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11話 女子大生に安堵する

 



 これは現実だろうか。

 はたまた、起きたと思っていた長めの昼寝の夢が続いているんだろうか。

 それくらい、目の前の笑美ちゃんの姿は昨日の……いや、今朝のえみちゃんとは違い過ぎる。

 同一人物なのかと、疑いたくなる程だ。


 なっ、なんか雰囲気がガラッと変わったんですけど? 年相応の女の子って感じで違和感はないけど、その容姿には何というかギャップが。

 しかも会いたかったって……その言葉は嘘でも嬉しい言葉の1つだ。


「会いたかったって……なんか照れるな」

「はっ! ごめんなさい。つい口から溢れちゃいました。でも、本音ですよ? 私はずっと会いたかったんです」


 けど、この笑顔に……嘘っぽさは感じられないな。


「ありがとう。俺もだよ?」

「ほっ、本当ですか!? うっ、嬉しいです」


「本当だって。けど、えっとあの……笑美ちゃん? ちょっと良いかな?」

「なっ、なんでしょう? あっ! 今までの態度ですよね? 本当にごめんなさい。でも色々と事情が……」


 おーい。今までの笑美ちゃん像が変わりすぎて、違和感半端ないんですけど? とりあえず色々と聞きたもんですな。


「違うって。俺は全然気にしてないからさ? でも、笑美ちゃんの事ちゃんと知りたいんだ」

「知りたい? 私を? いいっ、一体どこからどこまで話せば満足してくれますかね? すっ、スリーサイズまでなら何でも! 流石に体重は……」


 少し見当違いな事を言いながら、慌てふためく笑美ちゃん。普通に見ればおっちょこちょいで、どうやって正しい方向へ話を持っていけばいいのか困るだろう。けど、


「ふっ、ははっ」


 俺はなぜか思わず笑っていた。

 クールなえみちゃんも、大人っぽくて成長を感じた。

 そして目の前の天真爛漫な笑美ちゃんも、表情豊かで幸せに過ごせてきたんだと安心する。


 そんな気持ちが、無意識に零れていた。


「えっ? なっ、なんで笑ってるんですか? 私変な事言いました?」


 あぁ……本当に良かった。


「いや、何でもないよ? あっ、でも本当聞きたい事があるんだけどいいかな?」

「どぞどぞ」


「えっとさ? 単刀直入に言うけど、公園で俺を見つけた段階で分かってたの?」

「ははっ……実を言うと、最初に君島さん見かけた時は怪しい人だと思いました」


 だろうな。それが一般的な市民の回答だよ。


「まぁそうだろうな」

「でも、直ぐにその後姿が……自分の記憶に一致したんですよ」


「記憶?」

「はい。もちろん、君島さんです。あの日私を助けてくれて、部屋を後にする時……目に焼き付いた背中です」


 まっ、マジか? けど小さい時の記憶頼りに、危ないおっさんに声掛けるって相当リスキーじゃね?


「それは嬉しいな。けど、他人の空似の可能性もあっただろ? 怖くなかったの?」

「こっ、怖いに決まってるじゃないですか! けど、今までいろんな人の背中見ましたけど、あそこまでピンとくる後ろ姿はなかったんです。それで、恐る恐る……」


「声を掛けた?」

「まぁ、結構近付いてたんですよ? でも、君島さん上の空で私に気付く素振りもなくて……そんな時、首にかけてたネームプレートが目に入ったんですよ」


 ……ははっ。話し掛けるまで笑美ちゃんが結構近くにいたのに気が付かない。どんだけヤバかったんだよ。けど、外し忘れたネームプレートのおかげで、俺だって分かったって事か。


「それで確信したと」

「はいっ!」


「けどさ? 同姓同名だったらどうするの?」

「その時点で、君島さん結構髪の毛掻き上げてましたから。くそっ、くそっ! なんでだ……って小声で言いながら。その時に傷も見えてたんですよ? だからほぼ100%に近い確証は持てました」


「まじか。それすら記憶にないよ」

「見てるこっちとしても、相当な事があったんだって分かりましたもん」


 そして意を決して声を掛けたと。


「なるほどね。ごめんよ? 最初はマジで怪しんでたよ。見た目からしてヤバい俺が言うのもあれだけど、新手の詐欺的な?」

「なっ! それは流石に失礼ですよっ!」


「だって考えてみ? 夜も遅い時間に美じ……可愛い女の子が、飲んだくれのおっさんに声掛けるって、普通じゃ有り得ないだろ。しかも最終的にウチに来てくださいだぞ?」

「かっ、可愛い……? ごっ、ゴホン。確かに思い起こせば、私もヤバいですけど……」


「大体、無表情で付いて来なかったら大声出すとか、いろんな意味で終わったと思ったよ」

「そそっ、それは! 仕方ないじゃないですか! こっちだって長年探してた人と出会えて、けどどうやって声掛けて、どんな感じで居たら良いのか分からなくて……緊張してたんですもんっ! でも、緊張してたとはいえ、あれは年上の人に対する態度じゃなかったです。ごめんなさい」


 緊張か……正直、俺にはそんな緊張してる雰囲気なんて感じられなかったぞ? でも、それが本心だとしたら、やっぱ笑美ちゃんは優しい子だよ。


「全然。むしろ、あのくらいのクールなキャラじゃなかったら、俺も冷静になれなかったよ。それにこの家にもお邪魔してなかったし、次の日に部屋に行って荷物取ってくるなんて芸当も出来なかった」

「君島さん……」


「だから、本当にありがとう。あの時、声を掛けてくれたクールキャラのえみちゃんも……今目の前にいる笑美ちゃんもさ? 感謝してもし足りないくらいだ」

「なっ、いきなりそんな事言われたら……はっ、恥ずかしいですぅ」


 そう言いながら視線を背ける笑美ちゃん。おそらく本来の性格はこうなんだろう。しかしながら、初っ端のクールキャラの印象が強すぎて、何気ない仕草にギャップ萌えというものだろうか? 何かしら感じるものがある。まぁ、そもそもの容姿がピカイチってのもあるだろうけど。


「ただ、俺と分かった上でも……男を自分の部屋に上げるのはやっぱりどうかと思うぞ。それこそ昨日とかも言ったけど、人ってのは昔と性格も雰囲気も変わる。俺だって例外じゃないだろ? 邪な思考の持ち主だったらどうするんだよ」

「えっ!? そんな事本気で考えてたんですか!」


「モノの例えだっての!」

「冗談ですよぉ。その点については昨日からずっと言ってますよ? 長年願っていた人と出会えたなら声を掛けます。その人が上の空で絶望してたら尚更です。その行動は、君島さんが変わっていようとどうだろうと関係ありませんよ」


「かっ、関係無いって……」

「それに君島さん? あれだけ酔っぱらってたのに、頑なに家に行くのを拒む姿見たら……そういう気持ちが無いのは分かりますって」


 うっ。無意識だろうけど、その首かしげてこっち見るのは反則だろう。ただ、やっぱ優しいな笑美ちゃん。


「そうか。ははっ、本当に……大きくなったよ。大学生に、話題沸騰のモデルさんだなんて……普通に暮らして欲しいって願いの、はるか上を行く現状に嬉しくて仕方がない」

「へへっ。なんか照れちゃいます」


 ……あぁ、やっぱダメだな。何度だって感じてしまうし思ってしまう。


「ははっ。けど、笑美ちゃん」

「はい?」


「贅沢……とは言わないけど、人並みの生活でも、元気で幸せを感じられる様に育って欲しいって思ってた」

「そっ、それなら会いに来てくれても良かったじゃないですかぁ」


 それはそうだけど、個人情報のうんたらこんたらとかさ? それに、あの時笑美ちゃんは小さかったから、新しい生活を始めるのに邪魔な記憶は無い方が良いと思ったんだよ。あの母親も、俺の事もさ? あの場所から離れて、思い出すような事さえしなければ……少しずつ薄れていくだろうって。


「いやいや。個人情報のあれこれで、保護された後の行先知らなかったしさ? 養護施設としか。けど、その点に関しては……ごめんね?」

「本当ですよぉ。でも、こうして会えました」


 ……だな。


「俺の想像以上に、凄い存在に育ってくれて嬉しい。本当に……良く頑張ったね」

「がっ、頑張ったねだなんて……うっ、嬉しいです。でも、その始まりは君島さんですよ? 君島さんがあの時助けてくれなかったら、私はこの場に居ません。それに、ちゃんと面と向かって言いたかったんですよ?」



「君島さん。助けてくれて……ありがとうございました」




現実世界恋愛の日間ランキングで9位にランクインする事が出来ました。

読んで頂いた皆様のおかげです。大変ありがとうございます。

次話は明日、お昼の予定。今後も頑張りますのでよろしくお願い致します<m(__)m>



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