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ザ・リベンジ・フロム・デップス~ダンジョンの底辺で這うような暮らしでしたが、配信中に運命の出逢いを果たしました~  作者: D.S.L
第四章:途方もない先を目指しての一歩は、やたらと重いし火傷しがち

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66.は?ナイナイ(笑) part2

 結果として、シールドジェネレーターと、それを装着するベルト、バックパック、それとダンジョンケーブルを新調する事になった。

 ケーブルは魔力回転刃ですーぐボロボロにする。毎回買ってたらキリがない。だから一つを修繕して、長めに使おうと思っていたのだが、詠訵のプレッシャースマイルに、白旗を挙げる事となった。


 目が笑ってなかった。

 今まで見たことないレアな表情だー、ウレシイナー。


 その後、彼女に引きずられ、婦人服コーナーに連行された。

 しかも幾つか身繕った彼女は、「試着するから待ってて」と、カーテンの向こう側に消えた。

 居心地が悪かった。

 俺が無名の一般市民ならまだ良かったが、もしかしたら顔を知ってる人が、一人はいるかもしれないくらいの知名度なせいで、真偽不明な「見られてる」感覚に、悩まされる事となった。

 早く終わってくれー、という内心を出さぬよう、細心の注意を払っていたが、自分がどういう顔をしていたのか分からない。

 

 それとお前!さっきから耳元で、「これはデートではないんですよね?」「どういった点が異なるのでしょうか?」「後学の為に、無知なる私にご教授頂けると」みたいな事をずぅっっっっと問い続けてるお前!晩飯1食約100円のインスタント麺にするぞ!?


(((それでは生卵を所望します。あれの中央に乗せるのを、一度やってみたかったんです)))


 どこまでも全力で楽しむ気かコイツ!素晴らしい心がけですねえ!ノーダメージかよ無敵かよお前は!


「カミザ君!これどうかな?」


 脳内で悪魔と格闘し見事に敗北した俺は、そこに舞い降りた天使によって再びの惨敗を喫した。


「ッッッッッッッッッッッッッッッッッッ」

「う、うん?変、かな?」

「最高に可愛い!!」

「え!?」

 

 あっっっぶねえええ!今の一撃はかなり危なかったあああ!頭の中で火花が走り、目の前がかすんで膝が腑抜け、固い床にダウンしたまま10カウントを数えるところだった!


 く~ちゃんはリスナーを楽しませる為、それ以上に自分が飽きないような、刺激的な活動をする為、装備を結構変えたりする。

 基本は軽くて性能が高い明胤の制服を、ボディースーツの上に着るスタイル。その制服の部分を、もっとゴテゴテしたアーマーにしたり、全体を覆う鎧にしたり、逆に厚めのボディースーツのみにしたり、衣替えが激しい人だ。


 が、機能性を一切考えない、外行きの私服というのは、あまり公開されていない。

 雑談配信とかで、自宅の中から放送する時くらい。


 だから、それを受けるに足る耐性を、俺は持っていなかった。

 

 肩出しのワンピースタイプ。色香と清純を併せ持つ、破壊的な一着。

 「オトナな少女」という、生けるアンビバレント。

 防御力も画面映えも考えておらず、だからこそ純然たる“詠訵ミヨ”という概念に殴られる。

 そんなのズルだろ。

 詠訵に感じる魅力は、どちらかと言えば明るさ由来が大きめだ。

 しかし、これは、

 これは………!


「そ、そんなに気に入ってくれるなんて」

「マジで“いい”。天使に見えた。と言うか天国が来い」

「う、う~ん………」

「あ」

 

 まっずい。

 今の俺、史上最悪レベルでキモかったんじゃ?

 カンナ?客観的に見てどう?


(((減点ですね)))


 だよね!


「す、すまん、一人で盛り上がり過ぎた」

「う、ううん…!ありがとう。嬉しい」


 やめて???

 男子って言うのはね?女の子に「嬉しい」って言われると、恋愛回路が暴発するものなんです。「こいつ、俺に気があるな?」とか思っちゃうんです。

 

 ウッ…!

 脈ありと信じ、高倍率の中学受験を乗り越えてまで追いかけた幼馴染から、一通りの痛罵つうばを浴びせられたトラウマが………!


「ちょ、ちょっと待ってね。他にも見せたい物があるから」

「え、他?いやでも」「すぐ着替えるね!」


 行ってしまわれた。

 いやまあ、カーテンを閉めただけだけど。

 

 ………………………


 「()()()()()()()()()()」!?


 待って?俺今大変な事に気づいたんだけど、制服からワンピースって、シャツすら脱いでない?

 この布の向こうで、あられもない姿になってるって事になるけど?

 俺今、何かしらの法に触れてない?

 むしろ触れるべき?


(((現在貴方の持ち点が、音を立てて、引かれてますからね?)))


 知らん!

 もうマイナス突き抜けて岩盤に着地してるであろう点数なんぞこの際どうでもいい!!

 俺は今!人類にとって最も緊急性の高い議題についてだな——


「ど、どうかな?」

「アッツ!?」

「え、ええ?」

「ごめん、今俺、過度にあったまってた」

「そ、そう…」


 パンツルック!

 パンツルックですってよ奥様!!


(((私は何者にも、娶られてはいませんが)))


 半袖長ズボン。

 今度は「動」全開できたな。

 ってか今まで可愛いが勝ってたから、あんまり意識してなかったけど、脚なっっっっが!?カンナレベルではないとは言え、モデル体型と言い切っていい。

 ってかさっきから四月の終わり際にしては寒そうな格好多くない!?大変ありがとうございます!


「こういう時英語圏だと“ホット”とか言うんだと思う。って言うか言え。英語話者なら言え」

「え、えへへへ…」

「………ハッ」

 

 ちょっと本当に良くない。

 俺の中の「キモオタ」が抑えきれてない。

 待てよ、「キモオタ」ってもう死語かな?………じゃなくて!誰か俺を止めてくれ!過剰供給で発作が止まらん!


(((紛う事無く、やまいじゃないですか)))


 

 くれぷすきゅ~るチャンネル突発ファッションショーが勃発。詠訵が毎回120点以上を叩き出し、俺がその度にキモイ賛辞を送り、それを十回くらい繰り返した後、彼女は目ぼしい候補を決めたらしかった。



 っという流れで、俺は今店の外で、彼女の会計を待っている。

 なんか、つい1時間くらい前までの、潜行活動より疲れてしまった。

 買い物してる本人を置いて、はしゃぎ過ぎだ。もっと周りをよく見ろって、そういう話をした後のこれだから、人とはつくづく成長しない。


(カンナもごめん。変なテンションに付き合わせて)

(((愉快と苛立ちで、僅差で苛立ちが勝りました)))

(ごめんって)


 もうちょっと考えて行動しよう………。

 この前も売り言葉に買い言葉してたら、公開でボコボコにされる所だったし。


「ん」

 カンナと話して時間を潰していたら、詠訵が店から出て来た。

「お、詠訵、結局どれを——」

 あれ?

 荷物増えてなくない?

「ご、ごめん、カミザ君。やっぱり、どこかしっくり来なくて」

「え?お、おお…」

「本当にごめんなさい。折角カミザ君に、長々付き合って貰ったのに」

「いや、詠訵がそれでいいならいいけど、結構気に入ってたように見えたんだが………」

 

 あ゛。

 俺がアレな反応ばかり返してたから、なんか生理的嫌悪感が出た?


「ちょ、ちょっと、私、美容グッズとかも見ていきたくて…!」

「お、おうよ、じゃあ一階に降りるか……」


 また女物に囲まれるのか、俺圧死しないかな?という憂鬱はともかく、彼女の態度が何か引っ掛かった俺は、店内に視線だけ戻して、


 二人で固まっていた、女性店員と目が合った。

 ついと逸らされ、そそくさと奥へ去って行く。

 あの眼。

 もしこれが、俺の気にし過ぎじゃなけりゃ——


——ああ、そういうこと。


 だいたい分かってしまった。

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