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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第四章:途方もない先を目指しての一歩は、やたらと重いし火傷しがち

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68.顔合わせ、したくねえー……… part2

 俺は恐る恐る中を覗き、段々になっている床に置かれた席に、まばらに座っている数人をあらためる。


 一番奥の端っこには、ギャルが二人。

 染めた金髪左サイドテールに、化粧っけの強い褐色肌。着崩して胸元を開けたシャツと、短過ぎるスカート。ブレザーは来ておらず、カーディガンが腰に巻かれている。

 もう一人は黒髪だ。肩上辺りの長さで横に広がり、毛先にカールが掛かっている。化粧の有無は、ここからだと確認できない。ダボダボのパーカーを羽織り、横長テーブルの上に伸びた上半身をうつ伏せて、眠たげな眼をこすりながら俺達に向けた。

 二人とも一年らしい。


 最前列の出口に近い席には、背筋が真っ直ぐで物静かに、模範的優等生みたいな姿勢で座る女子。

 編み上げられ、大きなお団子形にまとめられた銀髪。鼻筋が通っている、外国人モデルみたいなタイプの美人。俺達が派手に入って来ても、お構いなしと言うように、その目蓋を開けようともしない。寝てるわけではないのは、彼女が発する「近づくな」オーラが教えてくれた。

 この人は二年生だ。

 

 そして最後の一人は「げげッ!」


「あん?」


 俺の声につられて視線を寄越したそいつは、忘れもしない、ルームメイトの乗研のりどさんだ。上級生なのは知ってるが、何年なのかも何歳なのかも知らない。制服を着てる所を、見たことが無いからだ。教室のド真ん中で、股をかっぴらきながら両足を台に乗せ、椅子を二つ並べたその背もたれに、両腕を乗せている。顎を動かしてるのは、ガムでも噛んでいるんだろう。


「お前…」


 彼が俺に焦点を合わせようと、サングラス越しに目をすがめた時、


「わっ!?なんスか!?」

「おいお前!?」


 俺は咄嗟にニークトを壁にしていた。


「なんだ一体!」

「いいえ何でもありませんよ。さあこのまま席まで進んでください」

「オレサマを盾として使ってないか!?」

「まさかまさか。デカい人にはデカい人をぶつけるだけですよ」

「矢張り使ってるじゃないか!?不敬だぞ!」

「出て行くッス!ここは自分の特等席ッス!」

「そんな事言わずにさ…っていうか君もご主人を乗り物みたいに言ってない?」


 乗研さんとは、同室となってしばらく経つが、まともな交流が無い。

 基本は帰って来ないし、偶に部屋に来ても会話は発生せず、時節混じる舌打ちで、空気が重くなるだけ。いない方が心安まるまである。


「い、意外と怖がりなんだねえ?先輩に喧嘩売ったとか言ってたから、もっと誰にでも嚙みつく狂犬みたいなのを想像してたけど」

「いやあれは俺が売ったんじゃないですから…!俺は買った側ですから…!」

「売買があった事自体は否定しないんだ…」


 俺を相手にしているのも、時間の無駄だと判断したらしいニークトは、ズカズカと教室の中央に、よりにもよって乗研に接近していく。

 

「……八守君?」

「……なんスか?」

「君のご主人、何やってんの?」

「ははーん、怖気づいたんスね「うん」はやっ!?食い気味で肯定しないでくださいッス!プライドとか無いんスか!?」


 俺は普通にヤンキーには近づきたくなかったから、ニークトの背中から離脱した。

 彼はと言うと、乗研のすぐ横に立ち、



「邪魔だ。オレサマの席から退け、下郎」



 宣戦布告!

 開戦である!

 いや喧嘩っぱや過ぎんだろ!?


「あ、ぁあーん…?」


 頭が後ろ倒れのまま、ゆるりと首だけ回して、ニークトと目を合わせる乗研。

 俺があれをやられたら、その時点で平謝りだ。


「俺が、座ってんだけど?見て分かれ?」


 それはそう。


「知るか。オレサマはこの学校の主役で、そのままつまり、この教室での主役だ。オレサマより目立つ場所で、オレサマよりデカい顔をするな」


 お前は何を言ってるんだ。


「親がどれだけえれえのか知らねえけどよ?ここはテメエんじゃねんだ。ナメた事抜かしてっと痛い目見るぜ?坊っ、ちゃん?」


 その通りではあるな。


「痛い目を見るのはお前だけだろう?口を慎み行動を改めろ。オレサマとお前では、どちらが優先されるべきか、赤子にでも分かるぞ?下等生物」


 いやその言い分はおかしい。


「優先だあ?お前の方が、『デカい顔』だからか?そんなもん、食っちゃ寝してりゃあ簡単に、ぶくぶくいって膨らむだろうが。物を知らねえガキだな?俺がどかなきゃいけない理由を示せよ豚ァ」


 言いたい事は分かる。


「オレサマという存在が証憑しょうひょうだ。動かぬ物的・精神的証拠である。ほら、その少ない脳ミソでも、理解できるように言ってやったぞ?分かったらどけ、下賤()が。だいたいなんだその甘ったるい臭いは?鼻が曲がりそうになる」


 あれおかしいな。

 さっきから貴族より不良の方が、“言論”できてる気がする。

 っていうか、いつも横から何か言ってる八守君は……ああっ!ニークトの後ろにぴったり付いてプルプル震えてる!やっぱりお前も怖いんじゃねえか!


「テメエ、いい加減にしろよ?やんのか?」

「『やる』とは?学を軽んじる者は大事な部分をよく省く。文章として成立させた上で、オレサマに頼み込んだらどうだ?なにをやりたいんだ?言ってみろ」

「上等だ。いいか?お前を——」



「ノリド、ルカイオス、そこまでだぜ?」



 背中に爆発でも食らったかと思う程に強く濃密な気配!

 俺は反射的になけなしの魔力噴射をしながら詠訵を庇う位置取りについて背後を振り返る!

 他の面々も各々魔具を抜くか、入り口から距離を取って構えていた。

 この場に居る全員の戦闘態勢を前に、屈みながら入室したそいつは、何食わぬ顔で教壇に向かう。


「ルカイオス。早い者勝ちだ。一つ後ろの席へ行け」


 驚くべき事に、ニークトが大人しく引き下がった。

 八守君を背に庇いながら、後ろを向く事なく、一段高い席へ歩む。

 

「ノリド、机から足を下ろせ」


 乗研さんも同じだ。お世辞にも整ってるとは言えないが、話を聞く姿勢にはなっていた。


「カミザ、ドウワ、ヨミチ、お前らは席に着け」


 自分を対象にされて、初めて分かる。

 有無を言わさぬ、言葉の姿をした暴圧ぼうあつ

 逆らえば、何も出来ないままに、潰される。


 カンナとの初対面以来、久しぶりだった。

 有り得ない程の、格の違いに鷲掴まれたのは。


 俺達は声も出せず、ただ従った。


 三列になっている、二人がけの長机。

 俺は最前列の、真ん中の机、正面にあるホワイトボードから、その男から見て、左の席に掛ける。

 詠訵は俺と通路を挟んで隣、端の机の右側だ。同じ机の隣に、訅和さんが座った。


「それとカミザ」

「は、はい!」

 何でしょうかっ!?

「気持ちは分かるから、今回は見逃すが、ダンジョン外で魔力を使うな。

 『急迫不正の侵害の発生や緊急避難等、

  違法性阻却事由に該当すると認められる場合』

 『警察官や医師といった、別途特別法に規定された資格者である場合』

 『特定許諾区域内であった場合』等を除き、

 丹本国内での魔力の使用は原則禁じられている。

 “特異窟及び潜行行為に関する法”、基礎の基礎だ」

「はい!すいません!」

 だったら急に戦場みたいな空気をかもさないでください!とは言えなかった。



「あー、と、カミザ、シュロウ、ドウワ、トロワ、ニークト、ノリド、ヨミチ、ロッポンギ……と、一応ヤガミ「ふぇっ!?」。よし、全員居るな?」


 その男を、見た事がある。

 ニークトとの決闘で、最後に現れた巨漢。

 だが、

 それ以前にも、

 どこかで、


(((流石)))


 カンナが、俺の右横に立っている。


(((ススムくん、良い“引き”です。これは、けいずいと言えるでしょう)))

 

 声が若干、弾んでいる気がする。


「ようこそ、特別指導クラスに選ばれた、哀れな、そしてラッキーな、え抜き共」

 

 巨人は俺達一人ずつと目を合わせていき、

 

 最後に身を乗り出して、


 堂々とその名を号した。


「俺は、パンチャ。今日からお前達の指導担当となった、パンチャ・シャンだ」


 「よろしくな」、

 ()()()と、

 体重を掛けられた教卓がうめいた。

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