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鬼灯庵のクリスマス 解答編 ひめありす

出題編はこちら「鬼灯庵のクリスマス」 https://ncode.syosetu.com/n8706gn/10/

「謎を解く前に、一つ条件がございます」真実の巫女たる日向は恭しく口を開く。「私共は水葬探偵―――ここで明かされる一切は、全て水に流しても、かまわない。例え真実が明らかになったとしても」

よろしゅうございますか、と赤い瞳が、一同を見渡した。

「それでは、謎を再現してみましょう」

日向は穏仁警部に命じ、箱馬を一つ持ってこさせた。普段亜蓮刑事が好んで腰かけている舞台装置だ。箱馬を間に向かい合って、穏仁警部と三匹の不知火が。キヌカワは穏仁警部の隣を立ち位置として指定された。

「さあ、お前達、さっきみたいに頑張って頂戴」

命じられるまま、三角の等間隔に並んだ三匹の不知火が、光り始める。小さな手を握って、ふうっと息を吐く度に、ボッボっと、光が爆ぜる。

赤と、青と、緑の、三つの光が等しく輝いたその刹那

「白い光だ!」

キヌカワが叫んだ。

「間違いない!私が見たのと同じ白い光だ!」

「光の三原色」日向が口を開く。「あらゆる光―――可視光線は赤と青と緑で以て成立する。光は混ざれば混ざるほど明るくなり、白に近づいていく」

「という事は」キヌカワは三匹のアヤカシをねめつけた。「お前たちがやっぱり―――!」

ひえいっと不知火たちは竦み上がる。光が小さくなり、白い光が消滅した。

「ごしゅじんー」

今にも泣きそうな赤い不知火―――亜鐘が首を振った。

「オラ達、そんな事絶対にしないっす」

悲哀に満ちた声だった。

紅い瞳が、悲しげに主を見上げる。

疑われても怒鳴られても、三匹のアヤカシ達は直向きに主人を諫め身の潔白を訴える。

少々滑稽な程に。

まるで何か根本的に違っているものを、正そうとするように。

振り上げた拳の落ちる先が見つからぬまま、幾許かの静寂が過ぎ

おい、とその均衡を破ったのは穏仁警部だった。

「話はまだ終わってない」

「これで、白い光の正体は知れた。あなたの見た白い光の正体は。つまりは、白い光は犯人ではなかった」

「じゃあ、一体誰が犯人なんだよ!」

苛立たし気に髪を掻きむしるキヌカワ。

「あなたは犯人捜しを望まなかった。望んだのは、指輪の行方」

「行方って」

「お見せするわ。指輪の行方を」

そうして、日向は今度はキヌカワに、傍らの小物入れから帯留めを一つ、持ってこさせた。

日向自身はさして装飾に好みを持たないが、妹の七緒はおめかしが好きでこうした小物集めを好む。

「これでいいか」

果たしてキヌカワが選んできたのは、蝶結びを象った小さな帯留めだった。

ええ、と日向は頷いた。

「ではあなた、それを箱馬の上で支えていて。あなたたちはさっきみたいに光って見せて。穏仁警部も鬼火をお願いするわ」

「俺もか」

穏仁警部が片手をかざすと、やわらかな橙色の鬼火が現れる。

羽の帯留めを挟んで二組のアヤカシの火が揺れる。

「もっとよ」日向が言う。「もっと、もっと」

無邪気に強請るように、歌うように、はしゃぐように、日向が煽り立てる。

「もっともっと、光って見せて」

不知火は数の多いアヤカシだ。鬼も種類に分かれるが総数としては少なくない。

けれど八尾比丘尼は少ない。その希少性が優位に立たせるのか、彼らは命じられるままに鬼火を大きくし、薄暗い鬼灯庵は白と橙の二色の光に煌々を飛び越えて痛みを生じさせる程に包まれて

―――そして、帯留めは消えた。

「消えたぞ!」

キヌカワが叫び、アヤカシ達は光を収め

―――からん。

小さな音を立て、帯留めが箱馬の上で弾んだ。

「帯留めが、出てきたっす!」

不知火がびっくりしたように叫ぶ。

「蒸発現象」

穏仁警部が呻くように呟いた。

「二つの強い光が向かい合うとその間にあるものが、見えなくなってしまう。まるで蒸発したように」

「じゃあ、指輪は、一体、どこに」

キヌカワの指が、帯留めを撫でる。

「御覧のように、見えなくなっただけで、なくなった訳ではないの。だから、探せばまだどこかに、あるのでしょう」

水葬探偵は嫣然と微笑み、そしてそっとキヌカワを呼び寄せた。

水槽ぎりぎりまで進んだキヌカワを赫い瞳でじっと見つめた日向は

「貴方が本当に、指輪を贈りたいのであればね」

「なっ」キヌカワが叫ぶ。「何を言いたいんだね!」

ただの疑問よ、としゃあしゃあと日向は言う。

「およそニンゲンの感覚で言えば、求婚に今夜ほど最適な日は、ないんじゃないかしら?

なのにどうして、あなたは今日という日に家にいた?

何故犯人は今日を狙った?

貴方は言ったわ。犯人よりも、指輪の行方を捜してほしいと。

それは指輪の行方は、自分で知っていたから?

それとも、犯人に無事に逃げおおせて欲しかったから?

そもそも犯人なんていなかった?

白い光を見て、ここで指輪が消えてしまえば丁度いいと思ったのではないかしら?

………貴方、一体誰に求婚したいの?」

「それは」キヌカワの声は震えていた。「―――の、御令嬢に」

「名前も、知らない相手に?」

紅い瞳が、問う。

ごしゅじん、と三匹の不知火が心配そうに呼ぶ。

「ごしゅじんー、しっかりするっす。オラ達がついてるっす」

ふう、と観念したようにキヌカワは息を吐いた。

海運会社の不肖の長男坊の仮面がばらばらと剥がれる。

「どうやら、思い違いをしていたようだ」

声までも、変わっていた。甲高く終始不貞腐れたようだった声が、穏やかに落ち着いている。

「もう一度屋敷の中をよく改めてみる事にするよ」

お前達も、手伝ってくれるかい?

三匹の不知火にやわらかな眼差しを向けて、キヌカワが問う。

「もちろんっスー!」

「おともするっすよー!」

「ごしゅじんー!」

嬉しそうに主にじゃれつく三匹の不知火たち。

「送らねえからな。……気をつけてのお戻りを」

穏仁警部に一つ頷き、静かに黙礼をして、三匹のアヤカシを従えた人間が帰るべき人のもとへと、帰っていく。

 「面白く、なかったわ―――ちっとも」

今度は日向が不貞腐れる番であった。

「一人で私が寂しがっているだろうから?淋しくないように?わざわざあの男を連れてきたの?」

あっさりと魂胆を見抜かれ、穏仁警部は深々と嘆息した。

「お前さんと、七緒が離れるなんて、めったない事だろう」

もう一人の水葬探偵。日向の妹の七緒は今、亜蓮刑事と共に姉妹の故郷にして年に一度、この日の為に渡し船が渡されるという絶海の孤島・青蓮島に帰省中なのだ。


『―――用心の為に志摩と吹雪は連れていきます。お姉さんにはこの子を残していきますから、何かあったら頼って』


紅い瞳がじいっと、帯留めを見つめた。

ほわんっと帯留めが起き上がり蝶結びの形のままひらひらと器用に舞い始める。

馬鹿な子、と日向は呟いた。

「主なきものに、どうやって命令を出せというのよ」

「行ってみるか、青蓮島へ」

え、と珍しく日向は目を見開いた。

「出来ただろう、伝手が」

くいっと親指で示された鳥籠エレベーター。

先程の客人はおそらく才気に溢れた海運業者の御曹司で―――

「俺もお前も、聖夜なんて柄じゃないが……可愛い妹と部下に、とっておきの贈り物。くれてやってもいいだろう」

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