第二十七話 対巨神獣第一型魔力感知式兵器
「――ところで國満」
腰掛けた大岩から降りた師匠。
「はい、どうしました?」
「お前は何処かで体術でも習ってたのか? 体術面に関しては俺にはもう教える事が無いぐらいの高みにいるようだが……」
「……え? ああ、前世ですね、こっちの世界に転生する前にあっちでも師匠がいたんですよ、その師匠、そりゃあもうめちゃめちゃ強くて、俺なんて手も足でなかったです。口は出ましたけど」
「それダメじゃん」
ツキから軽くツッコミ。Goodだ。
「あ? なんだ、俺の前に師匠が居たとはなァ……」
イイ感じの髭を蓄えた顎をさすって俯く師匠。
……ん、アレ? ひょっとしてヤキモチかな? いやまさかな。
「あ〜、お師匠ひょっとして焼きもち焼いてるんでしょー? でも大丈夫だよ、あたしはお師匠が初めてだから、ねっ?」
言いながらツキは師匠の背中をさすさす……
「べ、別にそんなことねぇけどよォ……」
な、なんだろ、なんか師匠可愛いんだけど。
「……ということはアレだな、俺が教えることはコイツを中心にって感じだな」
自らの背に背負った大剣をグッと親指で指す師匠。
「そ、そうですよ師匠っ、もうそれで十分なんです! 是非ともこの未熟者めに師匠のその技術、沢山の研鑽のなか培われた卓越された技をご教授願います!」
サッと頭を下げ、シュッと手を差し出す。
「……ったくよォ、……当たりめぇよ國満!!」
ガッ差し出した手を掴まれる。
「あ、あたしもっ」
その上からツキも手を乗せる。
俺もその気概に乗る事とする。
「よし、このまま皆でえいえいおーと行きましょう!」
俺の呼び掛けに3人で顔を見合わせると、頷き合い、「せーの」で――
「えいえい、おー!!」
「えいえい、ぉおー!!」
「えいえい、ォオー!!」
天へと拳を掲げ、互いに笑い合う三人。
見上げた頭上は吸い込まれるような青々とした空。耳を澄ませば木々の揺れる音。その音に紛れて、枝から枝へと飛び移るリスっぽい小型モンスター。
……ふぅ……
この光景は傍から見たら、いや、見なくても……
かなり謎だった。
「そういやァ、咲月嬢と國満に渡さなきゃならんモンがある、もちろんだがコイツはこれからの修行の為にもな」
懐に手を突っ込み何かを取り出そうとしている。
「なんだろうなツキ」
「なんだろうねみつにぃ」
2人して顔を見合わせる。
「お、あったあった、……コイツだ」
そう言って師匠が取り出し見せたのは、何かの武器の柄(一方は日本刀の柄? にも見える)の部分を2つ。
だが肝心の刀身部分は何処にも見当たらない。
……こ、これはアレかな、馬鹿には見えないとかそういう類の……えー、と、という事はここで発するべき言葉は……
「いやぁ、ハハハハッ! これはこれはもの凄く立派な剣ですねぇ、相当匠の技が施されているのでしょう、ここの刀身部分の鍛えられ方を見れば一目瞭然ですな〜」
俺は全然まったく見えな、いや、目に見えて素敵な剣の刀身部分の腹を人差し指でさすって見せる。
うん、キュッキュッキュッって鳴ってる気がするよ。多分。
「……え? みつにぃ何言ってるの? そこ、何も無いけど?」
「う〜ん? ははははっ、そんなワケ無いでしょうにツキさんや、ちゃんと見えるだろうほら、こーこ、……ん〜、ああ、そっか、まだツキには見えないのか、まぁ仕方ないよコレばかりは、まだまだお兄ちゃんの方が上だったってことなんだから、良いか? 分からない事や出来ない事があったら恥ずかしがらずにすぐに俺を頼るんだぞ、……ウーン、そうだな、ツキなら心配無いと思うけど、一つの成功に満足せず、慢心せず、努力を怠らず、これからも誠心誠意頑張るようにな?」
ツキの頭にポンポンと手を乗せる。
ちょっと焦っちゃって早口になった気がするけどバレてないよな。
疑問顔のツキから視線を変え、眼前の師匠へと目を向ける。
「……何言ってるんだ國満、……そこには何も無いぞ……」
「……へェ?」
衝撃的な事実を前に、アホ面と間抜けな声、口角がピクピクと動くのを感じる。
「……ハハ……イテッ」
横合いから横腹を抓られる感覚。
「……馬鹿にぃ……」
「……う、ぐすっ、はぃ、馬鹿です、クズです、雑魚です、ツキさんは天才さんです、……こんな愚かなお兄ちゃんでほんとずびまぜん……」
「……もう、みつにぃは仕方ないなぁ」
力無く地べたへと崩れ落ちた俺の頭をツキはポンポンと軽く叩く。
無事に上下の立場を物理的にも精神的にも逆転された。
というか俺自ら落ちに行ったようなもんだった。
俺に果たして元から立場という物があったのかどうかに関しては置いておいて。
「……あー、國満の奇行に関しては俺はよく分からんが……」
「大丈夫だよお師匠、あたしもよく分かってないから」
―グサッ。
「……ま、そう落ち込むな國満、これはな、別に見えてないってワケじゃねぇ、まだ出てないって事なんだからよォ」
……え?
「……ど、どういう事なんでしょうか?」
「そうだなァ、まずは試してみるのがいいだろう、……てなことで取り敢えず立て國満、お前にはコイツを授けよう」
師匠に言われた通り「わかりやした」と返事をして立たせてもらう事とする。
立ち上がった俺を見て師匠からグッと差し出されたのは日本刀の柄っぽい方。
俺はそれを「へっへっへっ、こいつはまた上物ですなぁ旦那、有難く頂戴いたしやす」と言って両手で丁寧に受け取らせてもらう。
そんな悪代官の子分のような俺を見てツキからは――
「誰にぃ?」
と一言。
「みつにぃだ」
と俺は返す。
「そうなんだぁ」と適当に返事が返ってきたのを聞きながら渡された柄を改めて、まじまじと観てみるけど柄の先、鍔、鎺、にあたる部分は確認が取れるがやはり肝心の刀身にあたる部分が何処にも見受けられない。
……やっぱこれ、俺試されてるんじゃあ……と不安になってきた所で師匠が言う。
「あー、そうだな……國満、まずはそこの大木に鍔の部分を向けて、魔力をソイツに流し込んでみろ」
「……え? ……わかりました、ちょっとやってみますね」
俺は素直に後方、10メートル先にある、幹が太くしっかりとした大木へと鍔にあたる部分を向けて魔力をふんすっ! と言った感じで流し込んでみた――
すると、バチィッと魔力の誘発により垣間見える紅く迸る稲妻、柄の上に浮かび上がる鮮やかな魔法陣、伴い、ギュインンーーと鎺から飛び出る銀に輝く刀身、その刀身、刃先は大木に向けて伸びる、バキィッと大木を貫き更に伸びる伸びる、その後ろ、更に先にある大岩を粉砕し、伸びる伸びる、そしてその更に更に先、目をよく凝らすと見える滝の流れる崖目掛けて伸びる伸びる―――
「ちょいちょいちょいちょいっ! これどうやって止めんノォーーーー?! めちゃ伸びてはるんですけどーー!! みょーーんって感じめちゃ伸びてはるぅぅーーーー!!」
雑に混ざるエセ関西、焦る俺、刃先が見えなくなる程に伸び続ける刀身。
「み、みつにぃっ! 多分だけど魔力を流すのをやめれば良いんだよっ!」
「なっ!?」
あ、そ、そっか、その手があったか。
手中を介して奪われ続ける魔力の流動を鎮めてみると、呆気なく刀身の猪突猛進は止まりを見せた。
「……ツ、ツキまじさんきゅ、このまま伸び続けてたら旅途中の冒険者に突き刺さりかねんかった……」
「ク、クハハハハハハッ!! まったく大袈裟なヤツだなァ!! 國満はァ!!」
バンバンと背中を叩かれる。
……し、師匠、全然大袈裟じゃないです。
……俺、ちょっと涙目。
「というか重ッ!!」
――ズシンッと、奥にあるだろう刃先から地面へと落ちる。
「……えぇと、これ……どうやって戻したらいいんですかねぇ……?」
「あ? あぁ、ただ単に逆の事をやれば良いんだよ、吸い取るんだ、ソイツから魔力をな」
……え? ……ああ、要は生成した魔法を再び体内に還元する要領で良いって事かな?
という事でちょいと軽く試してみる。
するとギュインと、進んだ道を勢いよく刀身が戻ってきた。
刀身は再び鎺へと収まりを見せる。
「うわぁ、凄いねみつにぃ」
目をキラキラとさせ、俺の手にある柄をまじまじと観察するツキ。
「そうだな、まるで如意棒みたいだ。……うん? という事は次に貰うのはやっぱり、孫悟空の頭にある、如意棒とは別のトレードマーク、緊箍児になるんですかね?」
「……あん? あぁ、西遊記の話か、また懐かしい……まぁ、欲しいなら付けてやっても良いが、この世界の緊箍児は頭が軽くパーンと破裂するレベルだぞ」
「辞めておきます」
全然要らなかった、ちょっとオシャレにいいかなとも思ったんだけど全然お断りだった。
「それとそいつの名、なんだが、……これはなんの因果だろうな……」
目を瞑る師匠、疑問符の浮かび上がる俺。
師匠は鋭く尖った目を開け、顎を撫で、口を開く⎯⎯
「対巨神獣第一型魔力感知式兵器、――天満ノ一刀、⎯ 國満 ⎯」
「……え、はい? ……なんでしょう?」
なんか厨二心に響くカッコイイ言葉の羅列共に俺の名が呼ばれた。
「いや、みつにぃの事じゃなくてその刀の事だよ」
ツンツンと柄をつつかれ指摘。
「え? おれ? ……じゃなくてコレ?」
俺は手中に納まる柄をじっとみる。
……ま、じかよ、これが俺の國満だと……
……なんだ俺の國満って。
「ソイツはその名の通り巨神獣に対抗する為に造られた日本刀を模した武器だ。魔力感知により天にも届く伸縮自在の刀、使い手の魔力量により硬度の限界、その最長が決まる、……だから実質上限が無いとも言えるなァ」
「へぇ……みつにぃの國満すっごい伸びるんだね〜」
……ふん? なんだろ、これは聞き取り手が悪いのだろうか。
「ごめんな、ツキ、こんなえっちなお兄ちゃんで」
「んん? なにがー?」
ツンツンとつつかれる。
「いやん、やめてぇツキさん、そんなにつつかないでぇぇ……俺の國満ぉぉ……」
うん? もちろん國満の話だ。
……ん、どっちだ??
???
「……んで、お次に渡すのはコイツだ、咲月嬢」
「待ってましたぁ!」と師匠へ向き直るツキ。
そんなツキの手の中に納められたのは
ステッキ? にも見えるシンプルな柄。その柄の尻、頭にあたる部分にはジャラっと鎖が付いている。こちらも同じく、刀身にあたる箇所は見受けられない。
疑問の思考の最中「向きはこうだな」「え、えと、こう?」「……んで、鎖は腰につけておけ……」と会話が聞こえてくる。
「よし、そのまま國満と同じ要領で魔力を流してみろ」
「わ、わかったっ、行くよお師匠、みつにぃっ……――うぉぉおおーー!!」
両手に構えるツキ。
果たしてその掛け声はいるのだろうか。
ツッコむべきか迷っている中、バチッと迸る金色の稲妻、浮かび上がる魔法陣。
そして、更にその長さを伸ばす柄の部分、続けてグワンとミカヅキ型に展開されたのは、銀に輝く大鎌。
死神がよく持つあれだ。
「よ、よおし、これで魔力を鎮め――」
と、ツキが言いかけた所で「いや、更に流し続けてみろ咲月嬢」と師匠。
「……ぅえ? うん、わかったお師匠、やってみるっ、うぉぉぉおおおーー!!」
ツキさんや、果たしてその掛け声は、以下略。
気合いの入った可愛いらしい声と共に再び大鎌へと魔力の流動、伴い、浮かび上がる大鎌、そして鎖、その鎖は淡く光る黄金色の魔力の流動により辺り一面を囲う様にして上へ上へとジャラジャラと引き伸ばされていく、それもまた、俺の刀と同様、際限がない。
「んで、まぁ、取り敢えずこの辺で魔力の還元はさせず、一定の状態を保つようにして魔力を鎮めてみるんだ」
「えーと、こうかな……」
師匠に言われた通りにしたのだろう。伸長し続ける黄金色の魔力を纏った鎖は、見上げた空、宙に浮いた状態で、一旦の留まりを見せた。
……はははっ、凄いぞ、流石だ、やっぱりツキは天才さんだ、うん、俺が認めるだけのことはある。
「……どの口が言う……」
思わず自分でツッコんだ。
「うわぁ、すごーい……なんか綺麗だね〜」
「クハハハハ、まぁ、月の名を冠してるだけはあるわなァ……」
「えっと? この子の名前はなんて言うのお師匠?」
「ああ、そいつの名は、——対巨神獣第四型魔力感知式兵器——ルーナ・クレシエンテ・グアダーニャ、だな」
「る、るーあくれしんてぐあだあにゃ……」
――なっ!
「ツキ! もっかい、言ってみてくれ……」
「……え? る、るーあくれしえてぐあだあ……にゃ?」
にゃ、にゃだってよ、可愛い! 思わず猫耳の幻覚が見えるほどにっ。
「はははっ、おっけーだツキ、兄ちゃん満足……」
うんうんと頷いて見せる俺、ツキは意味が分かっていないご様子。
そんなキュートなツキをみて師匠も思うところがあったのだろう、微笑ましげにポンポンと頭に手をやった。
「それとな、そこからまだあるぞ」
「ま、まじですかい……」まだあるんだ、俺の國満なんかただ伸びるだけだぞ。……まぁ、硬さに関しては大鎌ちゃんに負けず劣らずの自信はあるけど……
もちろん、國満の話だ。それはもういい。
「じゃあお師匠、ここからどうしたらいいの?」
そうだなと頷く師匠。
「……今はどうだ、ソイツとの魔力の繋がりを感じねぇか?」
「うん、確かにさっきからグイングイン来てる」
……ああ、ちょっとわかる、グイングイン来るんだよな、魔力って。
「……んで、その魔力と鎖が繋がった状態で大鎌の部分から上へ行くようなイメージで魔力の流動を切り替えてみろ」
「よーし、うぉぉぉおおおーー!!」
果たし、以下略。
ツキのベリーキュートな掛け声と共に宙に留まっていた大鎌が更に上へと持ち上がり、それに伴い鎖も一緒に上へ上へと引っ張られていく。
「よし、そんな感じだ、あれだな、咲月嬢は割と天才肌なとこがある」
「……え?」
「要するに見込みがあるって事だ」
「あー、へへっ、そうかなぁ?」
俯いたツキは照れ隠しだろう、大鎌から手を離し前髪を弄る。
「あ、咲月じょ――」
うん? と疑問顔のツキ、師匠のやっちゃったって感じの顔。それと共に――
「――って、うぉぉおおーーー!!」
遥か上空から俺目掛け落下する大鎌。
慌てて後ろへと回避すると――
大鎌が股下をサッと掠めて、土煙を上げ地面へと勢い良く突き刺さった。
目と鼻の先、陽の光に照らされギラリと光り輝く銀の大鎌、ヒヤリとした汗が吹き出る。
これはマズイと目線を下へ、股間を確認。
……ああ、よかった、大丈夫だ、ある。
どうやら俺の分身体の危機は無事免れたらしい。
「ご、ごめんっ!! みつにぃ!!」
血の気の引いた顔であたふたと駆け寄ってくる。
「あ、まてツ――」
俺は近寄ってくるツキの足下、地面から飛び出た木の根? らしき物を確認し、駆け寄り呼び止めようと声を発するが――
「きゃっ!」
どうやら遅かったらしい、盛大にコケたツキは勢い余って俺の(やーらかい方)目掛けて頭からダイビングヘッド。
「――あがァッ……」と口内から吐きでる声と共に下腹部から走る衝撃、白目を剥きそうになるほどの何にも言い表し難いキーンとした鈍痛。
ズサァッと、俺は背から地へと崩れゆく。
そのままそこで一旦落ち着けるかに思われたが、まだまだ終わっちゃいないぜと、段階的に迫り来る痛み。
「――ノォォォォォォォーー!!」
股間を押さえ泣き叫び転げ回るなんだかさっきから散々な俺。
「うわぁぁーー!! ごめぇぇーーーん!!」
青ざめるツキ。
絶えず苦悶の表情の俺。
傍に駆け寄ったツキは必死になって俺の名刀(やーらかい方)を撫でに撫でている。
「ね、ねぇっ! こ、これでみつにぃ治るのかなぁあー?! お師匠ーー!!」
そんな傷口に毒な行為をしているツキと、現在絶賛大爆笑中の師匠を見ながら、口から泡を吹き、暗くなりゆく視界の中で俺は――
…………ははははっ……ったく……参っちゃうぜ…………
そんな最期の吐露、そして世界は静かに、暗く幕を閉じたのだった――。
END.
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