70.初めまして、よろしくね(半ギレ) part4
「次は、じゃあ、Q行きますか?」
「いやあ、どうだろう……。ある意味一番難しくないか?」
Qポジションは万能型である。
他の5つのポジションの内、その時その時で足りてない部分を補う役。
KやBの護衛、Pと共に高機動遊撃、RやNと前線維持………等々。正直Kの当てが他にあるなら、詠訵にはこっちをやって欲しかったまである。
「本来なら不本意なのだけれど、あなた達の能力に疑問がある以上、他に任せると不安が残るし……私がやるわ。他に無いと思う」
一言多いトロワ先輩が、入ってくれるらしい。
確かに一挙手一投足が、洗練された強者のそれなので、この人がかなりの実力者だと分かる。これについては、特に異論は出なかった。
「それで、Rは既にニークト先輩が名乗りを上げていますが、他に希望者はいらっしゃいませんか?」
これも、バランスで言ったら自然な流れだ。
不自然なのは、最前で敵の攻撃を耐えるか、Kポジションの最後の盾として立つという、最も危険で大変、そして「使われる」イメージに近いと言われるロールに、ニークト先輩が積極的に就きに行ってる事だけ。俺はまだこの人のキャラを、ちゃんと分かってないのかもしれない。
「Bは…逆に候補が多いんですよね…」
「俺以外全員入れるっぽいからなあ…」
「Kが治療役も兼任できる為に、Bの自由度が高いのが、見世物女がKポジションに立つ事で生まれる、数少ないメリットだ。この辺りは幾らでも組み換えが利く。まあQである方がより望ましいが」
さっきからニークト先輩が、凄い参考になる言葉を落としてくれる。決闘した時にも思ったけど、根っこは堅実なタイプなのかもしれない。
「一個いい?」
手を挙げたのは六本木さん。
「ムー子はBで、あーしがP。この並びガチガチ鉄板だから、とりまオススメ」
「と、言うのは?」
「凡骨居眠りは中・後衛が本領で、且つ頭空っぽ女の能力と相性が良い。模擬戦でも複数回見た」
「ハイハイ、シャシャった説明あざ~。うざ~」
「僕はねー…、遠くなる程ぉー、鬼つよー、ってアピっとくー……」
斥候・攪乱型のPポジション、ってことは、俺みたいに跳び回る戦闘スタイルか?でも遠距離能力と相性が良いって、どういう……?
「ちなむと、私もBが良いなあ。なんてゆーか、身体能力でステゴロするの、得意じゃないんだよね~」
「となると、六本木さんとこもりちゃんが、互換できるBポジションになって——」
「………え、マジで俺がN!?」
Rが盾で、Nが剣だ。
前衛の中で、チームの主要攻撃を担うポジションである。
「残念ながら、穴埋めしていくと、これが妥当ね。大丈夫、あなたの攻撃力不足は、私が完全に補うわ。せいぜい第二のPポジションとして、安心して案山子にでもなっていなさい?」
「は、はあ………」
「ふん、愚劣な脳筋女が。このパーティーの穴はそこではない!」
「なんですって?」
だーかーらー!
少しは切っ先を削って、切れ味を加減して頂けませんか!?
「KとQの練度不足!これが喫緊の課題だ!」
「“ピッキングの課題”ッス!」
「き!っ!き!ん!だ八守ィ!」
「それッス!……つまりどういう事ッスか?」
「そこの見世物女は、戦場の中での補佐役には慣れていても、上に立って命令する手腕は未熟そのもの!脳筋女に至っては問題外だ!こいつは今の時点で放っておけば、黙って誰よりも前のめりに切り込んで行くぞ!実力はともかく性格が向いていない!」
トロワ先輩の戦闘スタイルはよく知らないけど、そんな感じの人なの?結構落ち着いてるように見えるけど……いや、静かなのは外側だけで、結構苛烈な面も見えてたわ。
「つまり?文句を言うだけ言って、それだけ?あなた何がしたいの?」
「改めろと言っている!特にお前だ!戦闘中でも全体を見えるように精神構造を改善しておけ!正直なところ、もう少し連携行動がマシだったら、ジェットチビにQを任せていた!お前はそれくらいには酷い!」
評価されてんのか、けなしの材料に使われてんのか、よく分からないのだが、一応ありがとう?それはそれとして「チビ」呼びは許さない。
まあ仮にQポジションをお願いされても、自信が無さ過ぎて辞退してたと思うけど。
「あなたが私にどうこう言える立場なの?私より弱いあなたが?」
「ふ、二人とも、ちょっと…」
「その『強い奴に意思決定権丸投げすればいいだろう』っていうノータリンな思想が、パーティーとしてやっていく上で危険だと言ってるんだろうが!あとお前如きがオレサマに勝ると断言できる神経も理解できん!」
「負けないわよ、それとも——」
——試してみる?
まあたそういう流れですかー?
飽きないですね。もういいです。とっととやっちゃってください。
「受けて立つッス!ニークト様!やっちゃうッス!」
先生が念の為申請さえしていれば、模擬戦場とか使えたりするから、それで——
「やらん」
——んえ?
「お前とは、やらん」
ニークト先輩?
そこで急に白けないでください。怖いです。
「ブッハア!!トンズラぁ?マ!?」
六本木さんがゲラゲラ笑い出す。
「こぉいつ逃げてんじゃーん!ぎってるのはガワだけ?肝ひょっろ!マジないわー!」
「見なさい。これがニークトという男よ。同格か格下相手にしか、勝負を挑めない卑怯者」
「う、うるさいッス!ニークト様にはお考えがあるッス!……で、ですよね?」
トロワ先輩もここぞとばかりにせせら笑い、八守君が必死にフォローしようとするも、ニークト先輩は黙りこくってしまう。
「けれど私を侮辱したからには、剣で語る場に、あなたも上ってもらうわよ」
「ふん、自分より下に居る者を見下して何が悪い。『上から目線』だと?くだらん同調圧力だ。試さずとも、オレサマがお前より優れているのは分かり切っている。それだけだ。逃げてなどいない」
「であるなら是非とも、『脳味噌筋肉』な私にも分かるように、はっきりとした結果で語って貰えないかしら?それとも、大口を叩いておいて、惨敗するのが怖い?」
「怖くはない!オレサマは無駄に好戦的じゃないだけだ!ジェットチビとの決闘も、本当ならやるつもりなどなかった!」
「らしいッス!」
いや、先輩。
流石に「無駄に好戦的じゃない」は無理あるって。
先輩が穏便なら、世界は平和主義者だらけだって。
「ナイスアイディア!今日この後どうするか迷ってたんだが、それで行くか!」
「何も良くありませんシャン先生!喧嘩は仲裁して下さい!ボードは弁償して下さい!」
突然出入口から聞こえた声に、俺達は一斉に振り返る。
シャン先生と、うちのクラスの担任、星宿三先生。二人が入って来るところだった。
「ルカイオス!トロワ!お前らで模擬戦しろ!その戦闘について全員にレポートを書かせる!無難に戦闘能力評価でもいいが、何かしらの発見があると尚ベターだ!」
「シャン先生~?生徒同士の私闘を後押ししないで下さ~い……」
星宿先生が額を押さえて、苦々しく嘆息するのも聞かず、シャン先生が勝手に話を進めてしまう。
「当然だが、やってる本人にも書かせるからな?ボケッとしてるヤツに、点はやれんぞ?」
主にニークト先輩による、ひとしきりの抗弁が続いたが、結局断れないようだった。
どっちが強いか決着を付けさせた方が、この後がスムーズになるって考えなんだろうが……
溝が深まる事にならないか、心配だ。
あと、授業内容って、こんなライブ感で決めていいものなの?
「あー、それと、ノリドの奴が、どこにもいねえように見えるんだが?」
「「「「「「「体調不良で早退(しました)(ッス)(、萎えー…)」」」」」」」
「…おう、分かった」
「い、良いのかな?」
良いんだ詠訵。
どうせ誰一人として、本気で言ってないから。




