はじまり
どこまでも続く深い、暗闇の底にその男はいた。
今の彼の姿は醜かった。
腹の中に飼っている欲深い悪魔が現れたようだった。
男は闇の中で何度も何度も願った、
「もう一度、もう一度だけやり直せたら、、、」
その願いはいつも通り闇の中へ吸い込まれて消えていった。
その男はかつて人類の希望、勇者であった。
魔王と対を成す唯一無二の存在。
実際男は強く有った。
口が悪く勘違いこそされやすかったが
その悪態の裏にはいつも溢れんばかりの優しさがあった。
そんな彼の人柄は多くの人を惹き付けた。
いわゆる、ツンデレだ。
しかも、見目が非常に麗しかった。
180を超えるすらっとした長身に程よく鍛えられた筋肉。
少し猫っ毛な碧みかかった透き通るグレーの髪に眠たげながらも強い意志の篭もる金色の瞳。
長いまつ毛ときめ細やかな白い肌は、男女ともに魅了されずには居られなかった。
最も、彼はその事に照れくささを感じて気付かないふりをしていたが。
そんな多くの魅力に溢れる彼は「スピカ」という通り名で呼ばれた。
光り輝く一等星、柔らかな優しさ、鋭い強さ。
孤児ではないが、名を持たなかった彼はその通り名が自身の名のようなものであった。