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光魚 おとかーる

使用お題:「光」

 メダカを飼った。

 購入したのは車で五分ほどのところにあるホームセンターだ。二十年ほど飼っていたマグロのように丸々と太った和金が死んでしまい(寿命だと思う)水槽が空いてしまったのだ。和金に飽きたから尾ビレがふりふりした琉金がいいかと思っていたが、メダカを目にして考えが変わった。小学校のクラスで飼っていたのを思い出して、懐かしかったのもある。今はメダカといっても品種改良が進み、かなり高価なものもいたが普通のヒメダカにした。十匹で七〜八百円くらい、いくつかの水草を買っても二千円しないくらいだった。

 最初は気づかなかった。

 水槽の中を泳ぎ回るメダカたちの中に、いつも水草に隠れている小さな一匹がいた。時折水草から出てきてそろそろと泳ぎ、またすぐに水草の中に隠れる。だからよく見てなかったのだ。気づいたのはメダカを飼ってから半月後。たまたま水草から出てきたところを見つけた。…何だか他のメダカと形が違うな? よく見ようと近づくと、そのメダカは水草の陰に隠れた。葉陰からちらちら見える姿が、やはりどうにも他のメダカとは違うのだ。辛抱強く観察を続けてその姿を確認したとき、はっきりと息を呑んだ。頭があり、首があり、肩が、腕がある。背中があり腹があり、その先は魚の尾ビレへと繋がっている。

 それは、小さな人魚だった。

 メダカとほぼ同じ大きさ。ぱっと見ただけでは気づかない。しかしそれは人魚だった。ホームセンターで買ったメダカの中に人魚が混じっていたのだ。そんなことあるのか?そもそも人魚が実在するって、何かの間違いじゃないのか?しかし人魚はそこにいる。水草の、葉陰に隠れて。

 しばらくすると、人魚は少し大きくなった。

 鱗の色がはっきりとしてきて、明らかにメダカとは違ってきた。なめらかに並んだ鱗は水槽の中で青に紫に緑に色を変える。光りを受けて煌めく。親指にも満たない大きさだったが、充分美しかった。人魚は葉陰から出てきて、積極的に泳ぐようになった。

 そしてそれを見た。

 メダカたちに混じって人魚が泳いでいる。一匹のメダカに近づくと、メダカは人魚を避けるようにした。その後を人魚が続く。メダカが逃げる。人魚が追う。人魚が両腕を伸ばしてメダカの尾を掴んだ。ぐいと引き寄せるとしっかりと抱きつき、その背に喰らいついた。驚きと痛みに暴れるメダカを押さえつけ、その肉を喰いちぎる。僅かだが鮮やかな赤い色が水中に散る。人魚はメダカに歯を立てて、ぎちりと引きちぎる。

 人魚は肉食だった。

 思えば水草の中にいたのはメダカの卵を食べていたのだろう。成長し体が大きくなり、メダカを襲いはじめたのだ。美しい鱗を煌めかせて、小さな人魚は水槽の中で殺戮を繰り返す。やがてメダカの数が減ってしまった。考えた末、人魚を別の水槽に移すことにした。エサに鳥肉などを与えてみたが見向きもしなかった。人魚は生き餌しか食べないのだ。仕方ないのでエサには小赤(小さな和金)を与えることにした。

 人魚にエサをやるときは、水槽の明かりを消して暗くした。

 正直にいえば、美しい人魚が小赤を襲うところを見たくなかったのだ。暴れる小赤を押さえつけ、その肉を喰らうところを。暗い水槽で小赤の姿はほとんど見えない。時に人魚の鱗だけが、僅かな光りをぴかりと弾く。頃合いを見計らって明かりを点けてやる。

 光を受けた人魚の鱗が赤に青に緑に金色に銀色に、綺羅綺羅と煌めいた。

 光で出来たような人魚は、どこまでも残酷で限りなく美しかった。

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