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神獣郷ヴィランズ『真紅の女と皇帝陛下のたわむれ』

「おい、お前」

「はい、いかがなさいましたか? 陛下」

「とりっくおあ、とりーとだったか。気まぐれに訊いておいてあげるよ」

「……………………」


 真紅の女はこのとき、内心で大暴れをしていた。

 必死に心を落ち着かせて、叫び出しそうな自身を押さえつけている真っ最中。ただでさえいつも不機嫌そうな顔をしているヴァルスエル皇帝が美しい美少年の顔を顰め、腕を組んでトントンと指先でイライラを示すようにリズムを刻む。彼の前に跪いたまま、リンデルシア・アルベリオは穏やかな顔をして数十秒停止したままであった。

 彼女が再起動したのは、彼女の親愛なる皇帝陛下が再び口を開いたときである。彼女の頬を両手で包み込み、上から覗き込んだ彼の美しい黄水晶(シトリン)の瞳が射抜く。黒髪から覗く真っ赤な色の髪がリンデの額に垂れ、彼女はそのままゆっくりと倒れそうになり。


「おい、この僕が訊いてるんだぞ。そうか、イタズラでいいんだな?」

「はひっ、ぁっ、はっ、はい……わたくし、リンデルシア・アルベリオは陛下のお言葉ならばどのようなことでも……」

「はあ…………」


 盛大にため息を吐いた幼い皇帝は、彼女の胸ぐらを掴み上げて後ろに倒すとそのまま踵を返して玉座に戻っていく。玉座のそばに控えた翼が複数生えた白蛇はそんな彼に頭を垂れて尾を差し出し、玉座へと座るための踏み台となる。


「お前に頼みたい任務がある。もう戻ってくるなよ」

「は、はい! わたくしは必ず陛下のお役に立ってみせます! 迅速に任務を完了し、おそばに……!」

「……戻ってくるなって言ってるのが分からないのか、この馬鹿女。鬱陶しいんだよ……」


 皇帝の小さな囁きはそばにいた蛇にしか聞こえておらず、リンデはそのまま謁見を終えてすぐさま任務へと準じるため退出した。

 しかし、皇帝のそばに仕える蛇……蛇楽は知っている。彼がどんな使用人も信用しておらず、仕事を振り、お茶を淹れさせるのは先ほどの彼女だけであると。どれだけ鬱陶しいと思っていても、その有能さだけはきっちりと評価しているのだと。常につまらなそうな顔をした少年皇帝は玉座の上で足を組み、ようやく静かになった室内で一日に何度吐き出すか分からないほどのため息を漏らす。


「ああ、どうしてこうも馬鹿どもがのさばってるんだろう。僕の先祖も、お前らも、あいつも、みんなそうだ」

「……」

「お前はこうして、道具として僕に使われるのを肯定してるっていうのに。どうしてみんな上手く利用することができないんだ。理解できないな」

「……」


 皇帝が手を差し出すと、許可を得て巨大な蛇がその周囲に体をくねらせて彼のベッドとなる。翼の生えた白蛇を下敷きに、ふわふわとした翼の布団をかけられた少年は目を瞑る。


「僕は寝る。二時間したら起こせ」


 蛇が小さく首肯する。

 そして静かで大きくて広い部屋の中で、小さな皇帝は巨大な蛇の中に埋もれていく。蛇が小さく鳴いて音を出すごとに翼は増え続け、彼を守るように抱いて隠していく。


 その光景は――本人達にとっては安息でも、もしかしたら周囲から見ると獲物を隠す肉食の蛇のそれだったかもしれない。


 彼らの関係がどのようなものかどうかは、誰も知らない。

 共存者の誰かが、彼らにあいまみえるその日まで。

ショタ皇帝の容姿は初出しです。

今現在、絵師様にこの二人のイラストをご依頼させていただいています。

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