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「待ちな!」
そういって、近づこうとする恰幅の良い男とウェイトレスの間に
少年のような冒険者が剣の柄を握りしめた状態で割り込んだ。
安堵の顔をうかべるウェイトレスを冒険者は力強い頷きで答える。
そして、恰幅の良い男に向き合うと
「それ以上の狼藉は許さない。」
「ろ・・ろうぜきぃ?何のことですか?」
「もはや、問答無用!」
剣を抜き襲い掛かろうとする冒険者の柄にそっと左手を載せ、ドレトルは制した。
「おいおい、一寸落ち着けって。」
「っぐ・・ぬっ・・・っく・・」
「落ち着けって・・・・カップーク。」
「はいはい。どうぞ。」
カップークと呼ばれた恰幅の良い男は、ドレトルに持っていたナイフを渡して席に戻っていった。
ドレトルは、受け取ったナイフを、ウェイトレスと冒険者、そして店の主に見えるように持ち上げて言った。
「これは、店のナイフだろ?良く見ろよ。
ただ、ナイフを落としたから、新しいのと交換してほしいだけだぜ?」
「え・・?へ・・・?」
「あ、ほんとうだ・・・あ~!ごめんなさい。すぐ持ってきます!」
そう言われて、マジマジと見るウェイトレスと冒険者。
そして、自分の勘違いに気付いたウェイトレスは、急いで厨房の方へと向かった。
取り残された冒険者は、ばつの悪い顔をしつつ、
「そ、そうか。悪かったな。」
「ま、気にするな。
あ、気にするんだったら、俺たちと飲もうぜ。
んで、注文頼めるか?
ほら、俺らの面は怖いじゃねーか。
だから、替りに頼んでくれると助かるんだよ。
な?
いいだろ?
よし、決まり!」
「え?いやいやいや。いやいやいや。あ、エール?ありがとう。
・・・じゃなくて!えぇ?肉注文?あ、はい。え?はい?」
そのまま流れで拉致られたのだった。
その一騒動を見ていた店内の客達は、被害がなさそうだと判断したのか
また、騒々しい雰囲気へと戻っていった。
「ねえねえ。冒険者さん。」
「ん?あ、ウェイトレスさんに絡んでた人」
「絡んでないですよぉ。」
「でしたね・・ごめんなさい。ウェイトレスさんが迫られているように見えたので」
「いえいえ。わたくし、カップークといいます。
一応、これでも妻帯者で奥さん一筋なんですよ。
だから、他の女の人を襲うことはないですからね!」
「あー。そうなんで・・・・・え!」
(あー。昨日は飲みすぎたな)
どうやって部屋まで戻ってきたのかも思い出せない程、飲みすぎたドレトルは
辛うじて自分の部屋であることを確認し、安堵していた。
(んだよ。裸で寝ちまったのか。服はどこだ?服は)
下半身から腹のあたりまでシーツで隠れている自分の体を確認し、首だけを動かして服を探す。
何故か体は何かの重しが載っているのか動かせる気がしない。
そして、その重しからはすーすーと寝息が聞こえてきた。
(猫でも拾ってきちまったか?・・猫にしてはなんかでかいな・・)
何気なく、シーツの中をのぞいてみる。
そこにはシーツに包まり、肌を密着して寝ている『あの少年冒険者』がいた。