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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第四章:途方もない先を目指しての一歩は、やたらと重いし火傷しがち

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69.どエラい大物が来た

 パンチャ・シャン。

 日本で最も有名なディーパーの一人。

 

 過去の人になりつつあるが、しかしそこは元“チャンピオン”。簡単に忘れ去られたりはしない。

 特に彼の場合、生まれは不明とされているものの、本人の強い希望があって、丹本国籍を取得しており、丹本人として生きる事を強く宣言している。

「偶々丹本の外で生まれた丹本人」とも呼ばれ、親しまれていたりするのだ。


 肌の色や体格に関わらず、彼は丹本人なのである。

 少なくとも、本人はこの国を気に入っているらしい。


 世界最高の10人。

 チャンピオンに匹敵する一人が、自分から丹本にくみしに来た。こちらとしては大歓迎だし、本来の故国が分からない為、「正当な」文句を付けられる勢力もいない。


 現役時代は凄まじい強さだったらしいが、政治方面には、決して関わらなかったらしい。

 当時、あと10年は活躍すると目されていたが、とあるダンジョンで後遺症を、未解明の「呪い」を受けてしまい、第一線を退いた。

 以降、後進の育成の為、国内最高峰の教育機関、明胤学園の招待枠教師に、という話だったのだが、


「シャン先生。どういった風の吹き回しでしょうか?貴方自らが教鞭を取るなど」


 ニークトが疑問を呈した通り、彼は明胤に来てから、指導らしい指導を一切していない、との噂が立っていた。

 明胤生からの否定の声も無く、公然の秘密扱いされている。


「てっきりろくを食むだけの、名ばかり名誉職に成り下がったのかと」


 今の鋭い声は、凛々しい銀髪二年生からである。

 穏やかながらも、侮蔑をこれでもかと籠めた声音で、眼も僅かに開き、刺すような眼光をる。

 

 先輩方、よく強気に出れますね?

 この人、今でも相当強いですよ?

 何ならニークト先輩、貴方この前瞬殺されてましたよね?


「こいつは耳がいてえぜ!参った参った!」


 対するシャン先生は、首筋をペシペシ叩きながら、言葉に反して気にした様子を見せない。


 年齢は、今年で50とかだっけ。

 スキンヘッドに、サングラス、浅黒い肌、岩石のような肉体、黒くギチギチになったタンクトップ、軍人が来てそうな分厚いズボン。

 わぁ。俺が理想とする、「強い男」像そのまんまだ。身長と筋肉分けて欲しい。

 箇条書きなら乗研と共通する部分も多い。けど、違う。

 腕に閉じ込められた力は、単なる“暴”だけでなく、より重々しい何かだと分かる。


 そこにただ立っているだけで、それを分からせる。


「いやなあ!俺も、流石にそろそろ、何かやらなきゃ示しがつかねえ、そう思い始めてなあ!」


 この人、場を和ませてるつもりかな?

 だとしたら、西部劇の決闘三秒前みたいになってる、教室の雰囲気を読んで欲しい。


「で、何かやる事ねえかって聞いたらよ。特指担当になりたがる奴がいねえと来た。しかも、『こいつだけはそっちで預かってくれ』っていう要請以外、どの生徒を呼ぶかは、ある程度自由に決めて良いと来たもんだ」


 「だから好きに選ばせて貰ったぜ」、

 いや「貰ったぜ」じゃないでしょ!?

 強権濫用!

 国家公務員(?)の横暴を許すな!


「は?センセー、それじゃ、聞きたいんだけどぉ」


 これは金髪ギャルの方だ。

 この教室は命知らずばっかりか!?

(((鏡要ります?)))

 

「あーしらの中に、フツーにここにぶち込まれたのと、センセーが欲しかったのと、両方居るって事でおけ?」

「そうだな。正確に言えば、俺手ずから指導したいと思った奴、今選択してるクラスでは、活かし切れていないと感じた奴、それと頼まれて引き取った奴、この三種類だ」

「それぞれ誰と誰と誰?あーし、付き合う相手は選びたいんだよね。他から押し付けられた激ヤバ不適合者とか、ノーサンキューって言うか?関わり合いにならないよう、シャットアウトさせて頂きまーす」

「そーそー…、怖い人とはー…、目を合わせなぃー…、常識ぃー…」


 黒髪ダウナーが援護に加わる。

 テンポがゆったりした人らしい。


「それは」

「うんうん、それは?」

「公開しない」

「はあ?」

「それを詮索するのも許さん。今後一切、俺はお前達全員を、俺の教え子として扱う。俺は一人一人を見て、そいつに最適な、必要な指導をする。個別に何か聞きに来た場合は、早い者勝ちだ。ただ、他の教室よりは、お前達を優先する事は約束する」

「マジで納得いかないんですけど!?だったら、あーしとムー子は二人で一つの勢力って事で——」

「それも認めねえ。お前達を一つのチームにするのが、この特指の、いや、シャン教室の最終目標だ。参加して、絆を深めて貰うぜ?」

「は、ぁぁぁあああ!?デブとクズとローマンが居る教室で、みんな仲良くぅう!?出来るわけないっしょ!」


 俺はともかく、怖い人達本人の前でよく言えるね?


「おい言われているぞ『デブ』」

「その場合テメエが『クズ』になるが、それでいいな?」

「訂正する。言われているぞ『デブトクズ』」

「無理があるだろうが…!」


 そっちはそっちで、悪口の発祥そっちのけでヒートアップしないで!?戦線が拡大しちゃったら、もう収拾つかなくなるから!?


「よーし聞け、お前ら!」


 立ち上がってた金髪ちゃんも、また煮立ってきていた不良ズも、一声で沈静化。

 先生は黒マジックを取り、でっかいホワイトボードに文字を書いていく。

 まずは中ほどに、「10月」、そして「深級遠征」と書かれる。


「毎年この辺りで、高等部全体による甲都遠征が催される。まあ、2、3年生連中としては、もう慣れたものかもしれねえが」


 この学園だと、修学旅行も潜行に絡めてくる。

 行き先としては王道な甲都。

 だが明胤の場合、そこに存在する由緒正しい深級、“御怨恩オン・ノン・アイオン”に、教師を始めとした高ランクディーパー同伴で、潜ってみるという催しになるのだ。


 期間は2週間程。

 寺社仏閣を見たりして、丹本魔学発達の歴史を学んだりする時間もある。だから実際には、掛けられる時間はもっと少ない。

 

「こいつは、まあ安全第一ではあるが、競争みたいな面も持つ。此処で、最深到達(パーティー)となることが、お前らに求める最重要課題だ」

「ええ……??」


 それって確か、パーティー構成人数に上限とか有りませんでしたよね?この8人ぽっちで、深級に挑むとおっしゃいますか?

 は、ハードルががが………。いや、カンナの要求値的には、そんなもんなのか?


「先生!しかしそれは——」

「ルカイオス、最後まで聞け。続けるぞ。その上で出来ればやりたい事として、12月初旬にある、“ギャンバー”の全国大会高校生以下の部、及び1月の世界大会に出場し、優勝する事」

「ほわああ……?」


 先生は更に右側に、「12月」「全国」、その右に「1月」「世界」と書き足す。


「おいおい、良いのかよ?他の連中はともかく、俺を今年中に卒業させねえと、マズいんじゃあねえのか?推薦が有り得ねえ俺じゃあ、そんな時期まで潜ってるって事は、大学受験も就活も、捨てる事になるだろうがよ?」

「お前の進路の為にも良い事尽くめだろうが、ノリド。実績があれば単位をやれるし、卒業を許せる。今言ったイベントで爪痕を残しゃあ、働き口だって遥かに探しやすくなるぜ?お前が本気で進学を考えるんなら、そんときゃ聞いてやるよ。個別に指導してやる」

「テメエの目論見が上手くいけばな?でもそうはならねえだろ?こいつらと仲良しこよしやってもよおお?全国初戦敗退くらいが目に見えてるぜえ?そんで俺は落単してモラトリアム終了、からの退学、テメエの面目が丸潰れ。出来の悪い頭にだって、そこまで見えて来てるぜええ?」

「先生、私もそこの弱体者と同意見です」

 

 銀髪さん?あの、煽りを入れる必要は?


「向上心の無い廃棄物の皆さんを介助して勝てる程、深級も全国の壁も甘くはありません。プランをご再考すべきかと」

「なんだあ?トロワとか言ったか女ァ!今俺の事なんつったあ!?」

「耳も不自由だったのかしら?『向上心の無い』、『ゴミと同等の』、『弱体者』、そう言ったの」


 SNS持たせたらコンマ2秒で炎上しそうな人達だ。

 何故怒られたらより過激に言い返すのか。一昔前の漫画に出て来る、壁とかにラクガキしてあるタイプの学校でしたっけココ?


「で、直近で挑戦したいのが、こいつだ」


 先生?仲裁を諦めて、普通に進めないでくれません?この人達超怖いです。

 俺の心からの、そして心内からは出せなかった叫びに、彼が応える筈もなく、左のスペースに「7月」「校内」と書いている。


「7月中旬、大会の前の前哨戦、これまでの成果を試す場として、校内で“ギャンバー”ルールでのトーナメント大会が開催される」


 ドン!先生はその部分に平手を叩きつけ、強調しながら力強く命令する。


「お前らはそれまでに、このクラスをチームとして成立させ、まともに戦えるようにし、校内最強の座を目指せ!」


 「いいな!?」、

 お腹から全力で声を出してくれたところ、恐縮なのですが、


「シャン先生」

「なんだカミザあ!?」

「ホワイトボードが……」

「何ィ?ああっ!?」

 

 幾らディーパーが通う学園の備品とは言え、元世界最高峰の膂力に耐えられるわけもなく。

 彼が打った場所から、放射状の亀裂が入ってしまっていた。


「やっちまったあ~……、まあたミツに怒られちまう……」


 うなだれていた先生は、すっと頭を上げると、


「俺は報告に行くから、その間まずはオリエンテーション?アイスブレイキング?そういうのをやっとけ」

「はい?いや、ちょっと」

「どの道今日は、お前らだけで進めさせるつもりだった。歩み寄れ。お前らが何と言おうと、ここに居る8人でチームだ。お前らが考えるやり方で、団結してみせろ。それを見て後から修正を加えてやる。以上!」

「あ待っ…!……行っちゃった……」


 詠訵が呼び止めようとするより早く、彼は出口を潜っていた。

 あの体格でこんなに素早く動けるのは、流石は元チャンピオン、なのだが、そのスキルを逃亡によって見せて欲しくはなかった。


「え、えーと……」


 俺と詠訵は顔を見合わせ、それから教室内を振り返った。


「取り敢えず、皆さん、自己紹介でも、します?」


 詠訵の問いに、誰も答えない。

 縄張り争いをする猛獣みたいに、睨みを利かせ合っていた。


 「アイスブレイキング」?

 氷河期なんですが。

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