70.初めまして、よろしくね(半ギレ) part2
「で、どーすんの、これ?これでやってくって、リアルガチ?ムリじゃね?フツーに」
六本木さんが、誰もが思ってるけど、「言うのはやめとくか」となっていた事を、ズバズバ口に出してしまう。
「そ、そんな事ないと思いますよ?これからお互いを知って、一緒に潜行したりすれば、息を合わせたりとか出来ますって。やってみたら、意外とすんなりだったりしますよ!」
「そう?ここに居る全員に、協調性という物が、欠如しているように見えるけれど」
「今は互いの信頼がゼロなんだから、当然だと思います。でも、まずはやってみましょう?それで、具体的にどこがどう困るのかとか、分かりますし。逆にそれぞれ、何が得意なのか、そういう良い所だって、これから一杯見えてきますよ」
「ヨミっちゃんにさんせー。難しそうだからやらない、って、ダサくない?」
「ぼ、僕も詠訵には賛成し」「あなた?」
そこでトロワ先輩が、信じられない物を相手にしたような、呆れた半目で俺を見た。
「弱い人がしゃべらないでくれる?時間の無駄だから」
……はい、ごめんなさい。
俺はここでもこういう扱いですか。
「トロワ先輩それは——」
「ハッハッハッ!弱い奴等同士が『弱い』『弱い』とピーチク鳴き合うのは、随分滑稽だな!」
「何ですって?」
「このオレサマの前には、お前達全員、等しく下民だ!無きに等しい差を声高に叫ぶより、オレサマを讃えた方が、遥かに有意義で真理に近い!」
「詠訵さん?自分が最弱に足元を掬われた事実すら忘れた、格下狩りしか出来ない裸の王様が、こういう事を言うのよ?『協調』なんて、本当に可能だと思う?」
「ニークト先輩~……。火種を撒かないでください…」
「先輩、俺をかばってくれたのはありがたいんですが、もうちょっとこちらに歩調を合わせて頂けると」
「誰もお前を庇ってなどいない!」
でも本当にありがとうございました。先輩のその傲岸不遜が、清涼剤になりつつあります。まあ喧嘩のバーゲンセールはやめて欲しいんですが。
「さっきから団結がどうだとか協調がこうだとか、ほざいているようだがな!オレサマが一発で解決する最高の教えを授けてやる!」
うーん、あんま期待できないけど、一応聞こうか。
「正式にオレサマの下に付け!全員でオレサマを崇め奉れば、オレサマの下で立派な仲間となる!どうだ簡単だろう!」
「イヨッ!ニークト様天才ッス!“作詞”ッス!」
「イントネーション的に間違ってるぞ八守ィ!“策士”だ!」
「それッス!断然エースッス!」
ドーン!
腕を組みながらそのデカ腹を突き出す様に、なんかそういう擬音が聞こえてしまった。
せんぱーい…。考えて物を言ってください。
それが出来る面子だったら、そもそも協調性は振り切れてます…。
「冗談キツいぜ。俺は降りる。やってらんねえ」
あ、乗研さんが痺れを切らし始めた。
パッと見の印象通り、一番早く辛抱たまらなくなったか。
「『降りる』?少なくとも貴方には、その自由は無い筈だけれど」
「知らねえな。俺がここを追い出されようと、俺の勝手だ」
「転校するでもなく、本気で退学処分を受ける気?強力な潜行者であるのに、国家への反抗的な態度を見せる要注意人物として、公安あたりにマークされるかもしれないわね?あなたが癇癪を起して暴れれば、速やかに捕縛されるの。何らかの職についても、周囲からは爆弾みたいな扱いを受ける。実質的な自由なんて無くなるけれど、そういう生活がお望みなら、私は止めないわ」
「俺なんかに張りつく暇人が居るかよ。ビビられてるのも今と変わらねえ。くだらねえな。アバヨ。あの先公には、俺は『気分が悪いから早退した』って言っとけ」
「あ、ちょっと!乗研先輩!」
今日は誰一人、詠訵の静止を聞いてくれない。
背を向けながら、手だけ振った彼は、それ以上は黙って出て行ってしまった。
「トロワ先輩も、あまりお好みには合わないタイプの相手なのは分かりますけど、逆撫でするような事言わないようにして頂けると、助かります」
「事実を言ったまでね。彼が勝手に腹を立てただけでしょう?」
「正しい事でも、言わない方が良い事だってあります。恐縮なんですけど、今はみんなで、ゆっくりと分かり合う事から始めませんか?どんなに辛抱強い人でも、何でもかんでも口に出されちゃったら、どうしても好い気はしないと思います。
それに、今まで触れてこなかった人から意見を聞くのも、新しい角度の進歩になると思うんです。トロワ先輩にとっても、悪い事だけじゃない筈です」
「考えておくわ」
「お願いします…。乗研先輩が行っちゃったのは仕方ないので、今残ってるみんなで、暫定として話を進めましょう。バラバラな状態よりも、乗研先輩の事を、力を合わせて引き戻しやすくなります」
う、うーむ。
所属したパーティーの数が、恐らく圧倒的に最多な詠訵が、色々と強すぎる。というか逆に、集団行動に向いてない人ばっかりなのか。詠訵と訅和さん以外、誰が問題児枠でも納得出来てしまう。
………カンナ、その目をやめてくれ。あーあー、言いたい事は分かってる。鏡は要らん。あと机の上で仰向けにゴロゴロするのやめろ。ツッコミどころでしかないし、行儀悪いし、なんか可愛く見えてしまうから、俺は今大変困ってる。




