殺傷能力が可能な限り盛られ、

 腰から後ろに幾本も、バランスを取る為の尾が伸びる。

 頭部は影となって、その詳細をまだ明かさず。

 カラカラグネグネ、落ち着きなく変形し、肉を持つ動物めいた、澱み無い動きを見せる。



 (ゼロ)型スケルトン。

 成れ果ての、その先まで墜ちた者。



「さ、あ、て、と……」


 詠訵三四は、両手のキツネサインを、顔の横に構え、

「こぉん!」

 手首をかえしながら、二つを合体。

 片方の人差し指を、もう片方の小指に付け、両の中指と薬指の並び、そして親指同士を重ねることで、一つの大きな狐頭を、その口元で模って見せる。


「“九狐旧亙倶苦窮涸キューティクル・クレプスキュール”!」


 完全詠唱。

 己の魔力プールから、必要になるだろう分を推算し、そこに20%程を念の為に割り増して、自らの体内を走る魔法回路へ流す。


 奇跡が成立。

 彼女の背から、リボンが羽ばたく。

 いや、背から出れば、バックパックを貫いてしまう。

 正確なところは、背面のより下部、腰回りから。

 まるで尻尾。

 魔具を持った4本に追加して、5、6、7……9本。

 更に半袖丈短(たけみじか)スカートにハイソックスの、青地白ライン軽装フリフリドレスが編まれ、手袋とベレー帽も付け足される。


 これが彼女の完全体だ。


「よ、ほ、や、う~ンンン」


 新体操における、リボン・スティックの螺旋動作をする、その九つの尾の中心で、踊るようなステップの後、身体を伸ばして調子を確認する少女。


 Z型ともなれば、当然の権利のように、弱点部位をちょこまか逃がす。

 逃げ道をコツコツ削るという選択肢を取ると、最終的に隅から隅まで粉砕して回る破目はめになる。更に壁や床の骨が、欠損を補うパーツとなる為、再生力も驚くほど高い。

 現実的な討伐法ではない。特にソロの彼女には。

 ではどうやって、その地竜を滅するのか?



「一呼吸で行くよ」


 当然、

     大雑把に、

            大規模に、

                   破壊するだけだ。



 リボンがいつも通り、意のままに動くことを確認した彼女は、螺旋の一つを自身の前に置き、


 突っ込む!


 壁や床の骨が礫のように飛ぶのなんて、もう全く気にしていない。

 “かくれんぼ”の必勝法は、隠れられる場所全てを焼き払う事だ!

 前進あるのみ!

 猛打し、撃滅せよ!


「こぉぉぉおおお——」


——明るい?


 このダンジョンは、どこも薄暗い。

 どこからともなく漏れる微光が、辛うじて星明りの夜くらいには、明度を保ってくれている。足元をおろそかにして、転ぶ者も多いと言う。


 だから、床に這うZ型の影が見える、なんて事があるわけがない。


——影?


 そう、影だ。

 影があるということは、その逆には光源があり、


 彼女は目線を上に上げ、



                               あった。

                               あれだ。



 チリチリと、火花を散らす、枯れ葉、だろうか?

 それが、舞い降りているところだった。

 その中から、一際大きな火種が撥ねて、


 雫のように、地竜の背を打った。



 ボ、


 ボォ、



 ゴォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオ!!



 明るい。

 まるで白昼の陽光が射したように、

 そう形容できるくらい激しい炎が、


 Z型を呑み、爆発的に瞬いた。


「な、」


 何が、起こっているのか。

 若輩ながら、既にランク7を踏んでいる彼女は、

 混乱の中でも即座に仮の答えを出した。


「イリーガル……!」


 ill(イリーガル)モンスターは、映像記録に残りにくい傾向にある。配信中に出て来るなんて、普通は考えられない。


 しかし、何にでも例外はある。

 2年前、日魅在進が全国的に名を広げたあの日。

 あの時も、実在すると思われていなかったイリーガルが、カメラに収められたのだから。


 彼女は吶喊とっかんを中断。

 反転し、攻撃に備えながらラポルトに戻ろうとして、


 地を蹴った

 その時

 身体中から

 マッチを擦ったような音がした。


「……!?」


 一瞬。

 ただの一瞬で、

 彼女は烈火に包まれた。

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