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第九話 手がかり (四)

 断崖を下りもと来た道を走る。英雄の郷里はちょうど、廃村に通じる街道を遡った先にある。自然と廃村の近くを通ることになり、村の中に入らないよう外周の柵よりだいぶ距離を離して通りかかった。骸骨のウイブはベルを持った見回り人以外は家に引きこもっているようでとても静かだ。

 横目に観察していると突如、何かが家の物陰で動いた。それは柵を飛び越え、急速に迫った。

「っ!?ステラ行って!!」

 馬から飛び降り鞭を引き抜いた。敵の魔法が眼前に迫っていた。

猫の殴打(イム・バーチェ)!」

 青白い魔法の球が紫色の魔法を相殺する。魔法の残火を突き抜けて魔女が腕を伸ばしてきた。

「このッ!」

 鞭を振るい魔女の腕を弾いた。片方の人差し指が弾け飛び、魔女も飛びのいた。

 魔女の帽子はどんな魔女でも共通するものだ。それが狂っていても。しかし、それ以外はとてもではないが一緒にはできない。その姿はこの世のものとは到底思えないものだからだ。

 中身を無くした眼窩に眉間に突き刺さった杖、枯れ枝のような腕に灰がかった肌。テトには見覚えがあった。

「コイツ、籠の近くに現れた探求者だ!ロラ気をつけるんだ一筋縄ではいかないぞ!」

 指を一本失くした探求者に向かって鞭を振るう。探求者は距離をとるために後退した。

「謎ヲォォ……ヒミツをォォ…………寄越せェェェ!!」

 廃村を根城にしていた探求者が吠える。枯れたはずの喉から発せられる声は聞くに堪えないものだ。

「あの言葉も行いも、狂う前の奴の根底にあった欲や執着だ。ああなってしまう前がどんな人物であったであろうとも、もうこの世にいてはいけない存在なんだ」

「でも今は」

「ああ、籠に比較的近いこの場所から排除したいのはやまやまだが、危急というほどでもないしお前も万全でない。ある程度ダメージを与えて引っ込ませれば問題ないだろう」

「了解」

 ロラは刺剣に変形させて相手の出方を窺う。距離を少しずつ詰める。

(卓越した魔女は直接的な身を守る手段を持ってるらしいけど、どうやらこのヒトは違うみたい。変に距離を取るよりも、わたしの間合いにまで無理やり詰めていったほうがいいよね。…………ヘリトラにいっぱい教えてもらったし、油断もしない。問題ない)

 眉間に突き刺さった杖が輝きだした。魔法を放つ気だ。ロラは重心を下げた。

混乱を呼ぶ(コージョン)……」

 杖が瞬いた。それまでのロラなら反射的に飛びのくなり攻撃し出るなりしていたが、ある程度教えを受けたロラは冷静に身構えた。初見で魔法を躱すとなるとどうしても咄嗟に動きがちなのはほとんどの者が共通しており、凡人であれば運が良ければ避けられるが、そうでなければ即死もあり得る行動だ。だからといって何もせずにいると反応しきれずに重症を負いかねない。しかし、ヘリトラが言うには、「ロラくらいなら見てから避けた方が確実」らしい。もちろん見てからでは遅いものもあるが、基本的にはその判断で並みの魔女は問題ないということだった。

(…………?)

 しかし、魔法が唱えられて数瞬待っても何も起こらなかった。一瞬考えたのち警戒を最大限に維持したまま一度大きく距離を離す判断を下したロラは――――大きく前進した。

「!?」

「無暗に突っ込むな!」

「ちがっ!」

愚者の断頭台(ルーエン・ギルィン)

 探求者の影から不可視の速度で魔法の刃が飛び出した。汎用魔法の一つであり、モリーも使っていたものだ。

 ロラの左手にはぬかるみがあり、だから右に避けようとして、そして実際に足が向いたのは左だった。

「なっなんで!?」

(思った方と逆に脚が動いちゃう……!これもしかしなくてもさっきの魔法…………って、今はそれどころじゃ)

 ぬかるみに足を取られて思うように動けない。いや、思うように動けないせいでこうなったのだが…………。

彼方の宙(ビーエン・ユーズ)

 突然、世界が闇に包まれた。一切の光が消失し、平衡感覚が狂いだす。闇は永遠に続き、時間さえも呑み込んでしまう。

「ロラ!何してるんだ動け!ぼうっと呆けるな!」

 テトの声は変わらず元気に聞こえた。聞き慣れた声に安心するが、それで状況が変化するわけもない。

「だって、真っ暗に……」

「はぁ?何を言ってるんだ昼間だぞ…………まさか今の魔法か?」

 どうやら光を失ったのは世界でなくロラの目だったようだ。あの廃村に罠を仕掛けた魔女が同じだとすれば、これは幻覚の類なのだとロラは予測づいた。

「わたし何も見えないから、テト指示を」

「ああ分かっ――――」

 テトの声がそこで途切れ、代わりに聞こえたのは理性の欠片もない男の雄叫びだった。(つくろ)う暇も無かったのか、テトの小さな悲鳴が聞こえ、次に相対していたはずの魔女の悲鳴が聞こえた。それと同時に目が光を取り戻し、今度は目の前のおかしな状況がロラを混乱させた。

「魔女ハ……殺ス……!」

「ああああああァアア゛ッ!!??」

 征戦魔女隊のボレロを身に着けた狂った騎士が狂った魔女に切りかかっていた。既に右腕の先を切り落とされており、四本指の左手が痛みからか暴れている。騎士は続けざまに首を落としにかかるが、探求者と呼ばれる類の魔女はその一撃しか許さなかった。怒涛の汎用魔法の乱射が騎士の動きを止め、その隙に根城へと尻尾を巻いて大急ぎで逃げていったのだ。

「な、何だったんだ…………」

 テトは谷間の間で唖然とし、すぐに上を見上げてまた少し動揺した。

「ロラ?」

「…………ジョバンニ?」

 ロラは人の名前を騎士に対して呟いていた。淀んだ銀色の鎧がロラに向き直った。ついさっき血で濡らした長剣を握り直し、構え、切りかかる。

「避けろ!」

「っ!」

 横をすり抜けるように躱しながら鞭を胴に浴びせる。

「ステラ!」

 テトが叫ぶと物陰から馬が飛び出し、走り始めたロラに並走するように近づいてきた。そのままお利口な馬に飛び乗って全力で逃げる。幸いにも狂った騎士の脚力は馬には及ばず、徐々に距離を離し見えなくなっていった。

 安堵するのもつかの間、郷里のある城塞都市カトラスへの平原は未だ危険な怪物が多い。一人と一匹は緊張の糸が切れる前にと先を急いだ。

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