136 タオカオ闘技大会、開催
闘技大会前日
俺たち一行は開催地であるタオカオを目指して洋上を移動していた。
「うぅ……結構揺れますのぉ……」
「あうぅ……」
客室内では慣れない船旅でステアとクーが体調を崩していた。
「あと、どれくらいで着きますの……?」
「んー、あと五時間くらいで港に着くって船長が一時間前に言っていたぞ」
つまりは残り四時間ほどである。
「よ、四時間も……ですの!?」
「も、もう無理…………!」
ステアはぐったりし、クーはトイレへと駆け込んでいった。
俺たちが乗船しているのはリューン王国が誇る大型客船である。
普段は外交などで利用されるこの船だが、リューン王の計らいで今回特別に俺たち一行も乗せてもらっていた。
「アリステア殿は船旅に不慣れであったか。ならば陸路の方が良かったのでは?」
この船の持ち主であり、一緒に乗船しているニカ・リューン国王が尋ねてきた。
ぐったりしているステアに代わり、俺が答える。
「陸路だとカウダン商業国の連中に悟られる可能性があるからな」
「ふむ。アリステア殿の容姿が幼く見えるのも、カウダンの目を欺くためか?」
今のステアは神器【盛衰の虚像】によって姿だけを幼少期の頃に偽っている。
カウダン商業国から正式に招待されていない俺たちは名を偽り、リューン王の付き添いとして同行していた。
個人的な意見としては、別に俺たちの来訪がバレたところで構わないと思うのだが、一国の女王という立場だと、あまり礼を欠く行為や軽率な行動は他国からも軽く見られてしまうものらしい。
コルラン宰相やヴァイセル政務長官の提案もあり、ステアの安全面も考慮して極力お忍びで参加する事にした。
(ま、俺が告白したらバレるかもだけど……ヴァイセル執事長に怒られるだろうなぁ)
執事長すまぬ、許せ……
「ああ。極力、俺たちの存在は伏せておいてくれ」
「それは構わんが……貴様も大会に出るのだろう? ならば、すぐにバレると思うが……」
「え? ……そう?」
「黒髪に双剣……見る者が見れば一発だろうな」
「むむむ……」
それじゃあ、ソーカやセイシュウと当たるまでは一刀流か、それこそ違う武器で挑もうかな。
「ま、本戦までは武器も使えぬ。それまでは正体もバレぬだろう」
「え? 予選じゃあ武器駄目なの!?」
「うむ」
知らなかった……
「そういえば、アンタも大会に出た事あるって言ってたか。確か……タオカオ闘技大会の入賞者、だったか?」
リューン王ニカとタイマンで戦った時、そのような発言をしていた気がする。“霊拳流”の一門だとも言っていたな。
「……まあな、覚えていたか。まあ、本戦で一勝でもすれば入賞扱いだがな。余はそこ止まりであった」
「いや、王族の立場でそれなら十分だろ……」
ニカは拳で戦うスタイルだ。武器の使用が禁止されている予選を突破できたのもそれが理由なのだろう。
だが、ニカは更に本戦でも一勝したという。温室育ちの王族にしては十分過ぎる腕前だ。
「しかし……なんで予選は武器が使用できないんだ?」
「ふむ。以前、余が大会に招かれた際、案内人から聞かされた話ではな……」
俺はニカからタオカオ闘技大会の起こりについて教えてもらった。
昔、まだ小さな港町であった頃のタオカオに一軒のボロ酒場があった。その酒場が闘技大会の起源なのだとか。
今も昔も、酒場という場所には気性の荒い者が多く集まるものだ。タオカオのボロ酒場も御多分に洩れず、客同士の喧嘩が日常茶飯事で絶えなかったらしい。
しかも、当時のタオカオは周辺で戦争が頻発していた時期らしく、酒場の客層も自然と傭兵や兵士などの腕自慢が占めていた。そんな理由から、客同士の喧嘩も酷い乱闘騒ぎまで発展するケースが非常に多かったそうだ。
そんな状況に辟易した当時の領主は、酒場での武器の携帯を禁止した。
それでも、素手による酒場内の喧嘩が絶えず、更には外に出ての武器有り乱闘騒ぎも起こってしまう。
いくら武器を制限しても効果が薄いと考えた領主は、それならばと喧嘩をする場所を用意させた。町の郊外に簡易的な闘技場を設置し、そこで思いっきり争わせたのである。
これが未来のタオカオ闘技大会会場へと発展するらしい。
最初は傭兵や兵士同士で喧嘩の勝敗を賭けた賭博行為を行っていたのだが、そこに目を付けた領主が正式に管理をし始め、ルールもしっかり決めて武道大会を定期的に開催させたのだ。
これが荒くれ者たちのガス抜きにも繋がり、管理する側もそこそこの金が入る。
また、大会参加者たちにもメリットがあった。大会で活躍すると周囲の者たちの覚えも良くなり、軍や傭兵団にスカウトされるようになったのだ。
大会は徐々に規模が大きくなり、遠方の腕自慢たちも集うようになってきた。
それが紆余曲折を経て、今の大会方式までに進化したそうだ。
「なるほど……。過去の歴史を踏襲して、予選は素手、武器は本戦から、か」
つまり、酒場内での素手同士の喧嘩が予選で、外の闘技場が本戦というわけか。
「あと神術や魔道具の類は禁止されているぞ。それ以外は何でもアリだ。神器の武器を持ち込む者もいる」
「ん? 神器もいいの?」
神術禁止は知っていたが、神器の件は初耳だ。
「ああ。余が参加した大会でも神器を使っている者がいたな」
「マジか……」
それ……やばくね?
神器の能力によっては会場や観客にまで被害が出るんじゃぁ……
「無論、神器を扱う際には事前に申請が必要だし、制限もある。武器型の神器以外は基本的に持ち込む不可だ。また、故意に相手や観客を殺めるのも禁止行為だな。まぁ、あの会場内には観客席を防護する神器が備わっているのだがな」
「そんな神器まであるのか!?」
「ああ。それくらいの備えがなければ、王族を招いたりはせんだろうよ」
それならば【風斬り】を使っても平気かな? 外れても観客席に被害が出ないのなら問題なさそうだ。
ただし、神器の事前登録となると少々面倒だ。“魂魄剣”は武器型だが能力的には絶対アウトだし、俺が所有しているのをわざわざ公表するのもな……。今回は封印しておこう。
ニカと話し込んでいたら、船は何時の間にかタオカオ港に到着していた。
上陸の為の面倒な手続きはリューンの皆さんにお任せして、俺たちパラデイン組はこっそり船を降りて入国する。そのままタオカオの宿へと向かった。
翌日、いよいよタオカオ闘技大会当日を迎えた。尤も、本日は予選だけで明日から本戦だ。
俺たちパラデイン一行はそこそこのグレードの宿で部屋をいくつか借り、そこで寝泊りをした。王族は勿論、貴族すらも泊まりそうにもないレベルの宿だが、ステアの神業によって一級品の寝具や家具、食事などは簡単に用意できるので全く問題ない。
「今日は予選だけで、見学はできないんですの?」
「ああ、明日の本戦から観客席が設けられている本会場で戦うらしい」
既にステアたちの分の観客席チケットはリューン王ニカの計らいで手配済みだ。
俺たち参加者も偽名で登録されている。
俺、ケルニクスはケリー
ソーカはフーカ
セイシュウはセイとして登録されていた。
イブキは兄の応援に専念するらしく大会は不参加だ。エータと共にステアの護衛として観客席に座る予定である。
「ん? チケットが一人分余っているようだが……」
イブキが不思議そうに俺の持つチケットを見ていた。
「ああ、これは五郎の分だ。闘技大会を観たいって言ってたから、五郎の分も頼んでたんだ」
「ゴロウ……? ここにはいないようだが……」
「あー、五郎は船には乗れないんだ……」
五郎は前世でトラックに轢かれ、それが原因で苦しんだ挙句に死んで、この世界に召喚された経緯がある。その為か、五郎は乗り物全般が苦手となり、トラックに関してはすっかりトラウマを植えつけられてしまっていた。
馬車での短い移動ならギリギリ耐えられるそうだが、船は絶対無理だと言っていた。
ちなみに白いトラックを見せると反射的に破壊するか気絶するかの二択だ。
「じゃあ、その余った一枚はどうするのだ?」
「いや、五郎は意地でも行くって言ってたぞ。陸路で行くから少し遅れるって」
陸路だと関所などで身バレする恐れがあるので俺たちは船でこっそり入国したのだが……その事は五郎も知っている筈なので、恐らく密入国する気だろう。
まぁ、土の神術を自由自在に扱える五郎ならば、バレずに国境を超えるくらい訳ないだろう。問題は明日まで来られるかどうかだが……
(馬車でも一週間以上は掛かるのに……どうするつもりだ?)
「ゴローは元勇者だろう? こんな公の場に姿を見せても大丈夫なのか?」
「んー、多分平気じゃね? もう教会との奴隷契約も失効しているし、あとは五郎の気持ち次第だろう」
五郎本人が勇者に戻りたいと思っているのなら無理に引き止めるつもりは無いが、仮に聖教国から「戻って来い」と言われても、今の五郎がすんなり頷くとは思えない。
五郎は俺たちの大事な仲間だ。聖教国側が無理強いするようなら、こちらも打って出るだけだ。
「そういえば……”業火”は今回、不参加らしいな」
「え? そうなの?」
カロライナが大会不参加とは初耳だ。思わず俺はイブキに聞き返した。
「ああ。なんでも急用が出来たらしい。今大会は出られないと城に報せが届けられたそうだ。クロガモがそう言っていたぞ?」
「そっか……それは残念だな」
(よっしゃあ!! これで俺が優勝できる確率が上がったぜ!! 今回の大会はイージーか!?)
そもそも、タオカオ闘技大会に参加したのはカロライナから誘われのが発端だ。その点ではカロライナに感謝しているが、優勝してステアに告白するという俺の目的上、ソーカやカロライナが最大の障害だ。
強敵が減るに越した事はない。
(ま、大会は今年だけじゃあないしね)
カロライナとは次の大会で勝負すればいい。
俺たち選手組はステアたちと別れ、予選会場へと向かった。
予選会場は本戦会場とは正反対の街の郊外に設けられている。予選は野外の簡易的な闘技場だが、広さに関しては申し分ないどころか広過ぎるくらいだ。
(俺が所属していたメッセナー闘技場の何倍あるんだ? こんな広い場所で予選すんの?)
神術無しの一対一を想定した闘技場にしては広過ぎだろ!?
「参加者はこちらでーす!」
「列に並んで札を見せてくださーい!」
「参加登録がまだの方は、こちらが列の最後尾でーす!」
会場付近にはかなりの人数が集まっている。このほとんどが参加者なのだとしたら、かなり膨大な人数だ。
これは予選だけでも相当時間が掛かりそうに思えるが……本当に一日で終わるのか?
俺たち選手組はリューン王国が事前準備してくれた大会参加者用の札を持って列に並んだ。前日応募だけでなく当日参加もOKらしく、次々と参加者が増えていっているが、この人数でどうやって予選を行うつもりなのか……
「はい。その札をこちらにください」
俺たちの番が来た。受付に札を渡し、代わりに違う札を手渡された。札には番号が記入されている。
「その番号が予選グループの番号となります。ご自身のグループの番になりましたら、闘技場ステージまでお越しください」
「グループ……?」
「おや? もしやご存じありませんでしたか? 予選は集団戦でございます。大体40人から50人以上のグループで一斉に戦い、たった一人だけが本戦に勝ち上れるルールです。また、予選では武器の使用が認められませんのでご注意ください」
ニカ君? それ、初耳なんだけど……?
(アイツ……わざと黙っていたな!)
俺と共に参加したソーカとセイシュウの三人で一緒に札の番号を確認した。
「俺は……3番だな」
「私は4番ですね!」
「9番……だいぶ後のようです」
どうやら予選で俺たちが潰し合うことはないようで安心した。
しかし、最低9グループということは、現時点だけで少なくとも300人近くが参加しているということか。
予選グループ1の試合開始時間は10時かららしい。
予選会場には観客席などは一切設けられていないので、中の様子は全く分からない。
「素手のみの50人によるバトル・ロワイアル方式かぁ」
「うーん……。私、素手ってあまり自信ないです」
「私は徒手戦闘もそれなりに嗜んでますが……剣の方が望ましいですね」
ソーカもセイシュウも素手での戦闘はそこまで得意ではなさそうだ。
一方、俺はというと……
(ま、問題ないだろうな)
あの熊さんレベルの猛者でも現れない限り、取っ組み合いに持ち込めればまず負けない。単純な力比べで俺に勝てる存在は希少だろう。
闘技場の方向から男たちの野太い歓声が聞こえてきた。どうやら予選一回戦が開始されたようだ。
雄叫びや悲鳴が断続的に聞こえてくる。
その声も時間が経つと徐々に減っていき、しばらくすると係の者が次の2番グループ参加者に集合を呼びかけていた。どうやら第一グループの決着がついたようだ。
第2グループの選手らしき集団がぞろぞろと闘技場に集まっていく。この連中の戦いが終われば、次はいよいよ俺の3番グループの出番ということか。
「あ、師匠の番のようですよ」
闘技場の方が静かになったと思ったら、係の者たちが第3グループの選手たちを招集し始めた。
「じゃ、行ってくるわ。あ、セイシュウ。剣を預かってくれ」
俺は”魂魄剣”を含んだ二振りの剣とナイフをセイシュウに預けた。
「任せてください。ご武運を!」
「頑張ってください、師匠!」
こんな所で負けてしまってはステアに告白するどころか恥を掻くだけだ。絶対に負けられない!
闘技場には先ほどの案内係が教えてくれた通り、約50人の戦士たちが集まっていた。
この闘技大会では神術の使用が禁じられている。つまり、ほとんどの者が闘気を扱う戦士タイプなのだろう。むしろ闘気を扱えないようでは予選突破などあり得ない。
どいつもこいつも身体の大きな大男ばかりだ。中には小兵もいるが、闘気がある以上、見た目で判断すると痛い目を見るだろう。
「あっ! だ、大族長じゃあねえですかっ!!」
「ん?」
なんか……妙な役職で俺を呼ぶ声が聞こえる……
声の主の方を振り返ると、そこには記憶にない巨漢が立っていた。
「あー……その呼び方、もしかしてグゥ族の者か?」
以前、族長を含めたグゥの勢力をぶちのめした後、何故か俺は“大族長“という名誉職? を頂いたのだ。
(なんか蛮族のボスみたいで嫌なのだが……)
俺が尋ねると巨漢の戦士が答えた。
「え? あ、いや……俺はグゥ族じゃあねえっすが……。そうか、覚えてねえっすか……」
男は俺が覚えていないのだと悟ると、少しだけしょんぼりした後、すぐに気を取り直して話しかけてきた。
「ま、あの時はすぐにやられちまったから無理ねえっすね。俺はグゥの族長に雇われた傭兵の一人っす。ほら、拳でのタイマン勝負で戦った……」
「……ああ、思い出した! そういえば“火竜踏心流”だとか、『闘技大会に入賞した!』とか言っていた奴がいたな。そうか、お前か……」
大戦時、リューン軍の侵攻に同調する形でグゥ族もパラデインへと攻めてきた。その際、族長が独自に雇った腕利き連中が戦場にいたので、俺が対応したのだ。
幾人かには独自ルールでのタイマン勝負を持ち掛けられ、俺はその勝負受けた。各々の条件を呑んで、槍や拳、弓などで決闘し、その全員を撃破したのだ。
こいつはその時、拳鍔を装備していた武道家だろう。こちらも拳で挑んでぶっ倒した筈だが……
「お前も大会に参加していたのか。怪我はもう平気なん?」
「へい! お陰様で、この通りでさぁ! あの気狂いの聖女さんのお陰で、完治しやした!」
男は笑顔で両拳を見せてきた。
「あー、なるほど?」
そういえば、ヤスミンに敵兵の怪我人も見てやれって言った気がする。
まぁ、あの治癒神術中毒者なら、俺が言わなくても敵味方構わず治してしまっただろう。だが、俺が一言添えた事で、どうやら男は俺に対して恩義を感じているようだ。
「前の戦いでは実力不足を痛感して、あれから修行の旅に出てたんでさぁ。まさか捕虜となった俺たちを解放して貰えるとは思いもしやせんでしたが……」
別に俺は捕虜を手放した覚えはない。ただ、あの時グゥ族と共に攻め込んできた野盗崩れたちへの処遇はグゥの族長ナゥゼルに任せていたのだ。
恐らくナゥゼルはこの男を野放しにしても問題無いと判断し、釈放したのだろう。
(欲を言えばパラデイン軍に入って欲しかったけど……)
無理強いさせて仲間に引き入れても碌な事にならないので致し方あるまい。
男の名はパラドスというフリーの傭兵で、団の所属をコロコロ変えては、自由気ままに旅していたそうだ。
幸い、パラドスは若い頃に“火竜踏心流”という攻撃的な拳法流派を治めていた。皆伝にまで至ったパラドスは傭兵となり、その自慢の腕力で敵兵を伸してきたそうだ。
そこで少々天狗になっていたパラドスは俺に拳対決でぶちのめされ、一から己を見直そうと思い、闘技大会に参加したそうだ。
「あれから俺なりに鍛え直してみたつもりだ。“大族長”であるアンタに正面から勝てるとは思えねえが……予選はバトル・ロワイアル。隙があれば遠慮なくいかせてもらうっすぜ!」
「じゃあ、真っ先にお前を潰しておくか」
「え!? じょ、冗談っすよね……?」
冷や汗を流すパラドスの問いに俺は無言のまま笑顔を向けた。
(こいつ、さっきから大声で話しやがって……っ! 周囲に注目されちまったじゃねえか!?)
“大族長”だの、タイマン勝負で負けただの、いかにも強そうな巨漢のパラドスがあれだけ大声で話せば、周囲の者たちは「あいつ、強いんじゃね?」と疑いの目を向けてきたのだ。最悪、四方から集中攻撃を受けかねない。
これは50人規模のバトル・ロワイアル。なるべく人目を避け、こっそり戦って勝ち上がるのがベターな戦い方なのだ。
(それに俺、こっそり参加してるしな)
なるべくパラデイン王国の大元帥“双鬼”ケルニクスが参加しているとは悟られたくないのだ。
だが……
「おいおい。そんな優男相手に負けたってのか? 所詮、見掛け倒しって訳か」
一人の男がパラドスへと食って掛かった。
アイツは誰だと俺はパラドスの方に視線を向けるも、彼も困惑していた。どうやら知り合いではないようだ。
「なんだ? お前は……?」
「ふん。その腕の火竜の入れ墨。お前、“火竜踏心流“だろう? 猪頭揃いの流派だけあって、その恵まれた巨体も使いこなせんようだが……」
「その舐めた言い草……テメエ、“霊拳流”だな?」
「いかにも! 俺は“霊拳流”の皆伝者だ!」
霊拳流
確かリューン王ニカも”霊拳流”だったか。
詳細は不明だが、なんでもあの“帰心流”から枝分かれした流派らしいのだ。
“帰心流”とは違い、剣ではなく徒手による戦闘に重きを置く流派で、心身共に己を高めるのが目的らしい。
荒々しい拳法の“火竜踏心流”と流麗で静かな拳法の“霊拳流”。
同じ徒手戦闘でも対極に位置する二つの流派は大変仲が悪いのだとか……
「はっ! お高く留まっている“霊拳流”様がいちいち突っかかって来るな。あんまり吠えると安っぽく見えるぜ?」
「なあに、あまりにも耳障りな声が聞こえたので見てみたら、赤トカゲの自称拳法使いがいたものでな。少々苦言を言わせてもらっただけだ」
「……んだとぉ? テメエ……!」
「ほう、まずは貴様から叩き潰してやるか……!」
俺を置いて二人は勝手にバチバチし始めた。
(あ、ラッキー♪)
勝手に強者同士が潰し合ってくれるのなら放っておくか。周囲の者も同じ考えなのか、二人からそっと距離を置く。
やがて……試合開始の合図が出た。