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43 マッチョ鬼

 丁度、仮拠点で食事休憩を取っていたところ、マルコたちが慌てて戻って来た。


「やばい! 竜鬼(りゅうき)っぽい奴がいやがった! しかも二体だ!」

「「「二体!?」」」


 マルコ班の報告に、俺たちは目を見開いた。


「いるかもとは思っていたけれど、まさか二体も……」


 竜鬼とはドラゴン並みに強いという伝説の個体だ。明らかにレベルの違う小鬼の姿を見て、マルコたちはそう確信して逃げてきたそうだ。


「そいつらは同じ場所にいたのか?」

「ああ。奥にあるコロニーの前を塞いでやがる! 多分、その中に連中の頭がいるな」

「……今回の群れは確か、鬼王(きおう)がリーダーだって推測だったよな? Bランクの亜人がAランクを二体も従えるもんなのか?」

「……分かんない。鬼王や竜鬼の情報は少ないのよ」


 各地方のギルドは小鬼の恐ろしさを熟知しているから間引き対策もしっかり行っている。それ故、大鬼すらも滅多に遭遇しないくらいなのだ。その上位種ともなると報告例はかなり少ない。


「この中で、Aランク以上の魔獣や亜人と戦った奴はいるか?」


 俺が尋ねると、“疾風の渡り鳥”のメンバー全員とシェラミーが挙手をした。


「私たちはBランクだった時にAランクの獅子鳥と戦ったわね」

「結構ギリギリだったのぉ」

「ま、今なら余裕だろうさ」

「多分、私一人でも勝てると思う」


 なるほど、ソーカくらいの実力か。


「私はドラゴンとやったねぇ。他の傭兵団と共同作戦だったけどね」

「「「ドラゴン!?」」」


 シェラミーはドラゴンと戦った経験があるようだ。


「まぁ、飛べない土竜が相手だけど、やたら硬かったから苦労したさ」

「どんくらい強かった?」

「んー、ソーカ嬢ちゃんくらいかねぇ」

「なるほど、Aランクの魔獣は1ソーカってところか」

「あのぉ。私を物差しにするの、止めてもらえます?」


 しかし、これは恐ろしい。そのコロニーの前ではソーカ二人が待ち構えているのだ。いくら俺でもソーカ二人が相手では勝てる気がしない。


「もうコロニーも大分削ったんだし、そいつらを倒した方が良いんじゃねえのか?」

「マルコの言う通り、多分その奥に敵の首魁もいるでしょうしね……」

「賛成だ! 当然、私は行くよ!」


 ここらが仕掛け時だろう。森の中の小鬼の群れもだいぶ数が減っていた。最近は上位個体からの伝達系統も麻痺しているのか、小鬼どもの群れが散り始めていた。森の外に出さないようにするのが大変であったが、その辺りは領兵団任せだ。


 だがその分、小鬼の群れは纏まりの欠いた集団へと成り下がり、更には人数差も解消され始めているので、並の兵士たちでも随分と戦い易くなっているらしい。


(もう、頭は要らないな……)


「よし! そこのコロニーへ攻め込もう! マルコ、案内してくれ!」

「おうよ! 任せておけ!」


 今回は俺とソーカ、フェル、エドガー、シェラミーの精鋭五人で攻める。この面子なら竜鬼とやらが二匹同時でも倒せる戦力だろう。






 そのコロニーはサンハーレから大分離れた位置に造られていた。森には相変わらず他の生物たちの気配が希薄なままである。小鬼の群れを避けて、更に奥の地へと逃げたのだろうか。


 それとも……


「ここらの生物は全て食い尽くされちまったのかねぇ?」

「だろうな。でも、コロニーには相変わらず人の死骸も多かった」


 あの被害者たちは一体何処から調達されていたのか未だに分からなかったが、フェルがある奇妙な点に気が付いたのだ。


「あの人たちは……多分、無理やり森に連れて来られてる」

「「「…………」」」


 彼らの遺留品の中には、高確率で縄が残されていた。人を拘束するには十分な長さの縄が、しかも何かを縛っていた形跡のある状態のまま捨て置かれていたのだ。


 その縄は普通の小鬼どもが用意できるようなモノではなく、明らかに人の手で作られた代物であった。その証拠に、小鬼たちはその縄を再利用しようとも考えず、衣服と共に放置していたのだ。


 そこから考えられる最悪の想像は、何者かが人を縛った状態で森に捨て置いたのだ。連中の餌とする為に……


「……それはまた、下種な連中がいたもんだねぇ」

「全くだ。だが、何でそんな真似をするのか、さっぱり分からない」


 これでは小鬼共に餌を与えて増やしているようなものだ。だとすると、その何者かはサンハーレやその周辺を滅ぼしたかったのだろうか?


 だが、ここでまたおかしな矛盾が生まれる。


 この一連の犯人はギルバードたち、助成金を着服した者の犯行だと思われるのだが、彼らがわざわざそんな真似をする動機に思い至らない。小鬼たちを増やせば、それだけ自分たちの犯行が露見されてしまうではないか。


(まさか、他に首謀者がいるのか? 小鬼が増えて、町が滅ぼされて、それで一体誰が得をする?)


 いや、端から町を滅ぼすつもりなら、そもそも討伐隊など用意せず、そのまま黙って姿を眩ませれば良かったのだ。それだけ小鬼増殖が露呈されるのも遅れ、町は壊滅状態に陥ったであろう。



 様々な憶測を考えていると、何時の間にか件のコロニー付近に着いたようだ。


「……こっから先は気配を殺して静かに近づくぞ」


 ここにいるメンバー全員がその術を心得ていた。


 俺たちは極力、闘気や魔力を押さえながらコロニーへと近づいた。


「……見えるか?」

「……ええ」

「見えるけどよぉ……」

「あのぉ…………一体増えてない?」


 俺の見間違いでなければ、竜鬼だと思われるやたら強そうな鬼が三体もいた。つまり……3ソーカ分だ!


「あの調子じゃあ、中にもまだいるかもね」

「おいおい、嘘だろ……」


 フェルの言葉にマルコは顔色を蒼褪めた。


「こっからは俺たちの仕事だな」

「よし! 行くよぉ!」

「ぶった斬る!」


 リーダーの俺が声出しする間もなく、シェラミーが突っ込んで行ってしまった。それに続いてソーカも出撃する。


 あの戦闘狂共は……!


「俺も出る! エドガーはフェルの護衛な」

「そりゃあねえぜ!? 俺も戦いてえよ!」

「……じゃあ、いってらっしゃい」

「おっしゃああああ!!」


 もう、やだ。この団員ども……


 仕方なく、俺はフェルの護衛に回った。


 三人はそれぞれ手近な竜鬼を捕まえて戦闘を楽しんでいた。エドガーとシェラミーがやや苦戦しているが、ソーカは随分余裕そうだ。


 確かにその鬼は今までの個体とは一線を画す実力だ。かなり素早く、力もあるのだが……それだけだ。多少フィジカルが良いだけでは、うちの暴れん坊たちには届くまい。


「ねえ。この状況で援護射撃したら、怒られるかしら?」

「うん。シェラミーの相手を射たら絶対に怒ると思う」

「お前、本当に大変そうだなぁ……」


 俺たちの遣り取りを横で聞いていたマルコが、同じリーダーとして同情していた。



 ソーカに遅れること数分後、エドガーとシェラミーの順で竜鬼を撃破した。


「よっしゃあ! 俺の方が倒すの早かったな!」

「何言ってんだい! あんた、ズタボロじゃないのさ!」

「へへ、負け惜しみかぁ?」


 言い争っていた二人だが、満足いく戦闘を楽しめたようで表情は随分にこやかだ。


「じゃ、俺たちは中に入るから、しばらくここで待っていてくれ」

「おう! 無茶すんなよ!」

「……それはあいつらに言ってくれ」


 マルコは無言のままサムズアップで返事した。






 コロニー内部は大鬼や禍鬼だらけで構成されており、予想通り竜鬼がまた出てきた。ただ、今回の獲物は一体だけだったので、うちの戦闘狂共の取り合いとなり、憐れにもタコ殴りとなって瞬殺だ。南無。


「この面子なら噂のSランク魔獣も倒せるかもね!」


 フェルがそんなことを言ったものだから、早々にフラグが回収されてしまった。



 奥の広間に進むと、異様な圧を放つ亜人が現れた。あの戦闘狂たちが間合いを取って”待て”をする程の相手だ。


「おいおい、あの化物は……なんだ?」


 エドガーが冷や汗を流す。


 姿形は竜鬼と酷似しているが、ガタイは大鬼クラスもあり、全長3メートルはあるムキムキの鬼であった。その手には殺した人間から強奪したのか、大剣が握られていたが、奴が持つとまるで子供用玩具の剣だ。


「……全員で掛かるぞ。絶対に攻撃を受けるな。エドガーはフェルの援護な」

「…………ああ」


 今度ばかりはエドガーも文句を言わなかった。


 彼はパワーファイターな為、自分より格上のマッチョだと相性が悪いのだ。


(ま、それは俺も同じなんだけどね……)


 小剣二刀流な分、俺の方が小回りは利くしスピードも速い。


「ガアアアアアアッ!」


 そのマッチョな大鬼は侵入者の俺たちに吠えると、凄まじい速さで突進してきた。


「散れ!」


 俺とソーカ、シェラミーはそれぞれ左右に散る。俺とソーカの逃げる方向が重なり、人数の多い方に惹かれでもしたのか、マッチョ鬼はこちらへと方向転換してきた。


 それを俺たちは更に散って躱すも、マッチョ鬼は大剣を振るってソーカを攻撃した。


「くっ!」


 跳躍中のソーカは風の神術を使って方向転換し、空中で軌道を変えて剣をギリギリ避けた。


「隙あり!」

「貰ったぁ!」



 ソーカが襲われている隙に乗じて、俺とシェラミーが、ほぼ同時にマッチョへと斬りかかる。


「げっ!?」


 だが、俺の右手に持った剣は奴の身体に斬りつけた途端に折れてしまい、シェラミーの一撃も多少の切り傷を残せたが、致命傷には程遠かった。逆に奴の怒りを買っただけで、今度はシェラミーが襲われ始めた。


「くっ! 筋肉達磨は好みじゃないんだよ!」


 大剣を受けないようなんとか躱し、すり抜け様にもう一撃を入れるも、やはり有効打は与えられなかった。


(こいつ……なんて硬さだ!)


 俺も残った片方の剣で後ろから斬りつけるも、再びぽっきりと折れてしまった。


「んがーっ! これ、高かったんだぞ……!」


 数日前に、仕方なく町のぼったくり店で購入した小剣だったが、二本とも一発で折れてしまった。


(奴の身体は一体何で出来ていやがるんだ!?)


「ケリー! 関節を狙いなさい! そこ以外は硬すぎて攻撃が通らないわよ!」


 そう言いながら的確に関節部分へ援護射撃しているフェルだが、彼女の矢はそれでも一切通らなかった。もっと近づいて闘気の籠もった矢を放たなければ、奴には一生傷を負わせられないだろう。


「ちぃ、武器はもうこれしかないぞ!」


 投擲用で何本かストックしてあるナイフを二本取り出した。ここからは超至近距離、短剣二刀流の出番となる。


 ソーカとシェラミーの武器は業物らしく、なんとか奴の硬い皮膚にも耐えられているようだが、逆に相手からは一撃でも受けるとアウトな攻撃が繰り出されていた。その無慈悲な攻撃を必死に避けながら戦うのは精神的にもかなりきつい。


 俺も急いで駆けつけ、三人で奴の周囲をちょこまか駆け回りながら傷を増やしていった。なるべく柔らかそうな箇所を選んで攻撃すれば傷も負わせられるし、闘気の量を増やせば短剣でも多少は持ち堪えてくれた。


「グガアアッ!!」


 鬱陶しい俺たちに苛立ったのか、奴は大剣を持った手だけでなく、もう片方の手も振り回して暴れ出した。型も何もない、滅茶苦茶な駄々っ子攻撃である。


「くっ!?」

「こいつ……っ!」

「う……っ!?」


 だが、却ってそれが非常に厄介だ。攻撃の予測がし辛く、その上地面を抉って飛んできた破片が身体にぶつかってくるのだ。全身闘気で強化しているので痛くは無いのだが、その所為でだいぶ気が散らされてしまった。


 相手は遂に足まで使ってきて、物凄い早さの蹴りが俺に襲い掛かってきた。


「あっ!」


 避け切れない――――と、思った瞬間、俺はサッカーボールのように蹴飛ばされ、壁面に叩きつけられた。


「ケリー!?」

「師匠!?」


 仲間たちの悲鳴が聞こえてきたが、彼女らもそれどころではなかった。ついにはシェラミーの剣も砕かれ、ソーカの小剣もガタが来始めていた。


「あぐっ!? はぁ……はぁ……!」


 俺は全身に走る痛みを我慢しながら立ち上がると、まずは己の状態を確認した。


(腕は……うん、両方とも動く。足も……問題ない!)


 どうやら俺はパワーだけでなく、身体も丈夫にできているようだ。顔も分からぬ今世の両親に感謝だな。


(ちっ! 頭を強く打ったか? 少し……フラフラする)


 頭部から出血しているみたいだ。血が目の中に入りそうで鬱陶しい。


 意識はハッキリしているし、身体も動かせるのだが、バランス感覚だけがおかしい。もう少し時間を置けば復調する筈だと信じながら、俺は短剣に自身の血を滲ませた。


「久しぶりの出血大サービスだ。くらいやがれ!」


 俺は三半規管の機能が復活したのと同時に奴の方へ飛び出した。シェラミーは無手で逃げ回っていたが、そんな彼女と入れ替わる形でマッチョ鬼に肉薄する。


「グガァーッ!」

「おせぇ!!」


 決して遅くはない平手打ちだったが、俺はそれを跳躍して避けると、両手の短剣から技を繰り出した。


「【血走(ちばし)り】!」


 血を媒体とした遠距離斬撃である。最上級の媒体を使った上、至近距離で放ったのだ。その威力は風斬(かざき)りよりも数段高い。


 俺の二本同時で放った血の刃は奴の左目を襲った。


「グギャアアアアッ!?」


 鬼は今までにない悲鳴を上げる。どうやら左目を潰すことに成功したようだ。


「そこぉ!」


 その隙を逃さず、ソーカが奴の剣を持った右手の人差し指を斬り落とした。その代償に片方の剣が折れてしまったが、これで奴の大剣を振るう力は半減された。


「グオオアアアアッ!」


 怒り狂った奴は再びその場で暴れ出したが、俺たちはとうにそこから離脱していた。


「ふぅ、こりゃあお手上げだねぇ」


 シェラミーもメイン武器を失い、俺と同じように短剣を取り出して息を整えていた。さすがの彼女も愛剣なしで突撃するほど愚かではないようだ。


(……いや、アマノ家との決闘では素手で殴りかかってたな)


 あのマッチョ相手でもやりかねない。さすがにあいつを殴って倒すのは無茶だ。


「ようやく片目と指一本……この後はどうするんだい?」

「うーん、心臓部分は硬そうだし……首かなぁ」


【血走り】でも喉を斬るのは難しそうだが、直接短剣を突き刺せれば攻撃が通るかもしれない。


 あの3メートルもあるマッチョな暴れん坊の喉元に迫れれば、であるが……


「もう片方の目も潰しておくかい」


 シェラミーはまだ闘志を失っていなかった。


「おい! 短剣(それ)で近づくのは無謀だぞ」

「もうそれしかないんじゃあ、やるしかないだろうさ!」


 シェラミーは不敵に笑って見せると再び突撃していった。


「ちょ!? 無茶だって!」


 俺も慌てて彼女の後を追う。


 ソーカは既に奴と交戦中だが、片方の剣まで失う訳にはいかず、攻撃は控えてスピードで攪乱する事に専念していた。


 ソーカが奴の気を引いていた隙にシェラミーが接近に成功した。


「くたばりな! 脳筋野郎が!」


 彼女は先ほどの俺と同じように奴の顔の高さまで跳躍すると、ナイフにありったけの闘気を籠めて右目に突き刺した。


「グオオオオッ!?」

「やった!」


 右目を潰して喜んでいたシェラミーだが、マッチョ鬼の怒りを買ってしまった。潰された目で最後の瞬間に捉えていたであろう彼女の方へ向けて、マッチョ鬼が大剣を振り払ったのだ。


 その光景を俺はすぐ後ろで見ていた。


(まずい! 直撃コースだ!?)


 シェラミーはまだ空中だ。あれを避けるのも、かといって耐えるのも不可能だ。


 俺は彼女が真っ二つにされる未来を想像したが、それを覆す男が現れた。


「ふんぬっ!」


 何時の間にか接近していたエドガーである。彼の馬鹿力の一撃がマッチョ鬼の剣の軌道を僅かにずらしたのだ。


 シェラミーのすぐ頭上を鬼の大剣が掠めて通り過ぎて行った。


「馬鹿が! 無茶し過ぎだ!!」

「ははっ! すまない。今のは……さすがに死んだかと思ったねぇ……!」


 シェラミーはハイになっているのか、顔を引き攣ったまま笑っていた。


「グオオオオッ!!」


 両眼を失ったマッチョ鬼は我武者羅に大剣を振り回していたが、力んだのと人差し指を失っていた影響か、大剣をフェルのいる近くにすっ飛ばしてしまった。


「きゃあ!? あぶなっ!」


 危うく直撃しそうだったフェルが冷や汗を流していた。


 あんな恐ろしい攻撃は予測すらしていなかったな。


「なあ。あいつ……どうするよ?」


 両目を失って視界を奪われた鬼はパニックになっているのだろう。俺たちを迎撃しようと、両手をやみくもに振り回し続けていた。そのお陰で近づくのがより困難になっていた。


「私の剣も限界です」

「俺の大剣も一撃で大破寸前だぜ?」

「このまま繁殖場所を潰して逃げるのもありじゃない?」

「うーん……」


 ここで命を懸けてまで、奴を倒さなければならない理由は無い。また再挑戦すればいいだけなのだが、それはそれで癪だし後々が面倒だ。それに高ランクの魔獣や亜人は生命力も高いと聞く。時間を掛ければ奴の両眼や指の怪我も治るのだろう。


 ここで奴を生かせば、余計に手強くなりそうな予感がする。ハードモードがナイトメアモードに格上げして降りかかってきそうな……そんな嫌な予感だ。


「……仕方ない。ここで倒すか」

「手順はどうする?」


 エドガーが尋ねてきた。


「俺が突撃する。皆は奴の後ろにまわって気を引いてくれ」



 皆は言われた通りに奴の背後にまわり、音を立てたり矢を放ったりして気を引いた。


「よし、突撃!」


 俺は全身に闘気を漲らせてマッチョ鬼に向かって全速力で駆け出した。奴は背後に居る仲間を気にしていた筈だが、突如闘気でも察したのか、俺の方へと振り向いた。


「くたばれええええっ!!」


 もうこうなったら奇襲は無理だ。代わりに俺は声を上げて跳躍し、奴の喉元に短剣を突き刺した。


「グオオッ!?」


 奴は悲鳴を上げながらも、こちらの攻撃を阻止しようと、両手で俺を捕まえてきた。このまま俺を握り潰すつもりか。


「ぐうっ!? ぐぎぎぎぎぃっ!」


 骨が折れるような音が聞こえた気がしたが、俺は歯を食いしばり、そのまま短剣を横へとずらして、喉をゆっくりと確実に斬り裂いていった。傷口からは大量の血が流れ出ていた。


「グオ……ッ!?」

「ぐううぅぅっ!!」


 こうなれば我慢比べだ。俺が握りつぶされるのが先か、奴が絶命するのが先かである。


 仲間も奴の身体によじ登って頭部やうなじを狙って攻撃していた。それでも俺が一番の脅威だと思ったようで、奴は必死になって俺を排除しようと試み続けた。


 やがて、奴の握力が徐々に弱くなっていることを感じると、遂にその巨体は前のめりになって倒れ始めた。俺を掴んだまま、俺のいる前の方へ……


「あ、待って。もうちょっと頑張れ! まだ倒れ……ぷぎゃ!?」


 こちらが抜け出す間もなく、奴は俺を握ったまま前方に倒れ伏した。


 その際、俺は後頭部を強く打ち、更には奴の顔に押し潰されてそのまま気を失った。

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