133 他国からの使者
大陸歴1527年7月
俺が前世の記憶を薄っすらと思い出してから7年以上が経過した。
俺、ケルニクスは恐らく20才かその手前まで成長した。正確な誕生日なんて知らないのでかなり適当だ。
あの大戦からも三ヵ月が経過し、各地の復興も順調に進んでいる。俺も新たに誕生したキマイラ州の知事として尽力していた……が、政治の事は正直よく分からないので、書類仕事は部下にほぼ丸投げだ。
主にメービン元帝国元帥の次男であるトロム・メービン代官に統治を一任し、俺は視察という名目で州内を勝手気ままに巡回していた。
その結果、悪徳貴族2名、悪徳商人5名、違法奴隷商人3名を処分した。
悪が栄えた例はないのだ!
しかし、トロム代官はよくやってくれているが、とても忙しそうで色々と行政に手が回っていない。文官の人材不足は深刻なようだ。
そこで王政府に追加の文官を依頼して見たのだが、人手が足りないのはどこも同じらしく難しいとの返答がきた。
ただ、代わりに情報部のシノビから面白い情報を得た。
「一人だけ適任者がおりますが……出自に少々問題が……」
「ん? 別に能力があるのなら身分は問わないぞ?」
そんな事、当然シノビも分かり切っていると思っていたので俺が不思議そうに首を傾げていると、彼からその理由が告げられた。
「その男の名はミカエル・サンハーレ。エイナル・サンハーレの次男です」
「あー……」
エイナル・サンハーレ……懐かしい名を聞いた。
今パラデイン王国があるのも、ある意味この男が元凶と言っても過言ではない人物だ……悪い意味で。
かつて俺たち一行は色々な勢力に追われ、身を隠すためにティスペル王国のサンハーレ港町までやってきた。そこでしばらくの間平穏に暮らしていたのだが、その町の領主であるエイナル・サンハーレが、まさか周辺国と裏で共謀し、国に対して謀反を起こすとは完全に予想外であった。
それが切っ掛けで元王女であったステアを筆頭に決起し、今ではパラデイン王国という国まで立ち上げてしまったのだ。
後に当時の始まりの出来事を“サンハーレの乱“と呼称するようになるが、その際に首謀者であるエイナル・サンハーレ子爵は処刑された。
そして彼の家族はサンハーレの地から追放処分となったのだ。
さて、その家族がその後どうなったかというと、実はティスペル王国内……パラデイン王国内にいたのはこちらも把握していた。シノビたちが家族の同行を逐一監視していたからだ。
ただ、エイナルの正妻とその長男は貴族時代の贅沢が忘れられず、色々と無茶な生活を続けては周囲に迷惑をかけ、最後は犯罪にまで手を染めてしまって、現在は収監されている。恐らくそのまま日の目を見る事はもう無いのだろう。
一方、エイナルにはもう一人妾の妻がおり、更には息子もいた。そちらの親子は真面目に慎ましく暮らしているとの経過報告を受けていた。
どうやらその息子、エイナルの次男がミカエル・サンハーレなる人物のようだ。
「ミカエルは世継ぎの予定もなく、なんら教育は受けていなかった筈ですが、文官としての才能があるようです。町の商会で書類仕事を見事にこなしております。ヴァイセル殿もミカエル青年ならば人格的にも問題無いだろうと推薦しております」
「そうか、執事長が……」
どうやら妾の子供という立場上、当時の執事長ヴァイセルはあまりミカエル青年と接触が出来なかったそうだ。ただ、遠目から見守っていた限りでは、ミカエルは長男とは正反対の温厚な性格の好青年といった印象らしい。
「分かった。そのミカエル君を採用しよう。ついでに母親の方も問題無いようなら、なんか良い仕事を斡旋してあげてくれ」
「承知しました」
これくらいの強権は許されるのだ。俺、州知事で辺境伯だし。
そんなこんなで真面目な文官を一人ゲットできた。これにはトロム代官もニッコリだ。
後日……
「初めまして、閣下。ミカエルと言います」
ミカエルが礼儀正しく頭を下げてきた。
「ああ。よろしくな、ミカエル。サンハーレとは名乗らないのか?」
「……その名はあの時に捨てました。神に誓って申し上げますが、父のおぞましい一件につきましては、私と母は一切関わっておりません。知りもしませんでした」
あの一件……恐らく船の乗員を小鬼どもの餌にしていた一件の事だろう。あれはヴァイセルすらも与り知らない事だったので、当然ミカエル青年も知る由もない事だろう。
「ああ、そこは信用しているよ。あの一件はサンハーレ子爵の首で清算された。無論、それで被害者の命が戻ってくるわけではないが、ミカエルは過去に囚われず、トロムの下で思う存分に働いてほしい」
「はい! トロム代官! 若輩者ですが、宜しくお願い致します!」
「ええ。読み書きや計算は出来ると聞いておりますが?」
「はい。父の書斎からこっそり本を拝借して、一人で勉強しておりました」
「ほう。それは心強い」
どうやら性格の方も能力的にも全く問題無いようだ。これでひとまず落着か?
キマイラ州での仕事を終え、俺は一度王都ケルベロスへと戻った。
「それでは定例会議を行います」
ロニー宰相がそう宣言して会議が始まった。
本日の議題は二点ある。
「まずは一点。聖エアルド教国からの使者への対応について」
先日、アリステア女王の元に聖教国からの使者が来訪した。
大陸西部の大国が一体何用かというと、どうということもない。ただの宗教の勧誘であった。
正確には我がパラデイン王国に教会を増やしてみないか、という提案であった。その使者からの提案にステアは返事を一旦保留した。現在使者たちには王都の高級宿で休んでもらっている。
「聖教国ですか……つまり、我がパラデインを国として認めたと?」
オスカー元帥の問いにロニー宰相が頷いた。
「ええ、その通りです。先の大戦で勝利した我が国は周辺国からも正式に国家として認められ始め、徐々に周辺国との親交を深めつつあります」
やはりリューン王国を下して帝国を保護下に置いたのが大きいのだろう。実質、大陸南東部でパラデイン王国に真っ向から対抗できるだけの軍事国家は皆無だ。
我が国は領土的にはコーデッカ王国とそう変わりはないが、軍事面ではリューン王国を同盟国としているパラデイン王国が圧倒的に上をいく。
尤も、コーデッカ王国との関係は良好で、今のところ問題などは生じていない。
「あのジーロですら我が国を国家として認めたですの!」
そう発言した女王――ステアの心境は複雑そうであった。今までジーロ王国に対してステアはあまり良い印象を抱いていなかったからだ。だが、あちらが矛を収めた以上、何時までも突っかかる訳にも行くまい。
「教会……私はあまり詳しく存じ上げないのですが、それを建てる事によって、こちらに何か利はあるのですか?」
セイシュウが疑問を呈した。
ウの国は聖教国と一切交友が無かったらしく、当然教会も存在しなかった。セイシュウは教会や聖教国を知識として軽く知っている程度だそうだ。
「どうなんですの?」
ステアが尋ねた先は衛生大臣――の代理であるセラであった。
「はわわっ! わ、私は野良の治癒術士でしてぇ……教会の内情までは、ちょっとぉ……」
一番教会に詳しそうな元聖女ヤスミンは今日も会議をすっぽかしていた。その代理として送られてきた小動物――治癒術士のセラは教会に所属した事が無く、セイシュウと女王からの質問に困り果てていた。
だが今回、そのセラのサポート役として、サンハーレの教会所属であるシスターリンナにもお越し頂いていた。
「各教会には最低でも一名以上の治癒術士が配属されます。また、教会秘蔵の治癒薬なども提供できますので、衛生面でも期待できます」
「ふむ、それは有難いですな。ですが……費用対効果は十分に得られるのですかな?」
そう指摘したのはマテル・キンスリー経済大臣である。
「建設費は聖教国持ちです。運営費なども教会のお布施などから賄えますので、金銭的な要求は殆どないかと思われます。また、孤児の育成や貧民街への炊き出しなども行い、町の治安維持にも一役買っていると自負しております」
「なんと!」
これにはマテルだけでなく、他の者も驚きで目を見開いた。
「むぅ……そんな旨い話がありますかな?」
疑った眼差しで尋ねたのはゴンゾウ・サカモト軍務大臣である。
「勿論、あちらもそれなりの対価を要求してくるでしょう。基本的に教会内は治外法権……つまり王国の法律が通らない場所となります」
「「「なっ!?」」」
それは初耳である。という事は、サンハーレ内にある教会もそうなのか?
俺の心の中を見透かしたのか、シスターリンナがすぐさま話の続きを口にした。
「ご安心ください。サンハーレの教会は別物です。あれは国ではなく、先代のサンハーレ子爵が独断で招致して教会を建てたそうですから。その代わり、建築費用なども領主持ちで派遣された治癒術士も最低人数のみでした」
「そうでしたの……」
何時の間にか己の国の中に治外法権があったかもと知ったステアは焦ったが、リンナの説明に一同は安堵した。というか、そういった国未承認の教会は結構あるらしい。
「しかし……他国はそんな条件でよく教会を建てる許可を与えたりするものですな。それには何か理由があるのですかな?」
恐らくサンハーレ教会の内情を知っていたであろうヴァイセル政務長官が別の視点から質問を切り出した。
「ええ、ヴァイセル様の仰る通りメリットがございます。聖教国の教会を建てるという事は、聖教国からの庇護を得られます。つまり……勇者や聖女の派遣要請を行えるのです」
「勇者!?」
「聖女!?」
ここで勇者が出て来るか……
勇者
噂によるとその実態は俺やネスケラと同じ元地球人、つまりは転生者である。
ただし、俺たち天然の転生者と違い、勇者は戦闘用の肉体が予め用意され、そこに記憶を憑依して転生される仕組みなのだとか。
その肉体は魂に引っ張られ、元の身体と瓜二つになるそうだが、その性能は元の身体とは段違いで、まず身体能力が非常に高い。ただし、そこは天然の転生者も同様であるが、大きく違う点は、勇者の身体には高い魔力を保有しているという点だ。
一方、俺たち天然の転生者たちには魔力が一切なく、神器も何故か使用できない。
逆に勇者は神器も扱えるが、その影響や効果もしっかり受ける。どちらが良いかはその時次第だろうが、魔力の点のみを考慮すると明らかに勇者の身体の方が優秀だ。
「勇者……確か戦争を治めるという点に限り、教会を持つ国は派遣要請が出来る……そうでしたよね?」
ロニー宰相の問いにシスターリンナは頷いた。
「ええ、その通りですわ。勇者派遣はあくまで平和利用が目的であり、侵略戦争やその他の悪意ある目的では呼び出せません」
「ちょっと待ってください! それはおかしい! ナツメ殿はイデールの要請で侵略戦争に参加していた筈ですよね?」
すかさず指摘したのはアミントン・ケネディ軍団長である。
アミントンは当時、サンハーレ軍の中隊長として防衛任務に参加していた為、敵側にいたであろう勇者、夏目五郎の存在について指摘した。
それはオスカーも同様でリンナからの返答に耳を傾けていた。
「あれは……詳しい事情は地方のシスターである私如きには分かりかねますが、恐らくイデールの巧みな交渉もあって、教会もあれを侵略戦争とは見做さなかったのでしょう。むしろサンハーレ側を平和を乱す対象として見た、という事かと……」
「ううむ……」
それは十分あり得る話だな。
エイナル・サンハーレの悪行によって小鬼が大繁殖し、それを放置してはおけない……とか理由を付けて、教会が五郎をイデールに派遣した可能性はあると思う。
五郎本人は教会のお偉いさんに言われるがまま馬車でイデールまで運ばれたらしく、詳しい経緯などは知らないらしい。イデールがどういった名目で勇者を駆り出せたのかも分かっていなかった。というか、五郎は当時馬車酔いでそれどころではなかったそうだ。
ならばイデールの上層部に確認すればいいじゃない。
という事で、元イデール軍のモルセイ・ベルモント元帥にお越しいただいた。
今のモルセイは第一軍団長補佐という立場でアミントンの部下になる。
「申し訳ありませんが、私には分かりかねますな。私も後から知ったのですが勇者ナツメ殿の派遣は一部のイデール貴族が独断で教会と契約し招集した結果のようです。教会に問い合わせれば、何か分かるかもしれませんが……」
「うーん、それは藪蛇になりそうだから嫌だなぁ……」
俺は顔を顰めながら呟いた。
今の五郎は奴隷契約状態ではあるものの、敵と設定されていたサンハーレ勢力はもはや存在せず、隷属の首輪の効力も徐々に失われつつあった。
シスターリンナ曰く、恐らく一年か二年の契約期間を満了すれば、完全に開放されるのだとか……
五郎が俺たちの元に来てほぼ丸一年、もしかしたら近日中にでも奴隷から解放されるかもしれないのだ。そんな状況で教会に五郎について問合わせ、勇者を返せと言われても面倒なだけだ。
「大体は分かりましたの。とりあえず、今のところ教会を建てるメリットはあまり感じませんの」
ステアの一言で結論が出た。
「では、聖エアルド教国とは国交だけして、教会建設の方はお断りをする。それで宜しいですか?」
ロニー宰相の問いに一同は頷いた。
これで議題の一つは解決である。
さて、問題の残り一つだが……
「次は新たな使者……昨日訪れたばかりの南シドー王国の使者への対応について」
「…………」
ロニー宰相の言葉にステアは思わず顔を顰めた。
南シドー王国……そう、元はシドー王国の領地であり、ステアの祖国でもあった。
ステアの元の本名はアリステア・ミル・シドー。正真正銘、シドー王国のお姫様である。
ステアはシドー国内の王族同士による政権闘争に巻き込まれるのを避ける為に、母方の実家であるホルト王国のミルニス公爵家までの亡命を決行した。その折に俺とステアたち一行は出会ったのだ。
シドー王国からの追手を搔い潜り、ようやくミルニス公爵家まで来てみたら、なんとそこの当主自らが邪魔なステアを抹殺しようと目論んでいる張本人だと発覚したのだ。
これは拙いと一行は更に逃避行を続け、東の地サンハーレまで来たのだ。
さて、ステアが去ったシドー王国だが、現在も三つの勢力同士で未だに争っていた。
まずは最大勢力である正統シドー王国。
こちらの筆頭はエリック・ライム・シドー第二王子で、自らを正当な後継者と謳い、既に王を名乗っている。まぁ、継承権から言っても彼の言い分には正しいものがあり、王都を含めた国土の半分を支配下に置いている。
後ろ盾にはエリック第二王子の母親の出身であるホルト王国も存在し、他の周辺国からも正統シドー王国を推す声は大きい。
第二勢力は北シドー王国。
筆頭は前王の弟であるムガン・バル・シドー大公であり、やはりムガンも自らを王だと主張している。
北シドー王国の後援国は北東部に隣接しているダーム王国と東部に隣接しているナニャーニャ連邦の一部の国である。国土は旧シドー王国北東部を少しだけ支配しているだけに過ぎない。
そして第三勢力の南シドー王国。
こちらの筆頭はアレク・ミル・シドー……ステアの実の弟だ。
アレク自身は第七王子と元の継承順位もかなり低く、まだ幼いので発言力も弱い。だが、アレクの後ろ盾には東部の隣国シュナ国とそのシンパの貴族たちが存在する。
領土は南部を僅かに治めている程度だが、それが沿岸部全域となっており、正統シドー王国と北シドー王国は海上を封鎖されたも当然の形だ。
勿論、両勢力は必死になって南部を取り返そうと試みるも、シュナ国の海洋軍事力はなかなかのものらしいく、更には隣国ではないがカウダン商業国も裏から支援しているとの情報だ。
現在はその三勢力が互いにシドー王国の正統後継者と名乗り出て争っている状況であるのだが……
「今回使者として訪れたのは南シドー王国。つまりアリステア女王陛下の実の弟君が治められている勢力だそうですが……如何致しますか?」
ロニーが気まずそうにステアへと伺った。
「……使者はなんと申しておりますの?」
「陛下に会わせろ。そう主張するだけでございます」
聖教国の使者とは違い、南シドー王国の使者は随分と横柄な態度らしい。来訪目的も一切告げず、女王に会ったら直接伝えるとこちらの兵を怒鳴りつけてきたのだ。
「……いいですの。ならばこの場にお呼びするですの」
「え? 今、この場で……ですか?」
突然の女王の言葉にロニーは驚いたが、少し迷った後、兵士に伝令を送った。どうやら本当にこの会議室に呼びつけるつもりらしい。
……二時間後、二人の使者が会議室へと訪れた。
「一体、こんな場所に呼びつけてどういうつもりか!」
「謁見の間でもなく……会議室、だと? 非常識ではないか!」
女王や他国の官僚たちを前にしても使者の言葉遣いは荒かった。
それに真っ先に反応したのは近衛隊隊長のエータである。
「貴様ら! 女王陛下の御前だ! 図が高いぞ!」
エータが声を荒げて注意するも、逆に二人の使者は怒り始めた。
「なんだと!? 近衛風情が……!」
「我らは王の代理で来ているのだ! ならば女王とも対等の筈。頭を下げる道理はないわ!」
「……なんだと?」
今の発言にはエータだけでなく、俺や他の者たちも使者たちに怒気を放った。
「ひぃ!?」
「な、なにを……!」
複数の闘気使いから殺気に近い怒気を放たれて、そこでようやく二人の使者は迂闊な発言をしてしまったと思ったのか気後れし始める。
だが……
「……構いませんの。それより、さっさと用件を話すですの」
ステアは俺たちを制止し、使者へと語り掛けた。
「は、はは……流石は女王」
「話が分かるじゃ――――」
「――――聞こえなかったですの? さっさと用件を話すですの。それとも話が無いようならお帰り頂きますの」
「「~~~~っ!?」」
ステアの素っ気ない態度に使者たちは慌てながらも、ようやく本題を口にした。
「わ、我が南シドー王国と貴国とで軍事同盟を結ぼうではないか!」
「女王の弟君であられる我が王もそれを望まれている!」
「…………」
やはり……そういった類の話か……
話によると、南シドー王国はだいぶ苦しい状況に置かれているらしい。シュナ国はシドー王国の領土欲しさにシドー南部の貴族たちを買収し、政権争いに介入したのはいいが、戦況は長い間泥沼状態だ。
今はカウダン商業国が支援をしてくれてギリギリ持っているが、それも何時まで続くか分からない状況らしい。カウダンが支援を打ち切った瞬間、南シドーは敗退し、シュナ国にも深刻なダメージを与えるだろう。
そこで彼らが思いついた策は、最近急激に力を増したパラデイン王国の軍事力に縋る事であった。幸いにも南シドーの形だけの王、アレク・ミル・シドーはステアの実の弟である。その伝手で支援を受けられないかと考えても不思議では無かった。
だが
「それで? その同盟が我が国にとって何の利となりますの?」
「「っ!?」」
ステアの冷酷な切り替えしに使者たちは言葉を詰まらせた。
「まさか……わたくしの弟というだけで、我が国から無料で支援を受けられるとでも思っているのですの?」
ジト目で尋ねるステアに対し、使者たちは冷や汗をかきながら弁明した。
「い、いや、待ってください! シドー王国領土さえ取り戻せば、そちらにも十分な見返りはお約束できますぞ!」
「そうです! 貴方を追いやった第二王子派閥に復讐したいと思わないのですか!」
「……どうやら話は本当にそれだけのようですの。では、お帰りくださいな」
ステアが視線で合図を送ると衛兵たちが使者の両腕を掴んで無理矢理追い出し始めた。
「ま、待てー!! このような無礼、あんまりではないか!!」
「弟君を見殺しにするつもりですかー!!」
「でしたら! 今度はアレク自らここに連れて来るですの! そうしたら一考してあげますの!」
「「……っ!?」」
ステアの提案に使者たちは気まずそうに視線を逸らした。
「……どうやら無理なようですのね。では……さっさと王国から出て行くですの!」
「ま、待ってくれー!」
「まだ話が…………」
そのまま使者たちは外へと追い出された。
俺は項垂れるステアにそっと声を掛けた。
「……良かったのか?」
「わたくしはこの国の女王。弟と国……秤にはかけられないですの。それに……恐らくアレクは既にシュナ派の貴族どもの傀儡にされているですの……」
恐らくそうなのだろうなとは予め予想していたが……
弟なのに姉への手紙一つも寄越さず、今更使者がノコノコと訪れてきたのだ。下手をしたら今の王は影武者でアレク君本人は既に死亡している可能性も否めない。
ステアは悲しそうに使者たちが出て行った扉の方角を見つめ続けていた。