アインと始まりの演舞
「それじゃあ、いち、にで始めようか」
演奏者のように男性が扇子を構えて、隣に控えた大きな太陽のような二羽の鳥が翼を広げ、鱗とツノの生えた二頭の馬がいななく。
目の前に聳え立つ塔に向けて一人と四匹で丁寧に頭を下げて、その上にいる存在に向けて彼らは舞った。
炎が駆け、稲妻が迸り、慈雨を捧げ、雪が爽やかな風に乗って花のように美しさを飾り立てる。霧を纏った不思議なステップは彼らの足取りの軌跡を残しては空気に溶けていく。そして、太陽と月を敬い、模した演舞を披露すれば彼らの周囲には神聖な花々が咲き誇った。
全ての属性を用いながら行われる演舞は、動きひとつでもミスをすれば崩れてしまうような繊細なもので、男の力強くも柔らかい動きは塔の上の存在の視線を独り占めにする。
絆がなければ成立しない演舞。
それらを見ながら、塔の上の存在は眩しそうに目を細めた。自分自身が太陽であるというのに、いまこのとき太陽のように輝いて魅せているのはこの男であるとその心が認めていた。
同胞を道具として扱う国と、国民達の中にもこのような共存を是とする存在がいたのだと思い出して、人間と獣の関係が崩れる以前の思い出が蘇る。
人々を好いて、人々に裏切られ、それでも信じて裏切られ続け、失望してしまった者の心に染み入るような絆の力。彼らの舞に込められた想いと、男から捧げられる彼の友への信仰心がはっきりと伝わり、『太陽の神獣』と呼ばれた存在は涙を流した。ああ、彼らのようなものもいるのだ。この世はまだ捨てたものではないと。
赤くなりかけた瞳を潤し、浄化され、天に向かって顔を向ける。
ぐうとお腹が鳴って、ここに来て忘れ去ってしまっていた肉体の欲求さえも蘇り、神獣は塔を降りることにした。
自分の希望を取り戻してくれた彼らに、最大の拍手と賛辞を送りたいと考えたために。
「アインよ、我らの神はご覧になってくださっただろうか」
「うん、大丈夫だよ……きっと。これ以上のことは思いつかない。僕らの気持ち、受け取ってもらえてるはず」
真面目なホウオウに青年が返す。
「なあなあ腹ごしらえしようぜ! オレっちアインの作ったご飯食べてぇ〜!」
「こら、お前! まだ結果が分からないんだからはしゃぐんじゃないよ!」
「いいよ、二人とも。ご飯にしようか」
軽薄そうな麒麟が青年に擦り寄り、姉御肌のホウオウが叱るも彼は穏やかに麒麟の要求を肯定する。
「それでは、準備をいたしましょうか」
「そうだね、みんな」
穏やかな口調でメスの麒麟が返し、青年はその場で塔を見ることなく食事の準備を始める。
そんな彼らの元に、お腹を空かせた威厳のない太陽の神獣が姿を現すのは……必然だった。
かくして、少しだけ間抜けな邂逅となった彼らの始まりの物語は、『気の抜けるような』部分は省略をされて受け継がれていく。
始まりの共存者とその友たちの、美しい絆の神話として。
◇
「大迫力の演舞が見られたのは嬉しいけど神話の裏側ってやっぱりなんかこう……」
とある年のハロウィンの日、追加されたPVを見ながら私は感動していいのか笑っていいのかよく分からない感情にさせられたのだった。