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鬼灯庵のクリスマス ひめありす

使用お題:「光」「パズル」

穏仁警部は文字通り、鬼の警部である。

彼の後輩であるシラサワ亜蓮刑事がその素性故に刑事になったのではなく、

その性根故に水葬探偵―――セイレン七緒の彼女だけの人になったように

自らの意志で持って、鬼の警部となったのである。


 鳥籠エレベーターがちん、と鈴の音を立てて到着し、身の丈七尺を超える巨躯が姿を現す。

宵闇のような濃い瑠璃藍の、雪を被った南天模様の浴衣を纏ったセイレン日向は出迎える為に舞台水槽の端までより、そこであら、と目を見開いた。

おう、と軽く手を挙げた穏仁警部。

 穏仁警部が伴ってきたのは、いつもの後輩シラサワ刑事ではなくニンゲンの男だった。仕立の良い葡萄色の三つ揃えに身を包み、穏仁警部の後ろを不機嫌な様でついてくる。

「ごきげんよう、穏仁警部。今日は珍しい方をお連れね」

穏仁警部、ニンゲンの男、そしてその後ろについてきたのは

「不知火のアヤカシ達ね」

三匹のアヤカシだった。

一抱えほどもある、宙に浮かぶ巨大な火の玉。そこに愛嬌ある顔が付き、更に下の方からは二本の腕がにょっきりと伸びている。

赤と、緑と、青の、三色に発光するアヤカシ達。

いつも橙色の鬼火に染め上げられている鬼灯庵が、豊かな彩に染め上げられる。それはさながら駅前広場にそびえたつ、巨大な聖樹であった。

「それで、穏仁警部。今日はどんなご用件なのかしら。こんな聖なる夜にアヤカシが集まるなんて、縁起でもないでしょう?」


 ニンゲンの男はキヌカワと名乗った。

「キヌカワ、と言うとキヌカワ海運の?」

居住地となっている古く小さな劇場にも、その舞台全部に据えられた巨大な水槽の内側から訪ねる日向にキヌカワは少々怯んだ様子だったが、それでも不承不承と言った様子で頷いた。そして自分が不肖の長男坊であることも。

「我が家に賊が入ったのは、つい半時ほど前の事だ。そして奴はこともあろうに、この宝石を盗んでいった」

差し出されたのはボンペイブルーの天鵞絨が張られた小箱。開けると白地のサテンに銀糸の内張があり、その中央の窪みには―――何も嵌っていない。

「満天百貨店の最高級の金剛石だぞ!これでやっと、―――の御令嬢に求婚できると思ったのに!」

あらまあ、と日向は首を傾げた。それはつるっと言ってしまっていい事なのだろうか。

「ではまだ犯人は捕まっていないのね?」

「そうだとも!だが、犯人は絞られている!」

そして背後に従えた三匹の不知火を指さし

「宝石がなくなった瞬間に立ち会ったこの三匹が犯人を知っているに決まっている!」

ぎゃあ、と騒ぎだしたのは三匹のアヤカシだった。

「そりゃないっす御主人!」

「正直に全部話してくださいですよう!」

「御主人だって指輪がなくなったときに居合わせたでしょう!」

穏仁警部と日向は水槽越しに顔を見合わせた。

そして同時にため息を一つ。

「わかったから、起きたことを順々に話せ」


 ・キヌカワ(二十九歳、人間)の証言

 屋敷に侵入した賊に私が気付いたのは、三匹の声がしたからだ。

「そっちに行ったっすー!」という声と同時に白い光がこちらに向かってくるのが見えた。

犯人だと一目でわかった。

何故かって?この屋敷に白い不知火はいない。

私の持っている洋燈が一番白に近く発光するがな。

だから犯人だと知れた。

私は勿論そちらに向かって走ったとも。

「絶対逃がすな、こっちへ追い込め!」と三匹に声を掛けながらな。

白い光はどんどん大きく強く迫ってきて、そしてとうとう犯人は盗んだ宝石を放り投げたんだ。

宝石箱が開いて、中から指輪が飛び出した。

間違いない、光って見えたんだ。

私は宝石に向かって飛び込んだんだ!

けれどもその瞬間!

今までにない強い光とともに、宝石は姿を消してしまったのだ。

後はこの空の宝石箱だけが残っていた、という訳さ。

こうなったらこいつらが犯人か、あるいは犯人を隠したか、そのどっちかに決まっているだろう。

違うのか?


 ・三匹を代表して亜鐘の証言(不知火のアヤカシ、年齢不詳)

自分達が犯人を発見したのはご主人に言われて、アヤカシ総動員で捜索をして居た時っす。

お屋敷には沢山のアヤカシが働いているっす。

オラ達みたいな不知火は主に夜の見張りを担当しているっす。今日もいつもの三人―――三アヤカシで捜索していたっす。

ご主人が「絶対逃がすな、こっちへ追い込め!」と言うから、オラ達も全身全霊で追いかけたっす。向こうからご主人の持っている洋燈の明かりが見えたから、そっちへ向かって。

小さい音がして、犯人が宝石箱を落として、中から飛び出た指輪が転がったのが見えたっす。

そっちへ向かって手を伸ばしたら、そこにはご主人が仁王立ちして

「宝石が見つからない!お前たちが隠したんだろう!と」

このままじゃオラ達クビっす。

故郷の火の国には家族を残しているのに、これじゃお先真っ暗っす。不知火なのに


 ふうん、と日向は呟いた。

「つまりは皆さまはわたくしに、失くした指輪の在りかを見つけ出せ、と。あるいは犯人を暴け、と」

そのどちらかを、お望みで?

キヌカワは少し考え、指輪の在りかを、と答えた。

その言葉に、日向が頷く。

それまで水の中で揺蕩う白金の長髪をくるくると巻き付けて遊んでいた指がすうっと、ふたあつ伸びた。

「確認したいことは二つ。一つ、キヌカワさまは洋燈をお持ちでしたのね?」

「ああ、そうだ。渡来品の明るいものを」

「それで、あちらと」細い右手がすうっと動いた。「こちらから」更に細い左手がすうっと動いた。

「犯人を挟んで真正面に向かい合い」

四対の赤い瞳と、一対の黒い瞳が、その動きに吸い寄せられる。

「犯人と、指輪が消えた」

ぱちん、と細い指がぶつかり合い。

日向は今度は三匹のアヤカシに向き直る。

「あなた方は全力で追いかけたってそう言ったわね?その全力を見せて頂戴?」

顔を見合わせた三匹は頷き合い、横に並ぶと、ぐうっと腕に力を込めた。

彼らの光の量が増した。真昼のような光が、三つ。

それまでの昏さに慣れていた穏仁警部も、キヌカワも眩し気に目を細める。

「そんな風にして、追いかけたかしら?」

どこか確信犯的に、日向が問う。

思わぬ問いかけに、三匹の不知火は顔を見合わせ

「いや、オラがこっちで」

「オラがこのあたりで」

「オラはこっちだったっす!」

と三人横並びの状態から位置を整える。丁度、三匹が三角形になる陣形。

ふむ、と日向は満足げに―――それはとてもアヤカシ的に唇をひん曲げて、笑って見せた。

「これですべての謎は解けました」


 読者への挑戦状

 紳士淑女の皆様、この度はご高覧いただきまして誠にありがとうございます。

 本来の語り部である水葬探偵の、最愛に代わり、深く御礼申し上げます。

 さて、これで全ての条件が提示されました。

 三匹の不知火、そしてニンゲン・キヌカワの前から、如何にして宝石が消えたのか。

 その謎を水葬探偵、セイレン日向はどのように推理したのか。

 皆様のお知恵を拝借したいと存じます。

 さあ、答えは出ましたか?

 それではまた後程、お目にかかりましょう!

解答編は後日更新します!お楽しみに!

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