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彼が生まれたその日、地が裂け、天が割れ、そして魔王が復活した。
小さな集落で生まれた彼は“災の子”として生贄に捧げられることになった。
生後1ヶ月をすぎる前の事だった。
小さな村や集落では良くあることだと言ってしまえばそれだけだ。
その集落の森の神木のもとには
「黄泉の泉」
と呼ばれる、美しいが底なしの泉があった。
そこには龍神がいると言い伝えられており、実際10年に1度の頻度で生贄が捧げられていた。
誰も実際に目にしたことは無いため実在するのかは不明である。
生贄として捧げられるその日、白い布にくるまれて泉へと連れてこられた彼。
身を清める為に、
大量の聖酒と聖水に何度も沈めては上げられ、衰弱した状態で
泉へと落とされた。
大量に水を飲んでいて、息もできず、彼は溺死した。
が、結果的に彼は助かった。
彼には、使命があった。
運命があった。
変えられぬ、残酷な。
“魔王を倒すか、魔王に倒されるかでしか尽きぬ命”
彼は集落の全員の命を犠牲に生き返った。
何事にも対価は必要だった、
例えそれが望まれていなくても。
彼が泉から生き返った時、まだ生後1ヶ月未満だった彼は
誰もいなくなった集落で餓死した。
次は泉の主の龍神が犠牲になった。
この時、運良く通りかかった行商人に拾われなければまた何者かの命が犠牲になっていただろう。
彼一人のため、世界の為に。
拾ってくれた行商人は、彼を王都まで世話焼きながら連れてゆき、孤児院へと預けた。