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預けられた孤児院で、何も知らぬまま彼が6歳まで成長した頃には
既に魔王が猛威を振るい、世界の5分の1は完全に魔族達の土地と化していた。
6歳になった彼には少しずつ勇者としての姿が現れていていた。
孤児院に来た時はただの平凡な茶髪だった髪は時と共に色素が抜けていき、
今では少しだけ猫っ毛な碧みがかったアッシュグレーへと変わった。
さらに、瞳は緑から猫のような瞳孔の美しい金色へと変化した。
そして、額には歪ながらもどこか神聖なものを感じさせる紋様が現れた。
彼の育った孤児院のシスターであるモニは、落ち着きが取り柄の優しい人だった。
大抵の事は自然の摂理として受け入れるので
彼の髪色や瞳が変わった時も動じず、むしろ、周りの子供たちから孤立しないよう気にかけてくれていた。
しかし流石に彼の額に現れた紋様を自然の摂理と受け入れるには行かなかったので、
「神殿へ連れていこう」
との判断を下してしまった。
この世界で神殿の大半は、生まれ持ったその神聖な力を私腹を肥やすためだけに利用していた。
中には人助けのために力を使いたい善良な者もいたが、やはり、そういうもの達は悪に淘汰されていた。
モニは彼の額の紋様に手を当てて言った、
「あなたのこれ、私の勘違いかもしれないけど、神聖なものを感じるの。1度神殿に行って見てもらいましょう?」
モニは真摯な信者だったので、神を信じて疑わなかった。聖職者に対しても同じだった。
彼自身は神など信じていなかったが、信頼するモニが信じるものを冒涜することはしなかった。
そして、その時も神殿へとついて行ってしまったのであった。