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73話 とある女/対面

 



 源氏名レイナ。

 現在キャバクラピンキィで働くキャバ嬢。

 また系列の風俗店ミルキィでも働いている、ある意味二刀流。


「あぁ~美味しい」


 本名は相島一39歳。バツイチ。

 自称、相島笑美の母親。


「ねぇ? それで話ってなに?」


 若干の薄暗さから聞こえる声を聞きながら、俺は目の前の相島一の顔を見つめる。

 確かに目元なんかは似ているかもしれない……相島笑美に。


「いや、すいません。突然お会いしたいなんて言っちゃって」


 あの日蘭子から聞いた自称相島の母親。もしかすると、もっとあいつらをどん底に突き落とせるかもしれない。そんな勘を信じ、俺は蘭子を通じて会う約束をした。

 ここは俺の行きつけのバー。それも念を入れて奥の席を選んでおいたものの……現状、その行動は功を奏したと言って良いのかもしれない。


 こいつはもしかすると、本当に……


「全然よ。それにあなた顔良いし、美味しいお酒も奢ってくれるみたいだしね?」

「それは嬉しい限りです」


 少し化粧は濃いが、39にしては綺麗な部類だ。それに出るところは出てるし、仕事柄か服装もエロい。風俗でも働けている要因の一つだろう。もちろん年齢はごまかしているとは思うが。

 まぁそれはさておき、早速本題に入るか。


「あの相……」

「レイナ」


「えっ?」

「レイナって呼んでくれる? その名前好きじゃないの」


「すいません。じゃあレイナさん? 単刀直入に聞きますが、蘭子から聞いた話だと、相島笑美の母親という事ですが……」

「……あぁ。そうだよ」


 あっさりと言うべきか、長年の営業トークなのか。


「あの、別に疑う訳じゃないんですが、その証拠というか……」

「はぁ? あのクソ女のせいでアタシの人生おしゃかになったんだ。なのに最近テレビやなんやらでチヤホヤされて、あぁ腹が立つ。黙って田舎で暮らしてろよクソが」


「おっ、落ち着いてください。あの、初対面の人に言うのもあれだと思うんですけど、その……相島笑美のせいで人生おしゃかってどういう事なんでしょ?」

「……へぇ、あんたなんか面白いね。大抵の奴はアタシがあのクソ女の母親だって言っても鼻で笑ってんのに。そうね……いいよ? 教えてあげる」


 それから相島一は、過去の自分の話をしだした。

 それ自体が嘘かもしれないという疑念を抱きつつ、俺は時折相槌を打ちながら耳を傾ける。


 相島一はここ東京で生まれ、自身も養護施設出身だった。

 かろうじて母親の記憶はあったがどれも酷いものばかりで、一という名前も望んでもいないのに勝手に出来たし、とりあえず最初って事で一という名前になった。これは事あるごとに母親に言われていた事らしい。


 そうして養護施設に入った相島は、表面上こそ小中学高校に真面目に通った。ただ、裏では色々な怪しいバイトで金を稼いでいたそうだ。金があれば好きなことが出来る……そう思い続けた相島は、高校卒業後キャバクラで働き、それなりの稼ぎがあったらしい。そんな時、相島笑美の父親と出会ったそうだ。

 近くのホストで働く(ひじり)という男。

 相島はそいつに惹かれ、店に通い……将来はそういう関係になるという約束をして、妊娠した。その男事を告げると喜び、幸せになれると思った矢先に突然男が姿を消した。


 電話も何もつながらない。

 勤務先に向かうと同様で、どうやら飛んだという噂でもちきりだった。自分の事情を話せば、他のホスト達は親身になってくれると思ったのに、


『マジで? あいつ5人は女居るぞ?』

『カワイソー』


 その言葉は聞くに堪えなかった。

 そして自分の働いている場所にもなぜか妊娠の噂が広がり……同様に色々な事を言われた。そんな周囲からの全ての言葉が嫌になってキャバクラを辞め、逃げるようにして辿り着いたのが青森だった。


 そこまで話を聞くと、正直ありえそうな話とも感じた。

 ただ、そこから市営住宅に入り、結局青森でもキャバクラで働き、適当に男に貢がせていた。

 あのクソ女が生まれて、最初は可愛かったが、徐々にあの男に似てきてイライラし、男に貢がせる時間も無くなって放置していた。市やら児相もうるさかったが、ちょっと発狂すればとりあえず日を改めると言って帰っていた。それが日常だと。


「挙句の果てに、意味分かんねぇ奴が部屋に来てさ? 児相も来やがって。せっかくのらりくらり訪問やら何やら躱してたのにさ」


 聞くたびにゾクゾクする、リアルな鬼畜の所業に……これは本当じゃないかと考えを改め始めた。


「それで今はまた東京に?」

「やっぱ金良いじゃん? まぁ晴れて一人になったんだから、好きなように生きたい訳。それに当時のキャバなんてとっくにないし、知り合いも居なくなってたから逆に働きやすいのよね」


 もしかしてマジなんじゃないか? じゃあ、ちょっとカマ掛けるか。


「あのレイナさん? ちなみになんですけど……DNA検査とかやって欲しいって言われたらやれます?」

「DNA? ちょっと、あのクソ女と血繋がってるなんて嫌なんだけど?」


「いやいや、あのですねレイナさん? 実のところ、美味しいお話ありまして……」

「美味しい?」


「えぇ。自分の人生壊した相島笑美が、今現在こうして活躍してるの見て悔しくないですか?」

「そりゃ当たり前でしょ!」


「じゃあ、一緒に一泡吹かせませんか? もしかすれば良い金額が入るかもしれませんよ?」

「良い金額? 面白そうじゃない。聞かせてよ」


 ……これでいい。

 偽物でも、俺は痛くも痒くもない。

 本物だったら万々歳。


 俺は今、最高にツイている。







 ★







「ん~!」


 ビルを後にし、思わず背筋を伸ばすと思わず声が零れる。

 本番さながらの気を張った会見の練習。明後日の本番に向けて、彩華さんも厳しい表情だった。けど最終的に、


『まぁ、堅苦しくなったら自分の思いを言っちゃえば良いんですよ』


 ふふっ。なんかその一言で、気が楽になっちゃったな。

 でも、丈助さんと三月社長は関係各所に色々と出て回ってくれてる。


 だからこそ、変な事は出来ないし……きちんとしなきゃ。

 うん。だから頑張ろう? 笑……


「笑……美……」


 それは突然だった。

 人通りが多いはずのこの場所で、ハッキリと耳を通った声。


 それはある意味特徴的で、ある意味懐かしくて、ある意味……恐ろしいものだった。


 心臓の鼓動が早くなる。

 額に何かが滴る。

 手が唇が……訳もなく震える。


 嘘……でしょ? なんで……


「やっぱり笑美ちゃんじゃない」


 また聞こえる声に、私はゆっくりと後ろを振り返った。

 それが聞き間違いで、自分の予感が外れることを願って。


「あぁ、久しぶりね?」


 少しこけた。

 ただ、その色のグロスは良く覚えている。


 少ししわが増えた

 けど、その手は良く覚えている。


 少しボザボサになった。

 けど、その髪の結い方は覚えている。


 そして覚えてない。

 その……気持ち悪い笑顔。


 あぁ、やっぱりそうだ。




「……母さん」




次話は月曜日を予定しています。宜しくお願いします<(_ _)>

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