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スズメの詩 sleep

使用お題:「光」

拝啓 森田先生


 世は地獄、と誰かが言いました。その言葉の通り、私にとってこの世はとても不可解で、誰一人として私の苦痛や悲嘆を理解する者はいない。それでも私は、そこで幸せなフリをしながら空虚な笑みを浮かべていなければならない、地獄のような場所でした。死にたいと思いながら笑っている、そんな私の苦しみを理解しようとしてくれたのは貴方一人であり、だからこそ私にとって貴方は光そのものでした。

 

 大きな会社の社長令嬢として育った私は、物心ついた頃からお茶やお花の礼儀作法に教養としてのピアノやバイオリン等、窮屈で忙しい日々を送っていました。私は一人っ子で他に兄弟もいませんでしたので、必然的に跡継ぎとしての重圧も私一人にかかってきます。そんな日々の中、私が唯一夢中になった物、それが剥製集めでした。そのきっかけは、貿易商を営む父が土産にと持ってきた子虎の剥製でした。その美しさにすっかり魅了された私が、それ以外の動物の剥製を集め出したのはそれからです。剥製だらけになった私の部屋を知り、母は眉を顰めましたが父は快活に笑っていました。

 実際に剥製を作ってみたいと思うようになったのは、家の門の前に野良猫の死骸が置かれていたのを目にしてからでした。私の家の会社は、父が一代で築き上げた物ですので、こうしたやっかみが今でもあります。その時の猫の死骸は『どんな病気を持っているのか分からない』と言われ、すぐに片付けられてしまいましたが、その時の猫を剥製にしたいという私の思いは日に日に高まって参りました。

 それを実行に移したのは、中学二年生の夏休みのことでした。その頃私は茶道部に所属しており、部活を言い訳によく一人で河川敷に座りぼぉっとしていることがよくありました。窮屈な家、窮屈な女子校。上辺だけは優しく笑顔ですり寄ってくるのに、その面の下では何を考えているか分からない卑猥な顔を浮かべた友人や教師達。それら全てに嫌気がさしていたのです。この世に、本当のことなど一つもない。全ての出来事は虚像で、この手に触れる物だけが真実。そんなことを思いながら川を眺めている私の腕に、一匹の猫が『ニャア』とすり寄ってきたのはその時でした。その猫は、飼い猫なのか警戒心などまるでなく餌をねだって私の腕に自身の体をこすりつけます。ほの暗い衝動を浮かべている私に気付いたのか、猫はたちまち毛を逆立てましたが、逃げだそうとその猫が動くより一瞬早く私は猫の足の腱にカッターナイフを押し当てました。その後のことは、高揚感と緊張感でよく覚えていません。とにかくこうして、私のコレクションに一体の猫が仲間入りしました。

 それから、私は様々な動物をペットショップで購入し、剥製を作りました。幸い、家には使われていない倉庫状態の離れがありましたので、場所には困りません。内蔵などの汚物の処理には頭を悩ませることもありましたが、そちらもミキサーで細かくしトイレに流す、という画期的な解決法を編み出したおかげでなんとかなりました。

 そして、剥製づくりも上達してきた高校に入学した春、私は両親に無理を言って受けた外部高校の入学式で運命的な出会いを果たすことになります。それが、総代の駒繋桜子です。私はどうにかして彼女の美しさを永遠に留めておきたいと思い、彼女が一人になる瞬間を狙い、高二の秋に実行に移しました。これは、彼女のためでもあるのです。貴方なら分かるでしょう。


 この思いを、いつも私の話を聞いてくれる貴方に伝えたくて、こうして手紙を書きました。遠くから聞こえてきたはずのパトカーのサイレンが、この家の前で止まっているのを見ると、私のしたことがばれたのでしょう。わたしはもうすぐ刑務所や少年院と言った檻の中に入ると思います。貴方にまた会えるその時は、十年、二十年、もっと先かもしれません。こんな混乱を招いてしまった私が言うのもおかしいかもしれませんが、それまでどうかお元気で。


                                   綾姫麻衣


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