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第九話 手がかり (二)

「おはよう――――――――随分と眠そうだな、事前に話はしていたはずなんだが」

 ジトりとしたジト目が扉を開けて早々に呆れている。だがそこまで不機嫌というわけでもないようだ。ロラは何となくテトの仏頂面から感情を読み取ることができるようになってきていた。

「ん~~~いっぱい寝た。おはよ」

「そうだな。顔を洗ってこい、私は部屋で待ってる」

「ご飯は?」

「食べてからでいいから、あんまり遅くなるなよ」

「は~い」

 テトが扉の外に帰ってから、ロラは寝ぼけまなこでのそのそと支度を始めた。顔を洗いに水場に行き、軽い朝食を食べて着替えも済ませる。以前使ったマントコートはボロボロになってしまったが、既に直してもらっていた。帽子に手袋、昨日ヘリトラから受け取った武器一式はロラ自身でも不備がないか確認した。最後に手袋の上から籠手を右手に付け、これで準備万端――――あっ!と思い出して半分開けた扉から部屋の中に戻る。机の上に置いていた小箱を開け、その中身を奥歯に嵌めた。これで準備完了だ。意気揚々とロラはテトのもとに向かった。

「怪我の方はどうだ?」

 薄雲がかかる空の下、テトはこの十数日で何度目かの同じ質問をした。

「もう痛くないよ。ふふんっ!わたしはグルーニィに勝ったんだよ、心配しすぎだよ」

 ロラは腰に手を当て胸を張る。痛むところなんて無く、心配性な魔女に自分は思っているよりも強いのだと体で言ってみせた。しかし。

「自惚れるな。あれは戦士たちの力と私の全力の支援あってのものだ。お前にはもう少し強くなってもらわなければ困る」

 ごもっともな言葉が返ってきた。思い返せば結構いいとこ取りな戦いだった。

「う……うん、ごめん。――――でも痛くないのはホントだよ」

「それは何よりだ。本当に。ところで、今日の予定は理解しているか?」

 ステラに霊猫を憑けながらテトがこちらを見上げて聞いた。薄雲と木々の影がありはするが、帽子の笠から顔を出さないよう気を使い、結果上目遣いになっている。そのことから今更ロラは気が付いた。普段目を見て話すとき、テトはいつも背の高いロラの顔を見るために顔を結構頑張って上に向けていたことに。なんと…………!

(かわいい)

「どうした?」

「…………あっ!うん聴いてるよ。テトの案内でわたしが襲われた廃村に行って、そこからわたしが目を覚ましたところを見に行くんでしょ。そのあとにまたエルたちのところに魔石を返してもらいに行くんだよね」

「ああ、何事もなく進み、お前という存在の手掛かりが見つかることを願おう」

 赤と青の双眼が本心からそう願っていると告げている。ロラもしばらく無茶はしたくないと思っていたので、強く肯定し頷いた。

 ステラは今日も虫のいどころがいいようで蹄を鳴らしてまだかまだかと催促している。そんな馬をなだめて帽子を目深に被り直した。初めて幽居の籠に来た道を今日は逆走することになる。僅かに心の片隅に残留している廃村のトラウマが黄金の瞳を細くする。

 ロラの表情の変化に気づいたかは定かではないが、不意にテトが毅然としたいつもの声色とは違う、どこか弱々しさを感じさせる声で呟いた。

「私は…………矛盾した考えを持っている。ここを護るためにあらゆる不安要素を排除したい。そのために外界からの情報を必要としているお前を利用する。…………しかし……だからといって…………」

「テトは考えすぎだよ。それに、わたしはわたしがやりたいから外に行って危ない目にあってるわけで、テトに強制されてるわけじゃないし。――――もちろんお願いされればいやいや言いながらでも行くけど」

「…………そうか、ありがとう」

 ロラの言葉は心配性な魔女の杞憂を一つ溶かしたようで、気持ち目つきが柔らかくなったように見えた。たまらずその体を抱きしめるとバシバシと叩いて抵抗される。その反応もまたロラにとってはたまらない。

 そろそろ離れようか、というところで突然、テトが抵抗をやめて低い声で問いかけてきた。

「なあ、数日前私は椅子に座ったまま眠ってしまったんだが、不思議なことに目が覚めたらベッドの上にいたんだ。そのとき、妙に生暖かったのと柔らかい感触に包まれていたのを何となく覚えている。――――ちょうど、今のような」

 密着したまま見上げてくるテトはすごくいいのだが、めちゃくちゃ目がジトジトしてる。

「え、えへへ、でも風邪ひいちゃったらいやでしょ」

「…………」

「それにいつもと違ってすごく唸ってたし」

「いつも?」

「あ……」

「あ?」

「い、いや~」

「あ゛?」

 飛びのいたロラはステラに素早く飛び乗った。

「ス、ステラ行こ!行ってきまーす!」

「この!ここしばらく妙に息苦しいと思ったら!」

 怒れる魔女の声が背後に遠ざかっていく。不安でどこか浮かなかった気持ちも置き去りにして木々の合間を抜ける。しばらく進むと魔女の奴隷(ウイブ)が数体林の中に紛れ込んでいるのを見つけた。籠近辺はできる限り安全を確保したいと守護者から聴いていたので、通り過ぎざまに魔法で頭を貫いていく。籠の中でじっくりと練習したおかげかかなり精度が上がっているようで、見事にすべての敵の頭を焼き貫いた。

「やるじゃないか。このまま直進して林を抜けると目の前に街道が現れる。そしたら右に折れ、その街道に沿って進め」

 股の間で丸くなっていた猫の内の一匹が喋り出した。両目を血の色に染め、その目で過ぎゆく景色を眺めている。頭を撫でたくなる衝動を抑え、ロラは手綱を握りなおした。

 置き去りにしたはずの不安は風よりも速く、馬よりも俊敏に追いかけてくる。淡い緊張を胸に、ロラたちは木々の隙間から飛び出した。

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