68.顔合わせ、したくねえー……… part1
5月7日。
ゴールデンウィーク明け。
休みの間、何度も“梳削墓”に潜って、単独でスケルトン共を相手にしていた。
何をどう改善したらいいのか分からない以上、次のコラボの時まで、出来る事だけでもガムシャラにやるしかない、と思った結果である。
その甲斐あって、このダンジョンには慣れた。
けど、俺の中の変えなければいけない何かは、そのままな気もしてしまう。
じゃあどうすればいいのか?それを探してる最中だって言ってんだろ。
という暗中模索の連休が終わったので、
今日から、午後授業が選択式になる。
とは言っても、一番優先されるのが潜行やダンジョン関連なこの学園で、科目ごとに分けてしまうと、人気に大きな偏りが生まれるのが、想像に難くない。
じゃ、どうするのかと言えば、大学のやり方に近い感じで、教師それぞれが教室を持ち、それを選択する方式となる。
彼らは、潜行やダンジョンに関するエキスパート、という前提の上に、得意とする学問分野を積み重ねている。
ダンジョンに対するアプローチも千差万別。その中で、自身の進路に最も役立つ知見を持つ人は誰か、それを判断し、選択する。そういうコンセプトだ。
だから俺も、編入前から、何なら合格する前から、教師陣の情報を、可能な限り物色して、「誰にしようかな~」とかニマニマしてたんだ。
だが、
………えー、もうパターン化してるから、分かってるだろうけど、
目論見が外れました!
“特別指導クラス”、縮めて“特指”に、強制入室である。
一 択 って!!!
担任にも掛け合ってみたが、けんもほろろに追い返されました。
何でも、問題児が集められる、矯正用のクラスであるとか。
いやイマドキそんなシステムがあるか!?
どんな大手企業も実は持ってると言う、都市伝説上の地獄、「追い出し部屋」かよ!?実在したとはなあ!?
「実力主義」が極まり過ぎだろ!?
それに俺この前、まあズル有りとは言え、ランク7に勝ってるんだけど!?一定の強さを示せたと思うし、あれから騒動も起こしてないし、「問題児」扱いの要素が………ローマンしか思いつかないです。じゃあそれだ。ふざけ。
「ハァァァー………」
もしかしたら、俺一人だけ、隔離されてるのかもしれない。その可能性に至った時、気分は更なるドン底へ。
せめて道連れがいますように、でも出来るだけ接しやすい人でありますようにと、南西部、第15号棟を訪れながら祈る。
なんか建物の外見も、古くも新しくもなく、平世初期くらいに建てられたみたいな、中途半端な印象だ。歴史も新しさもない、パッとしない感じ。
やあバッタくん。まだまだ元気だね。
きみ、俺と一緒に来ないかい?
心細くて仕方ないよ。
とか馬鹿言ってたら、
「あ」「えっ」
指定された第一教室の扉の前で、詠訵とバッタリ出くわしてしまった。
なんで?
「よ、よう……」
「う、うん……」
き、気まずい………。
あれからWIRE上でのやり取りくらいで、まともに話してない。
教室は同じだから、顔は合わせるのだが、話しかけたりは出来なかった。
クラスの連中は、「やっぱり見捨てられたのか」と、ほくそ笑んでいるようだったが。
「「あの」」
「「あ、どうぞ」」
べ、ベター…な事をやってしまった。
それはともかく、ここは俺から、
「あのさ、詠訵。本当にごめんな。俺、色々、合わせられるよう、頑張るから」
「こ、こちらこそ、ちょっと、私個人の問題で、変な感じにしちゃって……」
………
沈黙。
「そ、そう言えば、詠訵は、何でここに?“特指”以外に、ここの棟使ってるクラスがあったのか?だったらこの教室は——」
「え、あ、違うよ。私、何故か特指になっちゃって」
「え?詠訵が?」
おかしいな。
俺はともかく、詠訵が問題児扱いされる理由が分からない。
なんかの手違いか?
「カミザ君も、特指?」
「たぶん、そうらしいけど…」
「良かったあ…。こもりちゃんも居るらしいし、そこにカミザ君も一緒なら、怖くないね!」
詠訵さあん?そういうのですよお?そういうのが俺を惑わせるんです。
大丈夫、分かってる。
オレ、ヨミチ、トモダチ、ナカマ。
「ま、まあ、改めて、よろしくな…!」
「うん!ウフフフ……」
「あははは……」
「お前らそこで何を睦み合ってるんだ」
「「うわあっ!?」」
びっくりした!
いつの間にか、見覚えしかないふくふくの2年生が、真横に居た。
「うっわ」
「なんだその顔は!オレサマがうんざりするのは当然だが、お前がそうなるのはおかしいだろ!オレサマの顔を見れた事に、むしろ無上の喜びを抱け!」
「ワースゴーイ」
「心が籠ってなあい!」
マジか。
ニークトだ。
こいつも問題児扱いされたのか。
「ああ…」
「おい、どうして今、納得したような顔をした?不思議に思うべきだろう?『どうして貴方程の御方が特指に?』と」
「心当たりしかないですが?この一ヶ月、俺以上に悪評が流れて来たの、先輩くらいですよ?」
「オレサマは当然の振る舞いをしているだけだ!何故目の敵にされるか理解に苦しむ!」
「そういうところじゃないですかね」
どうやら昨年度までは、普通に選択クラスの一つに居たと言う。嫌われてたのは変わらないらしいが。
じゃあその時の素行が酷過ぎたんじゃない?
食堂を占拠して大量の注文をテーブルに並べてるとか、上級生も下級生も問わずに怒鳴り散らかすとか、授業の実習に非協力的で、頻繫にトラブルを起こして決闘騒ぎに発展し、しかも格下狩りしかやらないとか、耳に入るだけでこれである。
俺が言えた事じゃないのかもしれないが、もう少し身の振り方を改善した方が……
と、その背中、いや腹かな?その後ろから、ひょいと小さな顔が出た。
確か、そう、八守君だ。
「や、やあ、こんにちは」
「………」
そっぽを向かれてしまった。互いに第一印象最悪だし、そりゃそうとしか言えない。
「き、君の親分とは険悪だけど「おい『親分』とはオレサマの事か?」出来れば仲良くしたいなー、なんて。ほら、俺と一緒に、三高から『高身長』を除外する運動、“非高民権運動”に参加しないか?」
「自分の理想はウワゼイがメチャクチャにあって、大柄で頼りになる人ッス!ムリな相談ッスね!」
うっ、深入りしたら宗教的対立になりかねない。引き下がるか。
「だいたいお前がニークト様に恥をかかせたの、忘れてないッス!許しがたいッス!“バンジーにアンタイ”ッス!」
「“万死に値”だ八守」
「それッス!身の程を知れッス!」
はい、そうですよね。
敵認定ですよね。
と言うか俺も、どうして僅かでも行けると思ったんだ。
こうなるのは火を見るよりも明らかだし、仲良くする理由も無いし、そうしたいわけでもないだろうに。どうにも最近、俺自身が俺を分かってない。
「あれあれぇ?皆さんお揃いでぇ?」
と、そこに新たなる参戦者が到着した。
「あ、こもりちゃん!」
「やーやーヨミっちゃん、お待たー!おねーさんが来たからにはもう安心…おやぁ?君は……」
「は、初めまして…」
眼鏡に二つ結びのおさげという、委員長タイプな見た目から繰り出される、間延びした言動。
多分、詠訵が言っていた「親友」こと、訅和交里さんだろう。
彼女は詠訵に抱き付いた後に、俺を視認。上から下まで品定めでもするみたいに、眼鏡越しの視線で撫でてくる。
俺も自然と緊張し、気をつけの姿勢を取ってしまう。
「こうして見ると、やっぱりちっちゃいねえ」
「ちょっと、こもりちゃん!」
「あ、ごめん、気にしてるんだった。無神経をお許しあれ」
「あ、いや、まあ、大丈夫、です、あはは」
あれ、詠訵には俺の低身長コンプレックス、言った事なかった筈だけど。配信とかで口滑らせてたっけ?
(((と言うより、見てれば分かりますよ)))
えマジ?どの辺が?
(((全身が)))
全身が!?
「へー、女の子に言われるのは良いんだ…」
なんか詠訵の目がちょっと尖った気がする。あれ?仲直りムードだったよな?
「うちのヨミっちゃんはチミにはやらんぞ!」
「ぶはっ!?」
「こもりちゃん!?」
藪から棒に何を言い出すこのメガネっ娘ぉ!?
「ご、ごめんね、カミザ君?見ての通り、急に変な事言い出す子だから、気にしないで?」
「あ、ああ、分かってるって」
「おー?大親友にその言い方はないんじゃあ、ないかなあ?」
「こもりちゃんは少しだけ静かに——」
「埒が明かん!ウダウダ言ってないで行くぞ!そこをどけ!」
なんかキレたニークトが横を通過して両開きの扉を二枚とも押し開けた!
ああ!どんなのが居るか分からないから出来るだけ後回しにしてたのに!




