表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

30/60

コバルトとヨウ素30 九月の雨

「傘、忘れた。」


外は雨だ。台風が近づいているとかで天気の急変の可能性を忘れていた。今日は模試のせいで土曜日登校で、バスが無い。電車を乗り継いで帰るから駅まで歩かなきゃならないし傘無しはまずい。教室の外を眺めながら、がっくりしてると、戸村に、


「タケちゃん、アレ使っちゃえ。」


と言われた。あーアレ。


アレとは科学部所蔵の傘だ。ただの傘じゃない。一応発明品だ。降水量を測るために先頭にプラスチックのメスシリンダーが載っているのが1番地味かもしれない。盗難されにくいビニール傘と言う発明傘は何種類かあって、開くとおふだが出てくるのや、ビニール傘全面に目が無数に書かれているのから、さすと恥ずかしくなるでかいハートが先頭についたいわゆる相合い傘(1人でさすと虚しくて2人でさすとバカップルに見えるという)などなど。どれをさすべきか。


目かな。前衛アート的な。


戸村は雨足が軽いうちに自転車をかっ飛ばすと言って先に帰った。俺はゆっくりと傘を吟味して1人で昇降口へと向かった。学年、文系と理系、選択科目の違いで下校時間はまばらで閑散とした昇降口は雨空も相まって薄暗かった。と、傘立てを睨む蔵森さんに出くわした。久しぶりだ。


「久しぶり。」


声をかけてみた。もうあと何回姿を見れるかわからないからちょっとだけ勇気を出してみた。


「あっ」


こっちを見上げてそのまま彼女は固まった。


「傘?」


探してるの?まで言葉が出ないのが情けない。


「傘、多分、盗まれました。」


しょぼんという感じで下を向いた彼女に


「この傘、科学部のなんだけど使う?」


と思わず前衛アートを差し出した。


「平原さんは?」


「俺はもう一つ別の取ってくるから」 


「わ、私も一緒に行きます。」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ