127 野良飛竜
ジーロ王国領から三つの傭兵団がほぼ同時侵攻して来たという報告を受けた。
しかも、その傭兵団は何れも最高峰の“石持ち”級だという。
“石持ち”とは、傭兵ギルドの評価ランキング1位を長期間継続することにより、金級上位から除外されて殿堂入りとなった傭兵団の事をいう。殿堂入りとなった傭兵団は好きな鉱石を選び、それが金級以上の新たな階級として、自分の団の認識票に使用されるのだ。
まぁ、名誉ある二つ名みたいなものだ。
過去に俺たちが戦った尖晶石や緑柱石、イヴレフが昔所属していたという天河石などがある。
(それが……三つ!?)
俺の聞き間違えだろうか?
「悪い。今……なんて?」
念の為に無線で聞き返すと、通信相手である伝令兵から、更に詳しい情報が届けられた。
『現在、ジーロ王国領から三つの”石持ち”傭兵団が同時侵攻中! まだ、どこの傭兵団かは特定できておりませんが、内二つの団が少し先行する形で、王都ケルベロスにまっすぐ侵攻中です!! 既にネスケラ参謀長指示の下、防衛網を敷いて応戦しておりますが……全く止まりません!! 残りもう一つの団も二つの団の背後から猛スピードで進軍中! 元帥は至急、ケルベロスにお戻りください!!』
「やっぱり聞き間違えではないか…………」
(戻れって言われても……ここ、ケルベロスからだいぶ離れているぞ!?)
しかし、このタイミングで仕掛けて来るとは……ジーロめ! やってくれたなぁ……!
俺は伝令兵から更に詳しい情報を聞いてみるも、無線相手の兵も更に別の伝令兵から無線で連絡を受け、それをこちらまで中継しただけのようだ。彼からはあまり有益な情報を得られなかったが、あまり時間が残されていないのは間違いなかった。
すぐにパラデインへ帰投する必要がある。
エドガーにセイシュウも合流し、俺は二人に事情を説明した。
「一刻も早く戻るべきだろうが……こっから最短ルートだと、やはりボートを呼ぶべきか?」
「……それしかないでしょうね。しかし、ここはリューン王国の南端です。パラデインに最も近い港、サンハーレ港に戻るには、半島を回る形になるので、それなりの時間を要するでしょうね」
今からボートを呼んで向かっても……ケルベロスまで丸一日くらい掛かるかもしれない。この辺りの詳しい地理や海域情報が分からないので、もっとだろうか?
それで果たして、間に合うかどうか……
「……飛竜を使うといい」
ぼそりと弱々しい声が聞こえてきた。
声の主を見ると、なんと地面に倒れたままのリューン王が喋ったようだ。思っていたより早く目が覚めたようだ。
「大体の話は分かった。ジーロにしてやられたのであろう? 我がリューンが誇る飛竜ならば、数時間でケルベロス上空へと辿り着ける」
「マジか!?」
確かに空なら……! それは非常に助かる提案だ!
だが、エドガーとセイシュウはリューン王を警戒していた。
「なんだってアンタは敵に塩を送るような真似をする?」
「貴殿はこの国の王ではないのか? それが何故?」
「……もう勝敗は決した。リューンはパラデインに降伏する。だが……勝者である貴様らの女王が、ジーロ如きの卑劣な手によって討たれるという状況は、余にとっても非常に面白くない。ただ、それだけだ……」
「「「…………」」」
彼の言葉に俺たちは口を閉ざした。
俺は……リューン王を信用できると思っている。俺がエドガーとセイシュウの方を見ると、二人も互いに頷き合って同意を示してきた。
というか、もうそれしか道は無いだろう。
「分かった。俺を飛竜に乗せてくれ。俺一人でもケルベロスに送ってくれれば、後はどうとでもする」
「分かった。だったら……早いところ全軍に停戦命令を出すのだな。余の手駒の飛竜もだいぶ減ってしまった。このままでは貴様らの兵に狩りつくされて――――」
――――ギャオオオオオオオン!?
そんな話をリューン王が話していると、飛竜の悲痛な叫び声が上空から木霊した。
一同が空を見上げると、翼に深手を負った飛竜が城の方へと落下していく光景が視界に映った。派手な音を立てて城壁に衝突した飛竜はそのまま動かなくなる。
上空から、風の神術を使いながらゆっくり降下してくるソーカが笑顔を見せていた。
「ししょー! 見てください!! 私たちで飛竜騎士団を倒しましたよー!!」
見ると、ソーカの他にフェルとイブキ、レアの女性陣が集結していた。
どうやら遠距離手段のあるフェルとレアが援護射撃し、空中でも機動力のあるソーカと身軽なイブキが共闘して、飛竜騎士団を倒してしまったようだ。
「あ、あれ? 飛竜が一匹も飛んでいないような……」
俺が疑問を浮かべていると、フェルとイブキが勝ち誇った顔を浮かべながらこちらに近づき、そのすぐ後ろをレアが付いて歩み寄ってきた。
「ま、私の弓にかかればこんなもんよね!」
「わ、私の神術も……少しはお役に立ったでしょうか?」
「我らにかかれば造作もない。飛竜騎士団は壊滅したぞ」
「「「な……なにぃいいいい!?」」」
とんでもない事になってしまった…………
「ほ、本当に一匹も飛んでいない……」
リューン王は唖然と空を見上げたまま固まっていた。
俺は慌てて全軍に停戦命令を出す。しかし、もう遅過ぎたようだ。
「イブキ、なんてことを……」
「兄上? なにか問題でもありましたか?」
「実は……」
セイシュウが王都ケルベロスの窮地について説明した。
「「「ええええええええ!?」」」
最後の頼みの綱である飛竜を一掃してしまった四人娘は思わず声を上げていた。レアに至っては、こちらに何度も頭を下げて謝ってきたが、別に彼女らに落ち度はない。
「よ、予備の飛竜はいないんですか!?」
罪悪感があるのか、青褪めたソーカがリューン王に尋ねた。
「貴様ら相手に出し惜しみできる戦力などおらんわ! それにしてもまさか……御子のレギンソンまでも堕とされるとはな……。くそ! 流石に計算外だったぞ!」
最後に城の方に堕ちていった飛竜騎士がどうやら、神業持ちのレギンソンという男らしい。
リューン王はレギンソンになるべく高い高度を維持しながら戦うように命じていたようだが、迂闊にもソーカ相手に少しだけ高度を下げてしまったらしい。恐らく自分たちの王が討たれそうになり、思わず降下してしまったのだろう。
その隙を四人娘に狙われたようだ。
(全員、超一級の戦士だからなぁ……)
それにしても、全く攻撃が届かない上空というアドバンテージを失った飛竜騎士団は随分と脆いものだ。やはり守るモノが存在する防衛戦は飛竜騎士団には不向きだったようだな。
「誰か飛竜の怪我を治せないのか?」
こちらも飛竜騎士団を皆殺しにしたわけではない。
そもそも、俺たちは相手を極力死なせないよう配慮して戦っているので、飛竜に対しても空を飛べないよう翼だけを狙うように心がけていた筈だ。
「治癒神術士が総出でも、飛べるように回復させるまで、かなりの時間が掛かるだろうよ」
「ぐぅ! こ、こんな時、あの治癒神術中毒者が居てくれたら……」
ヤスミンは現在、俺たちが国内で大暴れした事後処理をしている最中である。今頃あの変態聖女は涎を垂らしながら負傷者の治療を行っているのだろう。
だが、ヤスミンという超優秀な治癒神術士が居るからこそ、俺は敵兵の手足を気兼ねなく斬り飛ばしてこれたのだ。
だが、負傷者の量があまりにも多すぎる為、ヤスミン隊長率いる後方支援隊は当面動かせないだろうし、そもそもヤスミンを呼びつけて待つだけの時間が無い。
万事休す、か……
(仕方がない。馬で最寄りの港まで向かってボートに乗り換えるのが最短か……)
俺がそう思考を切り替えようとした時、リューン王が思い出したかのように、突如口を開いた。
「一つだけ方法が無くもない。今思い出したが、飛竜はもう一匹だけ居る」
「え!? ホント!?」
「おいおい。なんでそれを早く言わねえ!?」
エドガーが批難するとリューン王はその理由を説明した。
「そいつは野生の飛竜なのだ。しかも変異種なのか、我らが飼育している飛竜よりも身体が二回り以上も大きい個体だ」
「あの飛竜より二回り以上って……もう飛竜ってレベルじゃねえぞ!?」
リューン産の飛竜は野生のそれよりもかなり大きい。だが、そのサイズよりも、そいつは遥かに大きいのだという。
「もうそれはドラゴンの域ね……」
魔獣に詳しいフェル先生が呆れながら呟いた。
「そんな奴、上手く操縦できるのか?」
イブキの問いにリューン王は顔をしかめた。
「難しい。かなり気性が荒く、あのランドナーでさえ御しきれなかった」
「ランドナーって誰?」
「貴様が倒して捕虜にしている飛竜騎士団の団長だ」
「あー、あの団長さんかー」
あの人にも無理なのか……じゃあ無理じゃね?
「飛竜はもうそれしかいねえのか?」
「いない。貴様らが全員倒してしまった」
「「「うっ!?」」」
今度はソーカたちが気まずそうに顔をしかめる番だ。
「じゃあ、無理でもなんでも、そいつを飛ばすしかないな。でも、俺に飛竜の操縦なんて……できねえぞ?」
ポーラを連れて来れば良かった……いや、確か生物が直接相手だと【操縦】スキルの効果範囲外なんだったか?
「余が乗ろう。飛ばすだけなら……なんとかできる」
まさかの余さんが操縦できるらしい。
「その代わりケルニクス、貴様が奴を従えさせてみせよ! そうすればパラデインへの最短ルートが開けるであろう!」
「お、おう?」
なんかよく分からんが……暴れん坊を大人しくさせればいいのか?
そういうのは得意分野だぞ……多分。
――――王都フレイム、城内僻地の独房
牢屋の外は依然として騒がしかった。
それもそのはず、今は王国の存亡を懸けた最終決戦の真っ最中らしいのだから。
「それだと言うのに……飛竜騎士副団長であるこの私を、こんな牢屋に閉じ込めるとは……!」
それもこれも、私をこんな所に閉じ込めた、あの無能な王が招いた失態だ!
こうなったらこんな牢屋、なんとかして抜け出し、予備戦力の飛竜を奪って……
そんな事を考えていたら、突如牢屋の外壁が吹き飛んだ。
「うわっ!? い、一体なんだ!?」
外壁があった方を見ると、なんと飛竜が倒れ込んでいた。どうやら翼を負傷して牢のある城壁のところに激突したようだ。壁が完全に破壊されている。
「む、この飛竜は……レギンソンのか!?」
よく見れば、破壊された外壁の丁度真下の位置には、同じく負傷して倒れているレギンソンの姿が見えた。
手に槍を持って必死に立ち上がろうとしているが、あれではもう満足に戦えまい。
一瞬、奴にトドメを刺そうかと思いが過ったが、今はあんな小物に関わっている時間が惜しい。
(好機! 今の内に牢を脱出する……!)
私は破壊された箇所から外に出て、外壁伝いに脱出を試みた。
幸いにも、今は国家の存亡を懸けた戦争中で、罪人の脱獄など誰一人注視していなかった。
(しかし……この後はどうする? 馬で逃げるか?)
いや、無理だ。我が家も反逆罪で爵位と資産を没収され、もう国内に行く当てなど無いのだ。かといって、この状況下で馬で海外まで逃亡するのは至難の業だ。パラデイン軍本隊も近くまで迫っていると聞いているし……
(くそぉ……出来れば空を飛べる飛竜を調達したいが……ん?)
そういえば……一匹だけ誰にも躾けられなかった野良の飛竜が居た筈だ。
かなり巨体な個体で、当時の私では手懐けられなかったが……
(副団長である今の私なら……いけるかもな。うん、いける、いける! だって私、実質的に団長レベルだし!)
無能なレギンソンやクソッタレのランドナーよりも、私の方が生まれも実力も上の筈だ。そんな私なら、きっとあの飛竜も御しきれよう!
「よーし! そうと決まれば……!」
私は野良の飛竜がいる小屋を目指して走り出した。
「こっちだ! ケルニクス!」
「おう!」
王様の案内で俺たち二人は城内僻地にある飛竜の飼育スペースを目指していた。そこには飛竜の寝床である小屋が何棟も建てられており、その野良飛竜は一番大きくて頑丈な小屋に閉じ込めているらしい。
一応、餌は毎日欠かさず与えているので、健康を通り越して無茶苦茶元気な状態なのだとか。
「なんでそんな奴、元気にさせておくよ!?」
「いや……最悪、奴を戦場に解き放って暴れさせるという作戦も立案されていたのだが……」
「とんでもねえな!?」
それ、おたくらの兵も無差別に襲われない!?
「さすがに余も承認出来かねてな……そのまま放置していたのだが……」
「餌だけは毎日あげちゃってたって訳か……」
「この国には飛竜好きな連中が多いからな。もし、奴が暴れるようなら、殺さないように配慮して欲しい」
「色々と無茶言うなぁ!? この王様!?」
ドラゴン級の魔獣を殺さず大人しくさせろって……ハード過ぎんだろう!? まぁ、俺ならできるかもしれないけれど……
いよいよ、それっぽい小屋が見えてきたが、その前には怪しい男が立っていた。
その男の方も、走り寄って来る俺たちに気付いたようだ。
「ん? なんだ、お前は……って、後ろの御方は――――」
「――――邪魔だ!」
「ぐはっ!?」
なんだか面倒くさそうだったのと、俺の悪徳センサーが反応したので、問答無用で怪しい男をグーパンで伸した。
「こ、こいつは……何故、ここに?」
殴られて気絶している男をリューン王は怪訝な面持ちで見降ろしていた。
「あれ? 倒しちゃまずい奴だったか?」
「いや、全く問題ないぞ。余もついでに一発殴っておくか」
「ぐぇ!?」
ゴン! っと容赦なく追い打ちをした王は、ピクピク痙攣した状態の男をそのまま放置した。
「さて、この小屋の中だ。鍵は、確か……」
「時間が惜しい。離れてろ」
俺は【風斬り】で扉の錠を切断した。
その直後――――
「グルアアアアアアアアアアアッ!!」
扉が開いたのを悟ったのか、巨大な飛竜が猛スピードでこちらに突進してきた。
「いきなりか!? 手早くてありがたい!」
「ケルニクス、いけるか!?」
リューン王は一歩後ろへと下がった。
「パワーなら負けん!」
巨大なワイバーンが振るった腕を俺は右手だけで受け止めた。
「グルゥ!?」
自分より遥かに小さい存在に攻撃を防がれた野良ワイバーンは、今度は巨大な口を開いて噛みつこうとしてきた。
咄嗟に左手で口を開くのを阻止しようとするも、奴の口が大き過ぎて手が届かず失敗してしまう。
そして、そのまま俺の左腕は噛みつかれてしまった。
「ぐっ!? いってぇな……!」
お返しに剣で切り刻んでやろうかと殺気を放つも、ここでコイツを倒してしまうと飛べる足が無くなってしまう事を思い出す。
痛みでブチ切れそうになった荒れた心を鎮めようと俺は努力する。
(お、落ち着け、俺。怒りを……鎮めるのだ)
確か、そんな時は……あんがー……そう、アンガーマネジメントだ!
元帥となった俺が戦場でも冷静に対応できるようにと、ネスケラが薦めてくれたのがアンガーマネジメントである。
どうやら怒りはある程度コントロールする術が存在するようで、その一つが“6秒間待つ”というものであった。
「お、おい!? ケルニクス、大丈夫か!? 腕を……!」
腕を噛まれ、その怒りで青筋を立てている俺を見たリューン王が心配そうに声を掛けてきた。
「だ、大丈夫だ。俺は……怒ってないぞ」
顔を引きつらせながらも笑顔を見せる俺。それと同時に6秒を数え始める。
(いーち、にー……)
「し、しかし……血が出ているぞ?」
「グルゥウウウウ!!」
「ちょ、ちょっと、じゃれて甘噛みしてるだけだ……問題ない。おー、よしよしよしよし。良い子だー、怖くはないぞぉー!」
(さーん、しー……)
心の中でカウントを進めながら、まるで風の谷の姫様にでもなった気分で、暴れる飛竜を俺はあやし続けた。
「ガウ! グルッ!! グルアッ!!」
「よ、余計に飛竜が暴れ始めたようだが……?」
「い、いたたっ!? 腕白な奴だな……。ちょっと噛むのをやめようかー? 飛竜ちゃーん?」
「グルウウウウウウーッ!!」
おかしい……余計に暴れ出した。
(ごー……ろく!!)
そして…………6秒が経過した。
アンガーマネジメントの効果は――――
「――――あんがああああああッ!!」
俺は6秒のカウント終了と共に雄たけびを上げ、噛まれた左腕を飛竜ごと高く持ち上げ、そのまま地面へと叩きつけた。
「さっきから『いてえ!』って言ってんだろうがぁっ!! このトカゲ野郎がぁあああ!! 死ねぇーい!!」
6秒経っても怒りが鎮まるどころか、鬱憤が蓄積されただけだったよ……
アンガーマネジメント、失敗。
「グギャアアアアアーッ!?」
地面に叩きつけられた飛竜が悲鳴を上げる。俺はそのまま倒れた飛竜の頭部を抑えつけ、素手で何度も殴った。
「お、おい!? ヤバい音が聞こえる! それ以上、頭部を殴るのはまずいぞ! ケルニクス、鎮まれ! 待てだ、待て!」
「フーッ! フーッ!」
気付いたら、何故か俺がリューン王にあやされていた……解せぬ。
俺に散々殴られた野良飛竜は……目を回して倒れていた。
「これは……ちょっとやり過ぎたか?」
「かなりやり過ぎたな。まさか素手でコイツを殴り倒してしまうとは……左腕は平気なのか?」
「あー……噛まれた痕が残ってる……ちょっとヒリヒリするぞ」
もう出血は止まっていた。問題無く動かせるが、少しだけ痛い。
「貴様の身体は一体どうなってるんだ?」
リューン王が呆れた様子で俺の左腕を見ていた。
少しだけ待つと、野良飛竜がすぐに目を覚ました。
「グルゥゥゥ…………グルゥッ!?」
野良飛竜は俺の顔を見ると、まるで逃げ出すように空を飛び始めた。
「お前は絶対逃がさん!」
俺は【不落】を使って空中を駆け上がり、飛竜の前に先回りした。唯一の安全な逃げ場所だと思っていた退路を断たれ、飛竜は絶望の鳴き声を上げる。
すると、すぐに大人しく地上に降りた飛竜は、今度はリューン王の背後へと回り込んだ。
そのまま後ろからリューン王を攻撃するのかと思いきや、なんと飛竜は俺から逃れる為なのか、その巨大を少しでも縮めようと身を丸め、必死に彼の背後に隠れようとしていた。
「…………なんだ、これ?」
「…………どうやら、しっかり調教できたようだな」
なんか、思っていた光景とやや違うが……調教成功、なのだろうか?
「飛竜よ。こちらの言う事を聞けば、そこの野蛮人はそれ以上貴様に危害を加えん。我ら二人を乗せて目的地まで飛ぶのだ」
幼少期から飼育されている飛竜は多少の知恵がつくようで、人の言葉を理解するそうだ。
さて、この野良飛竜はというと……
「……ふむ。少し落ち着いたか? ケルニクス、こやつの小屋の中に専用の鞍や轡があるはずだ。それを取ってこい」
「お、おうよ!」
どうやら多少の人語を理解するのか、野良飛竜はリューンの言葉に耳を傾けているようだ。
ここは専門家に任せて、俺は言われた通りの装備品を持ってきた。それを飛竜に装着させ、騎乗する準備を整える。
「よし! 余が前に乗る。貴様は後ろで余の身体にしがみ付け」
「飛竜の二人乗りか……安全運転で頼むぞ? おい、飛竜。もし俺たちを落としたら……お前も一緒に堕ちてもらうからな?」
「グルッ!?」
俺の言葉を完全に理解しているのかは知らないが、飛竜が再び怯え始めた。
「こら、脅すでない! 大丈夫だ。貴様のペースで飛んでみせるのだ。頼んだぞ!」
「クゥゥン……!」
今度はリューン王に甘えるような声を出してきた。
うーん、見事なまでの飴と鞭。でも、俺が飴役の方が良かったなぁ……
俺たち二人を乗せた野良飛竜は、両国の兵士たちに見送られながらフレイム城を飛び立った。