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41話 おっさんの不可抗力

 



 体の温かさ。

 ほんのり感じる重み。

 いつもとは違う感覚に導かれるように、俺はゆっくりと目を開けた。


 ん? なんか妙に温かいぞ? しかも布団とは違う重み? 一体……あっ……

 頭の中を過る些細な疑問。ただ、幾ばくもなくハッキリ映し出された光景のおかげで、あっという間に解決する。


 ……忘れてた。


「すーすー」


 ごく普通にベッドで寝ているかのように、俺の上で寝息を立てている笑美ちゃん。顔を若干埋め、オヤジ臭がしないか気にはなったけど……その姿に、徐々に寝る前の記憶が蘇ってきた。

 あぁ。確か笑美ちゃんに頭撫でて、そのまま寝ちゃったんだよな。でも、下手に動かすのもあれでどうしようか考えてる内に、俺も寝ちゃってた訳か。とはいえ、流石にこのまんまはマズいよな?


 傍から見れば、密着しながら俺が敷き布団にされているという状況。別に上で寝てる笑美ちゃんが重いとは思わない。むしろ、そのスタイルの良さを実感できるくらいの丁度良い重みだ。


 ただ、意識がはっきりしてくると色々と感じるものがある訳で……その体温は勿論、体に押し付けられた柔らかい感覚。アルコールのせいでそこまで考えてはいなかったけど、とんでもない状況だ。


 やべぇ……まず上半身に感じる柔らかさが半端ない。大きいだけあってその範囲も広いし、服の上からも柔らかさを感じる。

 しかも俺、無意識に笑美ちゃんの背中に手回してるじゃんか! あれか? 落ちない様にって配慮なのか昨日の俺! ナイスなのか? いやケガさせないようにという意味ではナイスなんだろうけどさ?


 ……ん? 待て反対側の右手はどこにある? なんだ? なんか掌に丸くて柔らかいものが……

 左手はまるで笑美ちゃんを支えるかの様に、ガッチリと腰に回している。

 そして消息が危ぶまれた右手。その掌には丸みを帯びた柔らかさを感じ……徐にその感触を確認する。


 ん? 擦ると……やっぱり丸い?

 あれ? 感触は……やっぱり柔らかい?


 位置的に、腰より後ろだよな? って事は……げっ!


「んっ……」


 その瞬間、寝ているはずの笑美ちゃんの口から声が零れる。その反応に、俺は右手の動きを止め……ゆっくりと顔を起き上がらせて、その右手の先を見つめた。


 正直、嫌な予感はした。

 ただ、もしかしたら違う可能性もある。そんな希望を胸に、その先を見つめたものの……その右手にあったのは、予想通りのモノだった。


 やっ、ヤバい! 俺……笑美ちゃんのお尻鷲掴みしてるじゃんか!


「……んんっ」


 うおっ! こんなセクハラまがいな事バレたら、笑美ちゃんに怒られる! 最悪マネージャー解雇って事もあり得る! 早急に移動させよう。


 そんな危機感の元、緊急回避させた右手。

 すると間一髪のタイミングで……


「ふぁ~」


 笑美ちゃんが目を覚ました。

 うおっ。まさかバレてないか? どうなんだ?


「おっ、おはよう笑美ちゃん」

「あれ? 君島さん? なんで私の下に…………って! えっ? えぇっ!?」


 一瞬の静寂の後の慌てふためく笑美ちゃん。悪いけど、その反応的にさっきの愚行がバレていないのだと安心した。

 そしてもう1つ……上体を起き上がらせ、辺りを見渡すテンパった笑美ちゃんもなかなか新鮮だ。


「ちょ! 私なんで君島さんの上に? まっ、まさか……」

「えっと、ダイブしてきて寝ちゃったんだよ」

「えぇ!? そそそっ、そんな失礼な事を? 待ってください記憶が曖昧で……って、すいません! 重いですよねすぐ退きますっ!」


 そんな言葉と共に、颯爽と起き上がる笑美ちゃん。


「いや、本当にすいませんっ!」

「大丈夫、大丈夫」


「うぅ……なんかテンションが上がって、ダイブしたっぽい記憶はあるんですけど……その後の記憶が無いんですぅ」

「ははっ。結構飲んでたからねぇ」

「すいませぇん。しかも……昨日の服装のまんまじゃないですか! その格好で君島さんの上で寝てたんですよね!? 大丈夫です? 臭くないですかっ!?」


 いやいや。臭くないし、むしろ良い匂いしてたって。服の匂いを嗅ぐの止めなさい。女優さんですよ~?


「大丈夫だって。むしろ俺の方が臭かったんじゃないか?」

「ぜぜっ、全然ですよ! ぐっすり爆睡でしたもん……って、本当にごめんなさいっ! おっ、お風呂行ってきまーす」


 いやいや、そんなに焦らなくても……

 ダッシュでお風呂場に向かう笑美ちゃんの背中を見ながら、そんな事をを思いつつ……俺は昨日の事が夢じゃなかったんだと再度実感する。


 ……夢じゃない。笑美ちゃんはノーNGで初主演の作品の撮影を終えたんだ。そして、女優としての一歩も踏み出したんだ。


 これから忙しくなるぞ笑美ちゃん? 俺も精一杯サポートするからさ?


 ガタゴトガタンッ!


「キャー! あっ痛っ!」


 ……怪我だけは止めてくれよ?




 ★




 無事に撮影を終え、盛大にお祝いをした俺達。

 その後のモデルの仕事も順調で、笑美ちゃんはまさに飛ぶ鳥を落とす勢いの活躍だった。


 そして、ついにドラマの1話が放送。勿論一緒に見てた訳だけど……隣に居る人がドラマに出ているなんて、少し変な気持ちだったよ。

 ただそれ以上に……滅茶苦茶嬉しくてしょうがなかった。


 放送後の評判も視聴率も良く、今後も更なる人気が予想されるという最高のスタート。俺も笑美ちゃんも、いつも以上に張り切って仕事に励んでいた。

 そんなある日。それは何時もの様にリビングでくつろいでいる、笑美ちゃんの何気ない一言だった。


「あっ、君島さん? 彩華さんと彩ちゃんの歓迎会いつします?」

「ん? 歓迎会?」

「だって、本来なら4月にやるじゃないですか? でも途中で入社しましたし……私達だけでもって思ってましたけど、撮影やらなんやらだったじゃないですか?」


 ……確かに。俺が誘った以上、そういう事をしないのもあれだよな。今はとりあえず次のドラマの撮影もないし、モデルの撮影もそこまで長時間のモノはない。


「そうだな。俺が誘ったってのもあるし……やるか? 井上さん姉妹の歓迎会」

「やったぁ!」


「じゃあ、さっそく明日聞いてみるよ」

「私も明日事務所行くんで、一緒にお願いしましょ? 君島さん」


「笑美ちゃんが一緒だと、絶対断らないぞ? 井上さん」

「えぇ? そうですか? ふふっ」


 さて、となると場所とかだな? どうせなら楽しまないと損だ。そういえば、井上さんが秘書になってから社長がめちゃくちゃ生き生きしてるよなぁ……


 これを機に井上さん達にもお礼言わないとね。




読んでいただきありがとうございました!

次話も宜しくお願いします<m(__)m>

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