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第十四話 遭遇 (一)

「ダルエニ様、本日も外に捜索へ?」

「訊かなくてもお前はどうせ知ってるだろ」

「おや、虫の居所が悪そうですね」

「お前らがついて来るって聞いたおかげでな」

 英雄の郷里の居住区で二人は朝から意味もないやりとりをしていた。ダルエニは大鉈を背負い、エルもまた、吟遊者としての持ち物を装備していた。ダルエニはそんなやる気あるエルを不愉快そうに睨んでいる。

「贖罪者が関わってる可能性が大いにある。突然血の魔女並みの被害を被るかもしれねぇんだ」

「ええ、そんな過酷な戦場を記録する者も必要です」

 ああ言えばこう言う。姿勢は受け身だが、のらりくらりと躱して隙を見て自我を通してくる。それがエルという女だ。そして、結局引き下がるのは決まって自分なのだと、ダルエニは何度目かも覚えていない諦観をするのだった。


 季節は進み、春風が花々の香りを乗せて大地を駆ける。今はただ、この香りに血の匂いが混ざらないことを祈るばかりだ。

「こう暖かいと、原っぱに寝そべってお昼寝をしてみたくなりますね」

「降りてぇならそう言えばいい」

「ふふ、では今は我慢しましょう。いつか、二人で」

 二人を乗せた馬は郷里から離れた山間部を駆けていた。背中に摑まっている能天気はピクニック気分だが、残念ながらそうもいかない。こうして馬を出している目的は、また皮の剥がされた死体が見つかったからだ。冬から続く失踪事件と行方不明者は未だ増え続けている。英雄の郷里を管理するお歴々は御冠であり、治安維持を担う看守だけでなく、ダルエニたち戦士にも圧がかかっているのが現状だ。

 ここでも上の顔色を窺わなきゃいけないのかとダルエニは頭を悩ませているが、逆に悩ませるだけなら万々歳なのかもしれないという、最悪の想定が脳裏に張り付いているということもまた頭を悩ませる。

「団長、もうすぐキャバルリーの隠れ里だ」

 先鋒部隊の一人がダルエニたちの隣まで下りてきて言った。

 キャバルリーの隠れ里。およそ百年前まではまだ人間が隠れ住んでいた山の中腹にある人里のことだ。迷路のように入り組んだ山道と周囲を岩壁に囲まれていたおかげで、郷里のような見張りとある程度の戦力があれば魔女に隠れて生活ができた。しかし、村内の水源が乏しく、村外から水源を確保しようとあれこれやっているうちに魔女に見つかり、やがてあっけなく滅ぼされたらしい。若い戦士たちより魔女の大陸歴の浅いダルエニにとって、これらの歴史は学校で習うものよりも遠く、しかし現実味を帯びる不思議な話だった。

 ダルエニたちはやがて、日光の遮られた細い山道に入る。岩壁によって先の確認しずらい道を慎重に進み、日が傾き始めたころに隠れ里に入った。

「話には聞いてたが、思ったより綺麗に残ってんな」

「ん?ああそうか、団長はここに来るのは初めてか。案内は必要か?」

「いや、地図は頭に入ってる。さっさと死体の回収に行くぞ」

「ういうい」

 気のいい戦士がやれやれ真面目過ぎるぜと言って先を進み始めた。と、すぐに馬を止めて地面に降りた。

「どうした」

「馬の足跡だ。しかもかなり新しい。これ、村の外から来てるぞ」

 ダルエニは斥候部隊に指示を出す団の先頭を任せられていた戦士を睨んだ。話が聞こえていたであろう戦士は顔を青ざめさせて首を振りながら謝りだした。

「ごごごごめんって!うっかり見逃しちまっただけだって!」

「そのうっかりで後続を全滅させてみろ、あの世で死ぬまで追い回してやる」

 ドスの効いた声と目力によってうっかり者の馬鹿野郎は縮こまった。帰りからは別の者に任せた方が良さそうだ。

(別の戦士団から引っ張ってきたが、自分とこで一から育てた方がいいか?優秀なやつはもう俺のとこにはほとんど残っていねぇし)

 悩むべきことがまた一つ増えた。

「どうする団長、方向的に死体のある方とは別だが」

「リスク排除が優先だ」

「了解」

 戦士たちは数個の集団に別れ里の安全を確認しに行き、ダルエニ、エルに加え気のいい戦士の三人は馬の足跡を追った。

 キャバルリーの隠れ里のように、幽居の籠や英雄の郷里以外にも人間が隠れ住んでいる場所がまだ存在する可能性はある。かつて郷里は籠以外にも生き残った人間のコロニーといくつも関わり連絡を取り合っていたらしい。それも今では籠だけになってしまったが。

(仮に連絡の途絶えたどこかの生き残りだとして、危険に変わりはねぇが…………)

 生きる環境が違えば価値観も大きく変わるだろう。もしかしたら、気に入らないだけで殺そうとしてくる輩もいるかもしれない。

(いや、最近の魔女はどこか本能に限りなく近い理性さを現してきている。馬に乗る奴もいるかもしれねぇのか……)

 不慮を限りなく消すためにあらゆることを予測し、その分不安を募らせる。解決できない問題が多いとそれはある時バランスを失い、雪崩を起こして本人を生き埋めにするのだ。そうなる前に少しでも山を削り、解決できるものは今すぐにでも終わらせなければならない。

「ガリル様はこの足跡をどうお思いですか?」

 それまで静かにしていたエルが気のいい戦士、ガリルに訊いた。

「わからん。ただ一番考えられるのはやはり魔女だろ。籠の方の。なぁーにが目的かは知らんけど」

 理由はなんにせよ本当にそうだったら助かる。助かったうえで理由は訊く。

 里の家々は荒廃こそしているが、百年前は現役というこの大陸の廃墟にしては若い部類で、さらにこの四方を囲まれて奥まった場所に位置しているおかげが、手を加えれば息を吹き返してもおかしくない状態の家屋が多い。最期の戦いの跡もちらほらと見かけるが、そう激しくないのを見るに、当時の状況が察せられる。

「ここは…………里長の家だ」

 馬の足跡はそこで乱れ建物を迂回していたが、乱れて十把一絡げになったその中に明らかに馬のではないものもあった。つま先しか判別できないそれは、目の前の家屋に向いている。ひと際大きなまだ家と言える家だった。ガリルが玄関の脇に立ち中の様子を窺い、また戻って来る。

「いる。一人だ。奥で物を漁っている」

「他にいる可能性は?」

「限りなく低い。床の軋む音的に子どもか、小柄な大人だろう」

 つまり軽いと。そうなれば空き巣の正体は他にも思いつく。

 ダルエニは背中の武器に手を掛けて忍び足で中に入った。つま先で床の強度を確かめ、すり足で進む。後ろからガリルが続き、エルは馬の隣で待機だ。万一彼女が狙われた場合は、全力で自分のとこに来るよう言ってある。中には物色した痕跡が多くあったが、いつのものかまでは分からない。もし最近のものだとしたら、いったい何が目的だ。

(静かになった。勘づかれたか)

 奥から聞こえていた物音が止んだ。入り口から離れる程暗く視界が悪くなる。耳と勘を頼りに歩みを進め、二人はある部屋の前で止まった。

 扉の隙間から光が漏れ出ていた。陽の光ではなさそうだ。

 ガリルが「先に入る、援護を」と手で合図し、それを了承する。

 二人は扉の左右の壁に張り付き、息を合わせた。

 ガリルが扉を蹴破って中に飛び込む。

「っ!いない…………!」

 一瞬部屋の中に向いた意識を瞬時に外に向けた。

「あ」

 廊下の暗闇から机が飛んで来る。ダルエニはそれを身を翻して躱し、低い姿勢から一気に暗がりの中に飛び込んだ。

 廊下は狭く、ダルエニは武器の柄から手を放し拳に切り替える。棚に手を掛け闇の中に放り投げると、風化しかけのガラス瓶が帰ってくる。振るった拳は避けられ、足払いで体勢を崩させると、器用にも空中で蹴りをかまされてその反動で距離を取られた。視界の効かないなかでその後も攻防は続く…………かと思われたが、ふとダルエニは人影に青白い光が張り付いていることに気が付いた。

 ダルエニは攻撃の手を止めた。すると、人影は生意気にも一二回物を投げてくるが、後にその手を止めた。

(こいつ、奇襲した瞬間には気づいてやがったな)

 やがて廊下の奥からそいつは顔を出した。

「お前ら…………」

「なんでこんなとこにいるの」

「はぁ……こっちの台詞だ」

 ダルエニとショーテルを構えたまま困惑するガリルを無視し、幽居の籠の番犬はランタンを取りに部屋の中に戻っていった。

「おや、ロラ様にテト様、お久しぶりです」

 いつの間にか入ってきたエルが声をかける。途端に番犬は表情をガラリと変え中に招き始めた。


 籠の魔女がいた部屋は里長の書斎だったようだ。壁際の戸棚には未だ原形を留めた本が並んでいる。

「郷里はここの資料を回収しなかったのか?」

「団長、ここに来るまでに何体のウイブを倒した?」

「十三」

「目撃したウイブの数は?」

「九十二」

「魔女は?」

「二」

「臆病者みたいに避けてやり過ごした理由は?」

「長距離を移動する上で消耗はできる限り避けるべきだ。特に初見や目撃例の少ない魔女とヤリ合うとなると、六から七割程度で死者や重症者が出る。見晴らしのいい地形で馬を降りるってのもかなりの危険が伴う」

「つまりはそういうことだ。危険を冒してまでここの資料に価値があるとは判断しなかった。まぁ、ただの予測で、事実にどれほど近いかは知らんけど」

 ガリルはそう言うが、大方当たってるとダルエニは考える。戸棚に並んでいる本や書物は見た限り管理記録がほとんどだ。他にあるのは山の地質や他所との連絡記録等、規模に物を言わせる郷里が今更必要とするようなものはない。

 ダルエニたちがこうしている間に、エルは金髪と会話を通してそいつらの状況を聞き出していた。耳に挟んだ限り、「山でしか育たない野草を採りに山に入った」「途中で猫が昼寝したくなり、この場所が比較的安全だからと案内されて来た」と。

「起きるまでここで休んでてって言われたの。何かあったらわたしかステラに憑いた猫を殺せば飛び起きるっていうのも聞いたよ」

 金髪は包み隠さず答えていく。こいつにとって、エルはそういった存在なのか?という考えが浮かぶが、それとは別に、こいつにとって、ダルエニやガリルは眼中に無いということだろうか。そう考えると実に癪に障る奴だ。

「呑気なもんだな、眠くなったら寝るなんざ」

 金髪は口元を苦いものを食ったときのように歪めてダルエニを睨んだ。次いで、革のバッグが顔面にぶつけられた。それはエルが投げたものであり、つまりは黙ってろと。ガリルがなぜか半眼でこちらを見ていた。エルを置いて出ていくわけにもいかず、ダルエニは仕方なく書斎の触れても大丈夫そうな書物を漁りだした。

「なんだか最近、ずっと調子が悪そうなんだ」

「しかし、魔女は病気にはならないはずでしたよね?」

「うん。そのはずなんだけど…………。それとも、今の魔…………あ、テトは違うのかな?」

 ダルエニは危うく『幼児との接し方――悩める父親用――』を破くところだった。隠さなければいけないことかはともかく、ガリルがいるこの場で自分は大昔の魔女ですと自己紹介しようなんざ…………間違ってもこの女には秘密の類は言わないとダルエニは密かに誓った。

 本を片手に二人を監視していると、背中から声が掛かった。

「団長、こいつが例の」

「ん?ああ」

 ガリルは再編成して日の浅いダルエニの団の中でもかなり頭のキレるたちだ。血の気もあり過ぎずなさ過ぎず、喧騒に紛れながらも自分を維持できる人間だとダルエニは見ている。

 そんなガリルはなるほどねと呟いたぎり、何を思ったのかダルエニの肩越しに『幼児との接し方』を覗き見始めた。こいつはまだそんな歳ではないはずだが。

「そうだ、すっかり訊き忘れてたんだけど、エルたちはどうしてここにいるの?」

「おや、そういえばまだ言っていませんでしたね」

 エルが目線だけで言っていいかと確認を図ってくるが、それに対し、そんな確認必要かと目で応えてやる。そして、エルが笑い、口を開いたとき。

「ああ、私も気になっていた」

 半透明の猫が平坦な声でそう言った。

「あっ、テトおはよ!」

「ああおはよう、世話を掛けてすまない」

 先程まで青い目で甘えた声で鳴いていた猫が、今や赤い目でつまらないことを鳴いている。だがまあ、この方が話が進めやすいだろう。

 ダルエニは読んでいたものをガリルに預け、胡座の上に頬杖をついて猫魔女に向き合った。ガリルは嬉々として受け取ったものに目を走らせている。

「ダルエニ、お前たちはなぜここに」

「皮の剥がされた死体」

「……まだ続いていたのか」

「まあな。んで、お前らがここにいる理由を詳しく、簡潔に言え」

 金髪が「ええ~また~?聞いてたんじゃないの?」だのと怠いことを言ってきたが、ダルエニはそれを適当な返事で跳ね除けた。半眼の猫がため息交じりに答える。

晩冬(ばんとう)のハーブ、それと魔女嫌いのわたがらを採りに来たんだ。そのあと、籠から少し距離があるから途中で休憩をとここに寄った。それだけだ」

 猫魔女は金髪に鞄の中身を見せるように言い、実際瓶詰めされた物が入っていた。”晩冬のハーブ”と”魔女嫌いのわたがら”はどちらもこの大陸にしかない山間部に生育する植物で、冬の終わりから春の始めに採ることができる薬草だと記憶している。ハーブは傷薬で、わたがらの方は火傷に効くものだったはずだ。郷里の中でも出回りはするが、民間療法の域を出ないものであり、あまり目にすることはない。

「ふん、まあいいだろう」

「なぁにが『まぁいいだろう』だ。お前は死体の確認に来たんだろう、ここで油を売っていていいのか」

「減らず口め」

 そう言いつつダルエニは立ち上がり、二人を連れて里長の家から出た。外に出ると手綱を軽く柱に結ばされた馬二頭に加え、見慣れない馬が一頭つるんでいた。魔女の馬だろう。結んだ跡が手綱にあるのを見るに、こいつも生意気そうだ。


 戦士たちと合流し安全の確認と簡単な情報交換を終え、ダルエニたちは里の西の隅にある洞窟へとやって来ていた。過去非常用の裏口として人の手によって掘られたものらしい。里同様長く放置されていたことで天井を支える柱や足場の板が割れており、危険性を加味して人数を五人に絞り中に入る。洞窟の先は鉱山の一角へと続いており、巧妙に隠されているという。

 各地で死体を発見報告しているのは目と鼻、脚の俊才を集めた団の者だが、エリートの自負があるとはいえよくもまあこんな所にまで入り込むなとダルエニは呆れ半分に感心していた。すると、前の方から声が響いた。

「団長、見つけた」

 先頭のガリルが言った。ダルエニは人をかき分け目的のものを視界に入れる。臭いから状態はわかっていたが、酷いものだ。

 全身の皮が剥がされた死体がそこにあった。爪は割れ、血糊が灰色の壁や天井にまで散っている。体中を蛆や蝿が這い回っているのを目撃した一人が嗚咽した。

「冬場ってのもあっていつ頃ああなったか調べるのはキツいか」

「ゲッタウィル、こいつを見つけた奴の報告は三日前だ。そいつの証言ともそこまで状態に変わりはない」

 ガリルの補足を聞きつつ、ダルエニは現場を俯瞰する。大人一人がやっとの狭い洞窟。足場は悪く、老朽化した板材は干からびたミイラ状態。灯は備え付けられておらず、この場を照らすのは戦士たちの腰に下げた小型のランタンと、向こうの出口から漏れ出る日の光。

(…………なぜ隠されているはずの向こうから光が……イヤな感覚だ)

「皆大丈夫か?誰も行かないならおれが見てくるよ。どっちみち回収しなきゃならないんだ」

 横を通り抜けようとしたガリルの肩をダルエニは強く掴んだ。目線はそのまま死体へと注がれたままだ。

「だん――」

 「下がれ、足音を立てるな」と手で合図を送る。全員が訳も訊かずに従い距離を置いていく。

 確証などないが、ダルエニは自身を今まで生かしてきた己の勘に従う。

 火打ち石を鳴らし、導火線に余命を告げる。

 小型の爆弾を置いて、後ずさりする。その間も目は離さない。

 導火線の火か、火打ち石の火種からかは定かではないが、床板に引火し、死体とダルエニとの間に炎の壁が出来上がった。杞憂が煙に雑じりその身を焦らせる。その時、炎の向こうで何かが動いた。

「アあ、バレちまっタか」

 逃げ惑う蟲たちの中で、蛆が一匹、頭をもたげて確かにそう言った。ダルエニの全身が硬直する。一瞬の恐怖が身体や思考を奪った。

「団長!!!!」

 爆風と戦士たちの声にダルエニは我に返った。魔女に背を向け、全力で走る。逃げる。今はそれしかできない。

飛来する薔薇(リィング・ロォング)

 若い女の歌うような声が硝煙の向こうから響く。次いで、魔法の薔薇が一直線にダルエニの背中目がけて飛来する。薔薇はある程度近づくと爆発し、四散した棘や破片が岩壁を貫通しながら尚もダルエニを追いかけた。

「飛び込め!」

 洞窟を脱出した瞬間仲間の声を受け地面に身を投げ出した。直後洞窟の入り口が爆破され、完全に塞がれる。粘着質な魔法はまだ追尾を続けていたようだが、さすがの魔法も数メートルの岩盤を貫通するにはいかなかったようだ。

 身を起こしたダルエニは腕を掴まれた。見るとエルがさも心配そうに顔を覗き込んでいた。おそらくこの女には顔色が変わっているのがわかるのだろう。

 ダルエニはそれでも平静を顔に貼り付けたまま思い返す。

 以前金髪から聞き出した話では、ディアという魔女は人や動物に同族までも生きたまま皮を剥ぎ取ることができ、それらを被ることでその者の性質や特技、つまりは剣術や弓術、運動能力や視力、果ては魔法まで扱えたという。そして、つい先ほど聞いた「バレちまったか」と言った声は身も震えるような老婆の声だったにも拘わらず、後に聞こえた詠唱は少女の声だった。それが示すことは。

(もちろん他にも可能性が無いわけではない、が。十中八九……)

 起き上がったダルエニは眉間にしわを寄せて呟いた。

「皮の魔女ディア、奴に待ち伏せされていた」

「待ち……伏せ…………?」

 エルが困惑するのも無理はない。

 狂った魔女どもに作戦を考える理性は碌に残っていない。以前戦った血の魔女はあくまで魔女の棲家にこちらから入ったから結果的に向こうが待ち構える形になったが、今回は違う。餌を撒き、逃げ場のない場所に誘き出して、じっと待っていた。今まで見てきた狂い魔女のどれにも当てはまらない、異常な行動だ。

「ずらかるぞ、全員急げ!」

 戦士たちが馬に駆け出す。ダルエニとエルの二人もまた、逃げるように馬に跨った。

(猫魔女のやつらはどこだ?この異常、いや、変化を伝えるべきか?)

 隠れ里の入り口には新たな馬の足跡が増えていた。入り組んではいるが、道はほぼ一本。ダルエニたちは隊列を組み、その跡を追った。


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