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【番外小話】神獣進化おめでとうの会 in  猫喫茶『猫神の悪戯亭』

*注意*

このお話は『神獣郷オンライン!』本編112話までの内容である、『神獣進化』部分までのネタバレ上等です。

ご了承くださいませ!


いきなりジャンル別10位に入っていて喜びのあまりに手が滑ったので投稿します()

 アカツキが神獣進化をした夜から、ゲーム内時間で数日……私は始まりの街『アルカンシエル』にある、『猫神の悪戯亭』へと再び訪れていた。


 現在時刻はゲーム内時間で夜8時45分。待ち合わせの時間が9時なので15分前行動していることとなる。


 事の発端はちょうどアカツキが神獣となった日のことだ。




 ――――――


 神獣進化おめでとにゃん! 

 掲示板にゃあ、大いに盛り上がってるよ! 

 よければ、今度ミーの店でお祝いするにゃあ! 

 空いてる日があったら教えてにゃん! 待ってるよ! 


 ――――――




 この、神獣進化当日にルナテミスさんから送られたメールに返信し、今日が空いた日として訪問することになっていたのである。

 アカツキのお祝いのためにわざわざ彼女は猫喫茶を貸し切りにしてくれるらしい。ワクワクとしながら四匹を連れて彼女のホームに向かう。


 主役であるアカツキはいつものように私の肩の上に乗ってはいるが、どことなくそわそわとしている。そりゃあ嬉しいよねぇ。ふふふ、私も嬉しくてたまらないよ。なにせ、念願だったんだもの! それに、プレイヤーの中で一番乗りでもあったからね! アカツキが大好きな私としても、そして一介のプレイヤーとしても、嬉しくないわけがないよねって! 


 そんなテンション最高潮の状態で、猫の肉球を横長にしたような看板の店に入る。


 カララーンと小気味の良い鈴の音がして、それから……私はそっと閉じた。


「にゃんで!? いや、やっぱり!?」


 中からルナテミスさんの慌てた声が聞こえる。


「ほらー! アンタがいるとケイカちゃんが怯えて入って来ないにゃん!」

「呼んだのは貴女じゃないですか……」

「そ、それは……いや、違うにゃ! アンタが勝手に来たにゃん!」

「いうにことかいて嘘をつきますか!?」


 そう、店の中にストッキンさんもいたのである。

 確かにメールでお祝いはしてもらったし、撮り損ねた動画のデータももらった。有能オブ有能。だがしかし変態である。ストーカーともいう。私じゃなかったら、そしてストッキンさん自身が多少の自重や自覚などがなければ、即リアル通報案件である。


 諦めのため息をついて扉を開き、第一声。


「あの、貸し切りって言ってませんでしたっけ?」

「部外者扱いですか!? いや、仕方ありませんけれど! くう……ご本人が本気で嫌がるならば私は身を引きます……お邪魔しました」

「って、なに潔くいなくなろうとしているんですか。お祝いしようって気持ちはあるんでしょう?」


 わざわざハンカチを噛み締めるような動きをしてから、入れ違いに店から出て行こうとするストッキンさんを引き止める。


「え、ええ」

「ならいいですよ。その代わり、せめて撮影の際は許可を取ってからにしてください。撮影係としては有能なんですから……」

「はい!」


 ハンカチを噛み締めるイケオジ老紳士。

 そしてパァッと顔を輝かせるイケオジ老紳士。


 ……うん、誰得? 

 中身を知っていると残念にしか見えないのが悲しいな。


「お話は済んだにゃ? それじゃあ、せっかくの貸し切りなんだし、パーッと行くにゃ! 聖獣は全部出しても構わにゃいよ!」


 そう言ってのけるルナテミスさんの周りにはぞろぞろと猫が順番待ちしている。彼女の手にはマタタビらしき木の棒が握られているため、お祝いらしくみんな酔ってしまおうということだろうか? 


 そしてみんなで『アカツキ、神獣進化おめでとう!』と声をかけてお祝いの宴が始まる。


 クラッカーは賑やかしアイテムとしてショップに存在するが、用意されていない。ほら、クラッカーって動物は大きな音にびっくりするから、かえってストレスになりそうでさ。ルナテミスさんも同意見だったようなので、お誘いを受けてから今日までに色々打ち合わせしたときにそう決めたのだ。


 ルナテミスさんからは『カラス麦』というアイテムを。ストッキンさんからは『枇杷(びわ)』をもらってアカツキはご満悦だ。美味しいものをいっぱい食べられて幸せそうである。よかったねぇ。


 オボロにはお肉を、シズクにはタマゴを、ジンには他の猫ちゃん達と同じくササミをいただいている。いやあ、料理系や調理素材になるアイテムの多いこと多いこと。どれだけこだわっているんだか……味は全体的に薄いけど。


 現実世界での食事を忘れたりしないようにわざと満足しないレベルの味しかないとはいえ、ちょこっと物足りないときもある。


 それから、私はボックス……まあインベントリというやつから、自分もおやつとしてクッキーを取り出す。


「あの、私クッキー作ってきました」


 アカツキのお祝いとは言っても、私は招かれた身である。あと自分もアカツキのお祝いはしたいし。ということで、アカツキの好む木の実入りクッキーを料理スキルで作って来たのだ。


「もう思い残すことはありません」

「いや、クッキーくらいで死なないでください?」


 スッと目を閉じたストッキンさんがソファに沈み込んでいく。そして、その上に面白がっているのか猫の聖獣達が次々と乗っかり、重量を増してさらにソファに沈み……と繰り返して幸せそうだ。なぜだか彼の腕が近くのテーブルをバシバシ叩いてムームー言っているが、きっと幸せだろう。幸せに違いない。うん。


 閑話休題。


「猫で溺れ死ぬかと思いました」


 呼吸困難で死にかけていたらしい。


 ウワー、ソウナンダー。ゼンゼンキヅカナカッタナー。


 ……どうやら生き物の口を塞いでしばらくするとしっかり呼吸ゲージが発生して、ゲージが半分を切るとじわじわ体力が削れていくみたい。初めて知ったわそんな仕様。システムの作り込みがリアルすぎてもはや気持ち悪いレベルである。


「ゲーム内での死因が呼吸困難って、ちょっと面白くないですか?」

「あー、最新鋭のゲームなんだにゃーって思うにゃ」

「人の死で笑っちゃいけません」

「いや、ゲームですから私達の命は羽根のように軽いでしょう」

「それをケイカさんが言うとなんか嫌です。解釈違い起こして発狂しそう」

「発狂するならお店出てってほしいにゃ」

「それで表通りでドン引きされて来てください」

「二人とも結構辛辣ですね?」


 この三人でいると、なんともかけ合いが楽しいものだ。


「まあ、そんな感じで……命が軽いからこそ、『不殺』にこだわって縛りプレイをするなんていう酔狂をやるんじゃないですか。吹き飛ばしてしまえば消えてしまうほど軽いからこそ、難しければ難しいほど……燃えるんですよねぇ」

「……なるほど、情熱にゃあ?」

「難易度が高いと燃えるっていうのは分かります」


 訳知り顔でうんうん頷くルナテミスさんに、困ったようにへにゃりと笑うストッキンさん。


 私が不殺を目指しているのは、単純に『育成』を楽しみたいからだし、現実で絶対にできない分、『全力で動物を愛でる』行為の代替を、仮想現実の世界で全力で楽しみたいという理由がある。


 もちろん殺す殺さないという選択肢があるのならば『殺さない』『殺したくない』一択だし、個人的に難易度が高いゲームを『縛り』ありで楽しみ続けるほうが『魅せる』という点では良いと思っている。


 ただただ単純に、愚直にふわっとした思考でもふもふに包まれたい! とか、愛でたい! と思っているわけではないのだ。そこまで頭がお()()()()人間ではない。めでたい……シャレかよ。


 ゆるふわっとした考えでこのゲームをやっていたら、ただのNPC相手に全力の説得ロールとかするわけない。演出は大事だからといっても、たとえ目の前でシリアスを見せつけられて多少同情しているにしても、ただゲームを遊ぶだけにしてはやけに感情移入してしまっている。


 仮想現実。リアルにはない、箱庭の世界。


 その箱庭の中で動いて喋っているものを観察し、触れ合い、それが作られたものだと知っていても全力で感情移入しながら楽しむ。そしてそこに、少しのスパイスとして縛りを設けて難しければ難しいほど楽しい。


 アニメや漫画のキャラクターを、向こう側にいる一人の人間として捉えるか、ただのキャラクターとして捉えるかの些細な違い。


「私は、この世界の傍観者ではなくて、この世界に()()()キャラクターになりたいんでしょうね、きっと」

「楽しみかたは人それぞれだにゃ〜? ミーも目標はあるし」

「私は……どちらかというと精神修行的な意味合いですかね」


 精神修行? え? 


「精神修行ねぇ……自制できてなきゃ意味ないにゃ」

「ストーカーしている人が精神修行……?」

「失礼な。そういう意味ではございません。私は織物デザインの修行に来ているんです。今はまだ見習いなので、先に仮想現実のゲームなら顧客へ対応する練習になると思いまして」

「え、マジ? 本職なのにゃ?」

「修行中ですよ」

「へえー……」


 ふーん、まあデザインは古き良きものとはかけ離れてるけど、私はこういう織物のデザイナーがいてもいいとは思う。若者向けに流行りそうだよね。


「ストッキンさん、レッグのスクショもらってもいいですか?」

「ん? いいですよ」


 ストッキンさんのポケットから顔だけ出してクッキーをかじるヤマネが可愛らしい。テーブルに一生懸命背伸びをして手を伸ばす真っ黒なウサギさんもなかなか可愛いし、ストッキンさんの聖獣は不思議の国のアリスシリーズなのだろうか。ジャバウォックとかそのうち出てきそう……生産職とは? 


 このゲーム、実質一人でパーティ組んでいるようなものだし、プレイヤーが生産職でも聖獣の育成方針を変えて戦闘サポートできるようにしておけば、たとえティッシュのような防御力の生産職でも普通に危険なエリア行ったり攻略したりできるからね。その辺りは他のVRMMOと決定的に違う部分だ。


 その代わり、協力プレイじゃなくて『ソロでいいや』って人が多いのでプレイヤー間の交流のほうはあまり活発でない印象。スレッドはわりと賑わっているけども。情報共有もかなり活発なほうだしね。


 情報共有が活発なのは、ユニークシナリオというものがだだ一度きりのものでなく、報酬が減るとはいえ、『追憶』機能で誰でも体験できるから……という部分も大きい。神獣郷オンラインに存在する膨大すぎる収集要素に対して、一個人はあまりにも力不足である。


 故に集合知としてスレッドで情報共有をし、みんなで実績をどんどん解除していこうぜ! という流れができるのである。


 アカツキが神獣へと至ったことで、更に攻略が前進したと言えるだろう。その第一歩、はじめの一人になれたことが純粋に嬉しい話だ。


 みんなから……私達人間だけではなく、他の聖獣達からも食べ物を分けてもらい、満腹を通り越してあわあわしているアカツキの羽毛を指で撫でる。


 いつも冷静なアカツキがこうして大量に迫りくる善意に焦っているのは、ちょっと新鮮で面白い。


 こちらを見上げるその頭を撫でながら微笑みかける。


「アカツキ、本当におめでとう。それから……みんなもアカツキに続いて頑張りましょうね。みんな、みんな、大好きですよ」


 そう口にしてから、思わずほっぺたを両手で押さえた。


 ……言ってから恥ずかしくなっちゃったんだよ。


「にゃはは、こっちも神獣到達まで頑張らないとね。ディアナ〜愛してる〜!」

「ガウ」


 ルナテミスさんと子猫が顔を見合わせて頷き合ういいシーンなはずなのに……子猫が野太い獣のような声で返事をしているという事実にザ・違和感。見た目は子猫と可愛らしいロリなのに……猫被りだもんなあこの二人。


「私はより良い素材で、なるべく同じデザインのまま強化できるように試行錯誤……ですかね。あ、でもできればレッグが神獣になった姿も見たいです」


 結局のところ、みんな自分の相棒がより強く、格好良くなった姿を見たいということである。


 こうして楽しい宴会は情報のやり取りなんかも含めて何時間も開催していた結果……淡々と時間が進み、夜が明けるまで続いたとさ。


そういえば話題に出すだけ出して本編で未回収だったな〜と思い、こちらで収録することとなりました。


こんな感じで今後もちまちまと番外編を収録していきたいと思います!

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[一言] ジェノサイドを256km位首を長くして待っています。
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