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81話 君島丈助と君島笑美

 



 ……人生って、分からないものだよな。


 心地良さ漂う時間。俺、君島丈助は、公園のベンチに座り青々とした空を見上げながら、そんな思いに耽っていた。


 そして手に持つ缶コーヒーを口へ運ぶと、残りを一気に飲み干す。


 空になった缶の軽さは、まるで今の自分の様に感じる。そんな清々しさを感じながら、俺はゆっくりと立ち上がりゴミ箱へとそっと入れた。


 さてと……戻りますか。


 すっかり見慣れた光景を楽しみながら、その足を進めていくと……これまた見慣れた建物が目の前に現れる。

 首に下げたネームプレートに目を向けると、俺はその中へと入っていった。


 エレベータに乗り込みいつもの階数を押す。すると扉の先にあるのは、とある企業の受付だ。


「あっ、お疲れ様です! 君島さん」

「お疲れ様!」


 サンセットプロダクション。

 それが俺の職場。それはそれは誇れる職場だ。


 まだ時間はあるから、ちょっと様子でも見に行こうかな。


 笑美ちゃんとの結婚会見から3年。あの頃からサンセットプロダクションは更なる成長を遂げた。

 業績なんかはもちろんだけど、大きく変わった点は……


「おっ、居た居た」

「あら? 君島さん! (あおい)ちゃんと(そう)ちゃんの様子見に来たんですか?」


 保育施設の設置。

 サンセット保育園と名付けられたこの場所は、元々スタッフの事も考えて設置を予定してはいた。そしてついに晴れて実現した訳だ。

 子を持つ身としては、近くで子どもを見てもらえるのは身体的にも精神的にも大きい。

 もちろんスタッフの子どもが優先ではあるけど、それ以外の子ども達も入園可能だ。


「顔見に来ただけです。こっち気付いたら面倒なので……俺が来たのは内緒で」

「2人共、隙あらばスタジオ方面に行っちゃいますもんね。ふふっ。変わらず元気ですよ」


「ありがとうございます。それじゃあ、行きますね」

「は~い」


 碧と蒼は俺と笑美ちゃんとの子どもで、元気が良い姉弟だ。そう、あの会見後に判明した子ども。

 まさかの双子と知ってさらに驚いたもんだよ。まぁ母子共に健康に生まれて来てくれて嬉しい限りだ。


 さてと、確か打ち合せは会議室だよな。ん?


「おっ、お疲れ~! 丈助」

「あっ、お疲れ様です! 君島さん」


 碧と蒼の様子を確認し、打ち合せ場所の会議室へ足を進めていた時だった。途中にある社長室から2人の姿がお目見えする。まぁ、社長室から出てくるという事は、大体察しが付いた。


「お疲れ様です! 烏真社長。井上さん」


 烏真社長と井上さんのコンビは、今でも健在だ。最初からその相性の良さは折り紙付きだったけど、今となっては更に磨きがかかっていると言っても過言じゃない。


 社長は今までの仕事に加えて、保育園の事なんかも増えて大変だろうけど、全然そういう風には見えないのが恐ろしい。しかも現在新たな取り組みを考えているそうで、感心しか浮かばない。


 まさか児童保護センターの設置まで考えてるとはなぁ。

 まぁその点については、ある人の影響も多いかもしれない。


「君島さん? 社長は今、鯉野ですよ?」

「あっ、そうでした。すいません」

「良いよ良いよ! 自分でも未だに慣れてないから」


 そう、社長はなんと……俺の先輩でもあった鯉野さんと結婚したのだ。

 互いに一目惚れだったららしく、それはもうトントン拍子。言われてみれば、最初にお互いが会ったであろう静川区家庭総合センターで変な雰囲気は感じていたけど、まさかこうなるとは思いもしなかった。


「けど、良いんですか? 仕事の量減らさなくて」

「なに~、私の健康面心配してくれてんの? 優しい~」


 そして現在、第一子を妊娠中だ。だからこそ、少しは仕事量諸々を抑えて欲しい訳だけど、この人にそんな事が通用する気配はない。


「安定期入ったからって、全然言う事聞いてくれないんですよ~」

「井上さんも大変だね」

「何よぉ~2人して! それより彩華はいつ軽部になるのさ?」


 とまぁ、そんな事を言っている井上さんは、現在あの軽部黎とお付き合いしているそうだ。

 軽部と笑美ちゃんの一件から、井上さんにゾッコンになった軽部。あの後のアプローチは、社長はもとよりサンセットプロダクションスタッフ全員も知るほど熱心なものだった。

 仕事等に支障やら何やらはなかったし、俺達もやれやれだの、凄いなぁなんて思っていたよ。

 当の井上さんは凄く面倒くさそうだったけどさ?

 そして結局、2年にも及ぶアプローチに根負けした井上さん。お試しという事で付き合っているらしい。


「社長? 当分はあり得ないのでご心配なく」

「そんな事言って~意外と軽部の優しさに心開いてるじゃない?」

「しゃ~ちょ~う~?」


 見た限り、それなりに上手くいってるんだろうな。笑美ちゃんとは色々あったけど、その後の軽部は……それなりに良い奴だ。俺達への挨拶といった礼儀も欠かせないし、ここに来る時には大量のお土産持参。

 ただ、未だになぜ俺を兄貴と呼んでいるのかは不明だ。止めて欲しいと言っても止めないから諦めたよ。

 まぁ、なんとなくだけど最終的には結ばれるんじゃないかとは思ってる。


「ははっ。それじゃあ俺は、打ち合せあるので失礼します。井上さん、社長の事よろしくね?」

「あっ、式柄森監督との打ち合わせですよね? なんか早く来すぎちゃったみたいで、もう会議室いらっしゃいますよ?」

「笑美も居るから~、そっちは頼むよ? 丈助」

「分かりましたっ!」


 こうして世間話もそこそこに、俺は会議室へと足を運んだ。話によると、監督と笑美ちゃんは既に居るらしい。待たせるのもあれだし急がないと。

 少し駆け足になりつつドアの前まで到着すると、徐にドアをノックする


 コンコン


「失礼します」

「おっ、お疲れ様」


 するとその先には、既に監督が座っていた。そしてもちろん……


「お疲れ様っ!」


 笑美ちゃんも居る。

 準備万端か。さてと、じゃあ早速打ち合わせしましょうか。よいしょ。


「お疲れ様です」


 俺は挨拶もそこそこに、笑美ちゃんの隣に腰掛ける。


「いやぁごめんね? 忙しいところ」


 式柄森監督は、笑美ちゃんが出演したホラー映画でさらに脚光を浴びる事になった。続編も大ヒットでいまや押しも押されぬ有名監督だ。

 そういう縁もあって、俺達サンセットプロダクションとは長い付き合いでもある。ちなみに、田村さんとは無事に結婚し現在もラブラブだそうだ。


「全然ですよ。むしろお待たせしてすいません。マ……ごほん。笑美ちゃんも遅れてごめん」


 あっぶね。つい癖でママって呼ぶところだった。仕事とプライベートは分けるのが俺達の約束の1つだ。


「そんな事ないよ。パパも色々とお疲れ様……あっ! じょっ、丈助さんもお疲れ様!!」

「ははっ。いいねぇそのイチャイチャ感。僕も負けてられないなっ」

「ちょっ、式柄森監督?」


 笑美ちゃんは……やっぱり変わらないな。

 俺と結婚して、双子を産んでくれた笑美ちゃん。その合間も出来る仕事は続けて、出産後は早々に復帰。モデルとしての仕事も、マタニティファッションという幅が増え、その演技力は年を重ねる毎に磨きがかかっている。仕事の依頼はひっきりなしで嬉しい限りだ。

 ただ、だからと言って家の事を疎かにしている訳じゃない。実際、炊事掃除洗濯育児なんかは笑美ちゃんが担ってる。俺も出来る限り手伝ってはいるけど、笑美ちゃんは可能な限り子育てなんかをやりたいそうだ。


 マネージャーとしても夫としても体調面なんかが不安だけど……


『丈助さんと、碧と蒼がいるだけで、滅茶苦茶元気出ちゃうんだよ。幸せで今が凄く楽しいのっ!』


 目をキラキラさせて言われたら、何も言えないかったよ。まぁ、内緒で仕事の量を調整しているのは、社長と井上さんとの秘密だ。


 それに……


「そういえば笑美ちゃん? 今何か月?」

「ふふっ、4ヵ月です!」


 笑美ちゃんには新たな命が宿っている。

 前からお互いに、子どもはたくさん欲しいと言ってはいたけど……まさかまた双子だとは思いもしなかった。


「おぉ! 笑美ちゃんもだけど、君島さんも頑張らないとね?」

「もちろんですよ」

「おぉ~頼もしい返事だね? 丈助さん!」


 そりゃそうだよ。

 君と出会えて、俺は今こんな幸せを感じてる。


 頑張るなんて当たり前だよ。


「ははっ。あっ、それでね? 今日は2人に折り入って話が合ってきたんだ」

「なんです?」


「実はね? 今度また映画を撮影したいと思ってね? 今回は……恋愛物なんだ」

「監督が恋愛物なんて珍しいですね?」

「確かに! 監督=ホラーって定着してないですか?」


 だって俺は、約束したんだ。笑美ちゃんとも……父さんとも母さんとも。


「僕も違う自分に挑戦してみたくなってさ?」

「おぉ。凄いね丈助さん」

「ですね? それで俺達に話っていうのは?」


「ふふ。その映画の題名を思いついたんだけど、最初に聞いてもらいたくてね?」

「きっ、気になりますっ!」

「是非教えてください」


「ふふっ。あのね……こういう題名を考えているんだ」


 笑美ちゃんと子ども達を絶対に幸せにするって。




「34歳、独身無職。女子大生に拾われる。」




ここまで読んでいただきありがとうございます。

本編の方はこれで完結となります。あと数話閑話考えておりますので、宜しくお願いします<(_ _)>

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