春ひらく
「今から会いに行く六花咲みことって人は紹介するのも面倒なくらい色々やってるんだ。
そうだな……、まず、六花咲家は由因でも有名な神官の名家。
氏神が学問の神なもんだから、本人らはエラい頭が良くて、代々王家の教育係である侍読を担っているんだ。勿論その給与がいいから大富豪。
じいさんはやかましい熱血博士で、齢80だが今だに現役で大学寮と宮廷に勤めている。
反して親父さんは大人しい人で、教育の道には進まず医者をやってた。
で、みこと先生は……才能が有り余る天才で、器用で何でもできる。
とりあえず、主な肩書きは考古学者。由因の史学研究の第一人者で、八百万の神を知り尽くしている凄い人なんだが……、当の本人は自由奔放。肩書きの威厳なんてお構い無しで、国中ほっつき歩いている。
研究には多くの神からの託宣が必要だと言って、神官の家柄のくせに本人は審神者になった。まぁ、自分の為に占うから、他所からの依頼は滅多に受け付けていないけどな。
それで、占いは筝を使った“絃占い”だから筝奏者も兼ねていて、大王に演奏を献上できるくらいの名手。
あと、研究だけでなく子供らに塾を開いていて、教育の格差を埋めようと働いている。
だから、まぁ、教えるのは上手いんだが……、侍読は絶対に引き受けない。
神話の下に成り立つこの国に在っても、みこと先生は、その創世神話を否定する、由因唯一の国民なんだ。
自分の信念を曲げることと、相手に偽りを教えることはしたくはない、と言ってな。
……風変わりな人なんだ。由因を愛するが故に建国の真相を探求している。でも、非国民という訳ではなく、大王には絶対的忠誠を誓っている。だから筝の献奏も許されてるっていう理屈らしい。とは言え先生は愚帝だったら政変をさせていたらしいが、今上の大王はお優しい方だからな」
小さな歩幅で追いかけながら、京は崇影の話に耳を傾けていた。
「どうしてそんな天才が顛武に頼み事をするかっていうと……
そもそも、俺たち文占い師の儀式方法が特殊なんだ。
神は、基本的に跡を残すことを嫌う。
星占い、石占い、香占い……その他占いには諸々種類があるが、どの占いもほとんどが問いに対する是非しか返ってこないから、詳細は分からない。先生の絃占いもその類だ。
だが、文占いは神が直々に文字を残していく方法だから言葉が分かりやすいんだ。下手な文占い師なら単語しか返ってこない、なんて他の占いとも変わらないこともあるが、審神者の開祖と言われる顛武宗家には、どの神々もつらつらと文字を残してくれる。みこと先生はその紙を研究に必要としているんだ。
審神者よりも神と結びつきが強い神官なら、色々と細かい神託を得ることができるから各地の神官たちにも史料集めを頼んでいるみたいだが、この世は神官が仕えない神の方が圧倒的に多いからな。
だから、今回の水の神の件についても、文占いで詳しく知りたいからと頭領の俺を派遣した、って訳だ」
顛武の名は聞いたことはあったものの、京は占いの様式などを初めて知るのだった。
「信頼されていらっしゃるのですね」
「家に生まれた宿命ってやつだな」
話しているうちにいつの間にか山を抜け、里に出ていた。
神域の緊張感は解け、肩の力がほっと抜ける。
「……こんなに広かったんや」
霧に遮られることのない、大地が広がる景色を久々に見たのであろう。溢れた独り言がそれを物語っていた。
京は遠くの山のその先まで見通すように景色を眺めていた。
「……あぁ、広い。これから東に進む。ここより少し寒くなるかもな」
「寒いのは嫌いではありません」
そう話しながら歩みを進めていると、少し離れた所に1人の村人が佇んでいた。
しかし、その村人はどこか様子がおかしかった。遠目でも分かるほどに、ずっと此方を凝視しているのだ。
「なんと美しいんや……」
と、まるでその呟きと共に魂が抜けてしまったかのように、京を見つめながら立ち尽くしていた。
……あぁ、なるほど。面を付けて顔を隠さなければならなかった理由はこれか。
咄嗟の判断で、崇影は京を羽織の中へ抱き寄せ、隠しながら足早にその村人から距離を置いた。
遠ざかったところで再び振り返ると、村人は正気を取り戻したようで、はて何が起きたのか、まるで夢と現の境にいたかのような様子だった。
「……京、悪い。言い付けは正しかったみたいだ。まさか、人があんな風になるなんて思ってもみなかった。
人前では、その……、面を付けてくれるか?」
「ふふ、なぜ顛武様が謝るのです。私は構いません、人々をあのようにさせてしまっては敵いませんから」
そう言って、困ったように笑いながら小面を付ける。
きっとこの先も、美しいこの子は様々な縛りを受けることになるだろう。
世には欲深い人間がごまんと居る。
あの村人の反応を見ると、この子は国が抱える宝物よりもずっと価値があり、利用されれば傾国にまで陥るだろう。
京はそのような輩から離され、霧の中で大切に大切に守られてきたのだ。
しかし、この人間界に生まれたからには、人として生きていく道理がある。
かつて自分がそうしてもらったように、この子に一人の人として生きてもらおうと決意した。
村の中心地まで歩いていくと、
何やら聞き取ることができない声を発しながら、ものすごい速さで駆けてくる少年がいた。
京は吃驚して思わず崇影の後ろに隠れる。
「とぉ〜〜〜〜りょぉ〜〜〜〜〜〜!!!!
一旦1刻で引き上げるって言ったじゃないすかぁ〜〜〜〜〜!!!倍の時間過ぎてますよっ!!!!とうとう神隠しにあったのかと心配しましたよ!もぉ〜〜〜〜〜〜!!」
少し癖毛のある赤髪の少年が、大げさとも思えるくらいにバタバタと激しい動きをして感情の起伏を表現していた。
慣れているのか、崇影はそれを気にもとめず涼しい顔で対応する。
「悪い悪い。社を見つけたから少し遅くなった」
「えッ!見つかったんですか!?さすが頭領!!
……って、あれ?その後ろの子は?」
背が高い崇影の後ろに控える小柄な京に、少年はようやく気が付いた。
「……詳しいことは長くなるから後で話すが……
まぁ、新しい弟子を引き取った。よろしくな」
「おぉ〜!何年振りだろう!俺、凪助!自称、頭領の右腕!よろしくね!」
崇影とは正反対と言わんばかりの笑顔とその明るさに京は圧倒されながらも、
「京と申します、よろしくお願い致します」
と挨拶を交わした。
「京、悪いが弟子はこいつ1人じゃないんだ」
それを聞き崇影の視線を追うと、凪助と同じような、髪を一まとめに結い上げ、水干を模した格好の4人の少年がこちらに向かって歩いてきた。
「頭領、ご無事で安心しました」
「ほんと、狼煙くらい上げてくれればウチも行きましたよ!」
「あれ、新しい子ですか?」
「僕より若い子?」
少年たちは興味深そうに京を取り囲む。
「顛武は大所帯で、弟子だけでも20人はいるから、5人ずつの小隊で動いてるんだ。今は雨座、霙座、雪座の3隊と、見習いの童たちがいる。
こいつらは霙座だ」
「は、初めまして、京と申します。歳は12になります。これからどうぞよろしくお願い申し上げます」
深々と頭を下げる健気な姿に微笑みながら、青い髪の眉目秀麗な少年が「私は汐彦と申します。霙座の笛吹きです。よろしくお願いします、京くん」と名乗った。
それに続き、緑色の髪で細目の少年が「俺は洋成。鼓打ちだよ」とはにかみながら話した。
橙色の髪をした見るからに女の子のような少年は、「ウチは浦雅!霙座の筝弾きだよッ。呼ぶときは浦姉って呼んでね!」と乾いたような声で明るく答える。
薄い黄色の髪をし、潤んだ瞳を持つ少年も自己紹介をする。
「僕は波紀。霙座の鈴鳴りだよ。僕も12歳だから同い年だね。
……でも……」と言葉を詰まらせた。
同年、といっても京の方が遥かに小柄で、その場にいた皆、波紀より3つは年が離れているのかと思っていた。
その空気を変えるように崇影が助け船を出す。
「京は長い間独り身だった。顔に火傷の跡があるから、面を付けている。
……波は8つの時に拾ってやれたが、京は今の年までろくに物も食えない生活をしていたから身体が小さいんだろう。
だから、今までの顛武の仕来り通り、京も家族として迎えてくれ」
崇影は安心させるように京の肩をポンポンと叩いた。
「ウ゛ッッッ……京くん…………本家に戻ったら兄弟子がもっといっぱいいるからね……!!!俺はこれでも霙座の座長だからたくさん頼ってね……!!!」
凪助は鼻水を垂らしながら京を抱きしめた。
京はその力強さに蹌踉けつつも、
「あ、ありがとうございます、嬉しく思います……が、
その……大変申し上げにくいのですが私……
男ではなく……女にございます」
京の何気ない訂正が、その場を凍らせた。
「……えっ、女の子……?」
浦雅が険しい表情で、慎重にもう一度尋ねる。
突然変わった場の雰囲気に圧倒されながらも、
「は、はい」
と正直に答えた。
凪助はそっと京から手を離し、
「まじかぁあああああ!!?」
と天を仰ぎ叫んだ。
汐彦は顔色を悪くしながら、
「髪が短い女の子なんて会ったことがなくて……!!男袴だし、何より頭領が連れてきたからてっきり男かと……
ごめんね、ごめんね!!」
とひたすら謝り続けた。
5人の少年達はかなり驚いたようで、ぎゃいぎゃい騒いでいたが、京を連れてきた当の崇影は開いた口が塞がらないようで、ぽかんとしていた。
「……えっ……京、お前……女、だったのか……?」
その発言に非難轟々、霙座の少年たちはまたもわっと騒ぎ立てる。
「まさか頭領、知らないで連れて来たんですか!?」
「……僕とっくに声変わりしてるのにさぁ……」
「頭領〜っ!男に間違われた京ちゃんの気持ちを考えなって!京ちゃんの方が不憫でしょ!」
「そっすよ!これから京ちゃんどうするんすか!?俺の妹でいいっすか!?」
「凪、京ちゃんを怖がらせるな」
女ということは何か不都合があるのだろうか。
京はその理由が分からなかったので尋ねると、洋成が
「……えっと、その、顛武の占いは……男しかできないんだ……」
と、申し訳なさそうに答えた。
その理由に京も(あっ……)という一言以外、言葉が見つからなかった。
崇影は頭を抱えながらも、
「……確かに顛武の審神者は男しか許されない、が……
母上も一門として顛武の名を背負っていた。
審神者を任せなければ問題ないだろう」
と、半ば言い訳のようだがそう判断した。
見かねた汐彦は膝を屈め、京の目線に合わせると、
「心配しなくても大丈夫ですよ。顛武はあなたを受け入れてくれます」
と、恋心を射止められてしまいそうなほど絵になる様子で言葉を掛ける。
「あーっ、汐兄!また女の子落とそうとしてる!」
「おいコラ汐!京ちゃんは今から俺の妹だぞ!」
「凪助兄さん、それもどうかと思うよ……」
「ぼく、今よりうるさくなったら耐えられないかも」
賑やかな会話に思わず面の下で微笑みが溢れる。
“嬉しい”
久しぶりのこの感情に、心が温まる。
この弟子たちをまとめ上げる崇影という人は、本当に優れた人物なのだろう。巡り会えた幸運に感謝するとともに、これからの未来に希望が伺えた。
「まぁまぁ、御社も見つかったことだし、これでようやく、みこと先生のお屋敷に行けるな!
よかったな〜汐」
凪助は悪戯めいた顔でちょっかいを掛ける。
「よせ、からかうなよ凪。私は別に……」
日に焼けていない白い肌をやや紅潮させた汐彦を見て、崇影もそういえば、と言い開く。
「あぁ、悪い汐彦。神事の依頼があるから、ちょっと寄り道してから行くことにした」
「頭領までおやめください!みこと先生は尊敬しているのであって、邪な気持ちではありませんから!
……で、神事の用件はどのように?」
「猪塚が桃の開花時期を知りたいんだと。あそこの桃は見事だからな、祭りを開花に合わせたいそうだ」
「猪塚ですか、此処からだと昼過ぎには着きそうですね」
その会話に京は疑問を抱いた。
「……桃の開花時期を、占うのですか……?」
凪助は、さも当たり前であるかのように教えてくれた。
「うん、そうだよー。世間離れしていたら分からないのも当然だよね。
小さなことって思うかもしれないけど、村にとっては大事なことなんだよ。
開花に合わせて祭をすれば、人がより集まってお金も交友も稼げる上に、信仰も多く得られるし、人も神も互いに利益になるでしょ?
審神者はそういう小さなことを積み重ねていくのが仕事なんだ」
審神者とは、神による災害を鎮める役割だと認識していたが、なるほど、彼らは神と人の双方を尊ぶのか。
この世は自分の知らないことばかりに溢れていると気づかされ、他にももっと知りたいという思いに包まれる。
それは同時にこの国で生きたいという思いであることには、京はまだ気付いていない。
白堂河から歩くこと2刻、猪塚の地に辿り着いた。
山間の白堂河とは異なり、猪塚は開けた地で、もう少し時が進めば花に彩られるであろう木々に囲まれた場所である。
村人たちは顛武の到着を待ち望んでいたようで、手厚く迎えてくれた。
村には崇影たちが神事を行うための舞台が設けられ、すでにそこには人が集まっている。
京もそこで観るようにと、凪助と共に人集りに連なった。
凪助はなぜ神事に参加しないのかというと、霙座の舞役は彼だが、今回は頭領の崇影とともに行動しているため、“由因随一の舞師”と称される、より達者な崇影が舞役を務めることになったという次第だ。
小柄な京が人混みに潰れてしまわないよう辺りに目配せをしながら、凪助は京に話し掛けた。
「京ちゃん、結構な距離歩いたけど疲れない?」
「はい、大丈夫です」
「全く、頭領は女性の扱いができないんだから……少しくらい休んでくれてもよかったよね?」
「ふふ、お気遣いありがとうございます。まだ十分に元気は御座いますので、私は大丈夫ですよ」
「ほんと?よかったぁ……。頭領も頭領で、馬くらい使えばいいのに。弟子と同じ目線でありたいって、俺たちと一緒だと自分も歩くんだもん。ほーんと、感心するよ」
「お優しい方なのですね」
「そ。由因の国イチ優れた舞師だから、依頼は山のようにくるのはそりゃ勿論なんだけど、休み無しで行くんだよ、人を助けたい一心でさ。
そのくらい俺達にも優しくしてほしいんだけどね〜」
困ったように笑いながらも凪助はどこか誇らしげで、嬉しそうであった。
「でも、なんか……」
凪助はふとある事を思い出したようだ。彼の顔に寂しさが垣間見える。
「よく分からないけれど、誰かを必死で探しているみたい。
……頭領は俺たちを心配させたくないって独りで何でも抱え込むけど、逆に心配になるんだ。俺たちは頭領に助けられた。その恩返しくらいさせてほしいよね。
だから俺は、しつこいくらい頭領につきまとうって決めたんだ!」
そう言うと、凪助はいつもの明るい笑顔に戻った。
そして、神事“紙折の舞”が始まることが告げられ、辺りはしんと静まり返る。
すると、華やかな装いをした汐彦、洋成、浦雅、波紀が袖から登場し、舞台の上手に並ぶ。
各々が奏でる楽器を構えたところで、頭の先から足元まで艶やかな装飾で身を包んだ女が悠々と現れた。
背が高く、全ての見物人の目を釘付けにする美貌と艶めく美しい黒髪を持つ女だった。
切れ長の瞳は承和色をし、黒髪との対比が夜に浮かぶ月を思わせた。
似た顔立ちの者が知り合いにいるが、もしや。
(……顛武さま!?)
京が察した通り、それは女に扮した崇影であった。
上品ながらもどこか漂う艶めかしさは、なるほど、男だからこそできるのだろうと感じた。
京の驚きを余所に、彼は涼しい顔で舞台の中心に立つ。
演奏は汐彦の笛の音から始まった。
主旋律は笛のようだ。心地良くも儚げな音色に、心が揺り動かされる。
続いて浦雅の筝、波紀の鈴、洋成の鼓が音を重ね、 音に深みが増していく。
そして、主役たる舞姫はと言うと、1つ1つの振りが流れるようにしなやかで、誰しもが釘付けになっており、由因一の舞師というのが頷ける見事な舞である。
しかし、その舞は美しくありながらどこか悲しげで、涙が溢れるのを抑えられなかった。
まるで叶わぬ恋を表しているような、痛む心を祈りの舞へと変えたような
その痛みを遠い遠い彼方まで
遥かな時すらも越えて届けるように。
前の時代を追っているようにも、後世にまで伝えたいとも取れる、そんな儚い舞だった。
観衆を惹き込んだ舞姫は最後に、手に持つ紙を風を切るように振りかざした。
そこで演奏も終わり、崇影は紙を開く。
「……神託によれば、開花はあと一月後なり」
そう告げると浅く一礼し、崇影はスルスルと舞台袖に消えていった。
儀式に参列した民は心が洗われたようで、皆清々しい顔つきをしていた。
これが顛武総本家の頭領の実力か、あらゆる地方から引っ張り凧になっていることも納得できた。
「ふふ、やっぱり頭領は凄いなぁ。まだまだ足元にも及ばないや。
じゃぁ、俺たちもみんなの所に戻ろうか」
凪助の声掛けでふと我に帰る。
そうだった、自分達は目的に向かうまでの寄り道の最中だった。
舞台裏に回ると、酒や拵えた料理を持ち寄りながら、顛武が出てくるのを今か今かと待つ人集りができていた。
「……ま、こうなるよね〜」
凪助は呆れたように笑うと、場所を開けるように促し人の列を整えた。
しかし、化粧を落とし着替え終えた崇影たちが出てくると、またもその列は崩れ人波に揉まれたが、急ぎの用があるとなんとか礼を断り、人々に惜しまれながら猪塚の地を後にした。
それがなんだか面白くて、京はずっと口角が上がり、晴れ晴れとした気持ちだった。
「儀式、お見事でした。占いとはあのように行われるのですね。大変美しく、素晴らしかったです」
京のその明るい気持ちが崇影にも伝わってくる。
「そうか、よかった。そう思ってくれたなら、連れ出した甲斐があった」
「1つ気になったのですが、あの舞は何を表していらっしゃるのですか?神に捧げるには、些か悲しいような……」
「あぁ、あれは……神の心にも届くように、ああいう舞なんだ。
顛武の舞は、神への忠義、というより、神への恋心から生まれたものらしい。
……正直、父上から教わったのは『神を恋うように』ってことだけで、詳しいことは分からないし、舞も習った、というよりも、見様見真似なんだ」
確かにあの美しい舞は、神の心すらも揺り動かすだろう。
これまで1人の神官と共に生きてきた京にとって、審神者という似て非なる神職との出会いは、価値観も思想も新たなものへ塗り替えていくものとなった。
▶︎この世界の文化として、女性は髪を伸ばしていることが通常ですが、もちろん物好きで髪を短くしている例外はあります。そのような女性は周りから「変わった人だな」と思われます。
▶︎顛武の本家は海沿いにあります。
小隊の座名は雨、雪、霙と天候に由来していますが、これは、雨となって降りた水が川を流れ海に辿り着くよう、全国を回っていても家に帰って来られるようにという理由からです。
また、弟子たちの名前は海に関する一字が付けられています。
顛武家の頭領は『崇臣』という名の襲名制ですが、色々あり、崇影は襲名に至らず頭領となりました。
▶︎文占い自体は1人でも可能ですが、人にとっても神にとっても一種のパフォーマンスのために演奏者を起用しています。神に舞と演奏を奉納し、楽しませた方が神託も得られやすいのです。
▶︎崇影は普段、雨座、雪座、霙座のどこかしらに付いて、修行をつけて回っています。
今回、やや面倒ごとになりそうな調査だったため、伸び代のある霙座を連れて歩いていました。
▶︎昔は舞役を女が務めることがありましたが、女は悉く神隠しに遭ってしまうため、男のみが行うようになりました。